渋滞学の教授に企業がコンサル依頼する訳
プレジデントオンライン / 2019年7月6日 11時15分
■中学数学で、仕事に必須の「多段思考力」を鍛える
「数学を学ぶ目的は、世の中の課題を解決すること。30年にわたって数学とつきあってきましたが、こんなに切れ味のいい『武器』はありません」
こう断言する著者の西成活裕氏は、様々な渋滞を分野横断的に研究する「渋滞学」を提唱したことで知られる数理物理学者だ。東京大学で教鞭をとる一方、企業からのコンサル依頼が引きも切らない。その傍ら、小学生から主婦に至るまで、幅広い層に数学の楽しさを伝えている。
大人が数学を学び直すメリットは何か。それは、ビジネスに不可欠な「思考体力」が養われることだという。
「なかでも大事なのが『多段思考』です。いわゆる『頭がいい人』は、複雑な課題に対しても、一段また一段とロジックを積み上げながら、粘り強く考え続けることができる。中学数学を復習するだけでも、この力がガンガン鍛えられます」
数学アレルギーを持つ人にとって、複雑な公式の数々は苦い思い出のはずだ。だが西成氏によれば、公式を覚える必要はまったくないらしい。
「公式の丸暗記ではなく、論理的に解を導く力が重要。私自身、中学で習う二次方程式の公式を覚えているかどうか怪しいものですよ」
■国の中枢を担う人が数字に弱いのは本当にまずい
変化の激しいビジネスの現場では、既存の方法が通用しない場面が増えている。そんな今だからこそ、数学的なセンスがますます求められる。
「少し数学がわかる人なら、従来の『テンプレート』に頼らず、新しい解決策を自分で編み出せるはずです」
数学の素養の有無は、どのような点に表れるのだろうか。西成氏は、プレゼンを10分も聞けばわかるという。
「いちばん大きいのは、エビデンス(合理的根拠)を基に話せるかどうか。数学を知らない人は勘だけでモノを言いがちです。また、パワーポイントの資料を見やすいレイアウトでつくれるのは、『相似』の概念がわかっている証拠です」
政府関係者にアドバイスを求められることもある西成氏が最近驚いたことがある。某省がようやく、エビデンスに基づく政策立案をしようと言い出したのだ。
「今まで何をやっていたのかと愕然としますよ。国の中枢を担う人が数字に弱いのは本当にまずい。データサイエンティストが圧倒的に足りない現状では、AIを活用した『ソサエティ5.0』なんて実現できません。
意識して思考体力を鍛えないと脳は劣化する一方。ビジネス上の課題解決なら中学数学でも十分です。AIに使われたくなかったら、今すぐ再チャレンジしてほしいですね」
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東京大学先端科学技術研究センター教授
専門は数理物理学、渋滞学。東京大学工学部卒業、同大大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。
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(小島 和子 撮影=大泉 裕)
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