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"ガッツポーズする監督は失格"は古すぎる

プレジデントオンライン / 2019年7月4日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kieferpix)

プロ野球の「セ・パ交流戦」が終了した。各リーグで昨年最下位だった阪神と楽天は、それぞれ3位と2位と、前半戦をいい位置で折り返した。スポーツライターの相沢光一氏は「その理由は、監督が選手の活躍にガッツポーズをするなど熱量が高いことにあるのではないか」と指摘する――。

■楽天・平石、阪神・矢野の両監督の手腕が光った

プロ野球の「セ・パ交流戦」が終わり、レギュラーシーズンの前半戦が区切りを迎えた。ここまでの戦いぶりから、各チーム監督の「通信簿」をつけてみたい。

昨年と比べ、チーム状態を確実に上向かせたという点で高く評価したい監督が、両リーグにひとりずついる。パ・リーグは東北楽天の平石洋介監督、セ・リーグは阪神の矢野燿大(あきひろ)監督だ。

平石監督は昨年6月、成績不振の責任をとって辞任した梨田昌孝監督の後を引き継ぎ監督代行としてチームを指揮するようになった。昨シーズンはその後、チームは見違えるような快進撃を見せ、ファンに浮上の期待感を抱かせたが終盤は失速。レギュラーシーズンが終わってみればリーグ優勝した西武に29.5ゲーム差をつけられた最下位だった。

正式に監督に就任して迎えた今季も前途多難なスタートとなる。

則本昴大(たかひろ)投手が右ヒジの故障で手術を受け前半戦の出場は絶望、開幕投手を務めた岸孝之投手も左太もも裏の違和感で登録抹消と、投の2枚看板不在でシーズンを始めることになってしまった。野手では西武から浅村栄斗(ひでと)内野手がFAで加入したが、それ以外は昨年の最下位メンバーと大きな変化はない。イーグルスファンは「今年も上位争いは難しそうだ」と思ったはずだ。

ところが楽天は、そんな声をはね返すように開幕から勝利を重ねていく。

投手では美馬学、辛島航、塩見貴洋、広島からトレードで加入した福井優也、抑えの松井裕樹、昨年まで1軍実績はほとんどなく育成契約になったこともある石橋良太らが、則本、岸の穴を埋めて余りある活躍を見せ、打者では浅村はもとより銀次、茂木栄五郎、島内宏明、藤田一也、ウィーラー、ブラッシュらが、それぞれの役割を十分果たしている。6月30日時点で、ソフトバンクと2ゲーム差の2位にいるのだ。

■共通点は「ベンチでの感情表現が豊かで選手との距離が近い」

一方、昨年セ・リーグ最下位だったものの今シーズン前半奮起したのが阪神だった。金本知憲監督の後任として指揮を執ることになった矢野監督は今季、散々なスタートを切った。ヤクルトとの開幕カードは2勝1敗と勝ち越したものの、次の巨人戦は3連敗。その後も黒星が先行し、2度目の巨人戦(甲子園)でも3タテを食らった。対巨人6連敗で、その内容も3試合が大差負け、2試合が完封負けと実力差を見せつけられるものだった。阪神ファンは宿敵巨人に負けるのが最も腹立たしいといわれる。そのため開幕直後の4月には早くも矢野監督解任論が飛び交った。

しかし、矢野監督は動揺することなくチームを建て直していく。5月には白星を積み重ねるようになり、巨人戦も4戦4勝と意地を見せた。そして現在(6月30日現在)は貯金もでき、順位も巨人、広島に次いでDeNAと同率の3位。昨年の成績と開幕直後の低迷から見れば大躍進だ。

平石監督と矢野監督には共通項がある。

ベンチでの感情表現が豊かなことと選手との距離が近いことだ。

■平石監督の「ガッツポーズ」に選手は鼓舞される

平石監督は現役時代の実績がほとんどないといっていい。2005年、ドラフト7位で楽天に入団したが、6シーズンで出場は122試合、安打は37。1軍と2軍を行き来する選手だった。

だが、真面目で誠実な人柄と野球に対する探究心が買われて引退後は育成コーチに就任。指導実績を重ねて監督を任されるまでになった。平石監督がとる指揮官としてのスタイルは、この経歴が反映されているといえる。

自身が経験しているから、2軍暮らしが続いている選手の心境や1軍で起用されていても、いつ外されるか不安を抱えている選手の気持ちが実感として理解できる。そんな選手たちのモチベーションを保つために平石監督は対話を重視しているという。選手の思いを聞き、どうしたら持てる力を生かせるか、ともに考えるわけだ。上からではなく対等に近い目線で選手と対しているのだ。

また、平石監督は39歳と若く、体が動くため、練習ではバッティング投手を率先して務める。選手とともに汗を流し課題を見つけ向上を促そうとしているわけだ。そんな姿勢が選手の心をつかむのだろう。若手だけでなくベテランでさえも、平石監督のために全力を尽くそうと思うのだという。

平石監督のほうもその思いを受け止め、選手がヒットを打てばガッツポーズをして、勝てば全身で喜びを表す。その姿を見た選手はさらに頑張ろうと思いチームに勢いが生まれる。こうした好循環が今の楽天にはあるのだ。

■選手の殊勲打に「矢野ガッツ」で出迎える

4年ぶりの完投勝利を挙げた今季初登板初先発の岩田稔投手(右)と、握手する矢野燿大監督(写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト)

それと対照的に矢野監督は輝かしい実績を持つ。1991年に中日に入団し7シーズン、阪神に移籍して13シーズン、計20年のほとんどを1軍で活躍し、野球日本代表として北京五輪にも出場している。

キャッチャーというポジションを務めていただけあって選手の心理を読むことにはたけているはずだ。現役時代やコーチ時代はクールな印象があったが、実は熱い人なのだろう。だから、選手が殊勲打を打ったときは、派手なガッツポーズやバンザイポーズが出る。

その姿は「矢野ガッツ」と呼ばれているほどで、関連した球団グッズも売り出されることになった。選手もそんな監督の姿を見れば意気に感じるし、「矢野ガッツ」は阪神ファンのボルテージを高め、球場全体にタイガースを後押しする空気が生まれる。チームを盛り上げる相乗効果があるのだ。

その象徴的なシーンが6月9日の日本ハム戦で原口文仁捕手が打ったサヨナラヒットだ。原口は大腸がんを患い1月に手術。心身ともにどん底にあった選手だ。が、懸命のリハビリとトレーニングで6月に復帰。その原口を矢野監督は9回のチャンスで代打に起用したことで劇的なサヨナラヒットが生まれた。

ベンチを飛び出した矢野監督が原口と抱き合って喜んだシーンは感動的だったし、試合後のインタビューで涙をこらえながら語る姿からも矢野監督の選手に対するが伝わってきた。監督のこうした姿勢は選手との距離を縮める効果がある。矢野監督も平石監督同様、選手とのコミュニケーションは密に取っているようだし、昨年にはなかったベンチの明るさも矢野監督が作り上げたといえるだろう。

■実績のなかった選手を1軍で通用するレベルに引き上げた

矢野・平石両監督は新人や実績のなかった選手を1軍で通用するレベルに引き上げた点でも評価できる。

矢野監督は開幕スタメンにふたりの新人を起用する大胆な策をとった。1番ショートにドラフト3位の木浪聖也(25)、2番センターにドラフト1位の近本光司(24)と新人に1・2番を任せたのだ。ともにオープン戦で好成績を残したからで、特に木浪は打率3割7分3厘と絶好調だった。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/sh22)

だが、阪神のショートといえば鳥谷敬。過去15年間、開幕スタメンを続けてきた実力者で、その鳥谷を外すのは大きな決断だったはずだ。この大抜てきに木浪は当初、応えられなかった。開幕から2週間余りヒットが打てなかったのだ(17打数で0安打)。このまま不調が続けば木浪は自信を失うことも考えられるし鳥谷にも不満が生じる。チームに不協和音が生まれかねない状況だ。が、矢野監督は木浪を時にはスタメンから外すこともあったが、辛抱強く起用し続けた。鳥谷も大事なところで代打起用するなど信頼感を示した。その辛抱もあって木浪は現在、打率2割5分4厘、2本塁打と新人内野手としては十分な成績を収めている。また、近本も開幕当初は成績不振だったが、現在は打率2割6分8厘、6本塁打でレギュラーの座をしっかりつかんでいる。

■野村克也氏「ガッツポーズする監督は失格」は間違い

平石監督もドラフト1位ルーキー・辰巳涼介を開幕直後からプレッシャーのかからない下位の打順で起用。試合に慣れさせ、レギュラーとして定着するところまで育てた。

こうした新人の起用を成功させているのは、選手の実力を見極める目、信頼して使い続ける信念、他の選手に起用を納得させる対話があるからだろう。

あらわにする熱さや選手との距離の近さを含め、平石監督と矢野監督は選手の心をつかみ、やる気を引き出すモチベータータイプの指揮官といえる。下位に沈んでいたチームを変革するには、こうしたモチベータータイプの指導者が必要なのだ。そして実際、チームは活性化し上位争いをしている点で、両監督には10点満点の通信簿なら8点をつけてもいいのではないだろうか。

監督として偉大な実績を積んできた野村克也氏からは「ヒットでガッツポーズをしているようでは監督失格」といわれているが、阪神も楽天もチームは好循環の波に乗っているし球場も盛り上がっているのだから、このスタイルは押し通してもらいたい。

■日本ハムの栗山英樹監督もやる気引き出すモチベータータイプ

モチベーターといえば、もう一人思い浮かぶ監督がいる。

日本ハムの栗山英樹監督だ。2012年の監督就任以来7年間でリーグ優勝2回(日本一1回)の実績は対話を重視し、選手のやる気を引き出してきたからだといわれる。また、現在メジャーで活躍する大谷翔平をはじめ新人の才能を伸ばし育てる手腕にもそれが表れている。今季は吉田輝星がその指導によって羽ばたこうとしているが、野球の新たな流れにチャレンジしていることに注目したい。

近年メジャーで取り入れられるようになった2つの新たな方法論を采配に導入しているのだ。ひとつはオープナー。リリーフ投手を先発させて1・2回を抑え、それ以降の回を本来の先発投手などが継投するという「オープナー」という起用法だ。

日本ハムも多くの試合は先発ローテーションに従った投手起用をしているが、先発陣が手薄な時はオープナーを採用。序盤を抑え、流れをつかもうという考え方だ。野球のルール上、オープナーで先発した投手は相手を少失点に抑え、試合を優勢に運ぶ役割をしても勝ち投手になる権利がない。それでも、球団もそれに対する査定を新規に採用し、その起用を後押ししている。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/electravk)

■「2番に強打者」起用法を定着させた

栗山監督の光る采配はもうひとつある。2番打者に強打者を置く起用法だ。日本で2番といえば送りバントをはじめとする小技が得意な選手の打順だが、米メジャーリーグでは近年、パワーヒッターを置く考え方が主流になっている。

今季の日本ハムは開幕2試合目までは器用な西川遥輝が2番だったが、それ以降はほぼ長距離砲の大田泰示が務めている。大田は今のところ犠牲バントはゼロで自由に打っている。栗山監督は序盤から2塁にランナーを送って1点を取りに行く日本的戦法ではなく、大量点を狙うメジャー型の戦い方を指向しているのだ。つまり新たな可能性を模索し、実験をしているというわけだ。

そうした従来の日本野球にはなかった思い切った戦法を採りながら順位は現在、首位ソフトバンクと6ゲーム差の4位。まだ十分に挽回できるこの位置にいるのは立派といえるのではないだろうか。それに新たなスタイルの野球が成功するかどうかは観戦する側としても興味深い。そのチャレンジ精神を含めて7点と評価した。

■2019プロ野球各チームの監督通信簿の結果

残る9人の監督は、選手とは一定の距離を置き、ベンチでもなるべく喜怒哀楽を抑えるオーソドックスな指揮官タイプといえる。ただし、それぞれモチベーターになろうとする努力は感じられる。

たとえば巨人の原辰徳監督だ。6月20日のオリックス戦を4-2で制したが、この試合で原監督は意外な姿を見せた。この試合でヒーローになったのは全4打点をたたき出した丸佳浩。今季、広島から移籍加入した丸がホームランを打つとベンチの選手は両手で丸をつくる新たな祝福ポーズで迎えているが、原監督のトレードマークはグータッチだ。しかし、この試合では満面の笑みを浮かべ初めて丸ポーズをした。ベンチの一体感に加わろうとしたのだろう。

また、西武・辻発彦監督は昨年、ムードメーカーでもある強打者・山川穂高を開幕から4番で起用するなど攻撃的な打線でチームに勢いをつけリーグ優勝した。伸び伸びとプレーさせるという采配が選手のモチベーションを高めることにつながったといえる。このスタイルは今季も継続し、現在3位と好位置につけている。

順位でいえばパ・リーグの首位に立つソフトバンクの工藤公康監督の手腕も高く評価しなければならないが、ソフトバンクの場合、投打とも戦力が充実しており、かなりのアドバンテージがあることも確か。ただ、その戦力を使いこなし、順当に勝ち星を重ねていることは評価すべきだろう。広島の緒方孝市監督も同様だ。

ということでセ・リーグ首位の原監督、2位の緒方監督、パ・リーグ首位の工藤監督、3位の辻監督も7点の評価だ。

■「最低点」の監督は誰か?

セ・リーグ3位のDeNA・ラミレス監督、5位の中日・与田剛監督、6位のヤクルト・小川淳司監督、パ・リーグ5位のロッテ・井口資仁監督、6位のオリックス・西村徳文監督は順位から見ると評価はできない。点数的には5点から6点といったところだろう。

ただ、この位置にいるのは故障者を含めた戦力の問題やその時々のチーム状態といった要素もある。セ・リーグ最下位のヤクルトは開幕当初は首位争いをしており、小川監督の采配は評価されていたのだが、突然チームの歯車が狂い出し、リーグワースト記録となる16連敗を喫してしまった。

下位に沈む5チームの監督は、これまでの戦いを見る限り采配ミスを連発しているわけではないし、チームがバラバラになっていることもなさそうだ。今後、勢いに乗って連勝し上位争いに加わる可能性もあるわけで、総合評価はやはり秋までの戦いを見るまで下せない。

(ライター 相沢 光一 写真=スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト)

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