日本未上陸!アマゾンのリアル店舗3業態
プレジデントオンライン / 2019年6月25日 11時15分
■QRコードをかざして入店するだけ
米国、中国、欧州と、未来型店舗の海外視察を行いました。一貫していたキーワードは「ニューリテール(新しい小売り)」でした。実はこの言葉、中国ECサイト最大手・アリババ集団のジャック・マー会長が提唱したものです。ITによる膨大なデータ解析を駆使してネット通販と実店舗の融合を図る、高効率な次世代型小売り形態のこと。Amazonのリアル店舗も、言ってみれば「米国版ニューリテール」と呼ぶべきものでした。
Amazonの未来型店舗と言って最初に思い浮かぶのが、“世界最先端のコンビニ”こと、「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」です。2016年12月にAmazon社内で社員限定利用店としてオープンし、2018年1月に一般公開。2019年5月1日現在、シカゴ、ニューヨーク、シアトル、サンフランシスコなどで11店舗を展開しています。
Amazon Goの最大の特徴は、完全キャッシュレスによるウォークスルー決済です。スマホに専用アプリをダウンロードし、ゲートにQRコードをかざして入店ゲートより入店。あとは商品を手に取って退店ゲートから退店するだけで、決済が完了します。商品にRFタグなどは一切ついていません。なぜ、そんなことが可能なのでしょうか。
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実は、天井に設置された大量のカメラで来店客の動作を、商品棚のセンサーで商品の移動をそれぞれ補足し、入店時に認識した来店客のアカウントと照合しているからです。なので、商品をいくらポケットに隠そうとも、万引きはできません。
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■ホールフーズの商品を買える
私が訪れたサンフランシスコの575Market店は、一般的なコンビニほどの大きさ。品ぞろえも食品や飲料など、これまたコンビニ的です。ただし、Amazon Goには、米国の普通のコンビニと比べた大きな優位性がありました。Amazonが2017年に買収した米スーパー大手の「Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)」(以下、ホールフーズ)の商品が買えるのです。
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ホールフーズは、自然派志向の食品やオーガニック製品を取り扱っているのが特徴で、“意識の高い”層に人気があります。オフィス街のど真ん中で、ホールフーズの品物が買える点は大きな売りとなっています。ドリンク、ジャム、生鮮品の棚では、ホールフーズのプライベートブランド「365エブリデイ・バリュー」を多数見かけました。「365」はAmazon Goのなかでも、新しい店舗であればあるほど品ぞろえが多いようです。
■オフィスワーカーに、ウケるに決まっている
Amazon Goを利用した感想は、一言「満足」です。レジに並ぶストレスや財布を出す手間がゼロになるのは、ものすごく快適。「毎日ちょっとした買い物をする」コンビニタイプの業態だからこそ、その快適感をもっとも享受できると感じました。
1分でも時間が惜しい多忙なビジネスパーソンにとって、買い物時間の短縮は大きなメリット。同店が掲げる「Good Food Fast」のモットー通り、客は調理済みの商品を会計なしにすぐイートインスペースで食べられるので、ランチにかける時間そのものも短縮できます。Amazon Goは「時短」と「おいしい食事」を提供することで、オフィス街で働く人たちの満足度を確実に高めているのです。
1つ課題があるとすれば、欠品アイテムの多さです。リアルタイムに購買データを取得できているので自動発注も可能なはずですが、各棚の欠品が目立ったのは事実。現在のAmazon Goは商品補充を人力で行う必要があるため、いわゆる無人店舗ではありませんが、もし何らかの方法で商品補充まで自動化されれば、人はほとんどいらなくなるでしょう。
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■面積当たりの売り上げは、普通のコンビニの1.5倍
現実問題として、このような完全ウォークスルー決済店舗を出店するには、莫大な設備投資が必要です。ただ、店舗運営コストは下げられます。レジスペースがない分、店舗面積を小さくできる。もしくは、レジスペース分だけ売り場を増やせるので、売り場効率が上がるばかりか、レジ人員が必要ないため人件費も削減できます。
関係者へのヒアリングによれば、アメリカの通常のコンビニでは1平方フィート当たりの売り上げは平均約570ドル(約6万2000円)。Amazon Goは、約850ドル(約9万1000円)に上るといいます。単位面積当たりの売り上げは、通常のコンビニの1.5倍というわけです。
Amazon Goは2021年までに3000店舗の出店を計画していると言われています。そこまで増えれば、「365」ブランドをはじめホールフーズで販売している商品の販売量も大幅に増加し、製品単位当たりの固定費負担額も下がる。つまり、販売利益率の向上が飛躍的な見込めます。無論、ホールフーズの物流はAmazon Goにもそのまま使えるので、他のコンビニ店との競争で、さらに優位に立てる点も忘れてはなりません。
■「今読むべき本がわかる」リアル書店
書籍のオンライン販売からスタートしたAmazonが、まさかのリアル書店「Amazon Books(アマゾン・ブックス)」をシアトルにオープンしたのは2015年11月。19年5月31日現在、17店舗を展開する書店チェーンとなりました。
特徴的なのは、本がほとんど平積み・面陳列、つまり表紙が見えるようにディスプレーしてあること。まるでショールームのような店内は大変居心地が良く、快適です。欲しい本を決め打ちで買いに行くというよりは、何か話題の本は何か、売れている本はどれかと、気軽に立ち寄る感覚です。カフェも併設されているので、買った本をゆっくり読むことができます。
店頭で気に入った本のバーコードをスマホでスキャンして、Amazon.comで購入することも可能で、その場合、店舗は文字通りショールーム。本によっては、プライム会員割引が適用されるのもうれしいかぎりです。
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■おススメコーナーが持つ、圧倒的な説得力
棚展開には、Amazon.comで収集したユーザーの膨大な購入データがフルに生かされています。「レビューの平均点数が高い本」「1万レビュー以上ついた本」「ほしい物リストで人気の本」「ニューヨークで(=住所登録がニューヨークのユーザーに)よく売れているノンフィクション本」など、どれのおススメコーナーにも説得力があります。
店員の主観的な推しを徹底的に排除し、「売り上げ」「人気」に絞った商品展開が特徴の店として、日本の「ranKing ranQueen(ランキンランキン)」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。ただranKing ranQueenは、渋谷駅コンコースや新宿駅東口地下にも一時期出店していて盛況でしたが、2010年代以降は閉店が目立ち、元気がなくなっています。
ranKing ranQueenの不調には、いくつかの理由がありますが、その1つに、「何の売り上げランキングなのかがユーザーに伝わっていない」という点があったと思われます。2010年代のSNSの普及によって、特定商品の人気がユーザー自身の「シェア」数や「いいね!」数で可視化されると、企業や特定団体が発表する「大本営発表」的なランキングの信頼性や説得力が揺らいでしまいました。
その点、Amazon.comの膨大な個人データを集計した「平均点数」「レビュー数」「ほしい物リストの上位」「ニューヨークで売れている」には、有無を言わさぬ公平性と説得力があります。Amazon Booksは良いものしか置いていない、良質なセレクトショップである――。利用者の目にはそんなふうに映っているのではないでしょうか。
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■「星4つ以上」だけのセレクトショップ
良質なセレクトショップと言えば、2017年9月にニューヨークでオープンした「Amazon 4-star(アマゾン・フォー・スター)」は、その究極。Amazon.comでレビューが「星4つ」以上の商品をはじめ、人気商品ばかりを集めた店舗です。デジタルデバイス、家電、キッチン用品、玩具、書籍、ゲームなど、アイテムはさまざま。電子値札には、通常価格とプライム会員価格の両方が表示されています。
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Amazon 4-starもAmazon Booksと同じく、Amazon.comで収集したデータに基づいてニューヨーク地域での売れ線や「Hot Right Now(目下人気急上昇中)」といった棚を作って展開しています。利用者は、自分があまりくわしくない分野の商品を購入する必要があるとき、とりあえずAmazon 4-starに行けば、いちいちネットなどで評判を調べずとも、最短で「間違いない商品」にたどりつけます。ミーハーといえばミーハーですが、とても「使える」店なのはたしか。不人気商品をつかまされる心配がないという安心感は、何物にも代えがたい優位性ではないでしょうか。
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■オンラインの成長には、オフラインの力が必要
急ぎ足でAmazonのリアル店舗3業態を紹介しましたが、オンラインで圧倒的なトップに君臨しているAmazonがこのようなリアル店舗を出店する理由は、オフラインの買い物データをオンラインのマーケティングにも生かしたいからにほかなりません。Amazon Goでは、入店・決済用の専用アプリがAmazonアカウントと紐付いていますし、Amazon 4-starとAmazon BooksはAmazonプライム会員を優遇することで、積極的にアカウントと連動させようとしています。
オフラインたるリアル店舗が「オンラインショッピングサイトの脅威にどう対抗するか」という発想は、過去のものとなりました。今やオンラインはオフラインの力を借りなければさらなる発展はなく、オフラインはオンラインのデータやITなくして生き残ることはできないのです。
(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成=稲田豊史 写真=早川淳二)
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