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"ひきこもり"を問題視するマスコミの異常

プレジデントオンライン / 2019年6月19日 15時15分

視聴率のため、社会性を盾に無思慮なレンズを向けるマスコミ。(時事通信フォト=写真)

川崎市多摩区の路上にて19人が殺傷された事件で、若手論客・古谷経衡氏がマスコミ報道の異常性を語る――。

■川崎襲撃事件の再発を防ぐ方策とは

この事件を巡って異様な報道が続いている。今次の大量殺戮(テロ)は、岩崎隆一容疑者が自死していることから、逮捕→送検→起訴→公判→判決という一連の刑事手続をマスメディアが追うことができない。よって報道各社は所謂「絵」づくりに奔走し、「犯人の家からゲーム機が見つかった」など苦肉の些事に拘泥し、またぞろ当該事件の主舞台となったカリタス小学校の保護者などに無思慮なレンズを向けた。テレビでは精神科医が岩崎容疑者の精神状態をプロファイリング。どこの世界に直接患者を問診せずに精神状態を分析できる精神科医がいるのか。

岩崎容疑者の自死で、犯行動機が判然としない中、容疑者の生前のおぼろげな生活実態から「ひきこもり」の傾向にあり、社会的孤立・孤独状態であったことが明らかになりつつある。

なんとしてでも「絵」を求める各社はこれに飛びつき、大量殺戮の背景には「ひきこもり」や「社会的孤立」があるというニュアンスの報道が大量に出た。

繰り返すが、岩崎容疑者は自死し、犯行動機を書いた遺書などもなく、動機の解明は困難を極める。しかし大量殺戮と「ひきこもり」「社会的孤立」を紐づけた報道が続き、いよいよ「中高年のひきこもり問題」という問題が捏造される。この風潮に「ひきこもりUX会議」は「ひきこもりと殺傷事件を臆測や先入観で関連づけることを強く危惧する」との声明を出した。

「ひきこもり」と大量殺戮には相関性はなく、同時に「社会的孤立・孤独」と大量殺戮にも因果関係がないことは、社会学的に立証されている。が、これを延長していくとそもそも「ひきこもり」は悪なのか、という問いにぶち当たる。それは「社会的孤立・孤独」は悪なのか、という問いと同義である。

この社会には能動的にひきこもりを選択している人間がいる。報道によれば岩崎容疑者は同居親族との手紙のやり取りに対して「好きでこの生活をやっている」という応答をしたとある。岩崎容疑者が「ひきこもり」状態であったことは否めないが、それがただちに不幸や絶望であると結論を出すのは、「社交的で外出を好む人間は明朗活発で善人に違いない」という根拠のない人間観に基づくもので、あまりにも早計だ。

同時に岩崎容疑者が、近隣住民とも交流がなく、「社会的孤立・孤独」状態であったことも明らかになりつつある。しかし、筆者もそうだが、近隣住民との封建的でムラ社会的な交流にストレスを感じ、煩わしい人間関係から能動的に社会的孤立・孤独を選択する人間は、この社会には多い。

「地域力」という概念がある。地域が一体になって共同体をつくり、挨拶、声がけ、対話などをしていくことによって、地域の諸問題を共同で解決するというような概念だ。

この「地域力」こそ、封建的な因習とよそ者への疎外、偏見をうむ日本型ムラ社会の温床であり、前近代的「人間の密着」を嫌う人々がいたからこそ、人々はムラから他者に拘泥するストレスの少ない大都市に移動した。それが、一周回って「地域の力」とか「地域の知恵」みたいな「人間は地域共同体に所属し、外交的に他者と会話することが善人で、犯罪を抑止する」という旧態依然とした、安易な観念につながっていく。

「地域力」は、ゴミ出しのマナーを改善するかもしれないが、大量殺戮を抑止する力を持ちえない。もし再犯を防ぐ方法があるとしたら、それは地域力の向上ではなく、スタンガンなどで武装した警備員を雇うなどの自衛方策のみだ。

■不幸でも絶望でもなく自由の謳歌だ

「地域力」とは監視と密告社会の復活であり、それこそ社会の空気を窮屈にする。同調圧力の中に内包されるぐらいなら、筆者は喜んで「ひきこもり」や「社会的孤立・孤独」を選ぶ。それは不幸でも絶望でもなく自由の謳歌だ。

岩崎容疑者はモンスターだ。大量殺戮はどのような理屈をもってしても肯定できない。しかしテロと「ひきこもり」「社会的孤立・孤独」は無関係で、その図式でしか語れない報道の貧困さ、想像力の不足を憂えてならない。

(文筆家 古谷 経衡 写真=時事通信フォト)

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