放火殺人で京アニの責任を問う毎日の驕り

プレジデントオンライン / 2019年7月23日 17時15分

爆発火災があったアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオ=2019年7月18日午後、京都市伏見区(時事通信社ヘリコプターより)(写真=時事通信フォト)

■34人が死亡する平成以降最悪の放火殺人事件

京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」(京アニ)の第1スタジオで、34人が死亡する放火殺人事件が起きた。平成以降の火災で最悪の惨事である。亡くなった方々とその関係者に対し、心からお悔やみを申し上げる。

京都府警によると、7月18日午前10時35分ごろ、男が1階玄関から侵入。「死ね」と叫びながらガソリンをまき、着火用ライターで火をつけた。火はあっという間に燃え広がり、鉄筋コンクリート造3階建て延べ700平方メートルが全焼した。

京都府警は全身にやけどを負って現場近くの路上に倒れていた男の身柄を確保。翌19日、府警はこの男について職業不詳、青葉真司容疑者(41)と公表した。逮捕状を請求する前の容疑者について氏名を公表するのは異例だ。府警は記者会見で「事態の重大性を鑑みた」と説明した。青葉容疑者は大阪の病院で治療を受けており、府警は回復を待って逮捕する方針だ。

■「京アニクオリティー」と呼ばれるほどの高いブランド力

放火された京都アニメーションの創業は1981年。本社があるのは京都府の宇治市だ。下請けからスタートしたが、「京アニクオリティー」と呼ばれるほど丁寧な作画や演出力で次第に人気を集めるようになった。これまでに「けいおん!」「涼宮ハルヒの憂鬱」「響け!ユーフォニアム」「Free!」などのヒット作品を出している。テレビアニメだけでなく、映画も手がけており、海外での人気も高い。日本のアニメブランドを象徴する企業のひとつだ。

日本のアニメ制作会社は東京に集中しているが、京アニは京都からの発信にこだわり、多くの作品が京都を舞台にしている。このため多くのファンが京都各地を観光で訪ねており、そうした動きは「聖地巡礼」とも呼ばれている。

死者数が多いだけでなく、日本アニメの象徴への放火という事件性から、さまざまなメディアが大きく取り上げた。この連載で読み比べている新聞社説も例外ではない。なかでも毎日新聞は発生翌日の19日付社説で書いている。他紙に先駆ける報道だったが、社説は早ければいいというわけではない。

社説を19日付の新聞に載せるためには、事件の発生と同時進行で書かなければならない。京都市消防局に通報があったのが午前10時35分で、火災の鎮圧が宣言されたのが午後3時19分だった。一方、翌日の新聞に社説を載せるためには、一般的には午後6時ごろまでに論説委員が原稿を書き上げる必要がある。つまり事件の方向性がよく分からないうちに、筆をおかなければいけない。かなりリスクの高い行為だ。

■歌舞伎町の火災と京アニの火災を比較する見当違い

案の定、7月19日付の毎日社説は、最後にこう書いていた。

「一方で、たとえガソリンによる放火でも、あっという間にビル全体が炎と猛煙に包まれてしまったのは不可解だ。2001年に発生した東京・歌舞伎町の雑居ビル火災では44人が亡くなったが、防火扉が固定されていた不備が明らかになった」
「今回の火災で、防火扉の設置や作動状況はどうだったのか。消火設備は備わっていたかなど、詳しい検証が待たれる。多くの人が出入りする場所では、不測の事態にも備えるべく防火策の再点検を進めたい」

防火扉の固定が問題にされた歌舞伎町の火災と京アニの火災を比較して、消火設備の不備の可能性を指摘するのは見当違いだ。京アニの第1スタジオのような鉄骨3階建ての建物には、防火扉の設置義務はない。法令で定められた消火器と非常警報設備は備えられており、京アニに法令違反はなかった。このことは同じ毎日新聞の20日付朝刊の解説記事「クローズアップ」でも指摘していることだ。

毎日の論説委員は、見立てに自信がないのなら、自社の記者の解説記事を待つべきだった。それをせずに、あやふやな知識で社説を書くから、こういうことになるのだ。

■「爆燃現象」や「フラッシュオーバー現象」の可能性

毎日新聞の「クローズアップ」では、火が一気に燃え広がり、多くの死傷者が出たメカニズムを探っている。まず出火当時の様子について「一瞬で真っ黒になり、何が起きたか分からなかった」と1階にいた社員の声を紹介した後、防災専門家の話を載せている。

それによると、揮発性の高いガソリンが燃えた場合、爆発的に燃え広がる「爆燃(ばくねん)現象」が起きる恐れがある。熱と爆風で窓ガラスが割れ、新鮮な外気が入ると、火の勢いはさらに強まる。さらに1階から3階まで吹き抜けのらせん階段を通って火が一気に駆け上ることも考えられる。

別の専門家は局所的な火災が急激に拡大する「フラッシュオーバー現象」を示唆しているという。爆燃現象やフラッシュオーバー現象は、今回の火災を読み解くうえで重要な概念になる可能性がある。社説はそうした事実を踏まえたうえで、書かれなければいけない。

■なぜ青葉容疑者は包丁やハンマーを持っていたのか

毎日の「クローズアップ」は防火設備にも言及し、「はしごなどの避難器具が必要なのは、3階建て以上で窓が少ない建物など」で、「スプリンクラーは、11階建て以上や窓がない建物などが対象」と書く。全焼した京アニの第1スタジオの建物には、避難器具やスプリンクラーの設置義務はないことがわかる。

今後、焦点となるのは青葉容疑者の放火の動機だ。放火時に「死ね」と叫んだことや、警察官に「小説を盗まれたから放火した」と供述したことは、何を意味するのだろうか。ガソリンだけでなく、包丁やハンマーを持っていた理由も気になる。

毎日以外の新聞はどんな社説を書いているのか。

読売新聞は7月20日付の社説で「理不尽な凶行に憤りを覚える」とのストレートな見出しを立ててこう主張する。

「男は、この会社に勤務したことがない。さいたま市に住んでいたとみられ、近隣と騒音トラブルになったこともあるという。凶行の動機は何だったのか。京都府警は解明に努めてもらいたい」

動機を探り出すことは、類似の事件の再発防止につながる。必要不可欠な捜査である。

「この建物は消防法令上、『事業場』に該当し、スプリンクラーや屋内消火栓の設置義務はない。京都市消防局の立ち入り検査でも法令違反はなかった」
「建物の構造などが被害の拡大に影響を及ぼさなかったか、検証が求められる。同じような建物について、避難経路を再確認し、不測の事態に備える必要もあろう」

■ガソリン購入者の身元と使途の確認を義務付けるべき

京アニにはスプリンクラーや屋内消火栓の設置義務はなかった。ただし読売社説が指摘するように、吹き抜けのらせん階段などの建物の構造と火の燃え広がり方の関係は消防当局が検証する必要はある。それは類似の事件・事故を未然に防止するために必要な知見だろう。

読売社説は悪用されると危険なガソリンに対し、警鐘を鳴らす。

「警察庁は販売業者に、不審人物が購入しようとした際の通報を求めているが、注意喚起にとどまる。購入者の身元を確認する法的な義務もない。ガソリンが凶器になりうることを踏まえれば、身元や使途を確かめるべきではないか」

読売の主張に賛成だ。ガソリンは凶器になり得る。それゆえ購入者の身元と使途の確認を行うよう、販売業者に義務付けるべきである。

■インターネット上の「犯行予告」と関係はあるのか

産経新聞の社説(主張)も7月20日付だ。脅迫についてこう書く。

「同社には数年前から『死ね』と記されたメールなど苦情や脅迫が会社に複数届いていたという。インターネット上には犯行予告と読める書き込みもあった。これらが犯行と結びつくものか、慎重に見極めなくてはならない」

慎重な見極めは必要だ。だが、仮に今回の犯行と結び付かないとしたら、京アニ側はどうすればよかったのだろうか。社説としての主張が弱く、何を訴えたいのかがわかりづらい。

「男と同社の関わりについて詳細は不明だ。過去の犯罪歴についてもつまびらかにする必要がある。どこかに犯行に結びつく鍵があるはずだ。男は複数の刃物も所持していたとみられ、強い殺意がうかがわれる」

犯罪歴を調べるのは、捜査の常套手段である。当然、京都府警は実行するだろう。それを「過去の犯罪歴についてもつまびらかにする必要がある」とまで書くのは、警察の捜査を馬鹿にしている。つまびらかにせずに、捜査を終えられるわけがない。発生直後に書いた毎日社説が不十分なのは仕方のない面もあるが、考える時間があったのに主張がわかりづらいのは、なぜだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)

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