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なぜ日本の貯蓄率は韓国より低くなったか

プレジデントオンライン / 2019年7月29日 6時0分

1990年以降、日本の貯蓄率は大きく低下した。その結果、貯蓄率は、ドイツや韓国、アメリカよりも低く、主要国ではダントツの低水準だ。なにが原因なのか。統計データ分析家の本川裕氏は、「低成長による所得の伸び悩みが原因ではないか」という――。

本稿は、本川裕『なぜ、男性は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

■なぜ日本人は貯金しなくなったのか

家計の可処分所得は、一方で消費に回され、他方で貯蓄される。消費に回される分の比率を「消費性向」と呼び、貯蓄に回される比率を「貯蓄率」と呼ぶ。消費性向と貯蓄率は足して1となる性格のものである。

貯蓄に回された部分は、銀行預金を通じて、あるいは直接的な債券・株式の購入によって企業などの投資原資となるので、産業の発展を国内で支える基盤として重要視されている。

主要国の家計貯蓄率の推移を、OECD Economic Outlookの付属統計表ベースのデータによって図表1に示した。

日本は1990年以降の四半世紀の間に大きく貯蓄率が低下し、2014年にはじめてマイナスを記録している点が目立っている。かつて国民性の特徴として日本人は貯金好きとされ、経済の高度成長もそのおかげとされてきた。

ところが、この20~30年で、世界の中でも貯金をしないことで際立つ国民に変貌したのである。貯金好きが国民性の問題ではないことが端なくも明らかとなったといえよう。

■国際比較から見た貯蓄率を決める要因

それでは日本人の貯蓄率はなぜ下がってしまったのか。そもそも貯蓄率を決めるものは何なのだろうか。そこで、各国の貯蓄率の水準や動向の比較から貯蓄率を左右する要因として何があげられるかをまとめてみよう。

①高齢化のためか?

退職者が増えれば貯金を取り崩し、貯蓄より消費が上回る人々が多くなるはずだ。だから、通常、高齢化は貯蓄率の低下を招くとされる。日本の家計貯蓄率低下も第1に高齢化が要因としてあげられることが多い。ところが、日本と同様、高齢化が進んでいるドイツでは貯蓄率が必ずしも減っていないのだ。また、まだ日本ほど高齢化が進んでいない韓国で貯蓄率が大きく低下している。すると、日本の家計貯蓄率低下も高齢化だけのせいにしてよいのか疑いが生じる。

②社会保障に期待できるためか?

老後の備え(老齢年金)、あるいは失業、病気への備えに対して政府の財政支出が占める割合が多ければ、個人は貯蓄する必要性が薄れるため貯蓄率は低くなるはずである。確かに、福祉先進国のスウェーデンの貯蓄率は、以前はかなり低水準だった。

しかし、国民はあまり貯金していないので国の財政危機に対しては敏感にならざるをえない。最近は国の財政に信頼が置けないのか、スウェーデンの貯蓄率は大きく上昇している。スウェーデンのキャッシュレス社会への極端な傾斜もこれと関連している可能性がある。

かつて、日本の貯蓄率の高さは、安定を望む国民性や国が提供する社会保障への期待薄から説明されてきた。そうであるとすれば、貯蓄率の低下は、日本における社会保障への財政関与の拡大で説明してもよさそうだ。

だが、御用学者と思われるのを嫌うためか専門家からそうした見解はあまり聞かれない。逆に、国の財政状況への日本人の危機感が本当に高まればスウェーデンのように貯蓄率が再上昇する可能性がある。実際、2017年まで3カ年連続で貯蓄率が上昇しているのはそのせいかもしれない。

■所得の伸び悩みが、貯蓄率の低下に結びついた

③消費性向が高くなったため?

貯蓄率は消費性向と裏表の関係にあるので、消費性向が上がれば貯蓄率は下がる。かつての米国における貯蓄率の低水準や低下傾向は、消費者ローンの発達によって、借金してでも消費する家計行動パターンが普及したからとされていた。消費税率引き上げを前にした駆け込み需要の影響なども消費性向の一時的な上昇と捉えられよう。また、1990年代後半からの携帯電話の普及に伴う通信費への家計支出の急増が、日本や韓国、イタリアでは特に貯蓄率低下に影響していると思われる。

④景気が良くなっているためか?
本川裕『なぜ、男子は突然、草食化したのか 統計データが解き明かす日本の変化』(日本経済新聞出版社)

景気が悪くなると、通常は将来不安から消費を手控え貯蓄率が上昇する。アジア金融危機で大きなダメージを受けた韓国では1998年に貯蓄率が跳ね上がっている。日本でもバブル崩壊に伴う大型の金融機関破綻事件の影響で98年には貯蓄率が上昇している。

ただ、こうした変化は一時的であり、韓国でも日本でも、2~3年後には一般的な貯蓄率低下傾向に立ち戻っている点が印象的である。米国では2008年から、日本、韓国では09年から貯蓄率が一時期急増したのは08年9月のリーマンショック後の景気低迷(および米国ではそれに先立つサブプライム住宅ローン危機)の影響が大きいと考えられる。

⑤成長力が下がっているためか?

国民の消費パターンは短期的にはそうそう変わらないから、高度成長で思わぬ所得増となると貯蓄率が高くなる傾向が生じる。これが1970~80年代の東アジアにおける高い貯蓄率の要因とされるが、高度成長期の日本の貯蓄率上昇にも同様な側面が認められよう。であれば、逆に、思わぬ低成長による所得の伸び悩みは、貯蓄率の低下に結びつくだろう。つまり、所得が伸びないので貯金する余裕がなくなってきたというわけである。

じつは、これがバブル崩壊後の日本の長期的な貯蓄率低下の要因となっている可能性が高い。2015年以降の再上昇は、所得の伸び悩みに日本人がそろそろ慣れてきたからという見方も成り立つ。所得が低いなりに、再びせっせと貯蓄したほうが老後のためにもよい、という気運があるのではないか。

■日本のGDP統計で貯蓄率の長期推移を見る

日本における貯蓄率の長期推移を見るため、図表2には、内閣府のGDP統計における家計貯蓄率の公式数字(年度ベース)の推移を掲げた。

日本の家計貯蓄率は高度成長期に大きく上昇し、1975年度に23.1%のピークに達したのち、傾向的な低下が続き、2013年度には-0.9%とはじめてマイナスを記録している。高度成長期における貯蓄率の上昇については⑤の成長力要因が最も当てはまるだろう。

2013年度のマイナスについては、内閣府は同年4月からの消費増税直前の駆け込み需要の影響で収入を上回って消費が増えたためとコメントしている。先に見た③の要因に当たるだろう。この場合、暦年ベースだと需要の反動減まで含まれるので相殺されて影響があまり出ないが、年度ベースだと「増」と「減」が別年度となるため確かに大きく影響すると考えられる。実際、1997年4月の5%への消費増税の際も前年度の貯蓄率は急落している。

史上初めての貯蓄率のマイナスを受けて、経済評論家の中には、消費増税により社会保障に不安が減じ高齢者が安心して消費するようになるから貯蓄率が低下するとする見方もあった。これは先の②の要因に当たるだろう。日本は「かつてのスウェーデン」化したというわけである。なお、2014~17年度には再び家計貯蓄率はプラスに戻している。

■貯蓄率3期連続トップはなぜ福井県なのか?

最後に、貯金の好きな県民はどこか、という疑問に答えよう。5年ごとに実施される全国消費実態調査による都道府県別の貯蓄率比較を図表3に掲げた。直近2014年の値や分布図とともに04年から3期のランキングを示している。勤労者世帯の値なので前2図と比較して貯蓄率の水準は高い。

貯蓄率は、高齢者が多い地域ほど高くなる傾向がある。しかし、ここでは、対象が勤労世帯のみであるので地域により大きく異なる高齢化の影響は受けにくくなっていると考えられる。

これによれば、最も貯蓄好きな県は福井であり、山梨、秋田がそれに続く。貯蓄せずに使ってしまう比率が高いのは大分、岩手、宮城の順となっている。

貯蓄率の地域特性としては、日本海側が高く、太平洋側が低いという傾向が認められる。東北でも秋田、山形が高く、岩手、宮城が低い(前回調査の2009年でも同様のパターンであり、東日本大震災の影響ではなさそうである)。また、北陸が高く、東海が低い。さらに、鳥取、島根が高く、瀬戸内・四国は高くない。北陸の中では石川だけが例外的に低い。やはり消費都市の雄・金沢をかかえているためだろうか。

筆者の推測によれば、日本海側と太平洋側との違いなので、おそらく積雪が関係している。積雪地帯の県民には、雪が降って物資の調達に支障が出ることを見越して「貯めておく」という精神態度が身についているのではないだろうか。

■貯蓄率 北陸が上位、九州が下位という傾向

都市化との関連では、東京、大阪、名古屋といった東西の大都市圏では貯蓄率が高い地域は見当たらないが、かといって特段低いという特徴もない。

過去からの推移をランキングで見ると、各県とも、毎回の調査で順位の変動がかなり大きい点が目立っている。図1で見た各国の動きでもそうだったが、貯蓄率は種々の事情の影響を受けて変動しやすい指標だといってよいだろう。

それにもかかわらず、福井県が毎回トップであるのが印象的だ。また、概して北陸が上位、九州が下位という傾向が認められる。なぜ、九州が低いのかについては、さらに追究が必要だ。

(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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