中の人が暴露"出会い系ビジネス"のウラ側
プレジデントオンライン / 2019年6月25日 15時15分
※本稿は、高野聖玄・セキュリティ集団スプラウト『フェイクウェブ』(文春新書)の一部を再編集したものです。
■テレクラやダイヤルQ2が源流
通信技術を使った出会い系サービスの源流は、1980年代半ばにはじまったテレフォンクラブ(通称テレクラ)や、1989年にNTTが始めたダイヤルQ2(業者が電話を通じて提供する有料情報の料金を、NTTが通話料と一緒に回収するサービス。2014年2月にサービス終了)で提供されていた、見知らぬ男女が会話をするためのツーショットダイヤルにある。
その後、1995年にマイクロソフトからWindows 95が発売されたことを契機に日本でもインターネットが一般家庭まで普及しはじめ、その流れと合わせるように出会い系サービスもインターネット上に移行していく。サービスのあり方を大きく変えたのは、1999年2月にスタートした、NTTドコモが提供する携帯電話向けインターネット接続サービスiモードの登場だ。それまでの固定電話や固定インターネットを利用したサービスから、手軽に移動しながら利用できる携帯電話が登場したことで、携帯電話向けの出会い系サービスが急増。業者が荒稼ぎできる時代に入った。
■出会い系バイトの時給は1100円位だった
2000年代前半に、出会い系サービスを運営する会社で働いていた30代後半の男性が振り返る。
「その会社は携帯電話向けの出会い系サービスを複数運営していましたが、実態はさくらを大量に雇ってユーザーに課金させるというものでした。登録者同士がメッセージをやり取りするにはポイントを購入しなければいけない仕組みで、例えば500円で50ポイント買って、受信したメッセージを開封するのに3ポイント、返信するのに5ポイントが支払われていくという感じです。で、ポイントがなくなったらまた買わせるように仕向けるというサイクルですね。
こっちとしては、登録ユーザーにいかにポイントを使わせるかが勝負なので、気を引く件名のメッセージを送って、いかに開封率を上げる(ポイントを使わせる)かに頭を使っていました。うまくやり取りに持ち込めれば、次はどれだけ話を引き伸ばして送受信の回数を増やすかです。
オフィスには常時数十人のアルバイトがいて、それぞれがパソコンを使って複数の相手とやり取りをするのですが、当時、出会い系サービスに登録しているユーザーの大半は男性だったので、さくらは女性ユーザーを装う形でした。その頃はまだ今のようにシステムも整備されていなかったので、各々が会話のテンプレートを作ってやり取りするようなやり方。品質はバラバラだったと思います。
アルバイトの時給は1100円位と当時の一般的な職種に比べて少し高いくらいで、自分がさくらを担当している登録ユーザーが課金すれば、その金額に応じて歩合が支払われる形態もありました。アルバイトの多くは、バンドマンとかヤンキーとかが多かった印象です。当時流行していたギャル系の10代の女の子なんかもいましたね。髪型や格好で面接を落とされることもないし、運営は24時間態勢なので、そういう人たちにとっては都合のいい仕事場だったからだと思います」
■「さくら」に引っかかる人々
この頃は、まだ一般的な人々のインターネットに対するリテラシーが低いことが問題になっていた時期で、この手のさくらサービスに引っかかっていた人たちも少なくなかった。その後、出会い系サービスを通じた児童買春が社会問題化したこともあり、2003年9月に、いわゆる「出会い系サイト規制法」〔正式名称は「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(※)〕が施行される。さらに、2008年12月に同法の一部が改正され、出会い系サービスの営業届け出や、登録者の本人確認が義務化されたことで、サービス運営事業者の数は一気に減少することになる。
前出の30代男性が働いていた出会い系サービスの運営元は、実はその当時、有望ベンチャーとしてメディアにも登場していた企業で、一時はIPO(株式上場)も視野に入れていたようなところだ。主力の事業は携帯電話向けゲームだったが、収益性を高めるために、子会社を作って出会い系サービスをやっていたようだ。その会社は現在も存在するが、やはり規制強化の影響を受けて、出会い系サービスを営んでいた子会社は数年で畳んでいる。
■一人当たりの稼ぎは月100万~300万円位
IPOを目指すベンチャー企業が、出会い系サービスをさくらごと運営して収益源にするなど今では考えられないことだが、当時としては必ずしも珍しいケースではなかった。それだけ荒稼ぎできていたということであり、インターネットバブルが生んだ徒花だったとも言える。そういった運営元の多くは事業を閉じたが、一部は規制を免れるため、海外に拠点を移すなどして生き残りを図っていった。
複数の関係者の証言によると、そういった運営元の多くは現在、東南アジアに拠点を構えているという。
「今は国内に拠点を置いて稼ぐのは難しくなってきましたね。オフィスを借りるハードルも上がりましたし、様々な規制ができたことで、捜査当局のガサも入りやすくなりました。稼げる額も落ちてきているので、リスクに対して全然リターンが見合わなくなってます。関東と関西に大きなグループが残ってますが、それ以外の同業者連中はここ1、2年でどんどん東南アジアのほうに拠点を移すようになっていった。
自分のところは、国内拠点で以前働かせていた優秀なオペレーターを数人そっちの拠点に送って運営させてます。一人当たりの稼ぎはだいたい月100万~300万円位ですが、向こうじゃカネ使うところもないので、3カ月に一度くらい日本に戻ってきて、歌舞伎町あたりで遊んでるみたいですけどね」
■いま稼げるのはアプリのみ
![](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/-/img_eaf08e8256a553aeaf24082712d597f6239933.jpg)
そう語るのは、都内を拠点に出会い系サービスの裏仕事をしている男性だ。やはり2000年代にこの業界に入り、最初の頃はさくらの管理やメール配信を請け負う代理店をやっていたという。現在手掛けているのは、出会い系サービスの偽アプリの運営だ。
「スマートフォンが普及してからは、出会い系で稼げるのはアプリになりました。SNSの実名アカウントと連動した出会い系アプリが出てきたことで、本当に出会えるというイメージが広がったことも大きいですね。実際、外資や大手が運営する出会い系サービスは、女性登録者の割合が昔とは比べ物にならないくらい高くて、『出会い系=さくら』みたいな印象も薄れてきた。
だけど、実際問題として、すぐに性的な関係を求めるような利用者は、実名制のサービスに登録しようとは思わないわけです。下手にトラブルになって、インターネットに実名を晒されたりしたら堪らないですから。既婚者の場合もそうですよね。そういう目的の利用者は匿名のサービスを選ぶようになる。」
■GPSを悪用して課金する例も
「逆に自分らの立場からしたら、そういう下心がある相手というのはいいカモです。欲を満たすためなら、ちょっとくらいカネを払ってもいいと思っている。その心理を突いて、少しずつ課金額を上げていけますから。
自分の印象だと、匿名サービスの半分以上は偽アプリですね。一時期流行った、GPS(人工衛星を利用した位置情報計測システム)と連動した出会い系アプリなんかでは、さくらのオペレーターが、グーグルマップやグーグルストリートビューを見ながら、『どこいるの? こっちは、いま○○ってお店の近くにいるんだけど』みたいな感じで相手に現実味を持たせて、どんどんメッセージをやり取りするための課金をさせていくようにしてました」(同)
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株式会社スプラウト代表取締役社長
1980年生まれ。フリーのウェブエンジニアとして活動後、ビジネス誌のオンライン事業立ち上げや会員制経済誌の創刊に参画。2012年12月にスプラウトを創業。さまざまなインターネット事業を開発してきた経験と、調査報道で培った情報収集力を活かし、企業や官公庁のサイバーセキュリティ対策をサポート。共著にサイバー闇市場を題材にした『闇(ダーク)ウェブ』(セキュリティ集団スプラウト著、文春新書)がある。新聞・雑誌への寄稿ほか、テレビ・ラジオへの出演、講演多数。
セキュリティ集団スプラウト
サイバーセキュリティの専門企業
正式名称は株式会社スプラウト。主な事業はウェブサイト/ネットワーク/アプリケーション/IoT機器のペネトレーションテスト(侵入テスト)および脆弱性診断、脅威リサーチ、情報漏洩調査、デジタル・フォレンジック、セキュリティ・コンサルティング。ホワイトハッカーと企業をつなぐ報奨金プラットフォーム「BugBounty.jp」も運営。
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(スプラウト 社長 高野 聖玄 写真=iStock.com)
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