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大坂なおみはなぜ「カモン」と叫ぶのか

プレジデントオンライン / 2019年7月11日 9時15分

2018年9月8日(写真=Geoff Burke-USA TODAY Sports/Sipa USA/時事通信フォト)

大事な局面で自らを奮い立たせるのに、効果的な方法は何か。女子プロテニスの大坂なおみ選手を世界一に導いたコーチ、サーシャ・バインは「自分に対して、身振り手振りや声を出すなど積極的なボディーランゲージは、脳を前向きに騙す効果がある」と説く――。

※本稿は、サーシャ・バイン『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

■立ち方だけで相手に効果を与えられる

テニスのコーチはハッタリが上手、と言ったら差しさわりがあるかもしれない。ハッタリを「ボディーランゲージ」と言い換えることにしよう。

立つ姿勢、歩き方、体の動かし方。それだけで、敵に対して実に効果的なコミュニケーションができる。

元気いっぱいのボディーランゲージを心がければ、それは敵にも伝わる。自信満々の積極性を体の動作や仕草で表現すれば、敵はそれに気おされて弱気になるだろう。

もしポイントとポイントのあいだにコートで跳ねまわって、元気いっぱいのところを見せつければ、敵はプレッシャーを感じて、「こっちももっとエネルギッシュに振舞わなければ」と思う。それがかえってミスを誘う。

■ボディーランゲージは「自分」のために

だが、私がここで強調したいのは相手に伝えるボディーランゲージではなく、「自分の心」にも効果をもたらすボディーランゲージの力だ。

テニスとは感情的なスポーツである。コートに立ったら自分と向き合って、次から次へと湧きあがる感情を迅速に処理しなければならない。

あふれる感情をうまく処理してポジティブな姿勢を打ち出すには、ボディーランゲージが有効な武器だ。肉体を積極的に動かせば、頭脳はそれにだまされて、積極的で前向きな思考回路を追うようになる。

言葉に出すことも同じ効果を生む。「から元気」でもいい。大声で何か積極的な言葉を口に出せば、頭脳もそれに誘われて積極的な考え方をするようになる。

テニスのプレイヤーに役立つことは、学生やオフィスワーカーをはじめ、あらゆる職業の人たちにも役立つだろう。一つ言えるのは、上手なボディーランゲージの重要性が過小評価されている、ということ。「手振り」「身振り」「体のアクション」が頭脳に送るメッセージの有効性に、もっと注意を払らうべきだと思う。

■科学的にも証明された「声を出すメンタル効果」

どうも気がのらない、やる気が出ない、と思ったら、大声で自分を叱咤してみればいい。頭脳はしゃきっとして、あなたの言うことに従うはず。悲しいときは笑ってみる。すると脳には幸福感の伝達物質、エンドルフィンが分泌される。作り笑いでも、笑いにはちがいない。脳は笑いを愉快なことと関連づけるから、急に元気が出る。それと同じように、「自分は闘いたい」「やる気満々だ」ということを身振り手振りで示せば、脳はその気になるにちがいない。ハッタリは効き目がある。

サーシャ・バイン『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』(飛鳥新社)

(大坂)なおみは大舞台が好きなのに、ときどき弱気な素振りを見せた。だから、ことあるごとに、こう励ましていた。

「試合中、もっとガッツポーズをとればいいじゃないか、何か強気のアクションをして見せたほうがいいよ」

それで、「カモン!」と叫ぶことを勧めたのである。テレビでなおみの試合を観ていれば、お気づきの読者も多いかもしれない。

なおみがその声をあげると、自ら励まされるらしく、ぐっと強気になってプレイもアグレッシブになった。だから、彼女と組んでいたときは、もっとボディーランゲージに磨きをかけて、相手を威嚇するように勧めた。すると相手は、すごいプレッシャーを感じるはずだから。

■コートでは絶対に弱気な態度を見せないこと

同時に勧めたのは、コートでは絶対に弱気な態度を見せないこと。もし弱気な態度を見せれば、相手は必ずそこにつけこんで、攻勢をかけてくる。だからといってひるむなおみではないことは承知していたが、みすみす相手を元気づかせる必要もない。敵にはどんな攻勢のきっかけも与えない――それも忘れないようにしたい。

これは、セリーナ・ウィリアムズと組んでいたときに学んだことである。コートに立ったときのセリーナは、われこそは世界最強のプレイヤー、という気迫を全身にみなぎらせていた。その調子で第1セットをとってしまうと、もう相手は蛇ににらまれた蛙も同然で、容易に反撃できない。セリーナこそはボディーランゲージの名手、「カモン」という叫び声の効果を最大限に利用していた。そうして相手を呑んでかかり、堂々とコートを歩きまわって相手を圧倒するのである。

■人に教える立場なら「表情」に細心の注意を

つけ加えると、顔の表情も、威力を発揮する。怒り、悲しみ、とまどい、快活、すべては顔の表情からはじまる。だれかの前を通りすぎるとき、その人物の顔の表情を見る。

すると、「あ、かなり強気みたい」とか「気分がのっていそう」とか、相手の心理をたちどころに汲みとれるだろう。それをこちらも逆に利用して、一言も発することなく、強いメッセージを相手に伝えることができる。

いまもいろいろなメーカーから、試合中にそのメーカーのブランドの帽子をかぶってくれないか、と頼まれる。帽子のスポンサー契約を結びたい、というのだ。だが、それはすべて断っている。帽子をかぶったら、プレイヤーとアイコンタクトがとれない。私の顔の表情を、プレイヤーが読みとれないからである。

■貧乏ゆすりが見えなくてよかった

試合中に私が浮かべる顔の表情は、とても重要なのだ。試合中に私が渋い表情をしているのを見たら、プレイヤーはどう思うか。

なおみと組んでいるときも、試合中、私はつとめて明るい表情を浮かべているように心がけた。なおみがちらっとこちらを見たときに、「あの顔なら大丈夫、わたしはうまくやっているんだ」と安心してもらえるように。

グランドスラム決勝の試合の最中のように、たとえ私が内心緊張していたとしても、それをそのまま顔に表すのはご法度なのである。

それにしても、あの決勝の最中、なおみの目に映るのが私の上半身だけでよかった。なおみには、私がきわめてリラックスしているように見えて、心強かっただろう。実は、私には貧乏揺すりをする癖がある……。あのとき、観客席の手すりに隠されていたけれども、私はしきりに脚を揺すっていた。それを目にしていたら、なおみにも微妙な影響を与えていたにちがいない。

■10秒あったら、深呼吸

また、「不安」への対処は、10秒でできる。一つ深呼吸をして、肺を酸素でいっぱいにする――それがいちばん簡単で、手っ取り早い方法だ。

深呼吸をしたとたん、心臓の早鐘はおさまり、神経も安らぐ。深呼吸を二、三度くり返せば、気持ちが落ち着き、リラックスして、いま置かれている状況を冷静に検討できるだろう。

とにかく、気持ちが動揺して、プレッシャーに負けそうになったら、深呼吸をするに限る。頭も冴えて、名案が浮かぶにちがいない。脳にはたっぷり酸素が送りこまれ、思考能力にも磨きがかかるはずだ。

■呼吸に集中してマインドセットを切り替える

テニスプレイヤーの場合、ポイントとポイントのあいだには数秒間の余裕しかない。その時間をフル活用する方法が、じつは深呼吸なのだ。呼吸することに集中するだけで、マインドセット――その状況をどうとらえるかという思考――までも切り替わる。

2018年の全米オープンの前にも、私はなおみに深呼吸の効用について話した。これから試験に臨む学生にも、重要な会議を控えたビジネスパーソンにも、睡眠不足で頭がふらつくあらゆる人に、深呼吸は役に立つ。

気持ちをリセットして、新規まき直しを図る際にも、呼吸法を変えるのは効果的だ。自分に活を入れたいときは、深呼吸とは逆に、浅い呼吸を素早く何度かくり返すといい。心臓の鼓動がすこし早くなって、体もしゃきっとする。血流が早くなり、瞳孔もひろがる。体はいつでもゲームに、試験に、会議に、即応できるはずだ。

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サーシャ・バイン(Sascha Bajin)
テニスコーチ
1984年生まれ、ドイツ人。ヒッティングパートナー(練習相手)として、セリーナ・ウィリアムズ、ビクトリア・アザレンカ、スローン・スティーブンス、キャロライン・ウォズニアッキと仕事をする。2018年シーズン、当時世界ランキング68位だった大坂なおみのヘッドコーチに就任すると、日本人初の全米オープン優勝に導き、WTA年間最優秀コーチに輝く。2019年には、全豪オープンも制覇して四大大会連続優勝し、世界ランキング1位にまで大坂なおみを押し上げたところで、円満にコーチ契約を解消。

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(テニスコーチ サーシャ・バイン 写真=Geoff Burke-USA TODAY Sports/Sipa USA/時事通信フォト)

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