はやぶさ2の技術者は年収800万で十分か

プレジデントオンライン / 2019年7月17日 9時15分

はやぶさ2の2回目の着陸成功を受け、記念撮影する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の津田雄一プロジェクトマネジャー(右から2人目)ら=2019年7月11日、相模原市のJAXA宇宙科学研究所(写真=時事通信フォト)

■再着陸と岩石の採取は「人類初の快挙」

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月11日、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウへの再着陸に成功した、と発表した。

JAXAによると、はやぶさ2は着陸とほぼ同時に弾丸を発射し、砂や石を舞い上がらせて採取したとみられる。世界初、人類初の快挙である。

着陸から数秒後には上昇に転じた。はやぶさ2は2014年12月3日に打ち上げられ、昨年6月27日に地球から2億4000万キロも離れたリュウグウの上空に到着した。今年2月22日に1回目の着陸を成功させた。この着陸だけでも日本からブラジルにある6センチの的を狙うのと同じ難しさがあるという。さらに4月5日には人工クレーターを作ることにも成功した。これも世界に先駆けた快挙だった。

今後は今年12月にリュウグウを出発し、来年12月に地球に帰還する。

■壮大で夢のあるプロジェクトに感動した

リュウグウは、太陽系で地球と火星の軌道付近を回る直径わずか900メートルの小惑星だ。そろばんのタマのような形をしている。地球に接近しており、探査しやすいが、その反面、地球に衝突する危険性もある。

炭素や有機物が豊富に存在し、放射線の宇宙線と荷電微粒子流の太陽風の影響を受けない地下の岩石は、46億年前の太陽系誕生当時の状態を保っているといわれる。

採取されたとみられている砂と石は、4月5日に人工クレーターを作った際に飛び散った地下の岩石のかけらだ。成分を詳しく分析することで、これまで大きな謎とされてきた生命の起源が解明できる。

たとえば、地球上の有機物質とリュウグウの有機物質とが類似していれば、生命の起源が地球外にあったことになる。

生命誕生の謎を解明する鍵を握るはやぶさ2の探査。なんとも壮大で夢のあるプロジェクトだ。そのプロジェクトの大半に成功したという今回のニュースに、へそ曲がりの沙鴎一歩も感動で胸が一杯になった。

■「再着陸を断念して帰還すべき」との慎重論も

報道によれば、JAXAの上層部では3カ月ほど前から「再着陸は断念して地球に帰還すべきだ」との慎重な意見が多かった。

はやぶさ2は、1回目の着陸(2月22日)で地表の砂や石を採取できたと考えられている。仮に再着陸で機体が損傷した場合、帰還が不可能になって採取した砂と石などの試料などこれまでの成果がすべて水泡に帰すリスクがある。かけた事業費290億円も無駄になる。今後計画される火星や月への探査にも大きな影響が出る。

実際、初代のはやぶさは、小惑星のイトカワに着陸したときに機器が壊れて一時行方不明になった。

1回目の着陸の際にはやぶさ2のカメラが砂で汚れ、再着陸のための目印が見つからない恐れもあった。

■「100点満点で言うと、1000点です」

それでもはやぶさ2の運用チームは再着陸に挑んだ。その挑戦の裏には努力の積み重ねとそこから得られた成果があった。

運用チームは、はやぶさ2の機体状況やリュウグウの地表状態など条件を何通りにも変えて組み合わせ、着陸シミュレーション(模擬実験)を10万回実施し、そのいずれにも成功するという成果を得た。

カメラの汚れの問題は、はやぶさ2の姿勢制御装置の精度を上げて乗り切った。

確かな技術があるなら着陸しない選択肢はない。再着陸は実行され、はやぶさ2は地球からの管制に頼ることなく、自らの制御によって予定通りの時間に、大きな岩のないわずか半径3.5メートルの狙ったスポットにみごと着陸した。しかも地下の岩石も採取できた可能性が高い。

11日の記者会見で、はやぶさ2計画の責任者であるJAXAプロジェクトマネージャの津田雄一さん(44)は「100点満点で言うと、1000点です」と喜んでいたが、その通りだと思う。

■社説に取り上げたのが産経だけだった理由

新聞社説は、はやぶさ2の快挙をどう論じているか。そう思って新聞各紙をめくったが、社説として取り上げているのは7月14日現在、産経新聞1社だけである。

11日にJAXAが記者会見しているのだから、早ければ翌12日付の社説には書けるはずである。事実、産経新聞はそうしている。なぜ他紙はそうしなかったのか。

理由は簡単だ。選挙戦が展開中で、掲載する社説のスケジュールが決まっているからである。

参院選が7月4日に公示され、投開票は21日の日曜日だ。このとき各紙の社説は毎日のように、各政党・党派の政策を論じる。年金、消費税、アベノミクス、憲法改正など、テーマは多岐にわたる。それぞれに担当の論説委員を割り振れば、あらかじめ予定が組める。13日から15日は3連休で、論説委員も休みが取りやすい。

そうしたスケジュールで動いているところに、はやぶさ2の快挙が飛び込んできた。休み返上で予定を変更するか。それとも予定通りやるか。おそらく産経以外は緊急対応を見送ったのだろう。これだから「社説はつまらない」と言われるのだ。

■快挙を支えた「できることは全部やる」の精神

産経社説はこう主張している。

「小惑星探査における日本の技術の高さを、さらに確固たるものにして世界に示した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の開発、管制チームの『勇気ある挑戦』を大いにたたえたい」

見出しは「『挑戦する勇気』に学ぼう」。賛成できる主張だし、見出しもいい。

さらに産経社説は「はやぶさ2の快挙を支えてきたのは、初代のはやぶさチームから受け継いだ『できることは全部やる』という精神であろう」と指摘したうえで、こう書く。

「2回目の着地については慎重意見もあったという。重大なトラブルで帰還不能になれば、最初の着地で採取した貴重な物質も失ってしまう。だが、津田雄一プロジェクトマネージャは2回目の着地を前に『はやぶさ2のミッション自体が、積み上げた技術による挑戦であり、やらないという選択肢はなかった』と語っている」

沙鴎一歩も前述したが、「再着陸せずにそのまま地球に戻せ」という慎重な意見は強かった。それを乗り越えたのが10万回の着陸シミュレーションだった。そうした技術の積み上げが「やらないという選択肢はなかった」という判断に結び付いたのだ。

■はやぶさ2が宇宙探査で世界に示した存在感

産経社説は続ける。

「はやぶさ2にはまだ、最も重要な任務が残っている。東京五輪後の来年末に予定される地球への帰還である。無事帰還に向けて、引き続き万全を期してほしい」

帰還できて初めてプロジェクトは成功する。プロジェクトメンバーたちは、たとえ不測の事態が起きてもチームワークの良さを武器にして帰還をみごとに成し遂げることだろう。

産経社説は最後に主張する。

「日本の科学技術が低落傾向にある中で、はやぶさ2が宇宙探査で世界に存在感を示した意義は大きい。日本の科学全体の活性化、再生につなげたい」
「若手研究者や中高生など日本の将来を担う世代には、はやぶさチームから『挑戦する勇気』の大切さを学びとってほしい」

「日本の科学の活性化」「挑戦する勇気」と、実に夢のある主張である。

■NTTは技術者確保のため「年収1億円超」も

この産経社説に付け足したいのが、科学技術を担う若い研究者や技術者たちの待遇の改善である。挑戦には生活基盤の安定も必要だ。はやぶさ2の快挙をきっかけに、給与やボーナスを引き上げる措置があってもいいだろう。

JAXAの常勤職員の平均年収は840.7万円(2016年度)。このうち事務職・技術職は803.3万円、研究職は837.8万円だ。またJAXAのサイトでは「年収試算」というページがあり、そこをみると最終学歴が「博士」で、実務経験年数が0年だと年収試算は569万円とある。

こうした待遇は十分なのだろうか。民間レベルでは、IT大手を中心に技術者や研究者の待遇を引き上げる動きが活発になっている。

たとえば今年7月にはNTTの澤田純社長が、米シリコンバレーでの人材採用について年収1億円超を提示する可能性を示している。またNEC(日本電気)は、優秀な研究者に対して新入社員でも年収1000万円以上を支払う制度を10月から導入することを決めた。富士通もカナダの人工知能(AI)関連の子会社で実力のある若手社員に役員待遇の報酬を検討しているという。

世界のIT業界では米国企業などが、世界各国から厚遇をアピールして優秀な人材の引き抜きが激しい。「GAFA」は大卒で1500万円以上の収入があるという。日本のIT業界はこうした状況に危機感を強め、賃金体系の変更を進めているのである。

民間に任せてばかりではいけない。国が若い研究者や技術者たちの待遇を引き上げていく必要がある。そうしなければ、彼らは日本を捨てて海外に飛び出していくだろう。その結果、衰えることになるのは日本の科学技術力である。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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