結果を出すリーダーほど和を尊ばない理由
プレジデントオンライン / 2019年7月2日 11時15分
■人間関係を気にしすぎて疲弊する管理職
われわれがコンサルティング現場で出会う女性管理職の中には、「和」を重視し、人間関係の良好な状態を維持することに注力しすぎるあまり疲弊している人が数多くいます。ここで言う「和」とは、人間関係が良い、単純に仲が良い、といった意味を指します。今回は、この集団の中に存在する和というものについて考えていきたいと思います。
とくに女性が多い職場を束ねている女性管理職から、こんな声を聞くことがあります。
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女性は「仲良く~」「相性」「一緒に~」が好きだと思います。ここに力を入れていかないと、組織内の和が乱れてパフォーマンスが落ちると思います。とにかく、人間関係を良好に保つことを最優先にマネジメントしています。部下一人ひとりのプライベートや好みを根掘り葉掘りきいてみたりして、声がけしたり、フォローしたりしています。
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■人間関係が良いとパフォーマンスは上がるのか
そもそも、和と組織パフォーマンスの因果関係というのは存在するのでしょうか。当然、上記のようなコメントを述べているリーダーたちは、関係すると認識しているからこそ、和の形成に注力し、メンテナンスを怠らないよう日々腐心しているわけです。
「ウチの部署は雰囲気があまりよくなくて」とか「ランチも楽しくなくて」といったコメント、ありますよね。「ウチの部署、AさんとBさんの仲が悪くてうまくいかない……」といったものも聞かれます。
でも会社は、そもそも仲良くするために集まっている場所ではありませんし、優秀なリーダーほど和を優先しません。和がないから力が発揮できないというのは明らかに言い訳、つまりは免責思考の表れということになります。
これまでの人生において、集団で目標を達成したり、目標に向かった経験のない人たちはイメージしにくいかもしれないですが、集団において仲良くなるという状態は、「結果的に生じる状態」であるべきなのです。それぞれが与えられた責任を果たしながら目標に向かっていく過程で、徐々に信頼関係がうまれて仲良くなっていく、というのが自然な状態ということです。つまり、順番は①和の形成→②パフォーマンス向上、ではなく、①パフォーマンス向上が先にあって「結果的に」②和が形成される、ということなのです。
■甲子園常連校の監督は「仲良くしろ」と言わない
リーダーが強く認識しなければならないことは、いまそれぞれが与えられた責務を一生懸命果たしていこうとする活動自体が、その職場において和が形成される最短ルートである、ということ。甲子園常連校など強いスポーツチームの監督は選手たちに「仲良くしろ」という指導をしているでしょうか。答えは否ですね。部活経験のある人は思い出していただきたいのですが、部活では仲良くするための時間を設けません。
しかし、一緒につらい練習を乗り越えたときに、結果的に誰よりも仲がいい関係になったという経験をしている人は多いと思います。結果を出すことが先で、和は後にできるということであり、優秀なリーダーは仲のいい組織形成を「目的」にしないのです。
スポーツと会社は違うという意見もあるでしょうが、目的をもって集合し、個々が役割責任を全うすることで競争に勝つ、目標を達成する、という意味ではスポーツのチームも会社も同じ組織といえます。リーダーが和を形成する施策や言動を繰り返し体現していなくても、高校球児には確実に「和」が形成されている。これはまさに①パフォーマンス向上、を追及した結果として②和ができている証拠です。
■ギスギスか切磋琢磨か
それでも、人間関係が良い方がいい、それは否定しません。ただし、ギスギスしているように見える職場でも、それぞれが自分の責任を果たすにあたり必要以上のコミュニケーションをとっていないというだけなら全く問題ありません。これはギスギスではなく「切磋琢磨」。お互いの職責を全うする過程で真剣であればあるほどぶつかることもありますから、むしろ組織はパフォーマンス向上に邁進していると思ってよいわけです。
繰り返しになりますが、ギスギスしているように見える状態が続いても、組織というものは目標を達成したときに、それまで経験したことがないような仲がいい状態になっていくものです。集団で目標を追及し、成果を得た経験のある方は理解できることだと思います。
どうしても、仲のよい人間関係を築きたければ社外でよいのではないでしょうか。
■和が崩れる恐怖を乗り越える
皆さんが管轄する組織、ひいては所属する会社が“存続”している理由は2つ。
① 目的の共有
これは、どんな事業をもって顧客を獲得するのかという意味合いでよいです。われわれのようなコンサルティングなのか、WEBサービスなのか、物販なのか、はたまた野球なのか、という目的を構成するメンバーが認識できている状態。
②外部有益性の発揮
これがつまりは「顧客の獲得」であり売り上げが立っている、利益が出ている、というもの。皆さんの会社が存続しているのは顧客をはじめとした「外部」に「有益性=メリット」が提供されているからですよね。
この2つのみが、組織の存続理由となります。ここに「良好な人間関係の維持」や「和の形成」は含まれません。よって、皆さんが日々恐れている人間関係の不和、そして不和によるパフォーマンス低下に対して生じている恐怖は、まったくもって“不必要”と結論付けられます。
■人間関係を論じるヒマなんてない
人間関係の不和は、主に感情によってもたらされる好き嫌いです。好き嫌いは、それぞれの価値感が単に「合わない」ことから生まれています。よって、まずリーダーが行うことは、組織内の価値基準を統合すること、つまりは明確なルール設定とその遵守です。これによって、メンバーが組織基準に合わせるという意識づけが繰り返され、組織内では組織内基準に従う、従った方が動きやすいという状態をつくることができます。
それぞれの価値観をリスペクトするから基準が統合されずに、「合う」「合わない」が生じる。誰に合わせる? のではなくルールに合わせるというリーダーの根気強い反復が重要になってきます。
また、それぞれの役割・責任が明確に規定され「やらねばならない」感覚が醸成されていれば、人間関係を論じる余地が時間的、労力的にミニマイズされます。要は、そんなことしている場合じゃない、ということになるのです。つまり、人間関係がマネジメントテーマとしてよく出てくる組織は、そもそもメンバーの責任=目標がない、あるいはあいまいであることが考えられます。これらを明確に定義することで和を論じるスキをなくしていくことが求められます。
リーダーは、和の形成を目的化することなく、パフォーマンスの向上を追及してほしいと思います。
(識学 代表取締役社長 安藤 広大 写真=iStock.com)
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