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日本のオタク企業が中国を最優先するワケ

プレジデントオンライン / 2019年7月25日 6時15分

WonderFestival 2019上海(以下、画像はすべて筆者撮影)

毎年5万人以上が集まるフィギュアの展示販売イベント「ワンダーフェスティバル」。「コミケ」と並び、日本のオタク市場を代表するイベントだが、今年6月、その中国版が上海で行われた。開催は2回目で、今回から日本未発表の商品も目立つようになった。なぜ日本のホビーメーカーは中国市場を優先するようになったのか――。

■“立体物”を愛する人たちのお祭り

6月8~9日、中国・上海で「WonderFestival 2019上海」(以下、ワンフェス上海)が開催された。ワンフェス上海は、日本国内で開催されているイベント「ワンダーフェスティバル」(以下ワンフェス)が中国へと“輸出”されたもので、昨年に続き2回目の開催となる。

日本のワンフェスは、1984年のプレイベントに始まる長い歴史を持つイベントだ。年2回開催のイベントで、メインとなるのは「ガレージキット」と呼ばれる商品の展示・販売。このガレージキットは、大手メーカーが生産するのが難しいニッチな題材の立体物や、市販品では実現できないクオリティーのフィギュアを求めたマニアが自力で原型を作り、少数量産したものである。

版権もののキャラクターを題材としたフィギュアなどに関しては、版権元からイベント当日に限って販売許諾をもらう形で運営されている。同時に、近年は大手メーカーの新製品発表の場としての側面も濃くなっている。つまり、立体物を愛する人々にとってのお祭りのようなイベントだ。

■中国でフィギュアの需要が増大中

ワンフェスが昨年から上海で開催されている背景には、中国のフィギュア市場の盛り上がりがある。この数年、中国国内ではフィギュアの需要とクオリティーが共に上昇しており、大小のメーカーが増加。これを受けて、日本のホビーメーカーと中国メーカーが共にブースを出展し、さらに一般ディーラーとしてアマチュアの製作したガレージキットも展示および販売されるイベントが開催される運びとなったのだ。

2年連続で会場となった上海新国際博覧センターは、幕張メッセの約8倍(延べ床面積)という広大な展示場である。ワンフェス上海はこのセンターの17ホールのうち3ホールを使って行われた。日本のワンフェスは、近年は幕張メッセのほぼ全体を使用し、5万人を超える来場がある。ワンフェス上海の来場者数は不明だが、会場の広さや混雑ぶりを考えると本家と遜色ない盛り上がりを見せたといえる。

広大な「上海新国際博覧センター」

現地のモデラーによれば、中国ではフィギュアやプラモデルといった趣味は「若者の趣味」といった側面が濃い。確かに、40代前後の客層が多い日本のワンフェスに比べて、会場内の平均年齢は10歳ほど若く見える。これには、中国国内では模型やフィギュアといった趣味の歴史が浅く、高年齢のユーザー自体が少ないという事情が関係している。

■2回目にして全中国規模のイベントに成長

さらに、会場には上海だけではなく中国全土や香港、台湾からも集まってきているという。話を聞いたモデラーは上海出身だったが、「聞いたことがない方言が飛び交っている」と笑っていた。ワンフェス上海は、すでに全中国規模のイベントとなった。

日本のワンフェスとの違いはさまざまあるが、ひとつの特徴は、各ブースに展示されているフィギュアの巨大さだった。

数十センチから1メートルに迫るようなサイズのフィギュアが大型のブースに並び、多くのブースで併設されたQRコードを使ってその場で予約・購入することができる。この手の大型フィギュアは、マーベルやDCなどのアメコミ映画や、実写版トランスフォーマーシリーズなどの海外製コンテンツを題材にしたものが多かったが、同じくらい、『西遊記』や『三国志』など中国の歴史的な題材を選んだものも目立っていた。

開場には大型のフィギュアが並んでいた

いずれも彫刻や塗装が細密で、筆者が見て回った範囲では日本円にして10万円前後の商品も目立った。高額なだけでなく、置き場所も選ぶため、前述の中国人モデラーは「あれはお金持ちが買うものですね」と話していた。現代の中国では、それだけ生活に余裕のある層が「フィギュアを買う」という遊びにリソースをつぎ込むようになっているのである。

■日本メーカーは現地子会社を設立

この状況に対し、日本のメーカーも動き出している。バンダイナムコは2019年2月、現地に子会社「BANDAI NAMCO Toys & Hobby(SHANGHAI)」を設立。日本のIPを利用したトイホビー事業を開始している。ワンフェス上海にも『週刊少年ジャンプ』掲載作品などのフィギュアを出展していた。

BANDAI SPIRITSブースに展示された「METAL ROBOT魂 劉備ガンダム(リアルタイプVer.)」など

同じくバンダイの子会社で、ガンプラなどのプラモデル製品を管轄するBANDAI SPIRITSも、ワンフェス上海にブースを出展。『三国志』とSDガンダムを組み合わせて中国国内でも人気を博した「BB戦士三国伝」シリーズから、リアル寄りな頭身にアレンジした「METAL ROBOT魂 劉備ガンダム(リアルタイプVer.)」を大々的にプロモーションしていた。

■海賊版は激減しつつある

ホビーメーカーが中国に関連会社を設立する利点は多い。ひとつは現地の市場状況がダイレクトにわかるようになることだ。中国のホビーユーザーが好むサイズ感や細部のアレンジは日本のそれと異なるため、現地のスタッフが現地で仕事をする意義は大きい。

さらに、間に中国の代理店を挟んでの販売ではなくなるため、金銭面でのやりとりも楽になる。というのも、中国から海外への送金に関しては中国政府が厳しく管理しており、日本のホビーメーカーが直接中国で商売をしようとするとかなりの手間がかかる。現地に子会社を設立すれば、ビジネス上の制約を小さくすることができるのだ。

同時に、ホビー業界においては、現地法人の設立は海賊版対策という点でも有効だ。これまで日本の玩具・フィギュアは多数の海賊版に悩まされてきたが、現地に関連会社があればそれらの調査もより簡単になり、現地法にのっとった訴訟をすることも可能になる。

実際、今や中国国内の海賊版は激減しつつある。場所によってはグレーな商品も目にするものの、現地のホビーショップでは見かけない。バンダイなどはメーカーの直営店もオープンしており、中国のホビー市場は急速にクリーンになってきている。

■ワンフェス上海で発表された新商品

さらに日本メーカーの動きを象徴するような取り組みとして、国内大手ホビーメーカーのマックスファクトリーとゲームメーカーのアークライトがワンフェス上海で発表した「ドラゴンギアス」という商品がある。プラモデルのように組み立てるコマとゲームボード、カードなどを使って2人以上のプレーヤーが戦うミニチュアゲームだ。

展示されたミニチュアゲーム「ドラゴンギアス」

マックスファクトリーは、イギリスの大手ミニチュアゲームメーカー・ゲームズワークショップと提携。ゲームズワークショップの看板アイテムである「ウォーハンマー」シリーズの製品をかねてより日本国内でも販売してきた。

今回のドラゴンギアスはそれをさらに一歩推し進め、マックスファクトリーがこれまでに蓄積したプラモデル製造技術と、日本人で固めたスタッフによって世界的なミニチュアゲーム市場に打って出ることとなった。

■海外展開の足がかりにうってつけの場だった

会場で展示されたのは、制作中のゲームのコマやボード類、加えてプレゼンテーション用として、ゲーム内のロボットの1mに迫る大型モデルや、コマの設計データを3Dプリンターで大きく出力したスタチュー、ゲームのストーリーボードなど。ゲームであるにもかかわらず立体物の展示にボリュームが割かれたのは、ホビーメーカーであるマックスファクトリーの持ち味と、造形イベントであるワンフェス上海の特性がかみ合った結果だろう。

プレゼン用に大きく出力された「ドラゴンギアス」のスタチュー

「ドラゴンギアス」が日本のホビーイベントではなく、ワンフェス上海で発表された意味は大きい。このゲームは、日本国内では通常販売を予定しているが、海外での販売に向けてはクラウドファンディングによる資金調達を計画している。つまり、海外のミニチュアゲームファン向けに資金を募るためのプロモーションを仕掛ける必要があるのだ。そして、そのための場として、ホビー市場が急成長を続けている中国がうってつけだったのである。

さらにいえば、すでにある程度の歴史と文脈を背負ってしまっている日本のホビーシーンでは、「ミニチュアゲーム」というなじみのない商材が入り込む余地が少ない。店舗の売り場は整備されておらず、プラモデルやフィギュアのファンからも「どうせゲームのコマでしょ」と、自分たちに関係のないものとして扱われがちなのが現状だ。

しかし、中国でのホビーをめぐる環境は、まだ日本ほど確立されておらず流動的だ。前述のように中国では模型やフィギュアといった趣味自体がまだ国内で広まり始めてから日が浅く、ジャンルごとの住み分けがまだ進んでいない。マーケット全体が発展途上にあるため、ミニチュアゲームのような「プラモデル的側面もあるが、ゲームでもある」という商材でも受け入れられる素地があるだろう。

日本のホビーメーカーが新規事業を立ち上げる際に、世界に向けたインパクトが大きく、成長の余地も大きい中国市場を足がかりにする――そんな現状を象徴するのが、この「ドラゴンギアス」の発表だったのだ。

■各社各様のアプローチが問われる局面

今後、ワンフェス上海と中国のホビーマーケットは急速に成熟が進むだろう。前回来場した関係者からは、会場内の展示物が有力IPに集中する傾向がすでにかなり進んだという意見も聞かれた。しかし、高速で発展するマーケットがすぐ隣にある状況は、日本のホビーメーカーにとって大きな魅力であることは間違いない。

国内の市場では受け入れられにくい商材を持ち込んでプロモーションするのか、はたまた現地子会社と協力して中国人向けの商品開発に力を入れるのか。日中のホビー業界の関係は、盗作や海賊版を揶揄したり訴えたりする段階ではなく、すでに各社各様のアプローチが問われる状況に入っている。ワンフェス上海は、それを象徴するイベントと言えるだろう。

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しげる
ライター/編集者
1987年生まれ。模型誌編集者として勤務の後、現在フリー。専門はおもちゃ・プラモデルや映画など。ウェブサイト「ねとらぼ」などに寄稿。

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(ライター/編集者 しげる)

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