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無理してプログラミングを学ぶ必要はない

プレジデントオンライン / 2019年7月3日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/DragonImages)

将来のために、いま何を学べばいいのだろうか。80歳からプログラミングを学び、今や「現役最高齢プログラマー」の若宮正子さんは、「やりたくないのに、無理してプログラミングを学ぶ必要はない」という。その理由とは――。

※本稿は、若宮正子『独学のススメ』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。お札を数え間違える私が、銀行の管理職になったワケ

■お札を数え間違える私が、銀行の管理職になったワケ

私が三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に就職したのは1954年、18歳のときです。まだ、当時の日本では、製造業では機械化が進み始めていたものの「デスクワーク」は江戸時代とあまり変わっていませんでした。「計算はそろばんで、字を書くときは、ペンにインクをつけて、お札を数えるのは指で」やっていました。もともと不器用な私は、あまり「役に立つ存在」ではありませんでした。こういう手仕事を、すばやく正確に黙々とやる、そう、今のロボットさんに最も近いひとが「優秀社員」だったのです。

そのうちアメリカから電気計算機がやってきました。そうしたら、そろばんはいらなくなったのです。さらに、機械化が進むと、お札を数える紙幣計算機も導入されました。私は、お札を数えたり計算したりするのが苦手だったので、この変化を嬉しく思いました。

そして、時代の変化に合わせて銀行の業務は多角化していきました。その流れを受け、私は業務企画部門に所属することになりました。

お札を数えるのは遅くても、企画業務は性に合っていました。「役に立てない」と落ち込んでいた新人時代とは打って変わって、40代くらいから仕事にのめり込んでいきました。

私が入行して30年ほどたった1986年、男女雇用機会均等法が施行されました。少しずつですが、女性も管理職に昇進するケースが現れ、私もありがたいことに管理職になることができました。

これは、ひとえに世の中が変化したからです。女性の雇用環境の変化もそうですし、お札を手で数える業務のままだったら、私は全然評価されずに終わったでしょう。どんな能力が評価されるかは、社会や技術の変化で変わっていくのです。

■働き方も変わってきている

少しずつですが、働き方についての意識も変わってきていますよね。今から30年ほど前には、「24時間戦えますか?」というビジネスマンが主役の栄養ドリンクのCMが流れていました。でも、今そんなCMを流したら「ブラック企業だ」と非難されるでしょう。

昔は遅くまで働くひとは頑張っているとみなされ、残業代で給料も増えました。でも今は長時間労働はよくないとされています。一昔前までは上司より先に帰宅するのはよくないと思って仕事が終わった後も帰らなかったひとがいましたが、今は決められた時間内に効率よく業務を終わらせる、そういうひとのほうが、評価されるようになったのです。

■弁護士・税理士も「一生安泰」ではなくなってきた

AI技術の発展は銀行だけでなく、弁護士など「なるのは大変だけれど、就けば一生安泰」だと思われていた職業にも影響を及ぼしています。もう、判例を調べるといった作業はコンピューターがやってくれます。

さらに技術が進むと、過去のデータから、「被告の適切な刑は懲役何年、執行猶予が何年です」なんて、AIが算出してくれるようになるかもしれません。判決には、やはり人情の機微も入ってきますから、全部AIにまかせてしまうようにはならないかもしれないですけど、弁護士さんや検事さんの仕事はだいぶ省力化され、人手がいらなくなると考えられます。

その他の専門性の高い仕事、たとえば税理士さんや公認会計士さんのお仕事も、マイナンバー制度が普及すればもっと自動化されていくでしょう。

こうなると、美容師さんなど自分の腕一本で勝負するお仕事のほうが最後まで残るかもしれませんね。お客さんのリクエストに応えて髪を切るロボットは、実現がだいぶ難しそうですから。

■先生の役割も変化している

昔から、安定した職業の代表であった学校の先生という仕事も、大きく変わりつつあります。先生が黒板の前に立って一方的に講義をする、という授業は時代遅れになり、今は「アクティブラーニング」を取り入れた授業が推進されています。

アクティブラーニングとは、学び手が主体的に、仲間と協力しながら課題解決をするような学習方法です。あるテーマについて調べたり、グループで議論をしたり、教室の外に出てなにかを体験したりする。先進的な学校では、「黙って座ってノートをとる」という従来の学び舎の姿からはかけ離れた様子が見られます。

「台形の面積の求め方」なども、先生が授業で教えてくれるのではなく、自宅でまずは学習動画を見るなどして、予習してくる。授業ではそれを使って、自分で問題を作るのです。これは「反転授業」といわれ、2000年頃にアメリカで始まった試みです。日本でも、少しずつこの方法を導入する学校が出てきています。

先生の役割は、知識を教えることではなく、子どものやる気を引き出し、もともと持っている能力を伸ばすことに移行してきているのです。

それができない先生は、生徒から「先生の授業より、ユーチューブで見られる授業動画のほうがわかりやすいよ」なんていわれて、仕事がなくなってしまうかも? 大変な時代です。

■プログラミングもAIの仕事になる

私は「おばあちゃんプログラマー」として、プログラミング教育の旗振り役を求められることもあるのですが、じつは「プログラミングも人間がやらなくなるのでは」と思うことがあります。

もちろん、プログラミングという概念そのものを学ぶのは、とても意味があることだと思っていますよ。今の世の中は、ほとんどすべてのものがプログラムによって動いていますから。プログラミングを覚えて、なにか一つでもアプリなどを作ってみる。それは、「自分が普段使っているサービスは、こういうふうに成り立っているのか」と理解するための、すごくいい勉強になるでしょう。

でも、今やプログラミングもどんどん自動化されています。将来的には、人間がほとんどコードを手で書かなくてもよくなるかもしれない、と思うのです。そうすると、「やりたくないけれど、将来必要になるだろうから」とプログラミング言語を頭に詰め込むのは、あまり意味があるとは思えません。これも「なにか作りたくなったとき」に、それを作るのに最も適している開発言語を勉強したほうが効率的なような気がします。

■子どもには「人間力」をつけさせるべき

こうした変化の話を聞くと、子育て真っ最中の親御さんは「銀行などの大手企業もダメ、会計士や弁護士などの専門職もダメ、プログラミングもダメだなんて、子どもにどんな道を歩かせればいいの?」と途方に暮れてしまうかもしれません。

私は、特に道を用意してあげなくてもいいと思います。将来のための準備をするのではなく、今この時を楽しむ。それでいいのではないでしょうか。

10歳の子には、10歳でしかできないことがあります。今しか遊べないお友達もいる。今できることを目一杯体験する。その子が今やりたいことが、コンピューターで遊ぶことなら、プログラミングをやってみるのもいいでしょう。ITにまったく興味を持たず、外を駆け回っているのであれば、それもまたよし。体を動かしたい子、本を読みたい子、ゲームで遊びたい子など、それぞれの子にやりたいことがあるはずです。それを尊重してあげてください。

若宮正子『独学のススメ』(中公新書ラクレ)

これからは、「体験」が重要な学びになります。「知識」を蓄えることはコンピューターのほうが得意ですから、お任せすればいいのです。

どんな仕事も、AIの手を借りて一緒にやるようになる時代。そうしたら、AIにはない「人間力」が必要になります。

おいしいものを味わうこと、人情にありがたみを感じること、きれいな景色に感動すること。どれも、AIにはできないことです。こうした体験から、新しい商品・サービスが生まれるかもしれない。前例がないことを生み出し、熱意をもって世に広めていくのは人間の仕事です。

自分の感性やバランス感覚を磨いていくためにも、たくさんの「初体験」をお子さんにさせてあげてください。もちろん、あなた自身にも。

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若宮 正子(わかみや・まさこ)
世界最高齢プログラマー
1935年、東京生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)へ勤務。定年をきっかけにパソコンを独学で習得。シニア世代のサイト「メロウ倶楽部」の創設に参画し、副会長を務める。2016年からiPhoneアプリの開発を始め、2017年には米国アップルによる世界開発者会議に招待される。ティム・クックCEOからは世界最高齢のアプリ開発者として紹介された。政府の「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーにも選出。

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(世界最高齢プログラマー 若宮 正子 写真=iStock.com)

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