メガネ業界が「儲けウハウハ」のカラクリ
プレジデントオンライン / 2019年7月30日 17時15分
■「マーケットずらし」で、新顧客獲得
「アイウエア業界において、格安メガネブランドの戦略は実に革新的でした。メガネに対する世間のイメージを根底から覆したわけですから」
子ども時代からメガネ少年だった公認会計士・税理士の柴山政行氏にとって、長らくメガネの存在は悩みの種だったという。
「1965年生まれの私の世代は、メガネに対して苦手意識を持っています。メガネをかけていると、ガリ勉タイプとか、のび太君のようなひ弱タイプとかいわれて。ダサさの象徴がメガネだったんです」
そんな社会的イメージが変わったのが野球の古田敦也選手の登場だったという。「メガネでも強い」と勇気づけられ、続くZoffやJINSのおかげで一気に「メガネ=かっこいい」概念が根付いたそう。
「『メガネ男子』なんて言葉まで誕生して、メガネがファッションの一部になったんです」
つまり「新御三家」が成し遂げた一番の功績は「安いメガネを生産し大量に売った」ことではなく、そもそものメガネの概念を一変させたこと。これを柴山氏は「コモディティのファッション化」と呼ぶ。
「高度経済成長期は、日用必需品(コモディティ)を皆がこぞって買った時代です。しかし今は違う。日用品はどの家庭にもすでにあるわけで、今度はいかにして『本来はいらないもの』を買わせるかに知恵を絞らなくてはならない」
それがメガネをファッション化することだった。今や視力に問題がなくても伊達メガネを楽しむ若者は多い。実はこの手法、ライザップやしまむらなどにも通じている。
「隠れてやるものというマイナスイメージだったダイエットを、ライザップは見事にファッション化。タレントや有名人をCMに起用し、流行化させました。しまむらもしかり。一昔前は“中高年女性が下着を買う店”の位置づけだったはずなのに、いつの間にか若い女性の間で人気なファストファッションショップに変身しました」
彼らは新たな商品をゼロから生み出したわけではない。既存商品のマーケットをずらしただけだという。
■複数買わせるリピーター獲得術
「ファッション化」の神髄は、新顧客を掘り起こすだけではない。本来1つで事足りるアイテムを複数購入させることができる点だ。
単なる視力矯正器具としてだけのメガネならば、基本的に1人1個持てば十分だ。しかし“ファッション”となれば話は別だ。季節や気分、服装によって靴やネクタイを選ぶように、メガネもTPOに応じて選び分けたい。そんな人が増える。かつてのコンピューターや携帯電話同様、「1人1台」の時代から「1人複数個保有」が当たり前になった。
「必需品から嗜好品になった瞬間、人はお金を払うようになるんです」
もちろん複数所有を可能にするには価格が関係してくる。上記ブランドは軒並み5000~1万円の間で「3プライス」もしくは「4プライス」を提案。選べるメガネの種類は膨大でも、価格の選択肢をシンプルにしたことで、本来高価格商品には手を出せない若年層までもが、「親に買ってもらう高額商品」としてのメガネではなく「自分で買える商品」として選べるようになったのだ。
■3万円のメガネが5000円になる
しかしここで疑問が生じる。従来3万~10万円もした品が、なぜ一気に5000円に下がるのだろうか。
柴山氏は「おそらく品質にさほど大きな違いはないはず」とコメント。
「商品は流通数が少なければ競争も限られ高額な価格帯が保持されますが、多売できるようになれば薄利でも儲けが出るからです」
新興ブランドJINSと、老舗ブランド三城HDの数値を見てみよう。
「『新御三家』中で上場企業はJINSのみ。ここは一時株価の上昇で話題になりましたが、決算書を見る限り経営は堅実です。18年8月期時点で売上高548億円。7年前の11年8月期で145億円でしたから、3.7倍の成長です。しかも原価率約25%、利益率75%をほぼ維持しているのが見事ですね」
一方の三城HDはというと、原価率約33%、利益率は67%だ。実はこの微妙な数値の差が全体的な業績に大きく影響してくる。
「仮に1000円のメガネを販売するとして、JINSは原価250円で利益が750円になる。一方の三城HDは原価が330円で、670円が利益。もちろん実際はほかにも人件費やら広告費やらがかさみますが、この差は全体収益に大きな違いをもたらします」
JINSなど新興ブランドが原価を低く抑えられる理由は、企画デザイン・生産・販売までを一貫して行うSPA方式を採用しているからでもある。ユニクロやZARAなどに見られる手法でもある。
流通量が多いから価格を下げられ、価格を下げられたから流通量も増える。「新御三家」はこの波にうまく乗れた成功組といえる。
とはいえこれが業界成功の最終形態ではない。18年の大ヒットはなんといってもハズキルーペである。これも「老眼」や「ルーペ」という本来隠したくなる要素を、「老い」とは無縁そうなエネルギッシュな渡辺謙をはじめ錚々たる俳優陣のCMでイメージを一新、さらには女性のお尻で耐久性を試すなど過激な演出の効果もあり、一気に話題を集めた。
■独自の高級路線で、V字回復を果たしたメガネスーパー
一方で「ファッション化」「低価格路線」に決別し、独自の高級路線で、V字回復を果たしたメガネスーパーの例もある。商品の平均価格も4万円ほどに上げ、視力検査なども有料化。「高価格ながらも高品質」のラグジュアリー感を前面に押し出すことで、アイケアに意識の高い層の需要を掘り起こしたといえる。まだまだメガネ業界に新たなビジネスが生まれる余地はありそうだ。
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1965年生まれ。埼玉大学経済学部卒業。税務、コンサルティングの業務に携わりながら、会計教育を行う。『半分売れ残るケーキ屋がなぜ儲かるのか』『サバイバル会計学』など著書多数。
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(フリーランスライター 三浦 愛美 撮影=横溝浩孝 写真=iStock.com)
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