大人数の会議は"バカと暇人のもの"である
プレジデントオンライン / 2019年6月25日 9時15分
■もっとも取り組みやすい「働き方改革」とは
昨今「働き方改革」が各所で取り上げられるようになっている。労働時間をいかに短縮して過労死やうつ病発症などを回避するか、さらにはテレワークや副業など多様な働き方を広めて、いかにQOLを向上させるか、といったことに主眼が置かれているという。
これは大いにけっこうだが、本稿ではもう少し具体的に、どう改革を推進するとよいかを私なりに考えてみたい。といっても、別に大仰な議論をしたいわけではない。極めて卑近な視点からの提案である。
もっとも取り組みやすい働き方改革、それは「別に自分がいなくてもいい場所には行かない」ということを各人が意識することではなかろうか。
私は新卒で広告会社の博報堂に入り、4年で辞めた。そして、その後も同社を含めた広告業界の方々と一緒に仕事をすることが多い。その他、メーカーや各種メディアの方々とも仕事をすることは多いのだが、共通するのが以下の現象である。
そこにいなくてもいい人が多過ぎる
本当にそうなのだ。これはあらゆる業界、あらゆる場面で見られることではあるが、私の実感としては、とりわけ広告業界において顕著だと捉えている。
■会見場は「いなくてもいい人々の見本市」
わかりやすいのは記者会見の場などだろう。そこはまさに「いなくてもいい人々の見本市」のごとき状況なのだ。たとえば、企業の新CM発表会といったものは連日のように催されている。こうした会見には、CMに出演する芸能人やスポーツ選手が出席するものだが、取材で詰めかけている記者たちは、その商品やサービスに関して、正直どうでもいいと思っている。
あくまでも、そこに登場する著名人が何を言うかが重要なのだ。たまたま熱愛報道の渦中にいるような著名人であれば、その件について「囲み取材」ができ、格好のネタを入手できたりする。あるいは、その著名人自身に特筆するようなネタがない場合であっても、最近世間をにぎわせている話題について意見を求めれば、一応記事の見出しは立つ。
■著名人が会見に出ても、拡散効果は大して期待できない
それこそ、元野球選手が登場するような会見の場合、「大谷翔平選手がケガから復帰後、大活躍中ですが、大谷選手の今後の活躍についてご意見を」などと尋ねてコメントを引き出せば、「『大谷は三冠王も狙える!』野球評論家・○○氏太鼓判」といった記事をつくることが可能になる。
とはいえ率直に述べてしまうと、私は著名人がこうした会見に出ることに、あまり意味がないと思っている。あくまでも、その人のファンが多少は騒いでくれて、翌日のスポーツ紙やテレビのワイドショーで取り上げられる程度の効果しかないのでは。
■大量発生する“壁際のスーツ男”とは
だが、もっと不毛なのが、こうした会見に立ち会うサラリーマンの皆様である。もちろん、会見の主催者たる企業、現場を回す広告代理店の責任者とイベント会社のスタッフ、そして記者やカメラマンといった取材陣はその場に不可欠な存在だ。しかし、会見の場に居合わせる人々の多くは、実のところ特にやることのない広告関係者なのである。
こうした現場ではよく、異様な光景を目撃する。それは「壁際に立ち並ぶ大量のスーツ男たち」だ。彼らは広告関係者──具体的にいうと、記者会見を主催するクライアント企業と広告施策で付き合いがある広告代理店各社の営業担当者、そしてそのクライアント企業から広告を出稿してもらえる可能性があるメディア(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ・ネットメディア)の営業担当者である。ときには広告関係者のほうが取材陣よりも人数が多いなんてことすらある。
彼らは“広告関連の仕事をくださる大事なクライアント様”のために、忠誠心を見せるべく、会見の場に大挙して押し掛けてくる。大事なのは、クライアント様のキーマンたる部長や役員とその場で挨拶をすることなのだ。「おぉ、忙しい時間を割いてわざわざ来てくれたんだね、アナタ」なんて思ってもらえることを期待しているのである。さすがに記者用の椅子に座るわけにもいかないので、壁際で遠慮がちに突っ立っているのだ。
■「挨拶するだけ」が目的の不毛な時間
しかしながら、クライアント企業からすれば、こうした人々は実際のところ邪魔にしかならない。会見や記者発表会といった場では、あくまでも情報をメディアで広げてくれる取材陣がもっとも重要なのだから。それなのに、スーツ姿の男どもがズラリと会見場の壁際やら、後ろの空きスペースに居並んでしまうので、取材陣の通行の妨げになったりする。
きっとクライアント企業の人々は「お前ら、会見で特にやることもないのになんでいるのだ。別に挨拶になんて来なくていいから、もう少し諸費用を安くしてくれ!」と内心、愚痴っていることだろう。
だが、広告関係者も必死だ。「会見場には競合の○社の営業も挨拶に来るだろうから、われわれも行かざるを得ないな」なんてことを考え、他社に負けてなるものかとやって来るのである。このような「お付き合い」「虚礼的」「儀式的」な参加は、本当に意味がない。当然、主催者側もこうした「いなくてもいい人々」の来訪を計算に入れているので、会場も少し大きめのものを押さえたりする必要があり、無駄なカネがかかってしまう。
■大部屋の椅子が足りなくなったプレゼン
このような現象は、会見の場だけの話ではない。私は「競合プレゼン」や「全体ミーティング」といった会議の席に、会社員時代もフリーになってからも数え切れないほど参加してきたが、やはり人数が多過ぎるのだ。たとえば、かつて経験した某自動車メーカーのプレゼンでは、30人は楽に座れるような大きな会議室をクライアントが押さえてくれたにもかかわらず、椅子が足りなくなった。
先方からは役員も含めて12人ほどが、入口手前側の大テーブルにズラリと並んで座っている。緊張感の漂うなか、われわれ提案側の人間も次々と会議室に入っていったわけだが……こちらはなんと、総勢25人もの大部隊だったのだ!
広告代理店の営業部長は「わが社の総合力を見せるとともに、『これだけのスタッフがかかわるほど本気なんだ!』といった気迫を先方に感じてもらおう!」と鼻息荒く発破をかけたのだが、結局は椅子が足りなくなる始末で、プレゼンの開始が遅れただけだった。そして、その場で下っ端だった私は、会議中に一言もしゃべることなく終わった。
■一体、どれだけの費用と時間を無駄にするつもりなのか
まぁ、実態はこんなものなのである。提案側の25人のなかで確実にしゃべる必要があるのは、各部署の責任者である4、5人だけであり、他の約20人はその場にいなくてもプレゼン自体に何の支障もない。むしろクライアントからすれば、「こんなに大勢のスタッフがいるなんて、どれだけ人件費を請求されるのだろう……」と不安になったことだろう。加えて、いなくてもいい人間が往復の移動時間とプレゼンの1時間──合計2時間ほど拘束された状況なので、さまざまな業務が滞り、結果として無駄な残業時間が発生したことと思われる。
また、フリーのライターになってからも同じような状況には何度も遭遇した。広告案件のライティング業務で取材が発生する場合、現場が無駄に大人数になるのだ。
基本的に取材現場でフル稼働するのは、ライターとカメラマンの2名である。究極的には、この2人さえいれば取材は進められる。その他、クライアント企業の担当者は、扱う商品の専門知識があるだけにいたほうがいいだろう。広告会社の人間も1人くらいはフォロー役として立ち会うことに異論はない。しかし、なぜか広告会社の人間が3~4人もいたりすることがあるのだ。さらには、その広告会社本体の人間に加えて、制作を担当する子会社のスタッフが1~2人ほど付いてきたりもする。
地方での取材となれば、これで1泊2日の出張をし、夜はクライアントの接待も兼ねた食事の席を設けたりするのだから、交通費・宿泊費も含めて一体どれだけカネがかかってるんだ、と思う。何度も言うが、実際には彼らの大半が現場にいなくても取材自体は問題なく進むのだ。そりゃ、予算に余裕があるならいても結構だが、他にやるべき業務はないのか。いくらでも「働き方改革」を実践する余地があるだろう。というか、余計なカネを使うのなら、ギャラをもっと上げてくれ!
■コスト意識の欠如が「いなくてもいい人」を生む
こうした経験を経た末に私が得た教訓は「いる必要のない人は、その場にいなくてもいい」ということだ。そして、それを達成するために重要なのが、コスト意識を持つことである。もっとも言ってしまうなら、予算に余裕がなければ自然と無駄なことはしなくなる。
人が稼働すれば、本来はその分のお金がかかるものだ。会社員時代に携わった案件には、おそらく予算が潤沢にあったのだろう。勤めていた会社も当時は非上場だったせいか、「ま、黒字になっていればそれでOK」みたいな雰囲気が強かったように思う。だから、残業が多いことや、本当は立ち会う必要がない場所に社員が出向くことも自然な行為とされていた。しかし、私がフリーランスになってからは、余計な人員を打ち合わせや取材に連れていくことが金銭面で無理になった。
■余計な人員は絶対に雇ってはいけない
私は広告代理店を辞めて、しばらく無職として過ごしたあと、ライターの仕事を始めた。そして程なく、雑誌『テレビブロス』のフリーランス編集者になったのだが、1ページ5万円の予算で、すべてをつくらなければならなかった。
だから大抵の場合は、自分で執筆・撮影・編集といったすべての制作業務を担当するようになった。だが、芸能人に登場してもらう場合には写真のクオリティがやはり求められるので、やむなくカメラマンを雇い、どうしても業務が立て込んで忙しい場合には「チクショー!」と思いつつも自分の実入りが減ることを受け入れて、他のフリーライターに取材や執筆を依頼した。
とはいうものの、原則的には特集の4ページや6ページ程度であれば、自分一人でつくってしまうことを心掛けていた。何しろ、自分の取り分が減るのがイヤだったからである。
仮に、取材に5人のライターがやってきたらどうなっただろうか……。まさに広告業界の「ただいるだけの人」と同様のことが起きたに違いない。「その場にいた」ということに対して1万円ずつ払ったとしよう。となれば、予算が限られているだけに赤字に陥る。
だからこそ「余計な人員は絶対に雇ってはいけない。多少自分の負担が増えたとしても、安易に他の人に声をかけてはいけない」というスタンスが私には染みついている。
■業務においては常に個人行動
こうした個人事業主の暮らしを9年ほど送った後、自分が社長を務める会社を立ち上げた。従業員は、大学の同級生であるY嬢の一人のみ。たった2人しかいない小さな会社だが、それだけに明確に決めていることがある。それは、業務において常に「個人行動」を心掛けることだ。関連して、2人で会議などに参加することも基本的にはしないことにしている。
業務上、どうしても2人そろう必要がある場面を除いて、わが社はいつも個人プレイである。2人が必要な場面とは、あくまでも役割分担をせざるを得ないケースである。
■少ない社員で上手くやるコツは、適切な役割分担
弊社2人の業務を大まかにまとめると、以下のようになる。
・Y嬢=私に比肩するレベルで企画アイデアを出しつつ、実作業を手がける。その他、営業面の渉外担当となり、経理を含めたもろもろの事務手続きをする。場合によっては私のアイデアを代わりにプレゼンする。
たとえば、私がアイデア出しをするような打ち合わせの場合、基本は自分一人で出向く。だが、金銭的な交渉などが発生する場合はY嬢も連れていく、ということだ。これはY嬢の場合も同様で、彼女が企画を立てた案件であったり、すでに担当者と人間関係が構築できている案件だったりしたら、Y嬢一人で行く。私が同席するとしたら「今回は“御大”(笑)である中川君にも来てもらうほうが先方も喜びそうだから、よろしく」といったときぐらいだ。
そもそも、わが社は意識的に2人のキャラクター分けをしているところがある。「私=基本的に鷹揚だけど、下手なまねをすると容赦なくキレる人」「Y嬢=呑気ながらも激しやすい社長(私)を叱咤したり、なだめたりする、しっかり者で頼りになる番頭」といった感じだ。このキャラ分けが効果的に機能しそうな場面であれば、2人そろって出向くことになる。
■無駄なこと、無意味なことをやめる
こうした役割分担をすることにより、これまで大きな問題などは起きたことがない。取引先から「えっ……たった一人で来たんですか……」などと失望されたこともない。関係者のあいだで必要なコミュニケーションが取れて、求められるアウトプットができれば、案件は問題なく進んでいくものだ。
いま、働き方改革を推進するにあたり、必要なのは「人数ばかり多くても、何も意味がない。場面や状況に応じて、本当に必要な人だけがその場にいることのほうが大事」というマインドを皆が持つことである。別の言い方をするなら「『大人数で出向くほうがこちらの誠意を見せられる』といった、古くさい誤解を捨て去る」ということかもしれない。
とにかく合理的な判断を心がけ、最大限の成果を上げることだけ考える。これは費用対効果や時間の有効活用などビジネス上のメリットだけでなく、健康的な暮らしや余暇の充実といったプライベートにおけるメリットにも繋がる要点といえる。
まずは無駄なことをしない、と各人が意識するだけで、確実に日本の働き方は変わっていくはずだ。
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・「働き方改革」の基本は、「無駄なこと、無意味なことをやめる」という意識を各人が持つことである。
・「そこにいなくてもいい人」がいる場面が多すぎる。本当に必要な人だけいれば、仕事は進んでいくものだ。
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1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎 写真=iStock.com)
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