100人から"優秀な1人"を確実に選ぶ方法
プレジデントオンライン / 2019年7月4日 9時15分
※本稿は、ロルフ・ドベリ著、安藤実津訳『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■100人と順番に面接し、採用する場合は即決が条件
あなたはいま、秘書(いま風の言い方をするなら「アシスタント」と呼ぶべきなのだろうが)をひとり雇い入れたいと思っている。求人を出すと100人の女性から応募があった。あなたは無作為に順番を決めて、ひとりひとり面接をする。
面接が終わるごとに、あなたはその応募者を採用するかどうかを決めなくてはならない。翌日まで考えたり、全員の面接が終わるまで決断を先延ばしにしたりしてはならない。そして面接直後の決断を撤回することもできない。
そうだとしたら、あなたはどんなふうに「採用・不採用」を決めるだろうか?
印象のよかった最初の応募者を採用したらどうだろう? だがそうすると、一番優秀な応募者を雇いそこねる恐れがある。彼女と同じくらい優秀な、あるいはもっと優秀な女性は、応募者の中にまだたくさんいるかもしれない。
では、ひとまず95人の面接をして応募者全体の傾向をつかんだ後、最後に残った5人の中から、それまでに面接した中でもっとも有能そうに見えた応募者と一番印象の似ている人を選んだらどうだろうか?
けれどもひょっとしたらその5人の中には、いいと思える人がひとりも残っていないかもしれない。
■「秘書問題」の答えはたったひとつ
数学者のあいだで「秘書問題」として知られる命題である。驚くべきことに、この秘書問題の適切な解法は、たったひとつしかない。
まず、「最初の37人」は、面接はしても全員不採用にして、ひとまずその37人の中でもっとも優秀な女性のレベルを把握する。そしてその後も面接を続け、それまでの37人のうちもっとも優秀だった人のレベルを上回った最初の応募者を採用するのだ。
この方法をとれば、優秀な秘書を採用できる確率は非常に高くなる。
ひょっとしたら採用を決めた女性は、100人いる応募者の中で最高の秘書ではないかもしれないが、それでも、あなたは確実に優秀な秘書を雇うことができる。ほかのどんな方法をとっても、統計的にこの方法を上回る結果は出ない。
「37」という数字の根拠は何だろうか? この37とは、応募者数である100を、数学定数e(=2.718)で割って求めた数である。
応募者が50人だった場合は、最初の18人(50÷e)を不採用にし、その18人のうちもっとも優秀だった人を上回った最初の応募者を採用すればいいということになる。
■「明らかに間違うよりは、おおむね正しいほうがいい」
この「秘書問題」は、もともとは「結婚問題」と呼ばれていた。
何人目の交際相手で結婚を決めるべきかが問われていたが、一生のうちに配偶者を何人持つかはあらかじめわからないため、この問題の題材としては理想的とは言えない。そのため数学者たちは、呼び名を変更したというわけである。
だが、私は、よい人生には数学のような正確さが大事だと言いたくて、秘書問題を取り上げたわけではない。伝説的な投資家のウォーレン・バフェットも「明らかに間違うよりは、おおむね正しいほうがいい」と言っている。
私たちも人生において大事な決断を下すときには、バフェットが投資の決断をするときのこの姿勢をまねたほうがいい。
■大事な決断こそ「急がば回れ」
それでは、私たちの人生と数学の秘書問題には、どんな関係があるのだろう? 秘書問題は、私たちに「目安」を与えてくれる。
重要なことを決めるときに、「どのぐらいいろいろなことを試してみてから、最終決定を下すべきか」その指針を示してくれるのだ。
「秘書問題」を試して、自分が出した答えを適切な解法と比べてみると、たいていの人は、採用する応募者を決める自分のタイミングが「早すぎる」のに気づくはずだ。それでは最適な選択ができる確率は低くなる。
数多のスポーツや作家の中からお気に入りを見つけ出したり、人生のパートナーや住む場所や楽器や夏休みを過ごす場所を選び出したり、自分に最適なキャリアや職業や専門分野を決めたりするときには、まず短期間にたくさんの選択肢を試してみたほうがいい。
興味があるものだけに限らず、できるだけたくさんのものを試してから、最終的な判断を下すのだ。どんな選択肢があるか、全体像をつかむ前にひとつを選びとってしまうのでは、早計すぎる。
■私たちが決断を急いでしまうわけ
ところで、私たちはなぜ、「早い段階」で決断を下してしまいがちなのだろう? この忍耐力のなさはどこからくるのだろう?
それは、いろいろなサンプルを試すには「労力」がいるからだ。
5人目で採用を決めてしまえば面接を終えられるのに、どうして100人も面接しなくてはならないのだろう? ひとつの仕事を選ぶのに、どうして10社で採用面接を受けなければならないのだろう?
いろいろなことを試そうと思えば、手間がかかる。その手間を省きたいのだ。
おまけに、新しいことに挑戦するのは面倒だ。若いときに少しでもかかわったことのある分野に、そのままとどまっていたほうがラクでいい。もちろん、それでも無難にキャリアを積み重ねることはできるだろう。
だが、もう少し新しいことに意欲的になっていたら、ほかの分野でもキャリアを築けた可能性は大いにあっただろう。ひょっとしたらいまよりもっと成功して、もっと楽しく仕事ができていたかもしれないのだ。
早計に決断してしまいがちな理由は、もうひとつある。決断を保留にしたままいろいろなことを試すより、ひとつのテーマを終えてから次のテーマに取りかかったほうが、頭の中の整理ができて心地がいいからだ。
あまり重要でない決断をするときにはそれでもいいが、その方法では最適な選択が難しくなるので、重要な決断の際にはあまりいい結果にはつながらない。
■初めての恋人に振られたベビーシッターへの言葉
何カ月か前、我が家のベビーシッター(20歳)が、打ちひしがれた様子で家のドアをノックしたことがあった。恋人に振られたのだ。
彼女にとっては初めての恋人だった。彼女の目には涙が浮かんでいた。私たちは客観的に彼女の状況を分析し、なんとか彼女を慰めようとした。
「まだ若いし時間はたっぷりあるんだから、10人でも20人でも、いろいろな男性と付き合ってみればいい! そうすれば、世の中にはどんなタイプの男がいるかがわかるから。長年一緒に過ごすにはどんな相手がいいか、自分にはどんな人が合うかがわかるようになるのはそれからだよ」
だが、彼女は力のない表情にほんのわずかな笑みを浮かべただけで、少なくとも私たちの話を聞いているあいだは、納得しているようにはとても見えなかった。
■まずは「全体図」を把握すること
残念ながら、「十分なサンプル数を試さずに」彼女と同じようになってしまうことは、私たちにもよくある。
![](https://president.jp/mwimgs/c/b/-/img_cbd584befcb2a7a7f13e6a638fc2793b225042.jpg)
統計学的な言い方をすれば、私たちが抽出するサンプル数は少なすぎて全体を代表していないにもかかわらず、それだけの情報をもとに性急に決断を下してしまう。
現実を反映しない間違ったイメージを自分の中につくりあげ、広い世界のほんの二、三種類のサンプルを試しただけで、人生のパートナーや、理想の仕事や、最適な居住地を見つけられると信じている。
もちろん、それでうまくいくときもある。もしあなたが少ないサンプルの中からでも最適な選択ができているのなら、非常に喜ばしいことだ。
だがその結果は、運よく得られたものにすぎない。少ないサンプル数で、いつも最適なものを見つけ出せるとは思わないほうがいい。
世界は私たちが思っているよりもずっと広く、ずっと多彩で、いろいろなものを含んでいる。若いうちは、できるだけたくさんのサンプルを試すようにしよう。
大人になってからの最初の数年間で重要なのは、お金を稼ぐことでもキャリアを積むことでもない。「人生の全体図を把握すること」だ。
常にオープンな姿勢を崩さず、偶然が与えてくれたものはすべて試すようにしよう。本もたくさん読んだほうがいい。小説を読めばすばらしい人生を疑似体験できる。ものごととの向き合い方を変えるのは、年をとってからでいい。
そうして年をとったら、かかわることをぐっと絞り込もう。その頃にはあなたはもう、自分の好みをしっかりと把握できているはずだから。
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作家、実業家
1966年、スイス生まれ。スイス、ザンクトガレン大学卒業。スイス航空会社の子会社数社にて最高財務責任者、最高経営責任者を歴任後、ビジネス書籍の要約を提供する世界最大規模のオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。35歳から執筆活動をはじめ、ドイツ、スイスなどのさまざまな新聞、雑誌にてコラムを連載。著書『なぜ、間違えたのか?――誰もがハマる52の思考の落とし穴』(サンマーク出版)はドイツ『シュピーゲル』ベストセラーランキングで1位にランクインし、大きな話題となった。本書はドイツで25万部突破のベストセラーで、世界29カ国で翻訳されている。著者累計売上部数は250万部を超える。小説家、パイロットでもある。スイス、ベルン在住。
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(作家、実業家 ロルフ・ドベリ 写真=iStock.com)
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