写真を「捨てる」ことなく活用し切る方法
プレジデントオンライン / 2019年7月31日 6時15分
※本稿は、野口悠紀雄『「超」AI整理法 無限にためて瞬時に引き出す』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■大量の写真をどのように管理すればいいのか
人間とコンピュータの距離が縮まり、コンピュータを誰でも簡単に使えるようになりました。その結果、個人が持つ情報の爆発的増大という事態が生じています。
まず第1は、音声入力で作成したテキストデータです。音声入力によって、従来の10倍くらいのスピードで書くことができるようになりました。しかも、いつでもどこでも入力することができるうえ、クラウドにいくらでも保存しておくことができるため、文章の量が飛躍的に増大します。
画像データも増えています。写真を撮って保存するコストが急速に低下しているので、メモのために大量の写真を撮るようになったからです。
フィルム写真の時代には、いつでもカメラを持ち歩いているわけではありませんでした。そして、フィルム代や現像代やプリント代がかかり、保存場所の制限もありました。したがって、写真を撮るのは、運動会、遠足、旅行などの特別な場合に限られていたのです。
ところが、いまでは、いつも携帯しているスマートフォンで簡単に写真を撮れるようになりました。このため、新聞記事も名刺も駅の時刻表も写真に撮る、紙に書いたメモも写真に撮る、といったことになりました。記録に残しておきたいことは何でも、その場で写真に撮るようになったのです。
■保存量の上限は考えなくてよくなった
ただし、つい最近までは、撮った写真を無制限に保存できるわけではなかったので、写真をいくらでも撮るということはありませんでした。ところが、グーグルが提供するグーグルフォトというサービスが、無料で事実上無限量の写真を保存してくれるようになりました。これによって、コストや容量を意識することなしに写真を撮れるようになったのです。これは、写真に関してこれまでわれわれが持っていた考えを、根底から覆すものです。
こうして、写真の整理システムを構築することが、重要な課題になりました。写真を撮ること自体は誰にもできる簡単な作業ですが、問題は、「大量の写真をどのようにして管理したらよいか」というシステム作りのノウハウになったのです。
■テキストデータと画像データの本質的な違い
われわれは、あまりに大量の写真を抱えるようになったために、見たい写真を見いだすのが困難になってきています。写真は、テキストデータとは、次の点で違います。
第1に、自分が作成するテキストは、それほど量が多いわけではありません。ところが、写真はシャッターを押すだけで撮れるので、あっという間に量が増えてしまいます。
第2に、多くのテキスト資料は、時間が経つと内容が陳腐化して価値が落ちます。そこで、時間順に置けば、陳腐化したものが押し出されていきます(筆者が提案する「押し出しファイリング」)。ところが、写真について面倒なのは、古い写真に価値がないわけでなく、記念写真の類いは、むしろ古いものの価値が高いことです。
■情報の整理ばかりやるわけにいかない
第3に、テキストの場合は、一度編集したものは、自動的にトップに送られます。これによって、ある種の秩序を自動的に作ることができます。ところが、写真ではこれができません。
第4に、テキストでは、検索を使えます。キーワード検索をすれば、そして、文書が検索可能な状態になっていれば、保存した文書の中から目的のものを見いだすことは、比較的容易です。ところが、写真については、こうした方法が使えません。グーグルフォトでは、画像認識機能を用いて人間の顔などを判別し、似た人をアルバムにまとめるというサービスを提供していますが、現状での機能は、とても満足できるものではありません。
写真にしてもテキストデータにしても、情報の整理ばかりやっているわけにはいきません。他にやるべきことが山ほどあります。いまや人間は、自分で管理できないほど大量の情報を抱えるようになりました。大量の情報を生産したものの、それを有効に利用できないという皮肉な結果に陥っています。
■「捨てること」をやめて「検索する」
あまりに簡単に情報を生産したり入手したりすることができるようになったため、われわれは新しい情報洪水に呑み込まれそうになっています。呑み込まれるのは、情報を扱う基本的な考えが、従来のままで変わっていないからです。
とくに問題なのは、「いらない情報は捨てなければならない」という考えです。情報が紙の書類であった時代には、これは正しい考えでした。いらない情報を抱えていては、新しい情報を収納する場所がなくなってしまうし、必要なものが見つけられなくなるからです。
しかし、この考えをAIの時代にも実行しようとすると、大きな困難に直面します。情報が増える度合いがあまりに速いため、捨てようとしても、とても追いつかないのです。「情報に呑み込まれてしまう」ことになるのは、このためです。
他方で、デジタル情報については、収納する場所の制約を考える必要がなくなっています。さらに、検索をすることが容易になっています。そこで、基本的な考えを大転換し、「捨てる努力をせずに、検索できる仕組みを作る」ことに努力を振り向けることにします。
すると、まったく新しい可能性が開けるのです。その1つの例が、「超」メモ帳です。これは、音声入力を用いて検索することによって、大量の情報を管理しようというものです。
これは、AI時代のメモ帳であり、紙のメモ帳とは比較にならないほど強力です。スマートフォンに付属しているメモ帳と比べても、想像もできないほどの便利なメモ帳ができます。キーワードをうまく設定すれば、無限とも言える量の情報を保存しても、使いたいファイルをすぐに引き出せますし、重要なファイルを見失ったりすることがありません。
■画像認識をうまく使えば仕事と生活が変わる
画像認識の機能も、新しい可能性を開いてくれます。画像認識アプリ「グーグルレンズ」の機能を、大きく2つに分けて考えると、分かりやすいでしょう。
第1は、カメラが撮った画像が何であるかを識別する機能です。第2は、書籍などに印刷されている文字を判読する機能です。これらの各々について、現在のグーグルレンズの能力は、およそつぎのようなものです。
写真画像の判別能力については、バラの花をバラと認識することはできます。しかし、バラの種類を教えてくれるまでにはなっていません。人間の顔も識別します。ただし、欧米の俳優は、かなり正確に認識するのですが、政治家は、トランプ大統領やオバマ前大統領であっても認識できません。この機能については、実用段階には達していないと考えざるをえません。
グーグルレンズがすでに大きな実用価値を持つのは、文字の認識です。とりわけ、それほど長くない文字列や文章の認識であり、すでに実用段階に達しています。この機能をうまく利用することによって、仕事の能率を大きく上げることが可能です。具体的な使い方としては、以下のようなものがあります。
(1)検索
これまで意味が分からずに放置していた言葉がたくさんあるはずです。それらの意味を、グーグルレンズで簡単に知ることができるようになりました。これまで毎日見ていたもの、何気なく見ていたものが、新しい意味を持つようになります。
ある言葉が分かると、つぎつぎに他の言葉の意味が知りたくなってきます。調べた新しい言葉から、新しい世界が広がるのです。独学の第一歩は、このようにして、簡単に踏み出せます。
(2)印刷物の情報をテキスト化
翻訳したい文章があれば、グーグル翻訳にシームレスにかけて和訳できるので、外国語の書籍を読むのがきわめて楽になりました。中国語、韓国語、ロシア語などの新聞記事や文献も簡単に読めます。
また、音声で読み上げてくれる機能は、勉強に使えます。とくに、独学の強力なアシスタントとなります。外国語の独学は、いまやきわめて簡単になりました。
(3)URLの読み取り
URLを読み取るために、現在ではQRコードが広く使われていますが、グーグルレンズは、URLを元の文字のままでも読み取ります。このため、「URLを提示して、それを読み取ってもらい、サイトに誘導する」ということを、誰でも簡単に実行できるようになります。これは、広告のビジネスモデルを大きく変える可能性を持ちます。
(4)資料やデータの整理
グーグルレンズは、名刺を撮影して、そこから名前、電話番号、メールアドレス等を自動的に識別して抽出し、アドレス帳にシームレスに登録します。また、「メール」というボタンを選択すると、メール作成画面が開き、読み取った相手のアドレスが入力された状態になっています。したがって、本文を入力するだけで、ただちに発信することができます。
また、グーグルレンズを活用すると、新聞記事の切り抜き作業から解放されます。また、領収書の情報をテキストに変換することもできます。
AIの画像認識をうまく使えば、仕事と生活は大きく変わります。そして、その際にきわめて重要なのは、情報を「捨てる」のではなく、「検索する」という発想なのです。
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一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。近著に『入門 AIと金融の未来』『入門 ビットコインとブロックチェーン』(PHPビジネス新書)など。
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(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄 写真=iStock.com)
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