慶應SFCが30分間の面接で必ず聞く質問

プレジデントオンライン / 2019年6月19日 9時15分

「プレジデントFamily」2019年夏号では「一芸さえあれば『アホでもオーケー』なのか!? 名物教授が教える本当の合格基準」と題したリポートを掲載。(撮影=市来朋久、以下すべて同じ)

学力試験がなく書類選考と面接のみで合否を決める「AO入試」。日本の大学で初めて導入したのは、慶應義塾湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)だ。同大の村井純教授は、「導入から30年がたち、“上澄みの優秀な人材”をかなり獲得できている」と胸を張る。その「ガチンコ面接」で必ず聞く質問とは――。

■慶應SFCの「AO入試」は一芸あればアホでもOKなのか?

1990年に開設した慶應義塾湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)は、その第1回入試から、日本初のAO入試を導入した。

日本で最難関レベルの大学が、学力試験を課さず、志望理由などの書類と面接で合否を決定する。その決断は、当時の日本の教育界に少なからず衝撃を与えた。

SFCの創設に深く関わり、2017年9月までSFCの環境情報学部長も務めた村井純教授は次のように振り返る。

「学力試験のないAO入試で、果たして本当に優秀な人材がとれるのかという疑いの目があったことは理解しています。しかし、30年間を振り返って言えば、かなり“上澄みの人材”を獲得できている。我々のAO入試には、絶対的な自信を持っています」

なぜ、AO入試を導入したのか。その理由は、設立の理念にある。

SFCのもととなる構想は1983年、当時の石川忠雄塾長が慶應義塾125周年の記念式典で明らかにしたものだ。複雑化する新しい時代に活躍できる人材を育てるために、これまでの学問の枠組みにとらわれない新しい領域の研究ができる大学をつくりたいと語った。

■「専門分野がある人材をとる必要があった」

「まったく新しい大学をつくるために、教育と研究の多様性を確保したいと考えていました。だが、多様な分野を一から学生に教えていこうとすると、広く浅くなってしまう。これを防ぐには、入学前にある程度、専門性を持った学生たちが入学後も好きなことをやって、『あいつはこれに詳しいから』という形で互いに力を合わせながら、問題を解決していくほうがいい。そのために専門分野がある人材をとる必要があったのです」

専門分野がある人材の獲得手段が、AO入試だったというわけだ。実際、「卒業生一覧」(最終ページに掲載)を見ると、起業家、政治家、学者、アスリート、芸能人、棋士など、さまざまな分野に及んでいるのがわかるだろう。

■慶應SFCのAO入試で重視される「30分間の面接」の中身

AO入試における選抜は、書類による1次選考と、面接による2次選考で行われる。

「いずれも成績より重視するのは『志願書(志望理由と入学後の学習計画、自己アピール)』と、そして、何よりも面接です」

面接では、3人の教員が30分間かけて、受験生の志望理由を掘り下げてたずねたり、それまでやってきたことについて質問したりする。

「時には学問的な論争になる真剣勝負の場です。学力テストなどしなくても、30分間、第一線で活躍している学者が、3人がかりで1人の受験生を見るわけですから、ごまかしようがないんです。しかも、それを30年続けてきた経験の蓄積があります」

「元祖AO入試」といわれる慶應SFCの創設に深く関わり、2017年9月までSFCの環境情報学部長も務めた村井純教授。

■面接官の教員は受験生のどのような点を見ているのか?

面接で教員たちが見ているのは、どのような点なのだろうか。

「『専門分野』に加えて『好奇心』があるか、『意欲』があるか。話していれば好奇心の有無、意欲が本物なのかだってわかります。最近はAO入試対策のための予備校が力を持ってきていますが、面接官からすれば、付け焼き刃の対策では、あいつもこいつも同じことを言っているぞ、とわかる。何が決め手になるかは人それぞれなので、対策できるものではありません。バレーボール日本代表の主将・柳田将洋君は、面接でバレーボールを持ってきたけれど、他の人がまねしても意味はないですよね」

面接では、「コミュニケーション能力」も見られている。

「SFCでは授業における仲間とのネットワークが不可欠なんです。たとえば、『火星に移住したときのエネルギーマネジメントはどうするか』といった課題について、グループワークをして発表するような授業が多い。デザイン、プログラミング、プレゼンといったそれぞれの得意分野を生かして、分業します。こうした授業についていけるのかを見ています」

また、AO入試生が国際的な大会に出場する場合でも、授業の欠席は簡単には認められないという。

「いま東北楽天ゴールデンイーグルスに所属している岩見雅紀君は僕の授業を取っていたけれど、日米大学野球選手権大会でアメリカに行くときも、それだけでは欠席を認めませんでした。欠席するために何をする、という交渉を僕とできるのか。このようなことができないと、卒業できないのです」

「ただし」と村井教授は付け加える。

「高校生は化けることも多い。面接でコミュニケーション能力が低くても、それまでの実績を見て、これだけのことをする力があるのだから、化けるのではないかと期待してとる子もいます。そこは全体のバランスを見て判断します」

■なぜハーバード大学を蹴って、SFCに来る子がいるのか

AO入試の受験倍率は、4月入学1期が両学部とも4~5倍程度、4月入学2期が7~9倍程度。既卒生および帰国生向けの9月入学分は、年によって異なり、4倍から、時には10倍を超えることもある。これらの数字からも、簡単に突破できる入試ではないことがわかるだろう。

晴れて合格を勝ち取ったAO入試生たちは、入学後、イキイキと活動しているという。

「AO入試の子はやりたいことがあって入ってきているので、一般入試生や内部生よりも早くから自分のテーマに向かって動けるし、得意分野も明確です。それに刺激されて、どんな子も2、3年経てばやりたいことを見つけています。僕らがやっているのは、いろんな子を入れて混ぜることだけ。キムチみたいにいろんな素材を入れて混ぜていると、ちょっとずつ混ざってすべての味がおいしくなる感じ。学生を食べ物に例えたら、怒られそうだけど(笑)」

そして、ほかならぬAO入試生も、多様な学びに触れて、「持っていた専門性を広い分野で発揮できるようになる」と村井教授。

「囲碁棋士の吉原由香里(旧姓・梅沢)さんは囲碁ばかりして入学してきましたが、SFCで学んだことで視野が広がり、漫画『ヒカルの碁』を監修します。これが日本やヨーロッパで大ヒットし、世界で囲碁人口を増やすことにつながりました。棋士としても強くなって、大活躍しています。吉原さんはSFCで多様な人や学びに触れて、大きく育ったAO入試生だと感じます」

多様性の幅を広げるために、SFCが2011年より取り組んでいるのが、日本語が話せない学生の受け入れだ。「Global Information and Governance Academic Program(以下、GIGAプログラム)を始めて、英語で卒業単位が取れるようにしました。つまり、たくさんの授業を日本語と英語の二本立てでやるってことで、これ、教員が大変なの(苦笑)」

GIGAプログラムで入学するのは、インターナショナルスクール出身者や海外のトップ大学を蹴って入ってくる優秀な子だという。

「ハーバード大学を蹴って、SFCに来るような子がいます。そんなわけないって思うでしょう。でも、いるんです。たとえば、日系ブラジル人や日系アメリカ人。彼らは、祖父母の国で学んでみたいと来てくれる。とにかく優秀な学生が来ていて、それがまたほかの学生のいい刺激になっています」

■「本当はね、すべてをAOでとりたいくらいなんです」

同じ教員がやるとしても、英語での授業のほうが少人数になる。必然的にインタラクティブ(双方向的)でおもしろい授業が多く、日本人の学生が受講するケースも多くなったのだとか。意欲があれば、海外留学したような学びをSFCで受けられるのだ。

こうした流れにさらに弾みをつけるため、書類提出および面接で日本語と英語が任意に選べるようにするという。さらにAO入試の募集人員が各学部で拡大される予定だ。

「おもしろい志願書、おもしろい人を待っています。本当はね、すべてをAOでとりたいくらいなんです」

日本の大学入試に革命をもたらしたSFCの冒険は、まだ続きそうだ。

■【あの人も慶應AO入試生だった卒業生一覧】

▼起業家・実業家
本城慎之介 元楽天副社長、軽井沢風越学園設立準備財団理事長
千葉功太郎 ドローンファンド代表パートナー

▼政治家
橋本 岳 衆議院議員

▼学者
廣瀬陽子 政治学者(総合政策学部教授)
井庭 崇 創造実践学者(総合政策学部教授)
中室牧子 教育経済学者(総合政策学部教授)
古市憲寿 社会学者、文筆家

▼社会起業家
今村久美 認定NPO法人カタリバ代表理事
山口絵理子 マザーハウス代表
北野華子 Being ALIVE Japan理事長

▼アスリート
立石 諒 競泳(平泳ぎ)ロンドンオリンピック200m 銅メダリスト
山縣亮太 陸上短距離 リオデジャネイロオリンピック4×100mリレー 銀メダリスト
岩見雅紀 東北楽天ゴールデンイーグルス
小池祐貴 陸上短距離 ジャカルタアジア大会200m金メダリスト

▼芸能
一青 窈 歌手
紺野あさ美 元モーニング娘。、元テレビ東京アナウンサー 
たかまつなな お笑いジャーナリスト、NHK職員
菊池風磨 Sexy Zone

▼棋士
吉原由香里 囲碁棋士 など

(雑誌エディター/ライター 川口 昌人 撮影=市来朋久)

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