ミスを許さない日本社会が超非効率なわけ
プレジデントオンライン / 2019年6月18日 11時15分
■日本もダイバーシティを学びたい
ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。シンガポールで生活をしていると働く人も生き生きとしていると感じます。日本人の多くからも東京で働いている時よりも時間にゆとりが持てるという意見も聞きます。筆者は日本の米系企業で8年間働いた経験がありますが、やりとりしていた海外の企業、とくに日本よりも社員がゆとりを持って働いているにもかかわらずシンガポールや香港のスタッフは仕事をしっかりとやってくれる印象を持っています。これはなぜでしょうか。
世界各国からさまざまな人たちが集まるシンガポール。人種、言語、宗教など異なる背景の人たちが働いています。金曜日のランチ時間を延長してお祈りに行くというスタッフもいれば、有給の後に病欠をよく取るスタッフも。働き方に対する考え方もさまざまで「こうあるべき」といったことは通用しません。
日本ではアルバイトでも厳しい規則が課されることもありますが、海外ではその仕事をするのに十分な給料が与えられていない場合は上司に依頼された仕事でも断る社員がいます。メールを1通送るという簡単な仕事でも業務の範囲外といった形で断られることもあるそうです。サービス残業などはそれなりのポジションでなければあまり考えられないのです。雇用主の言いなりにならず、条件がよい職場が他に見つかればすぐ転職するのは当たり前の文化です。
このようにさまざまな背景のスタッフが集まると組織がめちゃくちゃになってしまいそうですが、全体としては仕事がしっかりと回っているのです。その理由の一つとして、ある程度以上のポジションの人たちが非常に優秀で、日本人以上にしっかりと働くということも挙げられます。これは日本の外資系にも見られる文化ですが、それなりの待遇を与えられているので喜んでつらい仕事も引き受けるのです。管理職以上のポジションで怠けていたり、収入に見合った結果が出せないと会社を去ることになります。その代わり、管理職と待遇がかけはなれた一般のスタッフはワークライフバランスを優先させることができるのです。日本で昔あったように後輩が先輩の下仕事を全部するといった理不尽なことはあまりなく、働かない管理職もあまり見かけません。自分で選んで収入に見合った働き方をするので、フェアと言えばフェアな社会かもしれません。
■海外はミス前提社会
日本の文化にミスをしないノーミス前提社会というのがあります。スタートアップや新商品も完璧な状態で出そうとしがちです。しかし、シンガポールをはじめとして、海外はミス前提社会で、ミスをしたらカバーするという考え方だと感じます。
プランをかっちりと決めていないのにとりあえずビジネスをスタートアップさせてしまうという事もよくあります。シンガポールではオープンしたての飲食店で違うテーブルにオーダーがいったり、オーダーが通っていないことがよくありました。しかし、1週間、1カ月と経過すると日に日に改善されていくので完璧にトレーニングをしてからオープンさせるよりも効率的だと感じました。もちろん、開店当初にクレームはいくつか出ていましたが、クレーム対応コストを払っても準備万端にするよりもコストはずっと少なくて済むでしょう。
アプリが徐々にバージョンアップしていくのと同じで、最初から完璧な状態でスタートをしようと思わない方が気軽にビジネスも始めることができます。顧客側も一部の人を除けば基本的には寛容です。シンガポールに来た当初は宅配便を待っていても、いつ届くのか本当に届くのか分からないなど細かいことにイライラしましたが、重要なものはオフィスに送る、通販では極力買わないなどの対策をとればなんとかなると頭を切り変えるようになりました。日本では無料で受けられるサービス料、送料、金融機関の保管料なども海外ではかかるのが前提であって無料で良いサービスがなんでも受けられるわけではないのです。
海外の文化に慣れてしまうと自分自身も融通が利くので、ミス前提社会の方が働いている側も顧客も楽なのではないかと感じてしまいます。日本のように完璧を求めず、動きながら改善していく方が多くの場合は効率的なのです。
■お客様が神様でゴネればなんとかなるのは日本だけ
もう一つシンガポールで生活をしていて感じることに、ウェイターなどの従業員も顧客と対等で、平気で頼んだことを断ってきたり、簡単には謝らないという文化があります。
例えば、タクシーを捕まえようと思っても、運転手が行きたい方向と違う場合は断られることもよくあるのです。タクシースタンドで待っているのに何台も断られたということもあります(行き先は街中の比較的便利な場所にもかかわらず)。
また、日本のように朝礼をして全員で情報共有を徹底するといった企業はほとんどありません。聞く人によって言っていることが違うというのはよくあることです。できると言われてできない(逆に、できないと言われてできる)などといった事態もよくあることです。そのことに対して文句を言っても簡単に謝ったりもしません。ゴネてもできないことはできないとハッキリ言って断ります。
こういった文化を働いている分には楽でよいかもしれませんが、消費者としてはたまらないと感じる人も多いかもしれません。対応策としては、私もこちらにきてからよくやりますが、クレームへの対処などで納得ができないと簡単には引き下がらないことです。高級ホテルのレストランでいくつもの向こう側のミスが重なって、メンバーディスカウントを受けることができませんでした。どうしても納得ができなかったので論理的に説明をしたら特別に対応をしてもらえました。
こうしたことは格安サービスではなくてもよく起きます。もともとが格安サービスの場合は、向こうの都合でキャンセルをしてきた場合も払い戻されないことも多いですが、ある程度以上の規模のフランチャイズや高級店の場合は自己主張すれば対応をしてもらえる場合が多いです。安心料も含めて顧客は高めの値段を支払っているので交渉をしてみるべきでしょう。その場合も感情的、攻撃的にならずに淡々と正論を言って交渉をする必要があります。
逆に日本と違って白黒ハッキリではなく、交渉次第で融通が利くなどグレーを許容する部分もあるので、私は日本にいるよりも労働者としても消費者としてもいろいろと楽になりました。
お客様は神様(よいサービスをより安く)という概念が強すぎると、企業側や従業員がつらくなってしまいます。海外を見習って値段をサービスに対して適正にしたり、顧客の理不尽なゴネに対しては戦うなどの合理性が日本社会にも必要な時代なのかもしれません。
(1級ファイナンシャル・プランニング技能士 花輪 陽子 写真=iStock.com)
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