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米国にも無視される韓国政府の"被害妄想"

プレジデントオンライン / 2019年7月19日 17時15分

韓国の文在寅大統領は7月18日、与野党5党の代表と協議し、日本の対韓輸出規制の強化について「不当な経済報復」だとして即時撤回を求める考えで一致した。(写真=EPA/時事通信フォト)

■米国も韓国の北朝鮮に対する「支援」に懸念

7月1日、経済産業省は、韓国向け輸出管理制度の見直しを発表した。今回の措置の理由は、わが国の韓国に対する信頼関係が著しく悪化し、安全保障上、軍事転用が可能な資材の輸出を厳格に審査する必要があるからだ。

具体的な内容は2つある。まず日本政府は、7月4日から半導体などの製造に使われる、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目に関して包括輸出許可制度の対象としないことを決めた(リスト規制)。そのため、今後は個別審査が必要となる。審査には90日程度の時間を要するといわれている。

2つ目に、政府は信頼関係の悪化を理由に韓国に対する“ホワイト国”の認定を外し、適切に輸出を管理する方針を示した。ホワイト国の認定が外れると大量破壊兵器に転用される恐れのある品目は経済産業省の判断によって個別審査が必要となる。

これを受け韓国政府は米国に、日本政府の措置は世界に混乱をもたらすと懸念を表明した。それに対し米国は、韓国の主張に同調も否定もしていない。その背景には、米国自身も韓国の北朝鮮に対する非公式の支援に懸念を持っていると見られることに加えて、わが国の制度厳格化の影響は対応可能という判断があると考えられる。

■韓国の株価は相応の安定感を維持している

わが国による輸出管理制度の厳格化に対して韓国は、米国をはじめ国際世論に自国の窮状を訴え事態を改善しようとかなり焦っているようだ。康京和(カン・ギョンファ)外相が、電話会議でポンペオ米国務長官に「韓国の企業だけでなく、グローバルな供給体制を混乱させ世界経済に無視できないマイナスの影響を与える」と強い懸念を伝えた。

ただ、今のところ、米国政府の要人からは、明確に韓国の主張を支持する発言などは出ていない。韓国の文政権が期待したような、米国の韓国サポートのスタンスは見られていないのが実態のようだ。むしろ、米国の専門家の間では、「米国政府も、韓国の北朝鮮に対する非公式な支援を憂慮する姿勢もあった」との見方が多い。

わが国の制度見直しが韓国に与える影響は、短期、やや長めの時間軸の2つの視点で考える必要があるだろう。短期での影響については、すぐに出るとは限らない。すでに韓国の企業は自助努力を重ね、影響の回避に取り組んでいる。

7日にはサムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が来日し、当面の生産に支障が出ないよう資材を確保した。7月中旬の時点では、「思ったほど、日本政府の対応の影響は大きくないかもしれない」との楽観から、韓国の株価は相応の安定感を維持している。

■韓国が輸入する半導体原料の90%程度は日本から

一方、やや長めの時間軸で考えると、リスト規制の導入は徐々に韓国経済を圧迫するだろう。韓国にとって上記3品目の輸入は重要だ。韓国が輸入するレジストとフッ化ポリイミドの90%程度がわが国からのものだからだ。

サムスン電子の取り組みは、一時しのぎの措置であり根本解決ではない。韓国企業の対日交渉力もそれぞれ違う。韓国企業は他国産のフッ化水素を用いた半導体生産を試験的に行っているが、中国などのメーカーがわが国と同質の高純度フッ化水素を供給できるかは不透明だ。

加えて、サムスン電子は半導体に次ぐ収益源を育てることができていない。サムスン電子の売上高は韓国GDPの13%程度あり、景気に無視できない影響を与える。原材料の調達の再編にかかるコスト負担などを総合的に勘案すると、わが国の輸出管理制度の厳格化は韓国経済の下方リスクを高めるだろう。それを避けるには、在庫がある間に日韓関係が改善に向かう必要がある。

■世界経済にマイナスと断じるのは早計

対韓輸出管理の厳格化が世界経済に与える影響は、それなりに慎重に考えていく必要がある。現時点で韓国が主張するように、わが国の対応がグローバル経済を混乱させると論じることは早計だろう。

米国政府のポンペオ長官は、電話会談の中で康外相の懸念表明に対して“理解”を示すにとどめたようだ。米国政府の言及はまだない。加えて、ハリス駐韓大使やスティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)も、日韓の仲裁を行う見解を示していない。米国が世界経済に与える影響は対応可能なものにとどまると考えている証拠と言えるだろう。7月に入り米国の株価が最高値圏で推移していることを見ても、わが国の制度見直しが世界経済に負の影響を与えるとは言いづらい。

また、世界の半導体需給は緩んでいる。昨年秋ごろから世界の半導体市場は急速に冷え込んでいる。背景には、中国経済の減速や世界的なスマートフォン販売台数の減少、データセンター関連の設備投資の一巡を受けた半導体需要の落ち込みがある。

■サムスン電子のメモリー在庫は積み上がっている

市場参加者の間では、需要の落ち込みを反映して通常1カ月程度といわれてきたサムスン電子のメモリー在庫が積み上がり、3カ月程度に達しているとの見方が多い。当初サムスン電子は本年半ばには半導体需要が底打ちするとの見方を示してきたが、その予想も後ずれしている。

DRAMとNAND型フラッシュメモリーに関しては、台湾企業をはじめ、米マイクロン・テクノロジー、ウエスタンデジタル、わが国の東芝メモリなど韓国の代替となる供給者もいる。中国でもDRAMの量産体制が整いつつある。先行きは不透明だが、少なくとも現時点ではわが国の対応が韓国に与えるマグニチュードと、世界経済に与える影響は分けて考えるべきだ。

わが国の輸出管理体制の見直しに加え、韓国は米中摩擦の影響にも対応しなければならない。米中摩擦は覇権国争いだ。短期間で摩擦が収束する展開は見込みにくい。すでにアップルをはじめとする各国の主要企業は、制裁関税の回避やより安い労働力を求めて、中国から他の国へ生産拠点を移している。それが世界のサプライチェーンを混乱させ、製造業の景況感が悪化している。

■韓国経済にのしかかる米・中貿易摩擦

相対的に経済が良好な米国でさえ、先行きの不確実性の高まりを重視せざるを得ない状況にあり、パウエルFRB議長は利下げを検討する考えを示している。韓国にとって最大の輸出先である中国経済も厳しい。中国経済は投資に支えられた成長の限界に直面している。

債務問題が深刻化する中、米中摩擦によって悪化した企業経営者や家計のマインドはそう簡単には改善しない恐れがある。現時点で中国の景気対策が効果を現し世界経済の先行き不透明感が幾分か晴れると想定するのは難しい。

わが国の対韓輸出制度の見直しと、米中摩擦を受けたサプライチェーンの混乱などから、韓国経済の先行き不透明感は高まっている。もともと韓国経済は財閥企業の輸出競争力に支えられて成長を遂げてきた。輸出への依存度が高い分、世界経済の動向に韓国の景気は左右されやすい。

■日韓関係が冷え込むほど韓国経済に負の影響

エレクトロニクス以外にも、自動車や造船などの業種で韓国企業の業況は悪化している。それに加え、一部の財閥企業では世襲経営の限界が顕在化し、経営内容が急速に悪化している。韓国政府がこの状況をどのようにして乗り切ることができるか、妙案は見当たらない。

本来、韓国が経済の安定を目指すにはわが国との関係強化が欠かせないはずだ。韓国の財界では政府は日本との対立を深めてはならないとの危機感が強い。それは、日韓の関係が冷え込むほど韓国経済への負の影響が大きくなるとの考えがあるからだ。

文政権がそうした懸念に耳を傾け、国家間の合意を重視できるか否かが韓国経済の先行きに無視できない影響を与えるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=EPA/時事通信フォト)

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