中年の「タレント女医」が大炎上するワケ
プレジデントオンライン / 2019年6月22日 11時15分
■日本中を包む祝賀ムードに、水を差した一言
6月5日、お笑いコンビ「南海キャンディーズ」の山里亮太さん(42)と、女優の蒼井優さん(33)の結婚報告会見が開かれ、「令和最初の大型カップル」と日本中が祝賀ムードに包まれた。
ところが翌6日、それに水を差した人がいた。
フジテレビ系の情報番組「とくダネ!」で木曜日レギュラーコメンテーターを務める産婦人科医・宋美玄(そん・みひょん)さん(43)が「女性目線でいくと、(中略)私はちょっと……子供の顔が心配な人は無理」と、山里さんの容姿を揶揄したのだ。
すると、SNS上には「超失礼」「お祝いムードを壊しすぎ」「こういう事、診察中も思っているのか」といった非難コメントが殺到し、炎上状態になった。
6日夜、宋さんはツイッターで自身の発言について、「蒼井さんは美しい女優さんで外見にコンプレックスがないのが羨ましいということが言いたかった」と謝罪した。山里さんとは以前テレビで共演し、気心を知る仲だったため、「つい面白がって過激な表現となってしまった」としている。
これに対し山里さんは、翌7日に「親しみを込めての言葉だと受け取っております。(中略)そこらへんのパンチは余裕で受けなれていますので」とツイッターで応答。フォロワーなどは「神対応」と評価し、自身の株をさらに上げた。
これまでにもこうしたタレント女医がらみのトラブルはあった。本稿ではその歴史を振り返ってみたい。
■「タレント女医」はいつどのようにして誕生したか
私が医大に入学した昭和末期、世間に「タレント女医」という概念はなく、マスコミに登場する女医も、「心臓外科医から宇宙飛行士に転身した内藤(現・向井)千秋さん」のような「名誉男性」的な女性が目立った。
また、当時はいわゆる「女子大生ブーム」の時代でもあり、ファッション雑誌やバラエティー番組では、「しば漬け食べたい」というCMのフレーズで有名になった故・山口美江さんのような「バイリンギャル」を輩出した上智大学、「スチュワーデス予備校」と呼ばれた青短(青山学院女子短期大学)、「S女子大(校則で学校名を出せないのでイニシャルで表記されていた)」こと聖心女子大学などの学生がメディアを席巻していたが、そうした華やかな場所で女子医大生が登用されることはほとんどなかった。
■ミスコンにも入賞「タレント女医」の勃興期から隆盛期へ
それでも、時代は徐々にタレント女医を受け入れるようになる。
1996年にミス日本フォトジェニックを受賞した西川史子さん(整形外科医)に続いて、2004年には友利新(ともり・あらた)さん(内科医)が準ミス日本を受賞。香山リカさん(精神科医)などワイドショーやバラエティー番組で、タレント活動する女医も徐々に増え、世間的にも女医という職業に華やかなイメージが付加されつつあった。
そして2010年、著作の『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』シリーズ(ブックマン社)が大ヒットし、宋さんは時の人となった。大阪大医学部卒の才媛ながら下ネタにも対応するフレンドリーな一面も人々に支持された。
この頃から、ミスコン入賞する女医・女子医大生が急増していった。
2013年には、ミス東大ファイナリストの医学部生が、TBSキャスターに起用された。2015年には、東京大学医学部生が準ミス日本に入賞した。2016年には東京医科歯科大の医学部生が準ミス日本に入選し、BSフジでキャスターとして活躍した。
■「女子アナ→女医」というキャリアパスも確立されつつある
従来のタレント女医は、医学部の中では、さほど偏差値の高くない私立医大出身者が主流だったが、タレント女医も量の増加と並行して、東大・慶應・ハーバード……と、質的にも文句なしの才媛女医が台頭するようになった。
また2016年、慶應義塾大学を卒業後、NHKアナウンサーや気象予報士として活躍していた小島亜輝子さんは出産を経た後、医師を目指し、31歳で私立医大に入学。さらに2018年、NHKアナウンサーの島津有理子さんもNHKを退職して、44歳で私立医大に編入学した。「女子アナ→女医」というキャリアパスも確立しつつあるようだ。
2019年には、東京大理科三類(医学部教養課程)の学生が、ミス日本グランプリという美のビッグタイトルを獲得し、知と美の頂点を手にした究極の才色兼備女性が誕生した。
従来のミスコン入賞医大生は、グランプリには及ばない「準ミス○○」「フォトジェニック賞」などのサブ的な受賞が多かったが、今回は文句なしのグランプリである。同コンテストではファイナリスト13人の中に東大理三女子が2人残ったことも話題になり、もう一人は「ミス海の日」に選ばれた。
■タレント女医が、上手に年を重ねることは難しい
女医がメディアなどで活躍する場はどんどん広がり、今ではテレビドラマやバラエティー番組にも進出している。40代以上のタレント女医も少なくないが、チヤホヤされやすいのはやはり若い女医だ。
元祖タレント女医で、30代の頃は「理想の男は年収4000万!」と宣言して物議をかもした西川史子さんも、アラフォーで結婚・離婚を経験してからは、落ち着いた雰囲気になり、テレビの出演も減ったように感じる。
また、「経験男性数800人」「Fカップのセクシー女医」「美容外科で年収5000万円」などの過激な発言で注目されたタレント女医は、2016年に診療報酬詐欺で逮捕されてマスコミの表舞台には出てこなくなった。
■女子アナと同じように、年齢と商品価値が反比例
今回、炎上騒動を起こした宋さんに関して、私が思うこと。それは「タレント女医という自尊心から、つい上から目線でお笑い芸人をいじってしまった」ということだ。タレントとして露出するのに慣れてしまい、思わず口を滑らせたのだと推測する。
ワイドショー番組の中高年層の視聴者には通じたかもしれないが、その発言がネットを通じて広がり、若者を中心に「なぜ山里さんを見下すのか」として炎上を招いたのだろう。
一世を風靡(ふうび)したタレント女医が、上手に年を重ねることは難しい。
身もふたもない言い方をすれば、「タレント女医」という肩書が輝くのはその若さゆえ。女子アナと同じように、年齢と商品価値が反比例しがちである。しかも、日本の女医数は昨今増えており、前述したように読者モデルやミスコン入賞者もたくさんいる。気づけばライバルだらけなのである。
今後、タレント女医の生存競争はより厳しくなることが予想される。
■「メディアの仕事5%、診療95%」のバランスが正しい
とはいえ、中高年タレント女医がサバイブするのは不可能ではない。「ベストマザー賞」を受賞した友利新さんのように、「よいお母さん」というポジションを目指すコースもある。
また、向井千秋さんのように、若い頃から女性であることを売りにせずスキルと経験で勝負したタイプは、中高年になっても邪険にはされない。向井さんは現在、東京理科大学特任副学長という要職に就き、周囲からの信頼も厚い。
あるいは、「ミスコンやタレント活動は青春の思い出」として早めに引退し、本職の医療にまい進するのも悪くはないだろう。
結局のところ、しっかりした本業があってのタレント活動ということだ。宋さんはツイッターのプロフィールに「メディアの仕事5%、診療95%」と書いている。今回のトラブルを、ぜひ今後の活動に生かしてほしい。
(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美 写真=iStock.com)
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