一流の人ほど"それ、面白くない"と言える
プレジデントオンライン / 2019年6月18日 9時15分
※本稿は、HRインスティテュート『全員転職時代のポータブルスキル大全』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■人や情報が集まる「旗揚げ力」
コンサルタントとして、企業に勤める人材と多く接していて思うのは、どんな時代であれ、最後は「気持ちよく働ける人」が最強だ、ということである。一流、トップといわれるビジネスパーソンの多くはこの特性をもっている。本稿では、周囲が「あの人との仕事は良い。また一緒に働きたい」と感じる人の特徴を3つ紹介する。3つの特徴は、そのまま私たちの仕事に応用可能なスキルとなる。
「あの人と一緒に働きたい」と思う人の特徴その1は、「旗揚げ力」だ。このスキルをもつ人は、味方と情報を集めることができ、ゆえにプロジェクトの成功確率が高い。
これまでの仕事を振り返ると、会社で新しいことを始めようとしたが、人も情報も集まらず、周りからの理解も得られずに苦しい思いをしたという経験がある人もいるだろう。そんなあなたの想い、もっと言えばあなたが始めようとしたことは、もしかしたら、「周りにはほとんど知られていなかった」かもしれない。
何かを始めるときには、必ず「旗」を揚げるべきだ。なぜなら、その旗を見て興味をもった人たちが情報をもって集まり、応援してくれるようになるからだ。これが成功の鍵となる。
目的が達成できない原因が「気づかれない」であることは意外と多い。
あなたが社内でプロジェクトチームを立ち上げるのなら、真っ先にすべきことは、そのプロジェクトチームの存在を社内によく知ってもらうことなのだ。
■旗を揚げると応援ムードが高まる
私の同僚に、タイ事業をスタートさせようとしているメンバーがいる。彼がまずやったことは、名刺に「タイ事業推進担当」という肩書を勝手に入れ、会議で発表するときのあいさつを「サワディーカップ」に変えたことだ。
それにより、名刺交換をした8割の相手から「タイですか!」と突っ込まれるようになったそうだ(残りの2割には、自分からタイの話をするという)。そして、当社の他のメンバーがタイに関する情報を入手したら、自然とそれが彼に伝わるようにもなったし、関連する人材も紹介してもらえるようになった。さらには、当社オフィスがある原宿近辺のタイレストラン事情にもやたらと詳しくなったという。
何より、旗揚げの一番の成果は、タイ新規事業を応援しようという社内の空気感が強まったことだ。
■人は「知らないもの」を毛嫌いする
人は、「知らないから」という理由で反対してしまうものだ。わかりやすくいってしまえば、陰でコソコソ動いている人は反感をもたれやすいが、わかりやすく旗を振っている人は好感を得やすい。
旗揚げ力は、市場から人を集めたり、リソースを確保したりするうえでも重要だ。たとえば、ホンダが1986年にビジネスジェットの研究・開発をスタートさせる際、「空を自由に移動できるモビリティの提供」という創業当初からの夢を高らかに掲げた。そしてその夢に共感する人が、ホンダの旗の下に集まり、今につながっている。
旗揚げには覚悟がいるが、裏を返せば、旗揚げによりあなたの覚悟が相手に届く。あなたが成し遂げたいことが一人で完結できないものならば、まずは高々と旗を揚げるのだ。旗を揚げてスタートし、結果的に失敗しても、応援してくれた人たちは悪く思わないだろう。
■気まずいことを声に出せるか?
「あの人と一緒に働きたい」と思う人の特徴その2は、「本音ブッコミ力」だ。これができる人は、最初は驚かれる(あるいはちょっと引かれる)かもしれないが、ゆくゆくは周囲の信頼を勝ち取る。
たとえば、私が経験したあるグループワークでのアウトプットでの話だ。時間をかけてメンバーと議論を重ね、客観的な事実をもとに根拠を整理し、結論をまとめた。最終発表の準備をしているときにアドバイザーが来て、明るくこう言った。
「それ、全然おもしろくないな!」
メンバーは当惑し、混乱したが、「おもしろくない」という評価を誰も否定できなかったため、コメントを受け入れ、これまでつくりあげたものを一旦壊すことにした。
すると、壊したものと新しいアイデアが重なり合い、結果として、斬新かつ強固なアウトプットが生まれたのである。クオリティは跳ね上がった。
このアドバイザーが持っていたスキルこそが、「本音ブッコミ力」だ。当然、発言の直後はメンバー全員が一様にギョッとしたし、時間が止まった。しかし、フリーズ状態から醒めた私たちが感じたのは「だよね……やっぱりこれ、おもしろくないよね……!」ということだった。
仕事は油断すると既定路線の踏襲になりやすい。それなりにまとめた提案が、本当に価値があるものなのか、自問自答する視点が必要だ。もし違和感があったら、破壊と創造にチャレンジしてみるべきだろう。そのために必要なのが、本音ブッコミ力だ。
■ブッコミはタイミングが肝心
ブッコミは、タイミングが重要だ。破壊するには、ある程度形になったものが必要であるため、ブッコミは議論が煮詰まるまでは待ったほうがいい。生煮え段階では、ブッコミも吸収されてしまう。ちゃぶ台を返すのは、料理が揃ってからだ。
ブッコミの視点は、「よそ者、若者、変わり者」を意識してみるといい。古来より、組織に変革を起こすものはこの三者と言われている。
かつて、経営危機に陥った米IBMを救ったのは、菓子メーカーのナビスコのトップだったルイス・ガースナー氏だった。「よそ者」のガースナー氏は、コンピュータの会社だったIBMを、コンサルティングやサービスを提供する会社に変革した。またかつて自民党をぶっ壊した小泉元首相も、言うまでもなく「変わり者」である。彼らの視点を意識すると、組織としての「そもそも論」が見えやすい。
ブッコむ際は、「明るく、大きく、いい加減に」。これも鉄則だ。細かいところをネチネチついても、変革は起こらない。相手の右脳に響く議論を超越した何かが、ブッコミだ。空気は読まない。あえて読まない。さらりと空気を読まない発言をして周囲を仰天させる一流たちは、さらっとやっているようで、これらすべて計算ずくの可能性が高い。
勇気ある少年の一言がなかったら、「裸の王様」はいつまでも裸だった。あなたの組織やチームは「裸の王様」になっていないだろうか。本音ブッコミが、組織に破壊と創造をもたらすのだ。
■人を動かす「GROWモデル」
「あの人と一緒に働きたい」と思う人の特徴その3は、「上手に人を動かせる」だ。これは主にリーダーや上司向けの話になる。ああしろこうしろと言わなくても人を動かせるスキルを持つ人は、メンバーにとってもありがたい存在だろう。
あなたがもし、職場の部下や後輩の仕事に「やらされ感」を感じるとすれば、部下や後輩は目標をネガティブに捉えていたり、目標を立てるだけで行動に繋がっていない可能性が高い。結果、やりがいや達成感を感じることができず、新たな刺激を求めて部署異動を申し出たり、退職したりという選択になる場合もある。
■「あれをやれ」では人は動かしにくい
今は、組織からの「これをやれ!」「あれをやれ!」という目標設定では、なかなか人を動かしにくい時代だ。重要なのは、本人が「目標を自分事として捉えられるか」であり、目標を自分事に捉えるためには、自分自身で目標を宣言することが必要だ。
しかし、ただ目標を宣言させるだけでは、独りよがりな行動に繋がってしまうのも事実。
そこで使えるのが、本人自ら目標を宣言し、達成に向けて主体的な行動を促すコーチング手法「GROWモデル」である。
■相手が動き出すための「質問」
GROWモデルとは、相手に対して、以下のフレームに沿って質問を繰り返すことで一緒に計画を立てる手法だ。
まず、相手の「目標」を確認し、「現状」に目を向けさせ、「資源(活用できるリソース)」に気づかせることで「選択肢」の幅を広げさせ、自ら主体的に具体的な行動を選べるように導く。
上図のような質問を重ねていくことで、質問されたほうは段階的に目標を“自分事”に置き換え、目標達成の意志につなげていける。
ポイントは、質問を通して、相手に考えさせ、言わせることだ。相手が答えないからと急かしてしまうのは禁物だ。時間をかけてでも相手と向き合い、相手の答えが的を外れていた場合も一旦受け止めたうえで、自分の意見を伝える。その繰り返しを経て、共通の目標が生まれ、行動につながる。
サッカー日本代表を経験した本田圭佑氏は、自分で立てた目標を宣言することで、自分へプレッシャーを与え、それを原動力に行動している。GROWモデルは質問をしてくれる他者がいない場合でも、自分自身へのコーチングとして使えるスキルである。自ら主体性をもって働き、またメンバーにも主体性をもって動くことを上手にリードできる人は、仕事で結果が出やすいし、またあの人と働きたいと思われることは確実だ。
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HRインスティテュート シニアコンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。安田火災海上保険株式会社(現・損害保険ジャパン日本興亜株式会社)にて法人営業等に携わる。退社後、HRインスティテュートに参画。現在は常務取締役兼シニアコンサルタント。経営コンサルティングを中心に、教育コンテンツの開発、人事制度設計、新規事業開発、人材育成トレーニングなどを手掛ける。
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(HRインスティテュート シニアコンサルタント 三坂 健 写真=iStock.com)
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