北朝鮮を増長させる習近平の危険な功名心

プレジデントオンライン / 2019年6月25日 15時15分

中国中央テレビが6月20日放映した、平壌で握手する中国の習近平国家主席(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年6月20日

■中国の最高指導者としては14年ぶりの訪朝

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が6月20日、北朝鮮を訪問して金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談した。習氏の訪朝は就任以来、初めてだ。中国の最高指導者としては14年ぶりとなる。

なぜ、習近平氏は北朝鮮まで足を運んだのか。金正恩氏はなぜ、習氏を歓迎したのか。それぞれに思惑があるのは間違いない。自国の利益を最優先するが外交である以上、外交にはその国の権力者の思惑が付いて回る。

習氏と金氏の思惑について語る前に、訴えたい。

金正恩氏はしたたかさの域を越え、国際社会に背く「無法者」になりつつある。5月4日と9日には、制裁を続けるアメリカなど国際社会に対しミサイル発射で脅しをかけた。今回の習近平氏の訪朝は、そんな金氏の無法な行動をさらにエスカレートさせる危険性がある。

世界第2位の経済大国と言われ、軍事能力も強化してアメリカや国際社会から恐れられつつある中国の最高指導者を呼び付けたわけだから、金氏の鼻はますます高くなる。

■香港と台湾を手にして、毛沢東と鄧小平に肩を並べたい

反対に訪朝した習氏は、金氏に足もとを見られることになった。習氏は訪朝などせずにこれまで通り、金氏に訪中を求めるべきだった。

中国にとって北朝鮮はよほど魅力的なのだろう。習氏は金氏のような“完全無敵”な指導者を目指しているのかもしれない。

中国では現在の国家を樹立した毛沢東(マオ・ツォト)氏と、中国に経済発展をもたらした鄧小平(トン・シャオピン)氏とが特別な指導者としてあがめられている。しかも鄧氏は、香港(旧イギリス領)とマカオ(旧ポルトガル領)の返還を実現させた。

この2人に次ぐ権力を持つといわれるのが、習近平氏である。しかし習氏には中国国民の圧倒的な支持を受けるような実績がない。そんな習氏の野望は、毛沢東氏と鄧小平氏の2人と肩を並べることのできる実績を作り上げることだという。

その実績作りとは何か。一つは中国を経済的も軍事的にもアメリカを越える強国に成長させることだ。二つ目は民主派市民によるデモの続く香港を中国国家に完璧に組み入れることであり、さらには台湾をも統一することである。

習近平氏は、そのために北朝鮮の金正恩氏を使ってアメリカや国際社会に対抗していこうと考えているのだ。

■自らの野望を実現するために初の訪朝を果たした

習氏は6月20日から2日間の日程で、北朝鮮を訪問した。

日本の報道によると、平壌(ピョンヤン)空港には北朝鮮が歓迎式典を開いた。同空港では、習氏と彭麗媛(ポン・リーユアン)夫人を、金正恩氏と李雪主(リ・ソルジュ)夫人が出迎えた。両首脳は両手で握手を交わした。

このあと、習氏と金氏はオープンカーで首都平壌市内を移動。沿道では大勢の市民が笑顔で両国の国旗を振る様子が、中国中央テレビ(中国国営)に映し出され、同テレビ局は沿道の市民が25万人を超えたと報じた。北朝鮮はその強力な支配力を使ってこれだけの人々を集めたのだろう。

午後の首脳会談で習氏は朝鮮半島情勢について北朝鮮のこれまでの取り組みを評価し、「北朝鮮が自らの安全や発展についての懸念を解消するためにできるかぎりの支援をしたい」と応じた。

習氏としては、6月末に大阪で開催されるG20サミットを前に北朝鮮を訪問して金氏と会談することで、貿易問題をめぐって対立するアメリカのトランプ大統領に対し、北朝鮮への影響力を示しておく狙いがあった。

これが大方の見方であり、分析である。表面的にはその通りなのだが、前述したように習近平氏は自らの野望を実現するために初の訪朝を果たしたのである。

■中国と連携して、トランプ大統領にプレッシャー

一方、金氏は「朝鮮半島情勢の緊張を避けるため、積極的な措置をとってきたが関係国から前向きな回答が得られていない」と語り、アメリカに対する不満を表明した。さらに「我々は忍耐を維持する」と述べ、非核化などをめぐる問題の協議を続ける意向を示し、「関係各国には我々と歩み寄り、朝鮮半島問題における対話のプロセスを推し進め、成果を得ることを望む」と話して習氏に北朝鮮に対する理解を求めた。

北朝鮮としては、ベトナム・ハノイでの2回目の米朝首脳会談が物別れに終わった以上、後ろ盾の中国との連携をより強固なものにして米朝の協議を自国に有利なように進める狙いがある。

■「非核化への後押しでなく、妨害だ」

中国や北朝鮮を批判したとき、いつも主張が明確で分かりやすいのは、産経新聞の社説(主張)である。その産経社説(6月22日付)から見ていこう。

見出しは「習氏訪朝 中国は『非核化』」を弄ぶな」である。一瞬、「何のことか?」と思わせる見出しだが、次のくだりを読むとよく分かる。

「(中国メディアによる金正恩氏との会談の模様は)習氏が自ら仲介して停滞を打開し、非核化を後押しするかのような印象だが、果たしてそうか」
「米朝交渉の難航は北朝鮮が『完全な非核化』に向けた具体的行動を取らないことが最大の原因だ。だが習氏は、北朝鮮の非核化に向けた努力を評価し理解を示した。非核化への後押しというより、これでは妨害である」

「非核の後押しでなく、妨害」。産経社説が指摘するように、訪朝した習近平氏の言動は「妨害」そのものである。

重ねて産経社説は「北朝鮮に最も強い影響力を持つ中国首脳として、習氏の役割は非核化への行動を要求することである。ミサイルの発射に警告を与えた様子もない」と指摘する。

習氏は自らが金正恩氏に対し、大きな影響力を持っていることをどう考えているのだろうか。

■中国は「責任ある大国」にはなれない

産経社説はさらに書く。

「中国は今、制裁対象ではない肥料などを北朝鮮に届けている。安保理では石油精製品取得の瀬取りを介した上限超過を指摘した米国の報告書に保留措置を取るなど、さまざまな手段で北朝鮮を救っている。これらの行動は北朝鮮の生命線をかろうじて保ち、金正恩体制が不安定なまま存続するのを助けているにすぎない」
「結果として北朝鮮の非核化を遠のかせているのは中国である」

国連制裁を無視するように、中国は北朝鮮を支援して止まない。「結果として……」と言うよりも、習氏は分かっていて支援しているのだ。非核化よりも自らが毛沢東や鄧小平と肩を並べたいのである。

最後に産経社説は主張する。

「20カ国・地域首脳会議(G20サミット)とその際の米中首脳会談で、米側は香港の逃亡犯条例改正問題も提起する構えだ」
「習氏の訪朝は議論の焦点を北朝鮮問題にすり替えたい思惑もあったと指摘される。北朝鮮の非核化は、東アジアの平和と安全にかかわる極めて重要な問題だ。外交カードとすること自体、責任ある大国の振る舞いとはいえない」

その通りなのだが、中国は「責任のある大国」などにはなれない。

■トランプ氏の行為が中朝の関係悪化を修復させた

次に読売新聞の社説(6月22日付)を取り上げる。

読売社説は次のように書き出す。

「冷え込んでいた中朝関係の正常化を確認し、北朝鮮の核問題で中国が主導的な役割を果たす決意を米国に見せつける。それだけでは、非核化の進展にはつながるまい」

こう書き出した後、読売社説は中国と北朝鮮との関係悪化を指摘し、その関係悪化を修復へと転換させたのがアメリカのトランプ大統領だ、と指摘する。北朝鮮に経済制裁という圧力をかけ、中国には米中貿易摩擦で関税の引き上げによる攻撃を仕掛けたからである。

■G20では安倍首相の力量も問われることに

読売社説は「米国の強硬な政策を牽制するうえで、中朝は結束を迫られた」と指摘し、「昨年以降、金委員長は中国を4度も訪問した。国交樹立70年の節目に実現した習氏の訪朝は、中朝が近年の不正常な状態に終止符を打ったことを意味する」と解説する。

習近平氏の今回の訪朝が、これまでの中朝の関係悪化に終止符を打つことを意味する。分かりやすい説明である。

続いて読売社説は「習氏は朝鮮労働党機関紙・労働新聞に寄稿し、『国際情勢がどう変わろうと、中朝友好協力関係を強化、発展させる確固たる立場は変わらない』と強調した」と書き、「問題は、それが北朝鮮の非核化にどんな影響を及ぼすかだ」と指摘する。

「金委員長は習氏に、米国への不満を暗に訴えた。北朝鮮が努力しても『関係国の積極的な反応を得られなかった』と主張した。北朝鮮の段階的な非核化の措置に対し、米国が見返りを与えるよう仲介を求めたのではないか」

多分、そうだろう。だからこそ、G20大阪サミットでの米中首脳会談が大きく注目される。もちろん、開催国である日本の首相の力量も問われることになる。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP/時事通信フォト)

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