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世界のニーズが書かれた"ネタ本"の使い方

プレジデントオンライン / 2019年7月28日 11時15分

水問題の解決も、SDGsが掲げる目標の1つだ。(AFLO=写真)

■どんな企業も無縁ではないSDGsの活用法

「SDGs」への企業の関心が高まってきています。SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」という意味です。貧困や環境などの問題を解決して持続可能な社会を実現するために、2030年までに達成すべき国際目標として、15年9月の国連サミットで採択されました。

SDGsは、政府だけでなく、さまざまなステークホルダーの参画を求めています。とりわけ企業に求められているのは、「持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮すること」。つまり、寄付やボランティアなどの社会貢献ではなく、事業そのものによる社会的課題の解決力を期待されているのです。

実際にSDGsは、産業界を含めて世界に広く浸透しています。それは、SDGsが長い年月をかけて、企業を含めた多様なステークホルダーの積極的な関与によって策定されたものだからです。それだけに、強い正統性と影響力を持っているのです。

こうして生まれたSDGsには、「今、世界が何を必要としているのか」が記されています。企業にとっては、今後の事業戦略のヒントが書かれた「ネタ本」と言えます。しかも、その内容は世界で認められた共通言語ですから、利用価値は高いと言えます。

ただし、SDGsの17の目標を眺めているだけでは、自社との関わりはなかなか見えてきません。17の目標の下には、169のターゲットというより具体的なアクションが定められています。そのレベルで検討することで、自社との接点が見えてくるはずです。

例えば、貧困というと経済的な貧しさと捉えがちですが、水が足りない、トイレがない、学校に行けない、といった状況も貧困に当たります。具体的に何が足りないのかを考えることで、ビジネスのヒントが得られます。

損保ジャパン日本興亜の場合、天候によって収入が左右される東南アジアの小規模農家のために、天候インデックス保険を開発しました。干ばつなどで作物を収穫できず、収入が減少すると、農家はローンを組んで購入した農機具を手放して食いつなぐしかありません。しかし、そうすると翌年から農業ができなくなってしまいます。そこで、地域の総雨量が一定の水準に達しなかった場合に補償するというシンプルな仕組みの安価な保険を提供することで、小規模農家の経済生活の安定に寄与しています。

企業がSDGsに取り組むうえで、まず行ってほしいことは、採択文書すべてを読むことです。全体で36ページ程度ですが、そこには目標やターゲットのほかにも前文、宣言、ビジョン、実施手段などが書かれています。これらを熟読することで、SDGsを正しく理解でき、インスピレーションを膨らませることができるはずです。

SDGsには2つの根本理念があります。1つは「大変革」です。貧困や環境などの大きな課題を解決するには、現在の社会の仕組みを大きく変える必要があります。大きな変化は、ビジネスチャンスにもつながります。もう1つは「誰ひとり置き去りにしない」。貧困や格差をなくし、より包摂的な社会をつくらなければならない、ということです。この2つの理念を踏まえて、SDGsに取り組むことが重要です。

■うわべだけの活動は批判の対象になる

では、企業はSDGsにどのような姿勢で取り組めばよいでしょうか。ここでは、2つのポイントを紹介します。

1つは、「インサイド・アウト」ではなく「アウトサイド・イン」でアプローチすることです。「何ができるか」ではなく、外部環境を起点に「何をすべきか」を考えるということです。例えば、温暖化対策の枠組みであるパリ協定では、産業革命以前に比べて地球の平均気温の上昇を2.0℃に抑えることを目標にしています。そうした長期目標を実現するために企業としてどうすべきかを考えるのがアウトサイド・インのアプローチです。多くの日本企業は、着実に改善を積み重ねたり、達成可能な目標を立てるインサイド・アウトのアプローチをとりがちですが、それではSDGsを達成できるような大きな変化を起こすことはできません。

もう1つは、バリューチェーン全体を俯瞰し、正と負、両面の影響を考えることです。製造業であれば、原材料の調達から製品の廃棄までの流れを見渡し、SDGsとの関係から社会や環境に与えるインパクトが大きな領域を特定し、取り組む優先順位を決めます。そこで注意すべきは、ネガティブインパクトにも目を向けることです。SDGsというと、ビジネスチャンスの側面ばかりが強調されがちですが、企業が引き起こす可能性のある環境汚染や人権侵害などの問題も同時に考える必要があります。

特に最近は、人権侵害を未然に防ぐために、人権尊重を企業のマネジメントに組み込むことへの要請が高まっていますが、これもSDGs達成に向けた取り組みの1つといえます。SDGsの根幹には、人間の尊厳を守るという理念があるからです。

逆に企業が避けるべきは、「SDGsウォッシュ」と呼ばれる表面的な活動です。ウォッシュとは、うわべだけをとりつくろうこと。既存の事業をSDGsの目標に紐付けしただけで満足し、SDGsへの貢献を声高に言うような姿勢は、SDGsの達成に何のインパクトももたらさないものとして批判の対象にもなります。

■成果目標とその達成度を開示する

SDGsウォッシュの問題は、「一生懸命やっています」「これだけの投資をしています」と言われても、その結果、環境や貧困などの問題がどれだけ改善しているのかが見えないところです。環境問題であれば、CO2をどれだけ削減するか、という目標を設定して、それがどの程度達成されたのかを示すことが重要です。SDGsが採択されてから4年になろうとしている今、取り組む姿勢だけでなく、成果目標とその達成度を開示することが企業には求められているのです。

最後に、SDGsに取り組む先駆的な日本企業を2社紹介します。住友化学は、マラリア対策のための蚊帳をアフリカで提供しています。自社工場の防虫網戸で培った技術を応用し、蚊帳の繊維に殺虫成分を練り込み長期間効果が続くようにした製品です。タンザニアの企業に技術を無償供与して生産し、現地の雇用創出にも寄与しています。16年には、SDGsに貢献する事業を認定する社内制度をスタートさせ、SDGs関連事業の掘り起こし・強化に取り組んでいます。企業のマネジメントにSDGsを取り入れた先進的な取り組みといえます。

大手企業だけではありません。中小企業では、納豆菌から独自に開発した水質浄化剤を使って途上国の水の浄化事業に取り組む日本ポリグルが世界的に知られています。会長の小田兼利氏は、自社の技術が、途上国が抱える課題のソリューションとなることに気づき、販路を開拓していきました。このように、既存の技術がSDGsに貢献できる可能性は十分あります。

「SDGsは企業を必要とし、企業はSDGsを必要とする」――19年3月に開催された経団連の「B20東京サミット」で、SDGsに取り組む先進企業であるユニリーバの前CEO、ポール・ポールマン氏はそう発言しました。その通り、SDGsとビジネスは、切っても切れない関係にあるといえます。ビジネスにSDGsを戦略的に組み込む時代を迎えているのです。

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関 正雄(せき・まさお)
明治大学経営学部特任教授・損害保険ジャパン日本興亜 CSR室シニアアドバイザー
1976年、安田火災海上保険(現・損保ジャパン日本興亜)入社。理事・CSR統括部長、損保ジャパン日本興亜環境財団専務理事を経て、2013年より現職。経団連企業行動憲章改定タスクフォース座長。著書に『SDGs経営の時代に求められるCSRとは何か』など。

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(明治大学経営学部特任教授・損害保険ジャパン日本興亜 CSR室シニアアドバイザー 関 正雄 構成=増田忠英 写真=AFLO)

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