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五輪選手村タワマンを買う人のヤバい老後

プレジデントオンライン / 2019年7月15日 11時15分

「HARUMI FLAG」公式ウェブページより

東京五輪の選手村跡地にできるマンション群「ハルミフラッグ」。3LDKで8000万円程度と高額な物件も多数あるが、多くの購入希望者の注目を集めている。ファイナンシャルプランナーの中嶋よしふみ氏は「いま購入しても入居できるのは4年後。それまでに働き方や家族の健康、住宅金利などが大きく変わっているリスクがある。買うべきかどうか慎重な判断が必要だ」という――。

■東京五輪の選手村跡地にできるマンションに住みたい人々

東京・湾岸エリアにできる東京五輪の選手村は、大会終了後に総戸数5632戸(分譲4145戸、賃貸1487戸)のマンション群「ハルミフラッグ」となる。購入希望者に示されている予定価格は約90平米の3LDKで8000万円程度、坪単価は約300万円と高額なものが多く、全体的に間取りは広めだ。

現在の都内マンション相場と比べれば、この坪単価は標準的な水準だが、当初はもっと安い価格で売り出されるとみられていた。最寄り駅の都営大江戸線・勝どき駅までは、近い棟でも徒歩17分、遠い棟では徒歩20分以上かかり、アクセスがよいとはいえないからだ。

最寄り駅まで徒歩20分で8000万円というマンションを一体誰が買うのかと思う向きもいるだろう。だが、4月27日に販売センターがオープンすると、5月の大型連休には6月末まで予約が埋まるなど注目度は極めて高い。実際に買うとどうなるか。シミュレーションをしてみたい。

■「入居できるのは4年後」が意味すること

ハルミフラッグに入居できるのは2023年3月からだ。これは選手村として使用後に、大幅にリフォームされるためだ。新築マンションの入居は購入から時間がかかることも多く、1年後というのも珍しくない。2年後ということもある。しかし、さすがにハルミフラッグのように4年後というのは聞いたことがない。

筆者は都内でファイナンシャルプランナーとしてお金の相談を受けているが、マイホーム購入で相談に来る人の多くは「共働きで小さい子どもがいる30代半ばの夫婦」だ。入居が4年後となれば子どもは小学校に進学していることもあるだろうし、収入や勤務先も変わることもあるだろう。

また、本人や親の健康状態などライフプランが大きく変わる場合もあるはずだ。にもかかわらず4年というタイムラグを踏まえ、今の時点で購入を判断しなければいけない。これには大きなリスクとなる。

■7200万円の35年ローン、支払い額はいくらになる?

実際に購入を考えた時、どれくらいの収入が必要になるか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/kiddy0265)

ハルミフラッグでは、「手付金」として物件価格の1割が必要だ。ファミリータイプで8000万円物件を例に考えると、800万円である。ここで重要になるのは、契約は今年7月末からで、ローンの実行と返済は4年後からスタートするということだ。したがって金利も4年後の水準が適用されため、相当な金利変動リスクを背負うことを意味する。

金利変動については後述するが、まずは現在の金利水準で返済額を計算してみたい。

8000万円の物件の場合、一般的な目安として5%の400万円が「諸費用」として必要となる。つまり初期費用として、800万円+400万円=1200万円の現金を用意しなければならない。

8000万円から手付金を頭金として差し引いた7200万円を35年の住宅ローンを組む場合、執筆時点のフラット35の固定金利1.27%で計算すると、毎月の返済額は約21.2万円になる。これに加えて毎月の管理費・修繕積立金がかかる。ハルミフラッグで90平米の床面積の場合、4.5万円程度だ。固定資産税は年間12万円程度と仮定した場合、これらを合計すると1カ月の負担総額は約26.7万円となる。

■年収は最低でも1000万円以上が必要になる

これだけの住宅ローンを組むにはどれだけ年収があればいいのか。金融機関の融資額の上限は「住宅ローンが年収の何倍か」で決められることが多い。年収10倍となると審査を通すのはかなり難しく、7~8倍が上限であることが多い。

このため、8000万円の物件を買うために、ローンで7200万円を借りるには、最低でも世帯年収が1000万円程度が必要となる。

ただ、世帯年収が1000万円ギリギリで7200万円を借りるのはおすすめできない。子どもがいない、あるいは一人っ子で学校は公立コースで構わない、なおかつ趣味にもお金を全くかけない、というライフスタイルであれば可能かもしれないが、それでも家計はかなり厳しくなる。

1000万円はあくまで年収額であり、手取り額はそれより2~3割少ない。また、老後資金の積み立てや繰り上げ返済も考え、毎年の貯金額がゼロでよいはずがない。

■老後資金のことを考えれば年収1400万円ないと厳しい

筆者は、マンション購入者に対して手元にお金を残すことを重視するため、「頭金は少なめでいい」「繰り上げ返済もあまりやらなくていい」とアドバイスをする。

しかし、仮に世帯主が35歳でハルミフラッグを購入したとすれば、4年後の入居時は39歳。ここから返済がスタートする。この場合、定年の目安となる60歳や65歳の時点で残債はどうなっているだろうか。

残債は21年後の60歳時点では約3267万円、26年後の65歳時点では約2166万円となる。「老後2000万円が不足」ともいわれる中、65歳の時点で仮に2000万円の老後資金に加えて、安心できる状況として残債と同額の貯金を確保したいと考えれば4166万円の貯金が必要になる。

返済開始の39歳から65歳時点で約4000万円の貯金をゼロから貯めるには、金利をゼロとすれば単純計算で毎年160万円の積み立てが必要になる。月額にして約13.3万円だ。

先ほど試算したように、毎月の諸費用も含めて約26.5万円の住宅コストを払いながら、この約13.3万円を貯めると合計約40万円。さらに、食費など日々の生活費があるわけで支出額はどんどん膨れ上がる。

生活費の一例として、住宅コスト以外の生活費と教育費で別途月20万円、生活費以外の支出を月20万円(夫婦のお小遣いに旅行や帰省、家具家電の買い替え、冠婚葬祭などを含む生活費以外の支出全部)と考えれば、住宅コスト+貯金+生活コスト+生活費以外の支出で合計は月約80万円だ。つまり、年間で1060万円の手取り収入(給料から所得税、社会保険料、住民税を除いた額)が必要という計算になる。

これだけの額の手取り収入を得るには世帯年収で1400万円以上は必要だ(夫婦でそれぞれどれくらい稼ぐかによって、税率や社会保険料の負担が変わり、手取り額も変わる)。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/debyaho)

■子供を私立中学へ通わせたい、車を保有したい、ならばプラスα

また、子どもは中学校から私立に通わせたい、車を保有したい、お金のかかる趣味がある……といった家族の希望や個別事情も考慮すればこれでも足りない(ハルミフラッグの駐車場は3万円~)。

ここまでの試算は、老後資金や65歳で完済するための貯金額(月13.3万円)を含んではいるが、共働きでこれだけ稼いでも余裕のある生活とはいえない。もちろん貧乏とか生活が苦しいといった水準ではないが、少なくとも世間一般でイメージする世帯年収1400万円の贅沢な暮らしとはほど遠いのではないか。

夫婦共働きの場合、「病気で働けなくなった」「出産・育児で時短勤務になった」といった事態になれば、マネープランはたちまち崩れる。老後資金や65歳で完済するための貯金をする余裕がなくなる可能性も大いにあるだろう。

なお、上記の計算には住宅ローン減税によるプラスの効果は考慮していない。

現在は、年末のローン残高に1%をかけた額が10年間、所得税と住民税から差し引かれる。消費税増税後の契約・引渡しの場合、緩和措置としてさらに11年目から13年目まで同じように年末のローン残高に1%をかけた額か2%の増税分、いずれか低いほうが同じように所得税から差し引かれる。

住宅ローンを共働きの夫婦それぞれに上手く割り振って、返済負担率の上限を回避しつつ、この減税分を無駄にしなかった場合、合計で約778万円が戻ってくる。この額を35年間で1カ月あたりに直すと約1.8万円程度でその分だけ余裕が生まれる。購入から13年でこれだけ税金が戻ってくるのであれば頭金や諸費用で減った貯金を元に戻し、その後の大学進学費用や老後の生活費にあてることができる。これも計算に含んでおくべきだろう。

■金利が2~3%になると追加の負担額は約1095万~約2715万円

ただ、恐ろしいことに、これらの計算は現在の超低水準の金利を前提にしている。ここから金利上昇を加味するとどうなるか。以下、金利上昇時のシミュレーションだ。1.27%を基準に、金利が上昇した場合に月額・年間の返済額がどれくらい増えるかを計算した(単位・円)。

金利1.5%程度ならば、総額にして35年間で約336万円増加となる。月額に直せば8022円の負担増だ。しかし金利が2%、3%まで上がっていくと追加の負担額はそれぞれ総額で約1095万円、約2715万円と、人生設計が大きくほど大きな額になる。

では、今後、金利は上がるのか、下がるのか。

固定金利の場合は、長期金利と連動し、長期金利は国債の売買で決まる。4年後の金利を予想することは4年後の日経平均を予想することと同じだ。シンプルに金利上昇リスクがあることを認識して、「絶対に金利は上がらない」などと考えず、慎重に判断するべきだろう。

■「今の金利ならギリギリ買える」という人は……

したがって、「今の金利ならギリギリ買える」という人は、ハルミフラッグでワンランク低い価格帯を検討したほうがいいだろう。

現在は金融緩和中のため数カ月で金利が何%も上がることは考えにくいが、4年もあれば何が起こるかわからない。もちろん4年の間に、近隣のマンション相場が急激に上がり、現在の価格で契約したハルミフラッグが結果的に割安になることも考えられる(当然その逆も)。このあたりはリスクとしか言いようがないが、筆者はハルミフラッグについて、経済環境や家計の変化を理由に相当数のキャンセルがあると推測している。

すでに開発されつくしたといっても過言ではない東京で、これだけ広大な土地に、そして五輪後の選手村跡地に新しい町が一気に構築されることは恐らく今後100年以上はあり得ないのではないか。

東京五輪と、そして東京五輪後に生まれる新しい街に注目しておきたい。

(ファイナンシャルプランナー 中嶋 よしふみ 写真=iStock.com)

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