日本は時代遅れ…中国のスーパーは超便利
プレジデントオンライン / 2019年6月26日 11時15分
■これが、アリババグループの本丸だ
中国のECサイト最大手・アリババ会長のジャック・マー氏が提唱する「ニューリテール(新しい小売)」という考え方があります。これは、ITによる膨大なデータ解析を駆使してネット通販と実店舗の融合を図る、高効率な次世代型小売り形態のことです。その“本丸”とも言える未来志向のスーパーマーケットチェーンが「フーマー」です。
フーマーの1号店は2016年1月、上海にオープンしました。2018年7月31日の時点で、中国14都市に64店舗を展開しています。同年9月の同社の発表によると、フーマー1店舗当たりの売り上げは1日当たり平均80万元(約1280万円)以上、オンラインでの注文はその60%以上を占めるそうで、注文店舗から半径3kmまでなら30分以内に配送してくれます。
フーマーはスーパーマーケットとして食品を売る機能だけでなく、購入した魚などを好みに調理して食べることのできるフードコートとしての機能、買ったものを配達してくれるデリバリーの機能を備えているほか、オンライン注文の倉庫の役割も担っています。
このように、フーマーは1つの売り場で複数の役割をこなすことで売り場効率が高まり、人件費などの固定費が抑えられます。実際、通常のスーパーに比べて、売り場面積当たりの売上高は3.7倍とのこと。その分を販売促進費に回したり、厨房に人員を割いて精肉や加工品の質を高めたりしているわけです。
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■客の安心のためなら「生きた魚にもQRコード」
いけすの中を泳いでいる魚(買って帰ることも、有料で調理してもらってフードコードで食べることも可能)の中には、QRコードやバーコードのタグがついている個体もありました。スマホのカメラで読み込むと、魚の産地などが説明されるページに飛びます。
この背景には、中国国内の「食」に対する不安があります。生産者が利益を追求するために、粗悪な原材料を使ってはいないか。虚偽の生産地名を表示してブランド詐欺をはたらいてはいないか。健康被害は大丈夫か。日本よりずっとひどい食品偽装事件が頻発する中国において、「実物を目で確認し、QRコードを駆使してトレーサビリティを高める」この方法は、消費者から非常に歓迎されているのです。
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■デリバリー用の商品が、天井のコンベアで運ばれる!
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先述の通り、フーマーには、オンライン注文の倉庫としての役割もあります。ユーザーからアプリ経由で注文が入ると店員の端末に注文情報が入り、店員は店内で商品をピックアップ。
それがバッグにまとめられ、店内の天井コンベアを通って店外の配送口へ。外で待ち構えていたバイクが30分以内に配送してくれるのです。
天井のコンベアは売り場からしっかり見えるようになっており、その様子は非常にエンタメ性が高い印象です。と同時に、たくさんの人がその店で買い物をしているという安心感を客に与えている効果があると感じました。
■現金が使えるレジは、ほとんどない
中国では偽札が多く現金の信頼性が低いため、世界で最もキャッシュレス化(スマホによるQR決済)が進んでいます。都市部に限れば、電子マネーであるAlipay(アリペイ)やWeChatPay(ウィーチャットペイ)が使えない店は、ほぼありません。近年急速に「消費者総IT化」が達成された国だからこそ、他のどの国よりも「ニューリテール」との相性がよいとも言えます。
フーマーでは、購入した商品のバーコードを自分で読み取って会計するセルフレジが大半を占めており、買い物客は専用アプリでAlipayのキャッシュレス決済を行っています。上海・星空広場店の場合、現金が使える対面レジはたった1箇所だけ。高齢者や外国人など、キャッシュレス決済に必要なアプリをダウンロードしていない人だけがこの列に並んでいました。一方で、セルフレジは店内のいろいろな場所に分散していて、混雑の緩和にもなっています。また、配送してもらう客が多いので、セルフレジ自体がそれほど混んでいません。
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■半径3kmの客を、すべて自分のものにする戦略
まとめると、フーマーでの買い物の仕方は、大きく4つに分かれます。
(1)来店し、商品をカゴに入れ、専用アプリを立ち上げて「セルフレジ」で決済(Alipayのみ対応)
(2)来店し、商品をカゴに入れ、「現金対応レジ」で決済(高齢者や外国人などが利用)
(3)来店し、専用アプリを立ち上げ、カメラで欲しい商品のバーコードを読み、Alipayで決済して、自宅に配送してもらう。時間指定可能。
(4)来店せず、専用アプリ経由で注文してAlipay決済し、自宅に配送してもらう。時間指定可能。
このうち(1)(3)(4)は、前もって専用アプリをインストールし会員登録しておく必要があります。会員は1日1回まで、実店舗で購入した商品の配送が無料になるほか、ほとんどすべての売り場で何らかの会員割引を受けることが可能。フーマー利用客の大半は会員になっていますが、逆に言えば、フーマーで買い物をするなら会員にならないと損、という気持ちにさせられます。
なお、フーマーの発表(2018年9月)によると、会員数(専用アプリとAlipayを紐づけている人)は1000万人。1店舗当たりの平均会員数は15万人で、彼らは月平均6回店を訪れ、月平均575元(約9200円)を消費するそうです。
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フーマーはあらゆるインセンティブを駆使して、ユーザーに専用アプリのインストールを積極的に促しています。この背景に、フーマーの「実店舗だけでなくオンラインでも購入してほしい」という狙いがあるのは明らか。つまりアリババは、オンライン配送地域である店から半径3km圏内に住む人のオンライン・オフラインのニーズをすべてまかなうことができるのです。通常のスーパーの商圏は半径300メートルと言われていますから、フーマーがいかに広範の商圏をカバーしているかがわかります。
上海には他にも、ニューリテールを実践する店舗がいくつもありました。例えば、フーマーのコンビニ店舗+フードコート形態である「フーマーF2」では、料理の重量で価格が決まる完全セルフレジのパイキングや、Alipayの顔認証システムによってスマホすら取り出さないで決済できるセルフレジ端末もありました。
■猛烈な成長!待ち時間なしのコーヒーチェーン
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昨今、中国国内で急成長しているコーヒーチェーン「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」は、アプリで注文し、店舗で受け取るか配送してもらうかを選択するスタイル。注文した瞬間に出来上がり時間が表示されるので、待ち時間なしでピックアップが可能です。配送の場合2kmまでで6元(96円)かかりますが、35元(560円)以上の注文だと配送料が無料。飲み物の値段がスターバックスより割安ということも相まって、人気を博しています。
luckin coffeeのレジ前。ピックアップ待ちの商品が並ぶ。
luckin coffeeは2017年10月に1号店がオープンしましたが、それから1年ちょっとしか経っていない2018年末時点で2073店舗、アプリユーザー数は1245万人にもなりました。同社は2019年中には4500店舗まで増やすと宣言しています。
上海には他にも、WeChatPayのミニプログラム(WeChatアプリの中に組み込まれているアプリ。WeChatPay決済と連動する)を使って、「商品のパーコードスキャン→セルフ決済」ができるコンビニや、米Amazon Goのように、商品を手に持った客が退店ゲートを通るだけで決済が行われるウォークスルー決済を実現しているコンビニもありました。
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■バーまで「完全無人」のAIホテル
フーマーでニューリテールを推進するアリババが、その持てる技術を結集してプロデュースしたのが、2018年12月に開業したAIホテル「Fly Zoo Hotel」です。アリババ本社のお膝元である杭州、フーマー亲橙里店に隣接するこのホテルは、チェックインは無人、顔認証によるエレベーター乗降と部屋の解錠、AIスピーカーによる室内家電の調整、AIロボットによるルームサービスなどが行われています。まさに、未来型と呼ぶにふさわしいホテルです。
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同ホテルに併設のバーの注文も、完全に「未来」でした。スマホのAlipayアプリを立ち上げてテーブルに置いてあるQRコードをスマホのカメラで読み、注文画面から好きな飲物をオーダーすると、店内のバーテンロボットに直接注文が行き、勝手に飲み物を作り始めるのです。決済はもちろんAlipayで即時。飲み物を持ってくるのは人間ですが、注文までの間に人間はまったく介在しません。
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■頭の中が「買い物はフーマーでいいや」
ニューリテールというスタイルは、売り上げアップや人件費削減、さまざまな効率化という店側のメリットだけでなく、消費者にとっても購入方法の選択肢を広げられるという大きなメリットがあります。また、実店舗で消費した経験があればあるほど、より安心してオンラインを利用できるでしょう。
私はフーマーを視察して、「購買マインドシェア」という言葉が頭に浮かびました。購買マインドシェアとは、消費者の心の中に占める特定のブランドの占有率のこと。上海では、オフラインでもオンラインでもすぺてフーマーで買い物ができるため、購買マインドシェアのほとんどがフーマーで占められてしまうというわけです。そう考えると「未来型店舗」とは、売上効率や快適な買い物体験の提供のみならず、消費者の心理をもコントロールするような存在になりうるのかもしれません。
(マーケティングアナリスト 原田 曜平 構成・写真=稲田豊史)
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