知られざるアートと美を追究する岐阜の旅
プレジデントオンライン / 2019年7月25日 6時15分
岐阜の旅といえば、「飛騨高山」「白川郷」「ぎふ長良川の鵜飼い」「下呂温泉」などがメジャーどころ。だが、日本の中心に位置し、南北に長い岐阜の見所はそれだけではなかった。
岐阜は、7大産業(繊維・アパレル、プラスチック、陶磁器、紙、金属・刃物、加工食品)が古くから盛んであり、また伝統工芸も多く、それを現代アートに昇華させるアーティストたちもたくさん暮らしている。そのため、岐阜県内のあちこちには、芸術ゴコロを刺激するスポットが点在しているのだ。
■まるで仏・ジヴェルニーのモネの庭!
今回は、岐阜のほぼ真ん中に鳥が羽を広げたような地形を持つ、関市からスタートし、美濃市、そして養老町を巡るアートに触れるちょっとレアな岐阜旅を敢行。
まず、関を訪れたら一度は行ってみたい人気スポットが、「名もなき池」(通称・モネの池)だ。フランスの画家、クロード・モネの名画「睡蓮」にそっくりだと話題になっている。
どこまでも透明な湧水池。そこに咲く美しい睡蓮の間をゆったりと泳ぐ、色とりどりの錦鯉たち。そのえもいわれぬ美しさはまるで「絵画」のようで、思わずうっとりと見つめてしまう。見頃は、6月から7月くらいの睡蓮の咲く頃。もちろん、秋の紅葉、冬の雪景色などでも、それぞれ違う池の姿を見られるため、季節を問わずリピートする人も多い。午前中、10~11時ごろの光の中で眺めるのがオススメだそう。
いずれの季節も多くの観光客でにぎわう、今、関で最も熱いスポットなのだ。
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見学無料・終日解放
TEL/0581-57-2111(関市板取事務所)
岐阜県関市板取字下根道上448(根道神社)
■日本刀萌え女子にオススメのスポットも!
関は、日本刀萌えの「刀(かたな)女子」ならぜひ訪れてもらいたい、刃物の町。言わずと知れた、日本一の刃物産地として発展した町で、関鍛冶(せきかじ)と呼ばれる刀剣の名匠が古くは鎌倉時代から活躍しきてきた。伝統を受け継ぐ刀剣はもちろん、現在は、包丁やナイフ、ハサミ、カミソリなどさまざまな製造品を、世界各国へと輸出している。
関鍛冶の伝統の技を伝える「関鍛冶伝承館」では、室町時代後期に活躍した、孫六兼元・和泉守兼定(まごろくかねもと・いずみのかみかねさだ)などの名工の日本刀や、その製造工程の資料を展示。古式日本刀の鍛錬の実演も月に一度公開している。
営業時間/9:00~16:30
休館日/火曜・祝日の翌日
入館料/大人300円
TEL/0575-23-3825
岐阜県関市南春日町9番地1
■関に来たらぜひ名店の「ウナギ」に、舌鼓を!
岐阜でウナギ? と驚く人もいるかもしれないが、「ウナギ」の名は、「鵜が難儀する(うがなんぎする)」に由来するという説も……。それゆえか、鵜飼いが盛んな岐阜市、関市などではウナギの名店が軒を連ねている。さらに、関は古くから刃物の生産地であるため、刀鍛冶たちの力の源としてウナギが食べられてきたとも言われている。
関市内には、“関うな丼”が食べられる店が30以上もあるといわれ、街を歩けばそこかしこからあの香ばしい香りが漂ってきて、いや応なく「ウナギ食べたい」スイッチが入る。
ちなみに、東京ではウナギと言えば「うな重」をイメージするが、関では「うな丼」が主流。「え? どんぶり?」と決して思ってはいけない。
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■美濃へ上り、歴史に彩られた町並みや伝統工芸に触れる
関から北へ上ると、美濃市がある。美濃には、日本三大和紙と呼ばれる「美濃和紙」があり、豊かな自然と長良川と板取川の清流を源として育まれてきた、1300年の歴史を持つ伝統工芸としての和紙づくりや、紙業が盛んだ。
そんな美濃和紙の歴史や魅力を体感できるのが、「美濃和紙の里会館」。ここでは、和紙づくりの奥深さ、楽しさを実感できる紙すき体験も開催している。
今回体験したのは、「美濃判コース」。実際に職人が使う用具を使用し、原料には100%の楮(こうぞ)を使い、伝統の“流しすき”の技術で、美濃判(約33cm×45cm)の和紙をすき上げるというコースだ。
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手順に沿って、約20分の体験で制作したのは、紅葉を挟んだ、透かし模様が美しい美濃和紙。すいた和紙に模様をつけるつくり方はとても意外! 何と、すいたばかりの紙に上からシャワーで水を落とす「落水」という技法を使う。まんべんなくシャワーをかけると、何ともいえない美しい透かし模様が浮かび上がる。
館内では、伝統工芸士が実際に熟練の紙すきを実演しているので、かなり興味深い。
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時間/9:00~17:00
休館日/火曜日・祝日の翌日(12月29日~1月3日)
入館料/大人500円
TEL/0575-34-8111
岐阜県美濃市蕨生1851-3
■「うだつの上がる町並み」を彩る、灯りと風情に癒やされる
続いて巡りたいのは、美濃和紙を使用した灯りの競演に心癒やされる「美濃和紙あかりアート館」。建物は、昭和16年ごろに建てられた趣のある近代木造建築。登録有形文化財に指定されている館内の2階に上がると、目の前に広がるのは和紙をまとったほのかで幻想的な光の空間。毎年秋、「うだつの上がる町並み」のメインストリートで開催される「美濃和紙あかりアート展」に出品された、アート作品がずらりと展示されている。美大生から一般まで老若男女、さまざまな人々がつくり出した作品を一堂に鑑賞できる。
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時間/9:00~16:30(4月~9月) 9:00~16:00(10月~3月)
休館日/火曜日・祝日の翌日
入館料/大人200円
TEL/0575-33-3772
岐阜県美濃市本住町1901-3
そして、そのアート展が開催されるという、「うだつが上がらない」の語源でもある、うだつを見ることができる町並みは、あかりアート館から歩いてすぐのところにある。
「うだつが上がらない」とは、なかなか出世できない、なかなか金銭的に恵まれないという意味があるが、なぜそのような言葉が生まれたのかは、この町並みのある部分に隠されている。
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「うだつ」とは、民家の両妻に屋根より一段高く設けた小屋根つきの土壁と袖壁のこと。隣家からのもらい火を防ぐ防火機能はもちろん、家の格を誇示する装飾的役割も兼ね備えている。このうだつを造ることを「うだつが上がる」といい、金持ちでなければ造れなかったことが語源となっている。
この町に暮らした昔の人々も、「いつかは自分も“うだつ”を上げる」とがんばったのだろう、見事にうだつの上がった趣のある町並みが保存されている。
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その町並みの中でひときわ目を引く、由緒ありそうな町屋が「旧今井家住宅」で、奥の蔵のひとつは美濃史料館となっている。
この旧今井家住宅は、この町で最も古いうだつ軒飾りの形式を残しているそう。江戸末期から昭和16年ごろまで庄屋を勤めてきた和紙問屋の建物だ。江戸中期に建てられ、明治初期に増築されたといわれ、間口よりも奥行きが長い造りは、京都の町屋と同じ。間取りは市内最大規模で、豪商ぶりが見て取れる。見学していると、江戸時代の商家の仕事風景と暮らしぶりが目に浮かんでくる。
中庭が眺められる奥座敷には、月明かりが差し込むように作られた欄間飾りや、月を愛でるための月見台もある。中庭には、「日本の音風景100選」(環境省認定)に認定された水琴窟(すいきんくつ)がある。水滴が落ちるたびに鳴る琴のような涼やかな音色に、主たちが風流をたしなんだ様子が見て取れる。
奥に長い敷地内に点在する蔵には、美濃市の古い歴史や文化、うだつなどの建造物に関する史料の展示、さらに美濃の郷土芸能「にわか」を紹介している。
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開館時間/9:00~16:30(4月~9月) 9:00~16:00(10月~3月)
休館日/火曜日(12月~2月 ※3月~11月は無休)・祝日の翌日・12月29日~1月3日
入館料/大人300円
TEL/0575-33-0021
岐阜県美濃市泉町1883
※「美濃和紙の里会館」「美濃和紙あかりアート館」「旧今井家住宅・美濃史料館」の3館を巡る、3館共通券(大人800円)および、「美濃和紙あかりアート館」「旧今井家住宅・美濃史料館」の2館共通券(大人400円)もあり。
■草彅君も楽しんだ、風変わりなアートプレイスへGO!
岐阜を訪れたらちょっと足を延ばしても行ってみたいのが、養老町にある「養老天命反転地」だ。
ここは、芸術家の荒川修作とマドリン・ギンズが30年に及ぶ研究と構想を実現した壮大かつ実験的なアートプロジェクトであり、1995年に開園した「心のテーマパーク」だ。
「天命を反転させる」つまりは、「死を前提とした消極的な生き方を改める」ために、常識を覆すことが必要だと考えた荒川とギンズは、「身体が持つ可能性」と身体に作用する「環境=建築」に注目。身体感覚の変革により、意識の変革が可能と考えたのだ。
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約1万8000平方メートルの広大なパーク内は、すべて彼らのモダンアート作品。メインパビリオン「極限で似るものの家」と、すり鉢状の「楕円形のフィールド」という作品の中を回遊しながら「身体感覚の変革」を体験していく。
まずは、入り口付近にある「養老天命反転地記念館」へ。オフィスと呼ばれるこの建物に入ると、のっけから感覚を狂わせられる。床と天井に同色・同形状の迷路のような高低の塀が配されていて、次第に天地がひっくり返ったように見えてくる、インスタ映えする大人気のスポットだ。
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首をかしげながら外へ出ると「昆虫山脈」と命名された、岩石山がある。山を登る姿が「昆虫」に見えるらしい。岩山の上には、手押しポンプがある(????)。
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岐阜県の地図が屋根になっているメインパビリオン「極限で似るものの家」も、摩訶不思議な作品だ。
パンフレットには、
・何度か出たり入ったりして、その都度違った入口を通ること。
・中に入ってバランスを失うような気がしたら、自分の名前を叫んでみること。他人の名前でもよい。
・どんな角度から眺めるときも、複数の地平線を使って見るようにすること。
などなど、鑑賞ポイントならぬ哲学的な使用法が記されている。
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通路の狭さ、古めかしさと相まって、夜だったら怖くて逃げ出したくなるような雰囲気だ……。
薄暗い建物内の迷路状の柱のそこかしこ(天井にも)には、デスク、ソファ、ガスレンジ、ベッド、バスタブなどの生活家具が配されており、パンフレットには、「自分の家とのはっきりとした類似を見つけるようにすること」とある。
© 1997 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
■意識変革の予感がする、不思議なテーマパーク
「身体感覚の変革」の言葉どおり、このテーマパークを巡っているといつしか不思議な感覚に陥っていることに気づく。作品はほぼすべてが斜めで構成され、さらに敷地もすべて斜面で構成されているため、次第に平衡感覚がずれてくる。
すり鉢状の「楕円形のフィールド」に移動すると、「極限で似るものの家」を分割した「白昼の混乱地帯」「宿命の家」などのパビリオンが点在し、148の曲がりくねった回遊路がある。また、5つの大小さまざまな日本列島が配されているというから、それらを探して回るのも楽しい。
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地面に突き刺さったベッド、半分埋もれたソファ、地中に広がる家……次第に意識が混沌としてくる(笑)。
すり鉢状の斜面の上には、銀色に輝く壁がそそり立っている。作品名はないもののここはインスタなどでも大人気のフォトスポット。ある番組で、SMAP時代の草彅剛さんと俳優の菅田将暉さんが、この壁のところで撮影していたというから、さっそくまねしてくぼみにはまってみる。なんとなく「無」になれるような気がした……。
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反対側のすり鉢の上では最近、アイドルグループの日向坂46がMVの撮影をしたという。柴咲コウのCDジャケットの撮影に使われていたり、また、マンガ『聲の形』でも、主人公の2人がこのパークでデートしたりするシーンがあるので、お好きな方はぜひ確認を。
とにかく広くて不思議な「養老天命反転地」。意識が変革するため、頭もカラダもヘトヘトになること間違いなし。訪問の際には、スニーカー&パンツスタイルが必須。うっかりパンプスで来てしまってもスニーカーとヘルメットのレンタルがあるので安心して変革体験ができる。
SITE OF REVERSIBLE DESTINY-YORO PARK,GIFU
開園時間/9:00~17:00(入場16:30まで)
休園日/月曜日(祝日の場合は翌日)・12月29日~1月3日
入園料/一般750円 ※2019年10月より改定の可能性あり
TEL/0584-32-0501
岐阜県養老郡養老町高林1298-2
養老天命反転地HP
※2019年10月26日まで園内の修繕工事を実施中のため、団体料金での入場となります。
© 1997 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
養老天命反転地へ行く途中の県道56号南濃関ケ原線沿いには、和牛をお手頃価格で食べられる焼肉屋さんが軒を連ねている。別名「養老焼肉街道(焼き肉ロード)」とも呼ばれ、週末には大行列の店も。さらに、広い畑の真ん中には、薬膳を食べられるレストランも。養老天命反転地へは鋭気を養ってから行くのがオススメだ。
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■岐阜駅でも、数々の岐阜の芸術に触れられる
アートスポットを紹介してきたが、岐阜の魅力はまだまだいっぱいある。さまざまな作家ものが揃う陶芸・工芸品、飛騨の家具、地元民が愛する漬け物やハムなどの食品……挙げれば切りがないが、そんなメイド・イン・岐阜の品々が一堂にそろうのが、岐阜駅直結ビル「アクティブG」内にある「THE GIFTS SHOP(ザ・ギフツショップ)」。帰路につく前にぜひ立ち寄ってお気に入りを見つけてみよう。
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今回は、関、美濃、そして養老の旅をご紹介したが、岐阜県内には、自然・歴史・文化などまだまだたくさんのアートゴコロを刺激する場所が点在しているので、訪れるたびに新たな発見をするだろう。
(プレジデントウーマン編集部 戌亥 真美 撮影=田子 芙蓉)
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