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"夏はカレー"を定番にしたロイホの37年

プレジデントオンライン / 2019年7月18日 9時15分

「37年目 夏のカレー&スパイスグリル」フェアメニュー(画像=ロイヤルホストHPより)

夏といえば、カレーだ。食品メーカーや外食各社は「夏カレー商戦」に火花を散らす。しかし、そもそもなぜ「夏はカレー」なのか。暑い夏に辛いものを食べるという発想はどこから来たのか。調べてみると、ロイヤルホストが深く関わっていることがわかった――。

■1983年から続く「カレーフェア」

7月3日、東京都世田谷区の「ロイヤルホスト馬事公苑店」を訪れてみた。この日から、国内に217店ある各店で「37年目のカレーフェア」が始まることを知ったからだ。

1978年に開業した「馬事公苑店」は、ロイヤルホスト株式会社の親会社・ロイヤルホールディングス(ロイヤルHD)にとって重要な店だ。同社・経営企画部顧問の城島孝寿さんは「この店の成功で、福岡県発祥の当社が首都圏の方に知られるきっかけとなりました」と振り返る。福岡県で「ロイヤル」として知られていた同店は、首都圏進出後に「ロイホ」と呼ばれるようにもなった。

メニューを開くと、カレーよりも、ステーキにカレーソースを添えた商品が目立つ。同社が中期計画で「ステーキメニューのブラッシュアップ」を掲げているからか、多彩な組み合わせのメニューで訴求していた。

「2019年カシミールビーフカレー」(写真=ロイヤルホストHPより)

ただし、今回の目的は「伝統」だったので、「2019カシミールビーフカレー」(1480円+税。一部の店は1530円+税)を注文した。メニューには「1983年の第1回のカレーフェアから続く夏の伝統、定番カレー」と書かれていた。後で聞くと、毎年のように人気1位を占める商品だそうだ。味は深みがあり、おいしく感じた。馬事公苑店には、学生時代に少し奮発して何度か足を運んだこともある。満足感には、そうした郷愁も手伝ったように思う。

■インドネシア人コックのまかないから看板メニュー

ロイヤルHDの吉田弘美さん(経営企画部コーポレートコミュニケーション担当部長)は、「ロイホとカレー」について、こう説明する。

「看板メニューのひとつ『ビーフジャワカレー』は、昭和40年代にインドネシア人のコックが、まかないで作っていたカレーを伝授してもらったもの。水と小麦粉をほとんど使わず、20種類以上の香辛料をベースに、じっくり炒めた玉ねぎの甘みとスパイスが効いたカレーです」

「一方、『暑い国発祥のカレーで夏を元気に過ごしてほしい』という思いから、1983年から夏季限定でカレーフェアを実施してきました。第1回から『カシミールカレー』を提供しているようにスパイスを効かせたメニューを中心に、インドやタイなどさまざまな国のカレーを紹介してきました。過去に提供したカレーの数は160種類以上になります」

■初期は販売不振の「タイカレー」を積極投入

吉田さんはさらに「当社の社員にとって、カレーは大切な商品というだけでなく、それぞれ何らかのエピソードを持っています」として、こんな話を教えてくれた。

「私が学生時代、『ロイヤルホスト仙台バイパス店』(宮城県仙台市)でアルバイトを始めた1990年のカレーフェアは、ロイヤルとしても本格的なタイカレーを発売した年でした」

当時の日本では、1986年ごろに最初の「エスニックブーム」があったが、代表的なタイ料理のひとつである「タイカレー」は、まだ多くの人になじみがあるものではなかった。

「メニューにあったグリーンカレーも『緑色のカレーってなに?』『すごい香り……』と思ったら、ココナッツミルクの香りで、学生アルバイトには衝撃的でした」(同)

「グリーンカレー」は、あまり売れなかったそうだ。それでも2年後の同フェアでは4品構成で「タイカレー」を投入した。バブル期の時代性もあったのか、積極性がうかがえる。

■「調理人の採用凍結」で低迷した時期も

今でこそ好調なロイヤルホストだが、2000年代には「サイゼリヤ」などの低価格路線に押されて低迷した時期もある。業績は悪化し、運営方針も迷走。2002年から数年間は調理人採用も凍結してしまう。2007年にはロイヤルホストの首席料理長だった田島澄夫さん(故人)が、当時の経営陣に「料理の味を守るためにコックを育ててほしい」と詰め寄り、それが受け入れられなかったため退社するという騒動もあった。

田島さんは社内で「カレーといえば田島」と呼ばれた料理人だった。入社は1967年。同社が「ロイヤルホスト1号店」を福岡県北九州市に開店したのは1971年だから、それより前になる。1977年に東京1号店の「三鷹店」のコックに抜擢。本社に戻ると、創業者の江頭匡一(えがしら・きょういち)さん(1923~2005年)にメニュー策定の責任者に指名された。田島さんは当時32歳。以来、ロイヤルホストの味を磨き続けた人だった。

変化があったのは2011年。三鷹店の店長も務めた矢崎精二さんが社長に就くと、田島さんを「料理顧問」として呼び戻したのだ。ここからロイヤルホストは、競合よりも「高付加価値路線」に舵を切り、業績回復につなげていく。

新しい経営陣が出した答えは「調理職を採用・育成し、ロイヤルの強みを取り戻す」だった。いわば原点回帰といえよう。

■ハウス食品も「夏カレー」を始めた

同じ2011年には、ロイヤルホストにとって追い風も吹いた。家庭用のカレールー、レトルトカレー最大手のハウス食品が、レトルト商品で「夏のカレー」を発売したのだ。

「きっかけは、毎年夏になると、当社のお客様相談センターに『(室温が上がるので)レトルトカレーを温めないで食べてもよいか?』という、消費者の問い合わせが増えたからです。そこで、温めずにそのままごはんにかけてもおいしいレトルトカレーを、夏期限定で発売するようになりました。好評につき、2015年からは『旨辛キーマカレー』を追加投入しています」(ハウス食品グループ本社、広報・IR広報課の前澤壮太郎さん)

同社は「ハウス バーモントカレー」「こくまろ」「ハウス ジャワカレー」といった主力のルー商品でも「夏に効くカレー」などのフレーズで広告訴求してきた。家庭用食品メーカーなので訴求内容は違うが、最大手の展開も「夏はカレー」の浸透につながったのだ。

■毎年25人の調理職を採用し、各店にコックがいる態勢に

ロイヤルホストは、競合の「ガスト」「ジョナサン」(すかいらーくグループ)や「デニーズ」(セブン&アイHD)、「ジョイフル」などとともに、ファミリーレストラン(ファミレス)に位置づけられるが、競合に比べて少し上質感がある。理由のひとつが、調理職採用だ。

2002年に一度凍結したが、2006年から本格的に再開。現在では毎年、調理職を25人程度採用している。他社は調理のレベルによって質が変わることを嫌い、店舗には調理職を配属しないことが多い。一方、ロイヤルは店舗にコックを配属することで、セントラルキッチンだけでなく、店舗での調理にも力を入れている。

■「シェフの作り方」を工場で再現

今回、福岡県のロイヤルHD本社にも伺い、本社に隣接する福岡セントラルキッチン工場を見学した。工場長の江頭裕輔さんの入社は1983年。カレーフェアと“同期”だ。亡くなった創業者と同じ名字だが、血縁関係はないという。江頭さんは「カレーは工場で作り、熟成することで全体のバランスがとれ、おいしくなる」と話し、こう続ける。

「工場には600リットル釜が8機、400リットル釜が6機あります。多品種少量生産に対応でき、ドリア・グラタン、機内食、カレーやシチューなどもここで製造。家庭用ミールも手がけています。レストランのシェフの料理法を工場の釜で再現するのです。ステーキなどは店舗で調理しますが、カレーなどは工場で作るのでいつ食べてもおいしいはずです」(江頭さん)

■機内食納入は1951年からスタート

取材陣も見学者用制服を身に着け、手指を徹底洗浄し、エアシャワーを浴びた上で、主力事業のひとつである「機内食」などの製造工程も見た。手作業が多く、細やかな気遣いが求められる現場だった。

「各航空会社は差別化に注力し、有名シェフとのコラボメニューにも積極的です。以前ならビジネスクラスに提供した内容の機内食も、エコノミークラスにも広がってきました」

同工場・商品企画課課長の三浦証さんがこう説明してくれた。

ちなみに、ロイヤルは1951年に板付空港(現・福岡空港)で食堂・売店を出店し、機内食納入も開始した。カレー製造を早くから手がけたことが、後年の「カレーフェア」に結実したという。

■「ロイヤルホストは元カレです」

ロイヤルホストが低迷していた2000年代、同社が消費者アンケートをした際に、こんな回答があったという。

「ロイヤルホストは、元カレです」
「時々見かけたり、話題になったりすると、どうしているかと気になったりする」

というコメントだったそうだ。

長年、消費者取材を続けて感じるのは、外食の場合「高度成長期に定着した洋食メニューは強い」ということだ。カレーはもちろん、ハンバーグやスパゲティには根強い人気がある。スポーツ競技に例えればレギュラー選手だ。これだけ食生活が多様化しても、新人選手(新たな料理)は、なかなかレギュラー陣を切り崩せない。

低迷期に「元カレ」と発言したお客は、いまどうなっているだろうか。筆者は「1周回って、ロイホに戻ってきたのではないか」と思う。「あの人(店)と付き合って、私は幸せだった」と思われるクオリティーがあったことは、たしかな財産だ。あとはそのレベルにまで再び質を引き上げればいい。

多くの人は思い出の1ページに「夏のカレー」を記憶しているだろう。地道にフェアを続けてきたロイヤルにとって、いまが収穫期なのかもしれない。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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■【図表】35年間で合計164種類「カレーフェア」の歴史

カレーフェアの歴史(画像提供=ロイヤルHD)

(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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