頭のいい子は「新聞のスポーツ欄」を読む
プレジデントオンライン / 2019年6月21日 9時15分
■紙の新聞を購読する家庭の子は国語ができる
先日、わたしの経営する中学受験専門塾の国語授業で、子どもたちにこんな質問を投げかけた。
「みんなの家は紙の新聞って購読しているの?」
その結果に驚いた。なぜなら、国語を得点源にしている子どもたちの家庭の大半が、紙の新聞、しかも複数紙を購読していたからだ。
いま、紙の新聞はどんどん部数を減らしている。日本新聞協会が公開している「新聞の発行部数と世帯数の推移」によると、2000年の発行部数は一般紙・スポーツ紙あわせて約5371万部(朝夕刊セットを1部として算出)だったが、18年後の2018年は約3990万部と、1400万部以上も減らしている。しかも直近の1年間では220万部以上も落ち込んでいるのだ。このペースでは19年足らずで、発行部数はゼロになってしまう。
実際、わたしの塾では年に何回か自塾の広告を新聞に折り込んでいるため、広告代理店から「新聞販売所別部数データ」が送られてくる。それを見るたびに、各販売所は取り扱い部数を大きく減らしている。単体では成り立たなくなった新聞販売所が、近隣の販売所と合併することも頻繁に起こっている。
■紙の新聞は果たして「オワコン」なのか?
どうして紙の新聞をとる人が減っているのか。その理由は明白だろう。インターネットの普及で、若い世代を中心にニュースをネットで閲覧するようになったからだ。かつては電車で新聞を小さく折りたたんで読む人をたくさん見かけたが、いま見かけるのはスマホを眺める人ばかりだ。
ある新聞社の記者は、ため息交じりにこう語っていた。
「若い人は新聞をとらないですね。いま購読者の大半は高齢者ですよ」
こうした状況を踏まえ、一部から紙の新聞は「オワコン(=終わったコンテンツ)」と呼ばれているようだ。しかし、長年塾講師をしているわたしは、紙の新聞には「国語の運用能力を向上させる効果がある」と確信している。本稿では「紙の新聞」と「国語運用能力」の関係性について考察したい。
■紙の新聞は「幕の内弁当」である
知人の大手メディア関係者からネットニュースと比べて紙の新聞が優れている点は「視認性」にあるという話を聞いたことがある。その関係者はこう言い添える。
「新聞はいまこのタイミングで最低限頭に入れておくべき幅広い情報を『幕の内弁当』のように詰め込んでいて、短時間でそれらを仕入れることが可能です。また、ニュースの重要性を見出しの大きさで示しているため、読者にとっていま世の中で注目すべきものがすぐに分かるつくりになっています。さらに、新聞の記事はそれまで各社が培ってきた編集技術や校閲を通しているので、精度の高い文章になっているのも魅力です」
他方、ネットニュースの場合、読者が閲覧する情報に偏りが生じやすい。自分の興味のある事柄しか目を通さない傾向があるのだ。先の「幕の内弁当」のたとえでいうと、「卵焼きが好きなら、そればかり食べている」という状態に陥ってしまうわけだ。
その点、新聞は思いがけない分野の記事が目に飛び込んでくることで、興味や関心の幅を思いがけず広がることもある。こうした傾向は、ネット書店とリアル書店での「本探し」でも相通ずるものがある。
わたしの指導している子どもで新聞を購読している家庭の子たちに多く見られる共通点は、大人顔負けの幅広い知識を有していることだ。実は、このことが熾烈な争いが繰り広げられている中学受験を勝ち抜く条件でもある。
「国語」という科目は「総合科目」である。その文章(とりわけ説明的文章)は「理科」や「社会」などの他科目と横断しているような内容であることが多い。新聞を読む子の文章読解能力が高いのは偶然ではないのだろう。
■大人のことばに早期から触れさせる意味
また、新聞を好んで読む子どもたちと、そうでない子どもたちの間の差は何か。それは語彙の総量である。
大人向けの新聞は小学生の子どもたちにとって難しいことばだらけであるし、読めない漢字も多く含まれている。だが、何度も何度も「同じことば」と出会うことで自然にそのことばを習得していく。
われわれ大人が通常用いる語彙の中で、辞書を引いて獲得したことばはほんのわずかだろう。
子どもたちは、新聞の記事の中に何度も登場するそのことばの意味をその前後の文脈から類推、判断していくのだ。そして、その連結語句までセットにして「自ら使えるレベル」にまで昇華させていく。
こう考えると、大人向けの難解な新聞を子どもたちが読むことには大きな意味がある。自身を振り返っても新聞で覚えた漢字や慣用表現、言い回しは確かに数えきれないくらいある。小学生時代のわたしは真っ先にスポーツ欄から目を通していたが、たとえば、「兆し」という漢字はプロ野球の往年の大投手「村田兆治」(ロッテ・オリオンズ)で覚え、「劇的」「援護」といった熟語の読み書きができるようになったのも、新聞でこれらのことばに出会ったからである。。
そんな話を塾のスタッフと話していたら、理系講師のひとりがこんなことを言った。
「プロ野球の勝率とか防御率とかゲーム差とかの意味は、新聞のスポーツ欄を日々眺めることで少しずつ理解できていったんですよね」
■大切なのは子どもが新聞に興味を抱くきっかけづくり
もちろん、わたしは「家が新聞さえ購読していれば、子が国語を得意になるにちがいない」と言いたいわけではない。新聞を購読しているものの、あまり活用されず、放置されたりすぐにゴミ箱行きになったりして、子どもの目に触れなければ全く意味がない。
そして、なにより大切なのは子どもが新聞に関心を示すきっかけづくりを親が用意することだ。子の教育のために……とそればかり考えるのではなく、親自身が新聞を楽しむ習慣を身につけることが大切である。親が新聞に食い入る姿を見ることで、子どももそこに書かれている内容が気になるはずだ(読書好きの子の親がやはり読書好きというのも、同じ理屈である)。
あるいは、テレビニュースを見ながら家族で話をしている際に、それと関連する新聞記事を子どもに見せてやる……そんな働きかけこそが子どもが自主的に新聞を手に取るきっかけとなる。
■小学校低学年生に薦めたい「子ども向け新聞」
さて、小学校高学年であれば「大人向け新聞」を読ませるのもよいだろうが、低学年では「子ども向け新聞」を購読するのも手だ。大手では「朝日小学生新聞」(朝日学生新聞社)、「読売KODOMO新聞」(読売新聞東京本社)、「毎日小学生新聞」(毎日新聞社)がある。
これらの小学生新聞を愛読している子の保護者から聞いた活用方法を3点紹介したい。
1.記事のスクラップとコメント記入
子が興味を持った記事をスクラップブックに貼り付け、その下に「一言コメント」を付け、家族でその内容を話題にする。スクラップする記事は親が指定するのではなく、子に選ばせることが大切。
2.新聞・読書の時間
家族で「新聞・読書」の時間を15分程度設けて、みんなで新聞や読書をする時間を作ってみる。
3.テレビニュースの復習材料としての活用
一般紙や子ども向け新聞は「1日、あるいは2日遅れのニュース」を掲載していることもある。前日にテレビニュースを家族でみて話題にのぼったことを改めて小学生向けの新聞で確認することで子の知識をさらに深めていくことができる。
■紙の新聞を見直してもよいのかもしれない
冒頭で述べたように、紙の新聞の未来は明るいとは言いにくい。
ただ、何十年、何百年と受け継がれてきた「紙」ならではの有用性があるのではないだろうか。
電子マネーの普及が「お釣りで受け取る硬貨の枚数をいかに少なくするか」を瞬時に計算して手持ちの硬貨をレジで支払う経験を奪ったように、ネットの普及が子どもたちの「国語の運用能力向上」を阻んでいる側面もあるとわたしは感じている。
こんな話をすると、世間から「アナログ人間の戯言」と揶揄されるかもしれない。あるいは、ネットメディアで紙の新聞の有用性を訴えること自体矛盾した行為なのかもしれない。それでも日々子どもたちの国語を指導している立場からすると、紙の新聞をいまこそ見直すべきだと思うのだ。
(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=iStock.com)
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