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なぜ日本人は小遣いを現金で渡したがるか

プレジデントオンライン / 2019年7月12日 9時15分

セブンイレブンの「7Pay」の案内(東京都新宿区)。セブン&アイHDは、全国のセブンで7月1日に始まったバーコード決済サービス「7Pay」で、第三者による不正利用が発生し、約900人が計約5500万円の被害に遭った恐れがあると発表した。(写真=時事通信フォト)

■セブン&アイやヤフーなどトップ企業でもトラブル続出

世界全体でキャッシュレス化の動きが急速に進んでいる。国内外の中央銀行も法定通貨のデジタル化(デジタル・カレンシー)の研究に注力している。

わが国はキャッシュ(現金)を使う人が多い。スマートフォンを用いた決済サービスも増えているが、依然として一般的にはなっていない。しかも最近はトラブルが相次いでいる。セブン&アイグループのモバイル決済アプリ「セブンペイ」では不正アクセスが起きてしまった。また、ヤフーの個人信用格付けサービスでは、個人情報を第三者に提供していたことで批判を集めた。

今後も、世界全体でキャッシュレス化は拡大していくだろう。わが国もこの動きをキャッチアップしなければいけない。だが、だからといってシステムが中途半端なものではダメだ。利用者が安心して利用できるシステム構築が求められている。

■わが国でモバイル決済の導入が遅れたわけ

世界的に見て、わが国はキャッシュレス化がかなり遅れている。そこには私たち日本人の生き方=文化の影響がありそうだ。日本人は現金が好きだ。それは偽札の存在を心配しなくていいからだろう。

お金=紙幣の印刷には高度な技術が要求される。印刷技術が高いほど偽札を作ることは難しくなる。これは現金を使う際の安心感に無視できない影響を与える。

たとえば米国では、100ドル札を使って食事などの料金を支払おうとすると、店員が不安そうな表情をし、お札を光に照らして偽札ではないかを確認しようとすることがある。それは、米国における偽札への不安が相対的に高いことを示している。

しかし、わが国では、そのような状況に遭遇することはまずない。国立印刷局によると、わが国での偽札の発生率を1とした場合、ユーロは216、米国は638だという。わが国の紙幣の信用度はかなり高いのである。それはキャッシュレス化の遅れの裏返しだ。

裏を返せば、米国や中国では現金の使用に対する不安がある。それが、モバイル決済をはじめとするキャッシュレス化の進展を支えている。

■「孫の小遣いは現金書留で送らないと心配」

わが国の遅れにはもう一つ理由がある。少子高齢化だ。

わが国では、出生率の低下とともに社会全体に占める高齢者の割合が上昇している。高齢者は相対的に多くの金融資産を保有している。その上、高齢者の多くが現金の使用を重視する。ある知人は「孫の小遣いは現金書留で送らないと心配で仕方がない」と話していた。そうした人々の生き方、考え方が、わが国の現金志向を支えている。

現金の使用にはさまざまなコストがかかる。

まず保管場所が必要だ。その代表例が金庫だ。盗難を防ぐためには、金庫に保管し、鍵をかけなければならない。扱うお金の量が増えると、大型の金庫の設置のための場所が必要になる。加えて、自然災害などにも耐えられるだけの堅牢さを実現する技術力も求められる。

銀行はそうしたコストを負担しなければならない。加えて、ATMの設置と管理などにも費用が掛かる。国レベルで考えると、人々が安心して現金を使用できるよう、常に偽造防止技術の高度化に努めなければならない。

■アリババ傘下の高速融資サービスは審査に1秒

こうした費用はデジタル技術を用いることで削減できる。つまり、ネットワークテクノロジーを用いることによって、金融サービスの効率化を目指すことが可能となる。これは、わたしたちの生活にとって潜在的なベネフィット(便益)だ。

もし、現金を使うことなく料金の支払いや口座間の送金などが可能になれば金庫を設置する必要性は低下する。ATMに行って、利用手数料を払ってまで現金を引き出す手間も省ける。すでに、銀行口座の開設に関しても、インターネット上で完結させることが可能だ。

こうした利便性に加え、国全体で資金の移動を監視することを目的に、中国では「QRコード」を用いたモバイル決済が急速に発達し、社会に浸透してきた。アリババのアリペイやテンセントのウィーチャットペイが代表格だ。その上、アリババ傘下の「芝麻信用(セサミ・クレジット)」は、個人の信用力格付けサービスを提供している。信用力=スコアの高い人は、ホテルの予約や金利面での優遇を受けられる。

加えて、アリババ傘下の「網商銀行(マイバンク)」は、AI(人工知能)を用いてビッグデータを分析することにより、高速融資サービスを行っている。同社はこのサービス「3・1・0」という言葉で説明している。融資申請の記入に必要な時間は約3分。融資可否の審査は1秒。そして審査にたずさわる人間は0。すべてAIで審査する仕組みなのだ。

■スウェーデンの中央銀行は「e-クローナ」の流通を目指す

社会全体の効率性を考えると、キャッシュレス化は不可避だ。米国でもSNS大手のフェイスブックが独自の仮想通貨のコンセプトを公表した。その目的は、自社のプラットフォームを生かして決済ビジネスからの利得を手に入れることにある。

こうした変化は中央銀行にとっても無視できない。民間の仮想通貨の利用が増えれば、法定通貨による決済が減る可能性がある。そうなれば金融政策を通して通貨の価値を安定させ、金融システムの健全性を維持することは容易ではなくなるだろう。スウェーデンの中央銀行は法定通貨をデジタル化した「e-クローナ」の流通を目指している。マネーロンダリングの防止のためにも、法定通貨のデジタル化は急務といえる。

このように考えると、キャッシュレス決済の普及は世界経済全体での趨勢であることがわかる。わが国では現金への安心感があるからといって、モバイル決済などはひとごとだと片づけることはできない。徐々に、わが国でもキャッシュレス化は普及していくだろう。

■「出遅れているから、多少の問題は仕方ない」ではダメ

企業に求められることは、老若男女を問わず、わたしたちが安心して利用できるシステムを構築することだ。不正アクセスによる被害の発生や、個人情報の管理に関する不安が顕在化するようでは、ユーザー基盤を固めることはできない。

世界全体で、IoT(モノのインターネット化)をはじめ、デジタル化の流れはよりスピードアップしていくだろう。そうした変化に適応するためにも、わが国企業はしっかりとした準備を進めなければならない。「中国や米国に出遅れているから、多少の問題は仕方ない」という言い逃れは許されない。

(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト)

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