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柳井正"現実から考えること"を止めたワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月2日 6時15分

オリックス シニア・チェアマン 宮内義彦氏

市場環境が激変するなか、40年にわたって会社を大きくしてきた柳井氏と宮内氏。会社を持続的に成長させ、海外で成功するために何をしてきたのか。早稲田大学の入山章栄教授をコーディネーターに2人が本音を語る。

■答えは海外での3つの問いにある

【入山】変化の激しい時代が訪れています。それに合わせて経営者やビジネスパーソンに求められるものも変化していく可能性があります。お二人は、これからどのような人材が経営者として相応しいとお考えですか。

【宮内】経営者に求められるものは、大きく言って2つでしょう。一つ目は、経営の専門知識。経営は複雑で、相応に高いレベルの専門性を持っていないと、とても会社を存続、成長させられません。それから2つ目は人間力。何か物事を成そうとするときは、やはり人間同士でやるわけですから、人を引っ張っていける人でないと、いくら専門知識を持っていても、誰もついてきてくれません。当たり前の話ですが、この2つが備わっていないと、どうしようもない。

そこにプラスしていま求められるのは、日本らしさでしょうか。いくらグローバルと言ったって、日本発という出発点がないと無国籍です。グローバルの時代だからこそ、日本の文化やフィーリングといったものが重要になるのではないか。最近、そう考えるようになりました。

【柳井】海外に行くと、いつも3つの問いを突きつけられますね。まず、「あなたはどこから、何をしに来ましたか」。これは当たり前の問いで、僕は「日本です。洋服を企画して作るために来ました」と答えます。

次の問いは、「あなたはこの国のためにどんなよいことをしてくれますか」。ただ金儲けだけだと、誰も歓迎してくれない。だから僕はそれぞれの国で「ビッグビジネスにしたい」と言っています。アパレルは生活必需品ではあるけれど、非常に零細企業が多い業界です。僕は最低でも1000億円ないと事業と言えないんじゃないかと思っているので、それぞれの国でビッグビジネスにすることが必要だと説いています。

それから最後の問いは、「あなたはいままで世界のために何かいいことをやってきましたか」。海外に行って僕を信用してくれと言っても、それまでに積み重ねてきたものがないと信用されません。いまはインターネットの時代だから、その企業が過去にどんなことをやってきたのかがすぐにわかります。それを見て、海外の人も「この企業だったらこんなことをやってくれるんじゃないか」と期待する。その期待がブランドですよ。経営とは、そのお客様に期待されていることと実際にやっていることをイコールにすることだと言ってもいい。イコールが何年間も続いたら、ビッグブランドになるわけです。

【宮内】業種が違うから表現は異なりますが、考えていることは同じだと思います。私は、企業は社会に奉仕するために存在すると考えています。いわば、社会のなかの経済部門担当。われわれの生活に役に立たないかぎり、どんなビジネスをやっても意味がない。

【柳井】おっしゃるとおりです。僕が特に若い起業家に言いたいのは、あなたの金儲けだけやってどうするのということ。そんなの社会の無駄です。

【宮内】一番の目的が金儲けだと、株式上場がゴールになってしまう。それは情けない話です。上場はあくまでも成長のための手段であって、そこから何を成し遂げるかが大事ですから。

ファーストリテイリング 会長兼社長 柳井 正氏

【柳井】IPOが“引退興行”で、小銭をつくってどうするんだと。これはマスコミも悪いですよ。若い起業家を持ち上げて、勘違いさせてしまう。そういう僕も、若いときは「企業は社会の公器」ということを言葉として知っていただけです。

ただ、お二人と違って経営の大学院に行ってないから、創業者の伝記をはじめ、いろいろな本を読んで勉強しました。そうしたら、大経営者はほとんどみんな同じ考え方をしているとわかった。

もちろん世の中は変化するし、人間は環境の動物だから、その人の背景によって考え方も違う。ですから、自分は何かということを発見することが大切です。それが活かされないと、経営はうまくいかない。

【宮内】オリックスは社員13人のベンチャー企業として生まれました。「リースはビジネスとして成立するのか」というところから始まって、利益は出るか、配当はできるか、上場できるかというように、一つずつ上の目標を達成していくといった積み重ねでここまで成長してきました。

会社がどのステージにあるかで目標は変わります。ビジネスを軌道に乗せて収益化したい、海外にも挑戦したいといったように、思いは少しずつ変化するんですね。でも、企業というのは社会にいいものを生み出すためにリスクを取るもので、うまくいけばリターンは後からついてくるという考えは変わらなかった。やみくもにたくさん儲けてやろうとは思わなかったです。

■大きな儲けと社会の利益どちらをとるか

【柳井】儲かりすぎはダメですよ。それはフロックで、たまたま。やっぱり社会にとってプラスになるようなことでないかぎり、成長は続きません。

【宮内】そうですね。新規事業を始める際にも、社会的に支持を得られないと思うことには、手を出しませんでした。利益だけを追求していたらやったかもしれませんが、「ちょっと違うな」と。

【柳井】金融は、特に信用第一ですからね。

【宮内】社会から信用されないような事業では、短期的には多くの利益を生み出せても、いずれ社会的批判を受けて立ち行かなくなるリスクがある。たとえば高金利の消費者ローンなどがそうです。そこは慎重に判断しないといけません。

【入山】興味深い決断ですね。その「やらない」という判断の決め手は、何だったのでしょうか。

■イチローからビジネスマンが学ぶべきこと

【宮内】どのように表現したらいいのかわかりませんが、しいて言えば勘のようなものですね。頭で考える分には絶対うまくいくと思うのですが(笑)、手をつけるには何か大きな違和感があった。

【柳井】もう感覚ですよ。大きな利益が挙がるということは、法律上の問題はなくても、常識から考えたら不当な利益かもしれない。そういうところに気がつく人じゃないとダメです。

【柳井】僕が本当に幸運だったと思うのは、アパレルや小売りは昔からある産業なので、優秀な人が新規であまり入ってこなかったこと。そのあたりがうまくいった1つの要因です。みんな規模が小さいんですよ。僕もいまは大きなホラを吹いていますが、若いころは、自分は一生やっても30店舗くらいつくって、30億円くらいで終わりだろうと思っていたし。

【入山】そうだったんですね。では、柳井さんはどこで「大きなホラ」に切り替わったのですか。

【柳井】現実から考えるのではなく、夢から考えるようにしたんです。これだけ頑張っているのに、どうして成長しないのか。原因を考えたら、そうか、行き先を決めてなかったなと。

【宮内】柳井さんは負けず嫌いでしょ。たぶんそれが大きい。

【柳井】いや、宮内さんもそうだと思いますが、負けず嫌いじゃないとダメですよね。スポーツ選手でも何でも、負けず嫌いじゃないと超一流にはなれない。きっとイチローだってそうでしょ。

【宮内】でも、彼は入団したときはまだ一流じゃなかった。なぜ一流になったのかというと、粘りですね。野球が大好きなんですよ。だから四六時中練習していることが苦にならない。本人は、「努力ではなく当たり前のことをした」と思っているから、伸びたんです。

【柳井】イチローは、成長することが面白くなってきたんじゃないかなあ。スポーツでも事業でも、成長しないと面白くないですからね。あと、彼は小さいことによく気がつくでしょ。バットやシューズへのこだわりとか、研究熱心じゃないですか。ストイックなスタイリストで、あれくらいやらないと超一流にはなれない。経営者にとってすごくいい見本だと思います。

【入山】もしかして、イチローが会社を経営したら、うまくいくかもしれない?

【宮内】それはやめたほうがいい(笑)。彼の専門性は野球ですので。

【柳井】僕らが野球をやっても成功しないのと一緒だよね。通じるところはあっても、やっぱり才能がないとダメだから。でも、確率からいくと、経営のほうがずっと成功しやすいですよ。ただ、成功は簡単にできても、それを持続するのは難しい。世の中は変わっていくから。

■それでも成功を持続できたワケ

【入山】なるほど。では、お二人はどうしてそれでも成功を持続できたのでしょう。

【柳井】やっぱり小さいところにぜんぶ気をつけるからですよ。それと「人間とは何か」という根本的なことをよく考えることが大事。そうしていると、いろんな人と接するときに気がつくことが多い。

【宮内】ビジネスは人間の営みの一部であり、ぜんぶ人間同士の接触のなかで実現するわけですよ。人間に対する理解とか、生きることへの共感とか、そういうものがないと、触れ合っても何も心に浸透していかない。CEOが素晴らしいスピーチをしても、たいていは、あんなの言葉だけじゃないかと言われる(笑)。

【柳井】言葉に頼らないといけないのですが、言葉に頼りすぎたらダメですよね。よく言われるように、経営者は後ろ姿で導かないといけないし、言ってることと実行していることがイコールにならないかぎり、信用につながらない。ビジネス誌を読んでも、「またこいつはいい加減なことを言ってるなあ」という経営者がいますよね。いや、宮内さんは違いますよ(私)。宮内さんも僕も、実行したんです。それで反省もした。だからいまがあるんじゃないですか。

【入山】「人間の器」を考えるうえで、ほかにリーダーが備えておくべき条件はありますか。

【柳井】危機感を持つことかな。経営に、安定・安心・安全はない。経営者をやっていたら、いつ潰れるかまったくわからないという危機感を持たないと。

とは言っても“深刻”になるのはダメですよ。真剣と深刻はぜんぜん違います。経営は真剣勝負でやらなきゃいけない。でも、深刻になったら誰もついてこないですから。頭がいい人は、けっこう深刻になるんですよ。でも、それじゃ困るんです。

【宮内】「真剣にやれ、深刻になるな」は名言ですね。たしかにトップが難しい顔をして眉間にしわを寄せていたら、そんな会社はうまくいかない。

【柳井】言葉遊びみたいなものですけどね。でも、若いころはそういうことに気づかないんですよ。僕も宮内さんも、うまくいかなかった時期は、真剣じゃなくて深刻になっていたんじゃないかな。

いまだって僕は明るくやっているつもりなのに、うまく伝わらないことはありますよ。僕が真剣にアドバイスすると、受け取るほうは「叱られている」と錯覚する(笑)。その人のことを思ってアドバイスしているんだけど、相手は心を閉ざしていて、拒否してしまうんだよね。だから相手が心を閉ざさないように、明るく楽しくやらないといけない。それは経営者の役割です。

■仕事のために命をかけたら逆さまの話

【宮内】私もよくこう言うんです。「仕事なんて命がけでやりなさんな。そんな値打ちないよ。その代わり精一杯やりなさい」と。生活するために仕事をしているわけだから、仕事のために命をかけたら逆さまの話になるわけでね。有意義な人生を送るのが一人ひとりの願いであって、仕事はそのための手段です。ですから、そこに命をかけるのは変なんですよ。そこを間違えると深刻になってしまう。ともすると病気になってしまう。

【柳井】もっと楽観的に考えないと。僕はもう超楽観主義です。自分でいくら考えてもダメなことは、もうダメなんで(笑)。深刻になりそうなら、困ってることをぜんぶ書き出せばいいんです。そして、できることと、本当に自分や会社にとっていいことだけをやれと。人が深刻になるのは、正体がよくわからなくて不安を感じるから。書き出して自分に何ができないのかがわかれば、安心できます。

【入山】人を動かすうえで意識されていることはありますか。

【柳井】任せるしかないよね。トップがぜんぶ決めるわけにはいかないでしょ。事業がたくさんだったり人数が増えたりすると。

【宮内】森羅万象はわからないですからね。相手を見極めて任せることが大事です。「この人が言うなら、そのとおりやってやろうか」とか、「この人の話は8掛けで考えよう」とか(笑)、程度は違いますが、任さないと仕方がない。

【入山】任せるのはきっと勇気がいりますよね。

【宮内】勇気よりも相手のモチベーションを上げてやることが必要です。

【柳井】そのために管理のシステムがあるわけですよ。それを勉強するのがMBAでしょう。MBAも最近変わってきているというけど、どうですか。逆に入山さんに聞いてみたい。

【入山】実は最近私はMBAでも画一的な座学よりも志やパッションを学生に持たせたり、学生に何か「特別な経験」をさせることが大事ではないか、と考えています。実際、うちのMBAでは、熱のある経営者や起業家を招いて、思いを語っていただく授業を開いていて大人気ですね。

■松下幸之助と通じる人との交わり方

【柳井】僕は最近、オン・ザ・ジョブ・トレーニング以外はダメだって言ってます。実務がなくて知識だけだと、わからなくて想像できないんだもん。わが社の人間も、すごくよく知ってるのに結局できない人間が多いですよ。宮内さんや僕みたいに、愚直に1つのことを追求する人は少ない。もうあっち行ったりこっち行ったりで、集中力がない。

【入山】手厳しいですね(笑)。では宮内さんはどのような人に仕事を任せようと思いますか。

【宮内】いろいろな世代の社員と付き合いがあるけれど、人間は変わりますね。大事なのはその人の実力より少し上の仕事を任せること。能力が100の人なら120の仕事、50の人なら60の仕事です。人はよいほうにも悪いほうにも変わりますが、こういうやり方をすると悪くなるより、だんだんよくなる人のほうが多い気がします。

【柳井】それは宮内さんのそばにいるからですよ。やっぱり見本がそばにいるのといないのとでは、えらい違いです。だから、やっぱりいい人と付き合わないといけない。松下幸之助も「運がいい人と付き合え」と言ってますよね。ぜんぶ運ですから。

ここからは僕の持論ですが、運には準備と計画が要るんです。運がよくても、計画していないことはほとんど実現できません。「これ、チャンスだな」とピピッときたときに、そこに集中して突入できるかどうか。準備と計画なしに、それはできない。

【宮内】チャンスは生ものですからね。

【入山】野中郁次郎先生の『直観の経営』という本に、柳井さんのことが書かれていました。野中先生は「本質的直観」という言葉を使われていて、柳井さんにはそれがあると評されていましたよ。

【柳井】それは野中先生がよく言ってる「暗黙知」でしょうね。言葉にはできないけど、過去の経験や学んできたことからピピッとくることがある。ここで言う「学ぶ」は、文章とか座学ということじゃなく、実践ですよ。失礼なことを言いますが、ドラッカーのような特別に優れた経営学者は別にして、ほとんどの経営学の先生の書いていることは表面的でね。MBAで知識を身に付けても、そこは養われない。

【宮内】そうですね。ピピッとくるといっても、正しく直観が働かないと成功しません。じゃあ、どうすれば正しく閃くかと言えば、それまでの蓄積です。先ほど私は「事業選択は勘だ」と言いましたが、それは宝くじが当たるようなものではなくて、経験を蓄積した結果、自然とやるかやらないかの決断ができる。まさにそこが経営者の力じゃないかと思います。

■日本の経営はワンラウンドぐらい遅れている

【入山】話題を「人」から「企業」に広げてみたいと思います。お二人は、いまの日本企業をどのように見ていますか。

【宮内】日本の経営はワンラウンドぐらい遅れているような気がしますね。

【柳井】いや、もっとです。スリーラウンドは遅れてる。

【宮内】アメリカ的な経営が正しいという風潮が長くあったでしょう。アメリカの水準に追いつくために、経営者は冷徹で、計数管理ができて、なおかつマーケットが評価する結果を出さないといけないと。それを日本企業にすべて持ち込むと、日本的なよさが消されてしまって、ただでさえ遅れている日本的経営がより遅れてしまう。本当は日本的経営に欧米のいいところだけを足していけばいいのに、それをやらないのです。

たとえば日本の企業はやっぱりチームプレーに優れていますよ。チームプレーのなかのいちばん重要な要素は、それこそ野中さんの暗黙知。ところが昨今、経営を論じているのを聞くと、暗黙知を否定して、なんでも数値化しようとしてしまっている。それはやっぱり違う気がしますね。暗黙知を全否定するのではなく、アメリカ流を適度に混ぜることがベストソリューションでしょう。

【柳井】日本人の多くは精神構造がすごく形式的ですよ。それで、すごくレガシーが入る。古い会社は、もうレガシーの塊。それに、経営者のバトンタッチをやっているのもよくないですね。バトンタッチをやると、前任者を全肯定するか全否定するかしかないんですよ。うまく組み合わせていけばいいのに、極端になってしまう。社長の在任期間が短すぎるのもいけないですね。最低10年はやらないとわからないですよ。

それと、最終的にトップに創業者精神がないとダメです。何が起きるかまったくわからない時代でしょ。そのときに創業者なら、どういうことを言っていたのかと考えないと。僕が参考にしたのは、戦後の本田宗一郎や松下幸之助の経営。戦前の経営者も含めて成功している人はみんな一緒で、原理原則を持っています。たとえば「真・善・美」みたいに、人間の基本的な価値観みたいなところに寄るんですよ。僕もそれを若いときに知っていれば、もっと成功したんじゃないかと思います。

■これから日本の大企業がとるべき方策

【宮内】戦後の輸出産業は、日本を廃墟から世界第2位まで押し上げました。あのころの経営者は、リスクを取り、イノベーティブであり、それから世界を見ていたんですね。本田さんや松下さんはもちろんそうですが、当時はサラリーマン経営者も廃墟から立ち上がる創業者精神を持っていたのかなと。

【柳井】いや、そのころでもサラリーマン経営はダメじゃないですか。宮内さんは違いますよ。本当にゼロからやられてね。サラリーマン経営なら、きっとアメリカのリース業界をそっくりマネして失敗していた気がする。

対談が行われたファーストリテイリングの有明本部●1~4階と5階の半分は物流センター、5階の残り半分は仮想店舗、6階はワンフロアで約5000坪のオフィス「UNIQLO CITYTOKYO」になっている。

【宮内】われわれの会社はベンチャービジネスで、野武士みたいなものでした。野武士はお城がないから、食い扶持を毎日探さないといけません。新しいことをやるのも、そうせざるをえないからでした。そうしているうちに会社の社風やDNAといったものができてくる。最初から大きなお城があったら、前例のあることしかやらなかったかもしれない。

【柳井】お城があると、みんな錯覚するんですよ。それこそ大商社や大銀行に行ったら、すごい本社が立っています。でも、立派なのは本社であって、あなたじゃないのよ(笑)。若い人は、それに気づかない。

【宮内】あと、親がよくないですよ。一生懸命育てて、いい学校へ行かせて、いい会社に入らせて。人生の大事な選択なのにブランドしか見ていない。これじゃ若い人は勘違いします。

【宮内】もう一ついま、日本の経営者がチャレンジしなくてはいけないのはグローバル化です。最初に言ったように、日本発のグローバル経営の構築が必要でしょう。まだ答えは出ていないと思いますが、柳井さんのやっておられることがロールモデルの1つになればいいなと思いますね。そういう意味で、オーナー企業はすごく頑張っているんですよ。でも、それ以外の企業からはイノベーションが生まれていない。

【柳井】大企業はぜんぶ分社化して、それをグループ化すればいいんですよ。各社にいい経営者がいたら成長するし、いなかったら成長しない。それから分社化すると遠心力が働くから、グループは求心力をつけるように経営者がやっていく。宮内さんは、金融の世界でそれをうまくやっているので。いま金融はすごくチャンスがありますよね。僕がいま40代なら、金融ででかいことを考えるし、社会的にプラスになることをやっていると思う。だから宮内さんには、もっと頑張っていただかないと(笑)。

【宮内】いま若い経営者は、怖いけど面白いことが山のようにあって、うらやましいですよ。私は見守らせていただきます(笑)。

【柳井】いや、僕は宮内さんのような人が出ないと、日本の大会社はぜんぶ潰れるんじゃないかと思います。サラリーマンで、宮内さんのような考え方をしている人はいないじゃないですか。僕は気に入らない人とは付き合わない主義。付き合うのは、自然にベンチャー企業の人が多くなります。宮内さんはえらくて、大会社の人も含めてぜんぶと付き合ってきた。だから宮内さんに日本の会社の道筋を断ってもらわないと。

■日本の大会社は行政のマネをしている

【宮内】たしかに日本の大会社は問題です。結局、ほとんどが官僚化しているんです。官僚の目的は行政。行政は法律に則って、物事をきっちりと進めていくことが大事です。でも、企業が行政をやってはいけません。企業がやるべきことは変革でしょう。国で言えば政治、国をよい方向へ導く仕事です。それなのに日本の大会社は行政のマネをしている。これはよくない。

【柳井】宮内さんがおっしゃることは、銀行に行くとすぐわかります。応接室がどこも一緒だから(笑)。ぜんぶ人のことをマネしてるんです。銀行の人には申し訳ないけれど、あれじゃダメです。本当は、いま銀行ってすごくチャンスがあるんですよ。情報化の先端を行っているのは金融業。いまのままでそのチャンスをつかめるかといったら、難しいでしょうが……。

【宮内】それはほかの業界でも言えることでしょう。経営者がリスクを取る意識を持たないと、日本の会社はよくならない。それは切に望みたいですね。

▼広島の1号店から始まったファーストリテイリング
1949
山口県宇部市でメンズショップ小郡商事を創業
1984
ユニクロ1号店を広島市に出店
1994
広島証券取引所に上場
1996
東京事務所を開設
1998
ユニクロのフリース1900円が話題に。都心型店舗、ユニクロ原宿店をオープン
1999
東証一部銘柄に指定替え
2001
英国ロンドンに出店し、海外進出を開始
2002
中国上海市にユニクロを出店、中国初進出
2005
韓国初のユニクロ店舗をソウルに出店
米国初のユニクロ店舗をニュージャージー州に出店
2006
低価格カジュアルブランドGUを設立し、千葉県市川市に1号店をオープン
ニューヨークに初のグローバル旗艦店を出店
2017
有明本部UNIQLO CITY TOKYOが稼働開始
▼2018年8月期業績
●売上収益 2兆1,300億円
●営業利益 2,362億円
●展開国数 22カ国
●従業員数 53,571人

(2019年2月末時点)

▼社員13人からスタートしたオリックス
1964
大阪市にオリエント・リース(現オリックス)を設立
1970
大阪証券取引所第二部に上場
1971
船舶リース事業を開始
1972
本店を大阪から東京へ移動
1973
東証、大証、名証一部に指定替え
自動車関連サービスを開始
1986
不動産開発、施設運営など不動産事業を開始
1988
阪急ブレーブス球団(現オリックス野球クラブ)を買収
1991
生命保険事業へ参入
1995
再生エネルギーなど環境関連ビジネスに参入
1998
ニューヨーク証券取引所に上場(日本企業で12番目)
山一信託銀行を買収し、銀行業へ参入
2016
関西国際空港の運営事業を開始
▼2019年3月期業績
●営業収益 2兆4,349億円
●営業利益 3294億円
●展開国数 37カ国
●従業員数 32,411人(2019年5月時点)

■対談司会を終えて

日本を代表する経営者であるお二人の対談の司会をして強く感じたのは、「いい経営者の条件は普遍」とお二人が口を揃えられていた点です。

早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山章栄氏

よく考えると、宮内さんと柳井さんが成長させてきた事業は全く違います。宮内さん率いるオリックスは金融を主業にしつつも、実際には「何をやっている会社なのか」を一言で表しづらいくらい多角的に展開しています。一方、柳井さんのファーストリテイリングは、アパレルSPAの単一事業でグローバル化を進めてきました。業界やビジネスモデルは、正反対といっていいくらいに違います。

しかし、お二人が挙げた「いい経営者の条件」は、ほぼ共通していました。まず、表層ではなく本質を見ること。そして、いかに社会のために事業をするのかということ。「ビジネスは社会の一部にすぎない」(宮内さん)、「海外では、この国のために何をしてくれるのかと聞かれる」(柳井さん)と、表現こそ違いますが、根底にあるものは同じで、お二人とも事業の目的は社会をよくすることだと考えています。異なる業界、異なる事業で大成功された2人が語るこの共通項は、説得力に溢れています。

世界の経営学には、センスメーキング理論という考え方があります。センスメーキングとは「腹落ち」という意味で、優れたリーダーは周囲に「この仕事は何のためにあるのか」を腹落ちさせ、納得させ、ワクワクさせながら巻き込む必要がある、ということです。そのときに、「お金を儲けたい」という目的では周囲を腹落ちもワクワクもさせられません。お二人は常に社会の発展を見据えているからこそ、周囲を巻き込んでこられたのかもしれません。

一方で私には、お二人の考え方の多少の違いも垣間見えました。それは「志の立て方」です。柳井さんは、将来の大きなビジョンを描き、そこに向かって突き進むビッグドリーム型です。一方、宮内さんは「目標がその都度変わった」というように、会社の成長に合わせて目線を上げていくタイプ。お二人とも志を持っていますが、その立て方が違うのです。

いま世界の潮流になりつつあるのは、柳井さんのビッグドリーム型でしょうか。特にシリコンバレーは、その傾向が強い。シンギュラリティ大学のレイ・カーツワイルは「ムーンショット(困難だが、実現すればインパクトが大きい挑戦)で大きな社会問題を解決しよう」と言っていますし、「人類を救う」というビジョンを掲げるイーロン・マスクもその典型でしょう。

ただ、宮内さんのようなアプローチで成長している企業も少なくありません。何よりオリックスがそうですし、ピボットを繰り返して大きくなったDeNAも該当するでしょう。そう考えると、どちらも優劣はつけがたい。おそらく人や業態によって向き不向きがあるのかもしれません。読者の皆さんも、お二人の主張の共通項は心に留めながら、「自分は柳井型なのか、それとも宮内型なのか」を考えてみるのもいいかもしれません。

▼入山教授の3つの視点
●いかに本質を見極めるか
●社会のためにどう役立つか
●腹落ちする目標を立てられるか

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宮内義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年、兵庫県生まれ。関西学院大学商学部卒業。ワシントン大学経営大学院でMBA取得後、60年日綿実業(現双日)入社。64年4月オリエント・リース(現オリックス)へ入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO、2000年代表取締役会長・グループCEO、14年よりシニア・チェアマン。著書に『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』など。
 

柳井 正(やない・ただし)
ファーストリテイリング 会長兼社長
1949年、山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、ジャスコ(現イオン)へ入社。その後、72年父親の経営する小郡商事に入社。84年カジュアルウエアの小売店「ユニクロ」の第1号店を広島市に出店し、同年社長に就任。91年に社名をファーストリテイリングに変更。2002年にいったんは代表取締役会長となるも、05年9月に再び社長に復帰。著書に『一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』、解説に『プロフェッショナルマネジャー・ノート』など。
 

入山章栄
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
専門は経営戦略、グローバル経営。慶應義塾大学を卒業後、ピッツバーグ大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。三菱総合研究所研究員、ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授、マクロミル社外取締役などを務める。
 

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宮内 義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年、兵庫県生まれ。関西学院大学商学部卒業。ワシントン大学経営大学院でMBA取得後、60年日綿実業(現双日)入社。64年4月オリエント・リース(現オリックス)へ入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO、2000年代表取締役会長・グループCEO、14年よりシニア・チェアマン。著書に『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』など。

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柳井 正(やない・ただし)
ファーストリテイリング 会長兼社長
1949年、山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、ジャスコ(現イオン)へ入社。その後、72年父親の経営する小郡商事に入社。84年カジュアルウエアの小売店「ユニクロ」の第1号店を広島市に出店し、同年社長に就任。91年に社名をファーストリテイリングに変更。2002年にいったんは代表取締役会長となるも、05年9月に再び社長に復帰。著書に『一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』、解説に『プロフェッショナルマネジャー・ノート』など。

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(オリックス シニア・チェアマン 宮内 義彦、ファーストリテイリング 会長兼社長 柳井 正 司会=入山章栄 構成=村上 敬 撮影=市来朋久)

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