橋下徹「宮迫さんはそんなに悪いのか」
プレジデントオンライン / 2019年7月3日 11時15分
(略)
■この程度の嘘で、この「処分」は罪と罰のバランスが悪すぎる
雨上がり決死隊の宮迫博之さん、ロンドンブーツ1号2号の田村亮さんら吉本興業所属のタレントが、反社会的勢力の振り込め詐欺グループから事務所を通さずに仕事を請け負い、ギャラを受け取っていたという問題がこのほど発覚した。仕事を仲介したとされるカラテカの入江慎也さんは吉本との契約を解除され、宮迫さんや亮さんは謹慎処分を受け、テレビ番組への出演を禁じられる事態になった。
吉本興業には、大阪府政・市政で協力してもらっていたし、宮迫さんとも何度も仕事をしたことがある。そういう状況にある僕が、できる限り中立・公平に、法律家の視点で、今回の問題点を論じてみたい。
まず宮迫さんや、ロンブーの亮さんが、お金を受け取っていたのに、受け取っていなかったと嘘を言っていたことは批判されても仕方がない。
しかし、この程度の嘘で、仕事が全て奪われるようなことになるのはおかしいと思う。あまりにも罪と罰のバランスが悪過ぎる。
もちろん、テレビ番組のスポンサー企業は、イメージを一番重要視する。だから自分たちの企業イメージにふさわしくないタレントの出演を拒む権利がある。これは単なる出演者の交代だ。だから宮迫さんや亮さんが番組を降板させられるなら仕方がない。しかし、スポンサー企業の意向を気にしなくてもいい仕事をすることには何ら問題ないし、テレビ番組の仕事を失った宮迫さんや亮さんに対して、吉本興業は積極的にサポートすべきだと思う。
まず宮迫さんたちが、参加した問題の忘年会の主催者たちが反社会的勢力であることを知りながら、会に参加したのであれば、言い訳の余地はない。これは完全にアウトで、仕事を全て失っても仕方がない。反社会的勢力と知りながらお金を受け取り、受け取っていないと嘘を付いたのであれば言語道断である。
(略)
しかし、反社会的勢力と知らない中で、お金を受け取ってしまうことは、軽率だったという批判はあるにせよ、仕事を全て奪われる話ではないと思う。ある意味、返還すれば済む話である。政治家も犯罪者から政治献金を受け取ったことが問題となる場合がある。そのときも、犯罪者だと知らなかった場合には、批判はされるが、返金して済んでしまう。
(略)
そして宮迫さんたちの「嘘」だが、これは反社会的勢力だと知っていたのに知らなかったという嘘ではなく、一連の調査過程において嘘を付いてしまったというものである。もちろん、忘年会参加メンバーにおいて、お金を受け取っていないと口裏を合わせたことは悪質だった。
ただし今、世間においては、嘘を付いた! ということが厳しく非難されているが、では宮迫さんたちの嘘とはいったいなんだったのか?
もし犯罪、違法行為を隠すために嘘を付いていたというのであれば、仕事は完全に奪われる。しかし、反社会的勢力だと知らない相手からお金を受け取ること自体が、犯罪、違法行為なのか。
■芸能事務所の言い分はこれからの時代に通用するか?
そして、ここで「闇営業」という言葉が独り歩きしたことから、話がおかしくなってきた。
結論からいって、宮迫さんたちが、吉本興業を通さずに、どこかのイベントに出演してそのままお金を受け取っても犯罪行為でもないし違法行為でもない。「闇」という言葉の使い方が不適切なのである。
吉本興業とタレントたちの間には明確な契約書が存在しないという。ゆえに、吉本興業を通さずに、タレントが仕事をした場合の扱いは、契約上どうなっていたのか不明だと思う。このような契約状況で、吉本興業のタレントが、事務所を通さずに直接に仕事をした場合は、吉本興業はそこまで強く非難できないはずである。事務所を通さない仕事を禁じるのであれば、合理的な禁止契約が必要になる。
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もちろん、事務所がタレントを育てるのに、それなりのお金を使う場合があり、タレントを拘束することによって投下資本を回収する必要があるという事務所の言い分も分かるが、そうであれば、投下資本と拘束期間・拘束状態のバランスが取れていなければならない。タレントの育成に使ったお金以上に、タレントを拘束することは不合理である。ただし、事務所が投下した資本を回収するまではタレントを拘束するというこのような考え方自体が、かつての人身売買的な考えであり、これからの時代はどんどん通用しなくなっていくだろう。
ゆえに、現在、独占禁止法を芸能事務所とタレントの間に適用する議論が起きている。タレントの権利をしっかり守るべきだという時代の流れになってきたのである。
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今回、処分を受けたタレントが、吉本興業から日々どれだけの仕事をもらっていたのかがポイントになる。仕事をもらっていないタレントが自ら仕事を探して、お金を稼ぐことまで否定されるのは不合理である。
ただし、宮迫さんや亮さんは、吉本興業から十分な仕事をもらっていた。ゆえに、彼らが吉本興業を通さない仕事を禁じられていても、ある意味仕方のないところであるが、ただしそれがきちんと契約になっていたか、その禁止条項が合理的かどうかがポイントになる。
(略)
■しかし芸能事務所の役割は大きい
吉本興業のタレントは、番組でも自分の事務所の悪口をネタにして笑いを取る。それが、一種の定番ネタになっている。
各タレントは、吉本興業に言いたいことは色々あるのであろう。他方、各タレントは吉本興業のおかげで仕事ができて収入を得ていることも分かっている。特に、テレビなどで活躍し高収入を得ているタレントほど、そのことをよく分かっている。
吉本興業も、自分たちの力があるから、タレントは収入を得ているという自負もあるだろう。
いずれにせよ、事務所とタレントの間に、「取り分」を巡ってぶつかり合いが生じるのは当たり前のことだ。
そんなことよりも、今回の件では、タレント側が気付いていない事務所の大きな役割が明らかになったと思う。コンプライアンスなどが特に強調される現代社会において、関わってはいけない仕事というものが物凄く増えてきた。ちょっとしたグレーの部分も社会は許さず、それに関わったタレントは仕事を失う。そしてそのような仕事は、問題のないクリアな仕事との区別が付きにくくなっている。
一見普通の仕事が、詐欺まがいの仕事だったり、反社会的勢力の仕事だったり。そもそも反社会的勢力かどうかの区別も付きにくい。昔の「ヤクザ」というスタイルをとってもらった方が区別が付きやすかったが、現在は暴力団対策基本法や、暴力団排除条例のおかげで、そのようなスタイルが姿を消しつつあり、その分、区別が付きにくくなってしまった。
こういう状況の中でタレントを守るのが「事務所」である。
タレントが事務所を通して仕事を受けたのであれば、それが関わってはいけなかった仕事であったとしても、批判を浴びるのは事務所である。タレントは事務所に責任を転嫁できる。
各タレントは、事務所の取り分に不平を持つことがあるかもしれないが、いざというときの「保険料」だということも認識しなければならない。
■嘘よりも問題なのは脱税の疑い
宮迫さんたちが、反社会的勢力だと知らなかったのであれば、そこからお金を受け取ったことについて嘘を付いたとしても、仕事を全部奪われるような話ではない。
しかし、問題は税務申告の件だ。
事務所を通しての仕事の場合、各タレントには銀行振り込みで報酬が支払われるので、収入を誤魔化しようがない。
しかし今回は、各タレント間でギャラが配分されたという報道がある。この収入はきちんと税務申告されていたのか。申告がなければ完全な脱税である。
脱税となれば、これまで騒がれていた話の中身が完全に変わってくる。
吉本興業が各タレントに最低限の仕事を保障しているのか、事務所を通じない仕事を合理的な形で禁止しているのか、今回の嘘はそこまで社会的制裁を受けなければならないものなのか、などの問題はあるにせよ、脱税となれば言い訳無用となってしまう。
吉本興業には、今回の件で明らかとなった諸種の問題点には、タレントを守る視点できっちりと対応してもらいたい。
そして、税務申告の件についてもきっちりと調査し明らかにしてもらいたい。
税務申告においては、犯罪性のある脱税から、計算上の申告漏れというものもある。僕も、政治家になる前に、申告漏れによって修正申告したことが報じられたことがある。
ゆえに、宮迫さんたちに、犯罪性のある脱税の疑いがなければ、テレビ番組以外の仕事においてしっかりとサポートしてあげて欲しい。そうであることを願う。
(略)
(ここまでリード文を除き約3500字、メールマガジン全文は約2万2100字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.158(7月2日配信)を一部抜粋し、大幅に加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【大成功・G20大阪サミット】トランプ大統領の交渉術、組織マネジメントには脱帽だ/芸能人「闇営業」の問題点》特集です。
(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 写真=iStock.com)
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