常連客が大幅減"大戸屋ランチ廃止"の衝撃
プレジデントオンライン / 2019年6月21日 9時15分
■バイトテロが引き金になった
定食チェーン「大戸屋ごはん処」の客離れが深刻だ。運営会社の大戸屋ホールディングスが6月10日に発表した5月の既存店客数は、前年同月比6.4%減だった。4月が8.0%減、3月が10.8%減、2月が6.4%減と4カ月連続で6%を超える大幅なマイナスとなった。
今年1月までですでに10カ月連続のマイナスとなってはいたが、この4カ月のマイナス幅は非常に深刻だ。2019年3月期上期(18年4~9月)が前年同期比2.7%減だったことを考えると、その異様さがわかるだろう。
この4カ月間における客離れの主因は、「バイトテロ」と「値上げ」だ。
深刻な客離れの始まった2月は、バイトテロが表面化したタイミングだ。アルバイトが配膳用のトレーで裸の下半身を覆う様子を映した動画が拡散し、多くのメディアに取り上げられた。表面化したのが2月中旬だったため、この月は6.4%減で済んでいるが、翌3月は10.8%減と大幅なマイナスとなっている。イメージが悪化し、客足が遠のいた結果と考えるのが自然だろう。
■定食メニュー12品目を10~70円値上げ
これを受けて大戸屋は2月16日に謝罪。3月12日には国内全350店の大半を休業し、再発防止に向けた従業員教育と店内清掃を実施した。この対応は評価できるものだったが、それでも完全な信頼回復には至らなかった。
なお、客数減にはこの休業要因もあるため、同社は休業日を除外して前年と同じ営業日数で比較した場合の増減率を算出している。ただ、その場合でも客数は8.5%減になっており、いずれにせよバイトテロが深刻な客離れを招いたことは間違いない。
そして、さらなる客離れを招いたのが「値上げ」だ。大戸屋は今年4月23日、定食メニューのうち12品目を10~70円値上げしている。値上げ幅の大きかった「しまほっけの炭火焼き定食」は970円(以下すべて税込み)から70円引き上げて1040円に。そのほか、「ロースかつ定食」は910円から40円上げて950円に、「バジルチキンサラダ定食」は900円から20円上げて920円に変更している。
■竜田揚げが肉団子になって150円高くなった
安価で人気があった定番商品「大戸屋ランチ」(720円)がなくなったのも大きい。「大戸屋ランチ」は、竜田揚げ、かぼちゃコロッケ、目玉焼き、サラダ、ご飯、みそ汁、お新香がセットになった定食だが、今年4月の値上げのタイミングにメニューから消えたのだ。これで「ランチ」と名の付く商品はなくなってしまった。
その代わりとしてか、似たような定食として「大戸屋おうちごはん定食」(870円)が新たに加わった。使われている食材は「大戸屋ランチ」とほぼ同じだが、竜田揚げではなく肉団子になっている。食材の面ではこれ以外の大きな違いはない。
大きく異なるのが価格で、「大戸屋おうちごはん定食」は「大戸屋ランチ」より150円高い。内容が異なるので値上げとは言い切れないが、利用者に「高くなった」という印象を与えたことは否めないだろう。
値上げにより客単価は上昇したが、4月の客数が8.0%減、翌5月が6.4%減とどちらも大幅マイナスとなり、既存店売上高は4月が5.0%減、5月が2.7%減と低迷した。値上げで補うことができないほど、客数が減ってしまったわけだ。
■かつての主要価格帯は600円台だった
バイトテロは突発的な出来事のため、この影響はいずれなくなるだろうが、値上げによる価格帯の上昇は今後の集客に恒常的に影響するといえる。
大戸屋の業績は厳しい状況にある。19年3月期の連結決算(5月13日発表)は、売上高が前期比2.0%減の257億円、本業のもうけを示す営業利益は34.7%減の4億1400万円と減収減益となった。店舗数が伸び悩んだほか、既存店の不振が響いた。最終的なもうけを示す純利益は、販売不振などから国内直営店の減損損失2億8300万円を計上したことが影響し、73.0%減の5500万円と大きく落ち込んだ。
かつて大戸屋の主要価格帯は600円台だった。庶民的な定食屋のイメージが強かったが、段階的に価格帯が引き上げられ、いつの間にか高級定食店に変貌してしまった。現在、グランドメニューの定食はほとんどが800円台と900円台に設定されている。800円未満のものは、そば、うどんといった単品商品だけだ。外食チェーンの中では高額の部類に入るだろう。
■「やよい軒」に店舗数も出店ペースも劣る
大戸屋の価格の高さは、出店できる立地が限られるという問題を内包している。都市部であれば同程度の価格帯の飲食店がたくさんあるため、大戸屋が特段に高いとは感じられない。しかし地方はそうではなく、価格の高さが際立つことになる。そのため、収益を上げられる場所は限られる。大戸屋の国内店舗数がここ数年350店程度の横ばいなのはこの理由が大きいだろう。
これは同業の「やよい軒」と比較すると分かりやすい。やよい軒は定食メニューの大半が800円未満とお手頃だ。「しょうが焼定食」や「サバの塩焼定食」といった定番商品は630円と、圧倒的に安い。この価格帯であれば地方でも十分戦える。そのため、出店余地は大戸屋よりも広い。
事実、やよい軒の店舗数は大きく伸びている。5月末時点の国内店舗数は380店で、1年前から24店増えた。現在の店舗数は大戸屋を上回り、近年の出店ペースもやよい軒のほうが上だ。
■コスト高に値上げで対応するしかなくなっている
大戸屋は出店余地が限られているため、出店攻勢がかけられず「規模のメリット」を発揮できずにいる。店舗数が増えれば、規模のメリットでコストの割合が低下し、利益が生じやすくなる。そこで生じた利益を、商品価格を据え置くための原資に利用できるのだ。
大戸屋の収益性の悪化の一因はここにある。昨今のコスト高に対し、値上げで対応せざるをえなくなっているのだ。価格帯が高くなれば、出店余地はさらに狭まる。店舗数を増やせなければ、規模のメリットはますます発揮できなくなる。大戸屋はこうした悪循環に陥っているのだ。
一方、やよい軒の収益性は大戸屋ほど悪くはない。運営会社のプレナスが、持ち帰り弁当店「ほっともっと」を国内に2700店超を展開していることも大きい。グループで規模のメリットを発揮できているのだろう。
■新業態展開するも大戸屋とカブり気味
大戸屋はやよい軒のようにほかの事業の力を借りることができない。大戸屋HDでは「大戸屋ごはん処」以外の事業がまったく育っていないためだ。そのため今後もコスト高が続くようであれば、さらなる値上げをせざるをえないだろう。そうなれば、さらなる客離れが生じかねない。成長を図るには、大戸屋ごはん処以外の事業を早急に育てる必要がある。
もちろん同社は手をこまぬいているわけではない。昨年、新業態の定食店「食べ処三かみ」や「かこみ食卓」を立ち上げた。だが、どちらもメニューの大半は900~1000円台で、大戸屋とバッティングする部分が多い。その点は気がかりだ。大戸屋が飽和状態にあるなか、似たような新業態の出店余地は限定的ではないか。方向性の異なる業態を別に確立する必要があるだろう。
■「海外200店」の目標も取り下げた
海外事業のテコ入れも喫緊の課題だ。海外では東南アジアを中心に110店(3月末時点)を展開しているが、この数字は当初の目標より遅れている。20年3月期を期限とする中期経営計画(16年11月発表)では、今期に「海外200店」に向けた体制を整備するとしていた。しかし、出店が思うようにいかず、この目標は昨年5月に取り下げている。今期の海外店舗の純増数はわずか16店にとどまる見込みで、200店ははるか遠い。国内で苦戦していることもあり、遠くない将来に達成したいところだ。
チェーン店はその構造上、規模のメリットを追求することが宿命づけられている。今の大戸屋は、その点が特に問われているのではないだろうか。大局的な観点で戦略を練り、そこを追求していく必要があるだろう。
※編集部註:初出時、「しまほっけの炭火焼き定食」の写真とキャプションが間違っていました。訂正します。(6月21日12時44分追記)
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店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売り上げ拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。
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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)
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