器が大きい人はどうでもいい話に耳傾ける
プレジデントオンライン / 2019年8月3日 11時15分
見た目と器▼人の中身を見ているつもりが、中身は外見から推測する
■心理学者が語る器の大きさとは
「あの人は器が大きい」
「彼は社長の器じゃない」
と言うように、“器”という言葉は日常的によく使う。しかし考えてみると、“器”とは抽象的でよくわからない言葉だ。そもそも器とは何なのか。「あの人は器が大きい」と周囲から思われるためには、何をどうすればいいのだろうか。心理学の専門家に聞いてみた。
立正大学心理学部名誉教授の齊藤勇氏は、「器が大きいというのは、主に自分より上の立場にある男性に対して使われるほめ言葉です。女性に対して器が大きいとはあまり言わないでしょう」と説明する。
たとえば織田信長などの戦国武将や田中角栄など一時代前の政治家など、人間的に魅力のある人を称して「器が大きい」と言うことがほとんどだ。
一方、「“器が大きい”というのは、危機的状況においても自己防衛的ではない、ということかもしれません」と言うのは、心理学者の榎本博明氏である。
「何かトラブルがあったとき、すぐに言い訳をしたり、責任逃れをしようとする人を“器が大きい”とは言いませんよね。一方で“器が小さい”人は、すぐに感情の堤防が決壊して洪水になってしまうようなイメージがあります」(榎本氏)
ストレス・マネジメント研究者の舟木彩乃氏は、「“器が大きい人”とは、一言で言って心に“余裕のある人”でしょう」と定義する。
「余裕のある人は、人生は“自分が主役の物語”であることを理解していて、ストーリーの軸をしっかり持っています。それゆえ、人生に浮き沈みがあっても大きく動揺することなく、それを受け入れることができるのです」(舟木氏)
■印象操作はすぐバレる
器の大きさを外見から見抜くことは可能なのだろうか。
「自信たっぷりに見せたり、虚勢をはったりしても、やはり目線を合わせてこないなどのわざとらしさが感じられるものです。このような印象操作を試みると、かえって器の小ささが露呈する」(榎本氏)
また舟木氏、齊藤氏は「全身にブランド物を身につけていると、器が小さいと思われる」と口を揃える。
「ブランド品で身を固めている人は承認欲求が強く、等身大の自分を認められない傾向があります」(舟木氏)
「一目でわかるブランド物を複数持っていると、『そんなものに関心があるのか』『そんなことに時間を費やしているのか』と思われて、かえってマイナスにはたらきます」(齊藤氏)
調査方法●パイルアップで実施。全国の20~60代の計1000人(男女500人ずつ)から回答を得た。調査日は2019年5月14~19日。
話し方と器▼聞き役に徹しようと思っても現実は自分が話しがち
■器を小さくするマウンティング上司
「あの人は器が大きい」という印象を与える話し方は、どんな話し方なのだろうか。
「器が大きい人は、余計なことをしゃべらず、無口なイメージがあります」と言うのは齊藤氏。
「アンケート結果にもあるように、ゆったりと低い声で話すのが最も信頼できる感じを与えます。よくしゃべる人は、器が小さい感じがします」(齊藤氏)
榎本氏も同様に「器を大きく見せるには、しゃべりすぎないほうがいい」と言う。
「人間はあまりにも饒舌な人には警戒心を抱きます。一方的に早口でまくし立てられると、『この人は自分を騙そうとしているのではないか』という気がしてなかなか信用できるとは感じづらいものです」(榎本氏)
逆に、相手の話に耳を傾ける「聞く耳を持つ人」は、いかにも器が大きいイメージだ。
「会話中に自分ばかり話しすぎているな、と気づいたら、相手にも質問してもらったり、『気になることがあったら言ってください』と発言を促したりすることを心がけるといいでしょう」(榎本氏)
人間は自分が話すことでカタルシス(快感)を得る。相手の話を一方的に聞くだけでは疲れてしまうのだ。
企業でのカウンセリングも行う舟木氏は「上司と部下の発言時間の比率をストップウオッチで計測してみると、上司のほうが思いのほか長く話していることがわかります」と指摘する。
部下が「自分の話を上司がちゃんと聞いてくれた」と実感するには、最低でも上司4:部下6くらいの比率にする必要があるという。
上司と部下という関係以外でも、器の小ささを感じさせる話の内容は、なんといっても自慢話だと舟木氏は断言する。
「自慢話が多いタイプはたいてい心の底にコンプレックスを抱いていて、それを隠すためのマウンティング(自分のほうが優位だと主張する行為)として自慢をしてしまうことが多い。これに気づいていないのは本人だけで、周囲の人たちには見抜かれているものです」(舟木氏)
謝り方と器▼危機的状況での振る舞いに人間の器が出る
■人間は言葉以外で人を判断する
人間の器の大きさは、トラブルが起こったときこそ明らかになる。とりわけそれがあらわになるのが、謝罪の瞬間かもしれない。器の大きな人は、謝罪の場面でどのように振る舞うのだろうか。
アンケートでは、謝罪をするときはメールや手紙、電話などではなく直接会って謝るべきだという意見が大半を占めた。
「これは当然の結果でしょうね」とうなずくのは榎本氏だ。
「言葉だけなら、なんとでも言えますから。精神分析学者のフロイトも『精神分析では言葉以外のものが溢れ出ていく』と、非言語的側面の重要性を指摘しています」(榎本氏)
「言葉以外の部分が大事」だと言うのは齊藤氏も同様だ。
「私たち人類は、動くものを追いかけて捕らえて生き延びてきました。だからいまだに私たちの目は止まっているものより、動きのあるものに吸い寄せられてしまいます。手品のトリックがなぜ成功するかといえば、手品師がヒラヒラと手を動かして、観客の目をそちらに引きつけているからです。だから人間は服装よりも表情や仕草など、動くもののほうに目が向いてしまうんです」(齊藤氏)
ということは、「申し訳ない」という気持ちを表情や態度でしっかり表すことが重要だ。
また「自分が悪くなくても謝る」ことは、日本人にとっては器の大きさを示す行為だと言えなくもないが、舟木氏は、「自分に非がないのにすぐ無条件に謝る“過剰適応”をしすぎると、『こいつには何をしてもいいんだ』と器の小さいモラハラ上司に目をつけられる恐れがあります」と説く。
器の小さい上司に振り回されないためには「ここまでは相手にするけれど、これ以上は受け流す」というように、自分のなかで線引きをすること。
「この手の上司は自分より上の立場の人に弱いので、何かあったときに部下をかばってくれません。したがって、上司の承認欲求を適度に満たしつつも、社内の頼りになる人と繋がっておくといいでしょう」(舟木氏)
金遣いと器▼お金のやり取りはスマートにできているか
■ポイントを貯めるドケチな国会議員
たとえ自分の財布が寂しくても、貧しい人が困っていたら、ポンとお金を出す。器の大きい人にはそんなイメージがある。しかしアンケート結果を見ると、「10年以上付き合いがある知人に対しても、10万円は貸さない」という回答が過半を占めた。
「この結果には驚きましたね」と言う齊藤氏はこう続ける。
「10年以上の付き合いがある相手でしょう? 事情や相手にもよりますが、私なら断りません」
それとは逆に、「お金を貸すと人間関係がこじれるから、貸さないほうがいい」と言うのは榎本氏である。
「借金というのは、借りるほうにとっても精神的な負担です。すぐに返せればいいけれど、それができなければ、だんだん貸してくれた人のことが鬱陶しくなってくる。やがてせっかく助けてくれた人のことを恨んだりするようになります」(榎本氏)
ところで舟木氏には「国会議員秘書」を対象とした研究がある。議員秘書が自分のボスである国会議員の器の大きさを実感するのが、飲み会での支払いの瞬間だという。
「国会議員の場合、事務所のスタッフの飲み会ならば、全額を議員が払うのが通例になっています。ところが中には割り勘とか、秘書に立て替えさせておいて政治資金で賄う議員もいると聞きました」(舟木氏)
ひどい場合は、割り勘なのにポイントだけは自分のカードにつけさせる議員もいるとか。このようなボスのもとでは「この人のために頑張ろう」という気持ちになりにくいだろう。これは議員だけではなく一般企業においても同じことが言える。
舟木氏は、器の小さい上司と思われないお金の使い方には4つのポイントがあるという。まずはインフォーマルな飲み会でも自分から声をかけたら原則としておごること。次に、部署全体で飲みに行くときは、自分は参加しなくても費用をある程度負担すること。そして部下の結婚や出産などのお祝いごとのときは贈り物や祝い金を気持ちよく出すこと。最後に、お店での会計はサラッとすませることだ。
夫婦関係と器▼妻の不満に気づける夫としての器はあるか
■どうでもいい話に耳を傾けられるか
アンケート結果で目を引くのは、「不満が少ない夫の裏で不満をためる妻」というもの。
榎本氏は、「男性は能天気なので気がつきませんが、これは深刻な問題をはらんでいますよ」と注意を喚起する。実は今回のアンケート結果を裏付けるような心理学の研究が多数報告されているというのだ。
「若いころは夫も妻も愛情は同程度。しかし10年、20年経過し、中高年になってくると、夫の愛情度はそれほど変わらないのに対して、妻の愛情度は下降線をたどっていき、最終的には大きく差が開いてしまう。これはどの研究を見ても、同じような結果になっています」(榎本氏)
原因は、女性のほうが感情面、情緒面で豊かに相手と接することができるのに対し、男性はそれがあまり得意ではないことだ。
「対策としては、一緒にいる時間を増やすこと。そして何気ない会話を重ねること」だと榎本氏はアドバイスする。
したがって、「悪いけど、今、忙しいから結論から言って」というような態度は禁物。男性にとっては意味のない会話でも、女性にとっては愛情の確認にほかならないのだ。
「どうでもいい話だな、と思っても、それに耳を傾ける度量というか、気持ちの余裕こそ、夫としての器の大きさではないでしょうか」(榎本氏)
舟木氏も夫婦間で重要なのは「気持ちの余裕」だと指摘する。
「相手にストレスをぶつけたり、“自分のほうがこんなに大変なんだ”という忙しさや大変さのアピール合戦になってしまいます。さらに男性であれば出産、女性であれば男同士の付き合いなど、自分が経験していないことについて、臆測や人から聞いた話をもとに意見をしないことです」(舟木氏)
不満があれば「なぜあなたは○○をしてくれないの」というように相手を主語にした“Youメッセージ”ではなく、「私はこう言われて悲しかった」というように自分を主語にした“Iメッセージ”で伝えると、建設的な会話ができるだろう。
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心理学者
立正大学名誉教授。日本ビジネス心理学会長。『今日から使える行動心理学』など著書多数。
心理学者
大阪大学大学院助教授などを経て、MP人間科学研究所代表。『ビジネス心理学 100本ノック』など著書多数。
ストレス・マネジメント研究者
国会議員秘書などを経て、筑波大学大学院博士課程在籍中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』。
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ライター&エディター
ビジネス書の編集者として出版社に勤務したのち、2001年に独立。女性誌、男性向け月刊誌、ニュースサイトの記事を書くほか、書籍の構成も手がける。
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(ライター&エディター 長山 清子 撮影=研壁秀俊、尾関裕士 写真=iStock.com)
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