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やりたくない事をやり続けると病気になる

プレジデントオンライン / 2019年7月5日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/baona)

やりたくないのにやるしかない。そんなストレスが続くと、人間は体調を崩す。精神科医で禅僧の川野泰周氏は「ストレスを否定してはいけない。『自分の生きがいや心身の健康を犠牲にしてまでやらなければいけないものって、あるのだろうか?』と自分の心に聞くことが大事だ」と指摘する――。

※本稿は、川野泰周『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)の一部を再編集したものです。

■理性と感情がぶつかる「ストレス」の仕組み

ストレスとは、そもそも何かご存じでしょうか? 「ストレス」は、もともと物理学の言葉です。

まっすぐな物を曲げようとする際などに生じる物理的な力のことを、「ストレス」と言います。それを人間に当てはめ、心に負荷がかかった状態を「ストレス」と呼んでいます。つまり、ストレスとは、「理性」と「感情」がぶつかって、負荷がかかったときに生まれる精神的、心理的軋轢(あつれき)です。

言い返したいのに言い返せない……。
やりたくないのにやるしかない……。

このように理性と感情が一致しないと、「葛藤」が生まれます。このような状況が続くと、体調不良にもつながっていきます。

私の勤める心療内科クリニックには、心の悩みだけでなく、慢性的な体の症状を訴える方が日夜来院されています。体調不良が続いたことがきっかけで、上司や同僚にすすめられて、しぶしぶ心療内科に来てみたら、実は心の問題があった。こういう方がとても多いのです。

風邪をひきやすかったり、寝つきが悪くなる、などの徴候があれば、病気になる一歩手前の「未病」の状態です。ストレス管理の第一歩は、未病の状態を見逃さず、「自分の小さな異変」に気づくこと。こうしたちょっとした症状をスルーしていると、うつ病やパニック障害などのメンタル疾患になってしまうこともあります。会社に行くだけで、一時的にうつ状態になってしまう、「新型うつ病」の方も最近とても増えています。

毎日仕事をしていると、何かしら葛藤が生まれます。ストレスをなくすことはできない。だから腹を決めて上手に付き合っていく。ストレスを否定せず、ストレスに対応しようとする人ほど、結果的にストレスに強くなっていきます。

■ストレス管理が上手な人はどうしている?

では、どうやったらストレスをコントロールすることができるのでしょうか。それは、「できるかぎりストレスを生じさせないこと」、そして「ストレスを持続させないこと」がキモになります。

心身の疲れを自覚できる人は、早め早めに対応し、ストレスを発生させないようにしたり、発生しても長続きさせないようにしたりしています。一方で、心の疲れに気づけない、気づいていてもうまく対処できない人は、体調を崩すところまで働いてしまいます。

私は精神科医でもあり、禅僧でもあるのですが、ストレスを根本的に解決するには、生活の中に禅的な考え方、すなわち「マインドフルネス」を取り入れることが必要だと考えています。

マインドフルネスは、欧米を中心に注目を浴びている心理療法のひとつで、「今この瞬間に、価値判断することなく、注意を向ける」というもの。マインドフルネスは集中力や生産性の向上、ストレスの軽減、コミュニケーション能力の向上といった効能から、多くの企業に取り入れられています。

■理論から捉える理入、実践から理解する行入

マインドフルネスを実践するには、「理入」と「行入」の2種類の心理的アプローチの両方をバランスよく取り入れることが大変重要になります。

ひとつ目は理論、知識から理解する「理入」です。自分の考え方のクセに気づき、雑念を手放し、目の前にある事実をありのままに見つめます。たとえば、「いつも自分はこういうときにカーッとなるな」と、自分自身を振り返ること、これも理入です。

2つ目は実践、行動から理解する「行入」です。座って瞑想する、呼吸を整える、歩く感覚に集中するなどのアクションを行い、今この瞬間に集中することです。

たとえば、息をゆっくり吸って、吐いて、という基本的な動作に意識を向けたり、お茶を入れる、お菓子を食べる、その動作ひとつひとつに関心を向けたりする。これも立派なマインドフルネスです。マインドフルネスを生活に取り入れると、よけいなストレスを取り払い、脳をクリアにすることができるようになるのです。

目の前のことに集中する習慣を取り入れると、「あの人にどう思われているか」「いくらやっても終わらない」などの雑念が起こりにくくなります。すると、切り替え力と集中力が高まり、必然的に生産性があがり、自信がつくようになります。

■“怒られた”事実と、“嫌われた”想像は区別する

怒られた、叱られた、指摘された、というとき、頭にかーっと血が上って、ノーマルな状態でものが考えられなくなる、ということはありませんか?

「バカだという烙印を押された」「また失敗してしまった」「できない奴だと思われて、見限られるかも……」「嫌われているのかもしれない……」

萎縮して、怒られたという事実だけをずっと引きずってしまう。そういうときは、「事実と想像を切り分ける」ことが平常心を取り戻すポイントです。「平常心」と書いて、禅では「ビョウジョウシン」と呼びますが、平常心はつまり、どういう状況においても本来の自分でいられるということです。平常心でいられれば、パフォーマンスにブレがありません。

たとえば、上司から「なんで報告しないで、この件を勝手に進めたんだ!」と言われたとします。ここで事実は、「必要な報告をせずに、勝手に仕事を進めた」ということ。

「上司は自分を否定している、自分のことを見損なったのでは」と思うのは想像です。これを禅の言葉では「妄想(モウゾウ)」と言って、平常心を妨げる心の在りようを意味します。

■失敗を冷静に分析し、妄想の連鎖を止める

シンプルに考えてみましょう。ここで起こった事象は「自分が報告をしないで仕事を進めた」という、ただそれだけのことです。そこに感情を乗せてはいけません。失敗は失敗として、その事実をいったんそのまま受けとめる。そうした上ではじめて、今後同じ失敗をしないための方策を考える。

失敗した事実を受けとめ、次回失敗しないように冷静に分析して対処法を考えるのです。そこを切り分けて書き出してみるといいでしょう。

ストレスは、想像や妄想、思い込みによって大きくなっていきます。失敗は失敗として、その事実を受けとめる。そのあとで、失敗を防ぐ方法を考える。失敗した事実を受けとめ、次回失敗しないように冷静に分析して対処法を考える習慣を心がけてみましょう。

誰かの発言や態度にショックを受けたら、まず一番最初に、事実と想像に分けて分析してみましょう。紙に書き出すことも効果的です。スマホのメモ機能を活用してもよいでしょう。そのように考えていくと、たいていのことは「妄想」にすぎないとわかってきます。冷静さを失ってしまったときは、一度考えをクリアにすることによって、思考の連鎖を止めることがとても重要です。

■「これは自分の手に負えない」と知ることも大切

さて、ここまで「自分でストレスを管理しよう」というテーマでお話を進めてきましたが、場合によっては自分で管理できないストレスがあるのが現実です。

いくら言ってもまったく仕事をせず、反省するそぶりもない同僚。保身のために、平気で嘘をつく上司……。会社や学校、サークルなど、何かのグループに所属していると、「え?」と思うような人に出会うことがあります。

多くの場合、しっかりとコミュニケーションをとることで、人間関係が改善していきますが、その人や、あるいは会社自体の根本的な体質に問題があると、一向に改善しません。むしろちゃんと接しようとするほどに、逆効果になることがあります。

こういう場合に、果たしてその問題を、自分の努力で乗り越えようとし続けなければならないのでしょうか。むしろ、「これは自分の手に負えない」と認識することが必要不可欠となります。

・長時間残業なのに、給料が支払われない
・パワハラが横行している
・上司が不正を強要してくる
・子供じみたいじめを受けている

こうしたいわゆる「ブラック企業」に漫然と勤めていると、やがてそれが当たり前なのだと思えてくる、一種の洗脳状態に陥ってしまい、自分自身の置かれている状況が客観的に見えなくなります。そのような状況が長期化すれば、場合によってはうつ病などの精神疾患を発症し、最悪の場合自殺に追い込まれる、ということもありえます。病気になってしまうと、その症状のために物事の見え方が歪められ、冷静な判断がとても難しくなるからです。

「最近の自分、何か変だな」と思うことがあったら、信頼できる会社以外の友だちや家族に相談してみるといいでしょう。親しい人に話すことに抵抗がある場合は、街中にある心療内科のクリニックを一度受診してみるのもおすすめです。

■思い切って休むと、人生の優先順位が変わる

今の時代、無理をしても、何も助けてくれる後ろ盾はありません。会社員として働く方の場合、仕事は会社にいる間だけにすることが、心身の健康を保つことにつながります。通院している患者さんの中にも、オンオフかかわらず仕事をし続けて体調を崩してしまっている方がよくいます。そういう方には、思い切って、生産性が落ちてきた時点で休職してもらいます。

川野泰周『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)

休職に入るべきであることをお伝えすると、「会社からの評判が心配」「出世に響いてしまう」と心配される方も多くおられます。

けれども、生産性がだいぶ落ちてきている時点で、その人にとって限界なのです。それは言い方を変えれば、自分の人生を見つめ直すときがきた、ということ。

人生という長いタームからすれば、休むという選択肢はとても有用なものです。

限界まで働いて、いよいよ毎日出勤することもままならないような状態になってしまった人が、仕事を思い切って休んでみると、人生の価値観、優先順位が変わってくる、ということをよく経験されます。

倒れる前までは、仕事は堂々の1位にランクイン、2位から10位までも全部仕事で、11位ぐらいにようやく自分のプライベートが出てきたのが、仕事とプライベートと家族が、同列1位の状態にまでなったりします。人によっては逆転する人もいます。

人生の優先順位が変わってくると、「家族のことを犠牲にしてまで仕事してるなんて残念だな」と感じるようにもなります。そして、今まで「有休取るなんてとんでもない!」と思っていた人が、家族のために、「有休取ります」と堂々と言えるようになったりするのです。

体調を崩しがちになったら、精神的に限界にきていることに気づきましょう。「自分の生きがいや心身の健康を犠牲にしてまでやらなければいけないものって、あるのだろうか?」と、自分の心に聞いてみてください。

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川野 泰周(かわの・たいしゅう)
臨済宗建長寺派林香寺住職
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。1980年横浜市生まれ。2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。禅修行の後、2014年臨済宗建長寺派林香寺(横浜市)住職。寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたる。『人生がうまくいく人の自己肯定感』(三笠書房)、『「精神科医の禅僧」が教える 心と身体の正しい休め方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。

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(臨済宗建長寺派林香寺住職 川野 泰周 写真=iStock.com)

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