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NHKや安楽死を名乗る党派が出てくるワケ

プレジデントオンライン / 2019年7月9日 9時15分

日本記者クラブ主催の党首討論会で、握手する与野党7党の党首ら=2019年7月3日、東京都千代田区の日本プレスセンター(写真=時事通信フォト)

■「衆参同日選」のもくろみが外れた安倍首相

参院選が7月4日に公示された。立候補を届け出たのは、選挙区選215人、比例選155人の計370人(改選定数計124人)だ。21日の日曜日の投開票に向け、これまでの安倍政権の政治が大きく問われる。年金をめぐる老後不安や消費税の増税、憲法改正などが争点になる。

一方、そうした論戦は投票の判断だけでなく、「民主主義(デモクラシー)とは何か」を考えるきっかけにもなる。今回の参院選公示をみていると、その思いは強くなる。

6月8日付けの記事では、「選挙に勝つため国益を弄ぶ安倍首相の見識」という見出しでこう指摘した。

「安倍首相は、史上初の日朝首脳会談を実現して拉致被害者を帰国させた小泉純一郎・元首相のように、自ら北朝鮮外交の大きな檜舞台を作り上げ、その勢いに乗って衆参同日選に打って出ようと考えていた」

しかし、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に相手にされなかった。

■すべては憲法改正を実現するための手段にすぎない

「まるで日本政府がわが国に対する協議の方針を変えたかのように宣伝し、しつこく平壌(ピョンヤン)への門をたたいているが、われわれへの敵視政策は何も変わっていない」
「前提条件のない首脳会談の開催などとぬかす安倍一味はツラの皮がクマの足の裏のように厚い」

無条件で日朝首脳会談に臨む決意を示した安倍首相に対し、北朝鮮はこう辛辣な声明を出して拒絶した。厚顔無恥と言いたいのだろう。安倍首相の顔をクマの足の裏に例えるところなど、実に野卑な北朝鮮らしい。

安倍首相の日朝首脳会談開催の思惑は、選挙で勝つことにあった。

日朝首脳会談だけではない。日米貿易交渉の妥結を参院選後までずらしたのも、大阪で開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議(大阪サミット)で各国首脳との親密ぶりを演出したのも、7月1日に韓国向けの輸出を制限すると発表したのも、みな選挙のためだろう。

安倍首相は選挙で自民党が多くの票を獲得してさらに基盤を安定させ、その基盤の上で悲願である憲法改正を実現したいのだ。そのための手段として外交を使ったのである。

■政治生命のために反日感情を煽る韓国大統領

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、反日感情を煽って政権を維持してきた。来年4月、韓国では国会議員を改選する総選挙が実施される。文氏はその選挙に勝ちたいがために反日感情を利用している。元徴用工の問題も、火器管制レーダー照射事件も、選挙に勝つための手段なのである。

韓国の国会(議席定数300)は文氏の与党である「共に民主党」が128議席で、これに対して最大野党の「自由韓国党」が113議席と、与野党の力関係が切迫している。

総選挙の結果次第で今後の文政権の運命が決まる。だから文氏は必死なのである。要は自分の政治生命のために反日感情を煽っているのだ。日本の安倍首相と同様、すべては自分のためなのである。

■来年11月のために繰り広げられる「トランプ劇場」

6月30日のトランプ氏と金正恩氏との電撃的会談は、来年の大統領選で勝つための手段そのものである。韓国と北朝鮮の軍事境界線の板門店で、金正恩氏と対面して握手したばかりか、アメリカの現職の大統領として初めて軍事境界線を越えて北朝鮮側にも入った。まさにトランプ劇場だった。アメリカのトランプファンは拍手喝采しただろう。

中国との貿易戦争にしても、激化するイランとの対立にしても、トランプ氏の頭の中には来年11月3日に実施される大統領選挙があり、選挙に有利か不利かで動いている。トランプ氏のツイッター発言を見ていればそれがよく分かる。

極端な言い方をすれば、政治家は選挙に勝つことだけを念頭に行動している。選挙がすべてなのである。

政治家は自分のために活動しているにすぎない。政治家は自分を支持する人たちが、さらに心地よくなる政策を次々と掲げて選挙に勝とうとする。

そんな政治家たちは、「選挙の結果が民意だ」と主張する。「民主主義だ」と強調する。しかし、それらは本当に民意なのだろうか。本物の民主主義なのか。

民主主義国家と言われてきた世界の先進国はみな同じだろう。政治が国民のためのものではなく、政治家や政党のためのものになっている。

■民主主義が「ポピュリズム」に食われている

国民の政治参加に道を開いたのが民主主義だった。第二次大戦後、西側諸国は民主化によって経済が大きく発展した。ところが東西の冷戦が終わるころ、経済成長が鈍くなり、民主主義の在り方に疑問が持たれるようになった。

そんななか移民・難民の排除、既成政党の批判、マスメディア非難、EU批判と離脱、支持者に直接訴えるツイッター政治、自国第一主義などが欧米諸国を中心に次々と存在感を増してきた。

いわゆる「ポピュリズム」と呼ばれる主義や政治の台頭である。日本でポピュリズムは「大衆迎合主義」とか「人気取り政治」と説明されるが、政治家は支持者の意に沿う政策を掲げ、有権者はそんな政治家を支持する。ポピュリズムの権化であるアメリカのトランプ氏と、ツイッターで結ばれた白人労働者層の関係を考えてほしい。

いまや民主主義がこのポピュリズムに圧倒されつつある。民主主義の危機だと思う。私たちの手で民主主義を取り戻さなければならない。それには選挙戦を通じて、国民のために活動する本物の政治家を、有権者の目で見て有権者の頭でよく考えて選ぶことである。

■なぜ諸派の党派名はやけに分かりやすいのか

今回の参院選を見ると、諸派にくくられる政治団体の名前にこのポピュリズムがよく表れている。

たとえば「安楽死制度を考える会」や「NHKから国民を守る会」が、それだ。党派名がそのまま主義や主張を表していて有権者は判断しやすいだろう。しかし、これでいいのだろうか。

「安楽死制度を考える会」は、比例選1人、選挙区選9人を擁立した。法整備が進まない安楽死や尊厳死について「議論を始めよう」と主張している。

安楽死とは、毒物を注射したり、飲んだりして積極的に死を迎えることだ。安楽死法が制定されたオランダでも実施されることは少ない。これに対し、人工呼吸器や胃瘻、透析などの延命治療を中止して消極的に死を選ぶことを尊厳死と呼んでいる。重要なのは安楽死と尊厳死を区別することだ。

代表者の佐野秀光氏は政治団体「支持政党なし」の代表を兼任し、この党派は前回2016年の参院選では候補者を10人擁立し、当選者ゼロだった。獲得票数は、60万票余りだった。

「NHKから国民を守る党」(比例選4人、選挙区選7人)は、元NHK職員が2013年に設立した党派だ。「NHKに受信料を払わない方を全力で応援してサポートする」との政策を掲げ、契約者だけが視聴できる「スクランブル放送」の導入を訴えている。国会に議席はないが、31人の地方議員が所属している。

「安楽死制度を考える会」「NHKから国民を守る党」という党派名が有権者へのアピールだけを狙ったものだとしたら、ポピュリズムそのものではないか。

■2億円超を集めた山本太郎氏の「れいわ新選組」

一方、諸派のなかで人気が出ているのが、44歳の参院議員で元タレントの山本太郎氏が旗揚げした党派の「れいわ新選組」だ。比例選で9人、選挙区選1人の計10人を擁立した。

過激な言葉と行動で独特的な存在感を示しており、山本氏がネットで呼びかけた寄付金は2億円を超えた。

4月の統一地方選では、東京や千葉、埼玉など全国で26人の区議、市議を誕生させた。6月現在で31人の地方議員が所属している。無党派層や若者の支持を得ているようだ。だが、沙鴎一歩は大衆に迎合しようとするポピュリズムとの関連も熟考する必要があると思う。

■参院選がこの先数年の日本の進路を決める

7月4日付の朝日新聞の社説は「参院選きょう公示 安倍1強に歯止めか、継続か」との見出しを掲げてこう指摘する。

「首相が政権に復帰して6年半余。この選挙で問われるのは、異例の長期政権となった安倍1強政治のありようそのものだ」
「昨年の自民党総裁選で、首相は3選され、任期は21年9月まである。ここで歯止めをかけて、政治に緊張感を取り戻すのか。それとも、現状の継続をよしとするのか。有権者の選択が、この先数年の国の進路を決めることになる。」

安倍政権を嫌う朝日社説らしい指摘でもあるが、沙鴎一歩はこの指摘の通りだと思う。有権者はそこを認識すべきでる。

朝日社説は主張する。

「官邸主導の行き過ぎによる弊害が指摘される今、論ずべきはむしろ、首相による衆院解散権の制約や国会の行政監視機能の強化ではないか」
「首相は衆参の国政選挙で5連勝中だが、有権者は諸手をあげて支持しているわけではない」

安倍首相はこうした朝日社説の主張や訴えをどう考えているのか。

■アベノミクスは成功してはいない

日本記者クラブ(東京・内幸町)で、3日に行われた党首討論会で安倍首相が記者が質問もしていないのに一方的にしゃべりまくるところなど、「1強」の驕りがそのまま出ていた。安倍首相を支持する一部のマスコミや支持者は、そんな安倍首相に拍手喝采するのだろう。

これではアメリカのトランプ氏とその支持者層との関係とまったく同じだ。ポピュリズムそのものではないかと沙鴎一歩は不安になる。

読売新聞の社説(7月4日付)は「きょう公示 中長期の政策課題に向き合え」との見出しを掲げてこう書き出す。

「深刻な人口減少にどう向き合い、国力を維持するか。不安定な東アジア情勢への対処も問われよう。与野党は現実を直視し、建設的な政策論争を展開しなければならない」

読売社説の性格上、のっけから安倍政権を擁護するのかと思いきや、かなり客観的である。しかも参院選の大きな争点を把握して具体的に主張していこうとの意思が表れている。

■「憲法を論議する政党と、拒む政党のどちらか」

「安倍首相は『380万人の新しい雇用が生まれて、正規雇用の有効求人倍率は1倍を超えた』と述べ、アベノミクスの成果を強調した」
「企業業績や雇用が改善し、景気は緩やかに回復を続けているが、デフレから完全に脱却したとは言えない。企業収益を賃上げにつなげ、消費を増やしていく経済の好循環を実現するには、政策を補強する必要がある」

読売社説は「デフレから脱却していない」「政策の補強を求める」ときちんと安倍政権を批判している。これこそ新聞の社説である。ただし、最後に読売社説らしさが顔を出している。

「衆参両院の憲法審査会の機能不全が続く。首相は憲法を論議する政党と、拒む政党のどちらを選ぶかを参院選で問いたいとする」
「野党は、憲法改正手続きを定める国民投票法改正案の審議を求めたが、与党が拒んだ、と反論している。憲法本体の議論を先送りする理由とは言えない」

「議論を先送りする理由とは言えない」と野党を断罪するが、これでは安倍首相を驕り高ぶらせるだけである。刺激のある調味料を添加した言い方があるのではないか。

それができないのは、保守層の読者に迎合しようする姿勢があるからだろう。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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