デキる人は"説明は20字以内"を必ず守る
プレジデントオンライン / 2019年8月1日 6時15分
※本稿は、リップシャッツ信元夏代『20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。
■結局、なにが言いたいの?
スピーチやプレゼンで言いたいことが伝わらないのには、必ず理由があります。それもどれもがふだん気づかず、無意識にやりがちなことなのです。
よくあるのが、一生懸命伝えようとすればするほど「伝わらない」というケースです。どうすれば間違いなく伝わるのか、ブレイクスルーメソッドの基本的なコンセプトを説明していきましょう。
私自身がパブリックスピーキングを学ぶときに、コーチを買って出てくれたジャニスから、まず徹底的に指導されたのが、メッセージをひとつに絞ることでした。
「ナツヨ、それで結局、なにがいいたいの? スピーチの中にメッセージが2つあるわ。どちらが伝えたいこと?」
自分ではいいたいことを詰めこんでいたつもりでしたが、実際に指導されたのは、要らないことを「削ぎ落とす」作業でした。どんなスピーチでもプレゼンでも、この1点が聞き手に伝わって欲しいというメッセージがあるものです。
その「たったひとつの大事なメッセージ」をブレイクスルーメソッドでは、ワンビッグメッセージ(One Big Message)と呼んでいます。言いたいことをたったひとつのワンビッグメッセージに絞りこむことで、格段に相手に伝わりやすくなるのです。
しかも大事なのは、ワンビッグメッセージを「20字で語る」ことで、より明確に、意図したとおりに伝わるのです。20字におさめるなんてとうてい無理! とお思いかもしれませんね。もちろん、20字ですべてのスピーチ/プレゼンが完了するわけではありません。聞き手に最も刺さってほしいワンビッグメッセージを20字に凝縮する、ということです。
■有名企業のキャッチコピーを見てみよう
なぜ20字なのか。メッセージは相手に解釈の余地を与えてしまうと誤解の元になります。長い言葉で語るほど、解釈の余地は広がってしまいます。それを避けて、明確なメッセージを相手の記憶にしっかり焼きつけるためには、違う解釈をしようがないくらいにまで削ぎ落とした短いフレーズで伝えることです。
人間はだいたい15字から20字程度のフレーズが覚えやすいといわれています。英語のスピーチでは10語にまとめることを、スピーチコンテスト世界チャンピオンのクレッグ・バレンタインは提唱しています。英語であれば、10語にまとめるのがベストの長さになるのです。
しかしながら英語と日本語では違いがあり、英語を日本語訳にすると、およそ英語のワード数の倍になるのがふつうです。例をあげましょう。
I am Japanese(3語)→私は日本人です(7字)
I like these shoes(4語)→私はこの靴が好きです(10字)
Have you ever been to this country?(7語)→この国に行ったことがありますか?(15字)
このことを踏まえて、私は日本語であれば、20字が最適な長さであると提唱しています。たとえばコマーシャルのキャッチコピーが、その良い例でしょう。おなじみのフレーズといったら、こんなコピーが思い浮かびます。
「インテル、入ってる」(8字/インテル)
「セブン-イレブンいい気分」(11字/セブンーイレブン)
「すべてはお客さまの『うまい!』のために。」(16字/アサヒビール)
「お金で買えない価値がある。」(12字/マスターカード)
「自然と健康を科学する」(10字/ツムラ)
■“詳細に、正しく”では頭に焼きつかない
こんな誰でも聞いたことがあるテレビコマーシャルのキャッチコピーは、そのほとんどが20字以下で語られています。短いからこそパワフルで、さらに言葉のリズム感も良くなり、記憶に焼きつきやすいのです。かっぱえびせんのキャッチコピーと次の説明例を比べてみてください。
「このえびせんは、小麦粉、塩などを混ぜた生地に、天然のエビを数種類混ぜ、頭から尻尾まで殻もいれて作っているために、独特の風味が楽しめます。また揚げずに、炒ることによって生地が膨らみ、サクサクとした歯触りがして、そこが魅力になっています」
きっと、食品の開発者であれば、このように詳細まで説明したかったことでしょう。しかし、このように詳細に正しく説明されると、
「どの種類のエビなんだろう?」
「殻も入っているんだ! のどにひっかからないのかな」
「炒ると膨らむんだ。どうしてだろう」
どんどん想像が膨らんでしまいますよね。
ですから、正しい説明だとしても、多くを伝えようとすればするほど、短いコマーシャルの時間では頭に焼きつかないし、覚えられすらしないのです。こんな繊細なつくり方をしているからこそ、とにかく、食べる手が止まらなくなるほど美味しい。そんな思いが、「やめられない、とまらない! かっぱえびせん」の18字に凝縮されています。
■解釈の余地がないほどに言葉を絞る
特に日本語では、この「20字に削ぎ落とす」ことは大事です。
日本人は礼儀を重んじて婉曲的な表現を好むこと、そして敬語なども使われることから、日本語は実際に伝えるメッセージそのもの「以外」の余計な描写などが多くなりがちな言語です。
そして婉曲的表現で、相手に察してもらう文化だと、相手に解釈の余地を与えることになり、それが誤解だったり、伝わらなかったりすることの大きな原因となります。よく知った間柄なら「あうんの呼吸」で伝わるでしょうが、相手が初対面だったり、共通の価値観を持っているかわからなかったりすると、相手の解釈の振れ幅が大きくなってしまいます。
「例の感じで、よろしく」というのは同じチーム内なら通じるでしょうが、チーム外の人には伝わりません。ツーカーの仲でない相手に伝えるためには、解釈の余地がなく、まっすぐ意味が伝わる必要があります。
それにはワンビッグメッセージをとことん絞ること。20字にワンビッグメッセージを絞ることで、本当に必要な言葉だけが残り、周辺情報は削ぎ落とさざるを得なくなります。20字に削ぎ落とすことで、より解釈の余地を減らし、直球で伝わるようになるのです。
もちろん、厳密に20字でなくても1字か2字余るぶんにはかまいませんが、もし30字や40字になってしまったら、長すぎて情報を詰め込みすぎなのです。「20字」を規準として考え、いらないものを削ぎ落としていくと、本当に伝えるべき大切なことだけが残るはずです。
■同じ内容でも聞き手によってメッセージを変える
私がコンサルした食品機材メーカーM社も、あれもこれもアピールしようとしてしまったために、主要商品のインパクトが薄れてしまった営業プレゼンを行っていました。そこでメッセージを削ぎ落とし、取引先や卸会社の聞き手に対しては、ワンビッグメッセージを、こう打ち出しました。
「機材から食品まで大豆専門のよろず屋です」(19字)
一方、一般の消費者の方たちや、その場で製品を売りたいプレゼンの時には、こちらのワンビッグメッセージに絞りました。
「老舗豆腐屋の味を店でも家でも10分間で」(18字)
聞き手に合わせたワンビッグメッセージに合った、一貫したセールス活動や資料作り、展示ディスプレイを手がけていったことで、M社は着実に売上を伸ばしていき、海外にもどんどん進出していくようになりました。
「20字にワンビッグメッセージを絞る」ことで、聞き手に明確に伝わり、ブレないプレゼンやセールス、あるいは就活における自己アピールを作ることができるのです。
もしメッセージが曖昧であれば、聞き手は漠然となにを聞いたかわからないまま終わってしまいます。ついあれもこれもいれたいと欲張って、メッセージが複数になってしまったら、聞き手は混乱してしまいます。
なにが一番伝えたいことなのかを考えぬき、そのたったひとつのメッセージが聞き手に伝わるために必要な情報だけを探し当て、余計な情報はすべて削ぎ落とす。プレゼンとスピーチづくりはまさに情報の整理術であり、いかに最重要な情報のみへと整理するかにかかっています。
■プレゼンが劇的に良くなる「KISS」の法則
私がパブリックスピーキングのコーチたちに何度も口を酸っぱくして指導されたのは、以下のことでした。
「情報が多すぎる。本当に必要な情報はどれ?」
「そのエピソードは、この話に必要?」
何度も指摘されたのは、「効果的ではない言葉を減らす」作業でした。そして同時に、具体的に描写することも徹底させられました。
一般的にいうと、“Keep It Simple, Stupid/Keep It Simple, Short”といい、この頭文字をを取って、「KISSの法則」と呼ばれています。「短く、わかりやすく、簡潔に話せ」ということです。
さらにブレイクスルーメソッドでは従来の意味合いを発展させて、「Keep It Simple, Specific(KISS)」と提唱しています。これはシンプルかつ具体的を心掛けることで、「簡単・簡潔・簡明に話せ」という意味です。
■削りつつも、五感に訴え具体的に
なぜそんなに削ぎ落とさなければいけないのか。スピーチでは映画やテレビと異なり、視覚的に情報をとらえることがむずかしいので、漠然とした情報ではなかなか相手に伝わりません。
また字に残る文書なら読み返せますが、人間の脳は初めて一度だけ耳で聞いた情報を、そこまですべて記憶に残しておくことはできません。
ですから、徹底的に削ぎ落とし、耳から入る情報を「簡単・簡潔・簡明」にしてあげることが必要なのです。いわば枝葉をのぞいた幹だけとなるから、聞き手にとっては道筋が辿りやすいストーリーとなり、まっすぐとゴールへと導くことができるのです。
しかし「簡単に」「誰にでもわかるように」「具体的なイメージがわく言葉を選びながら」話すという作業は、意識してやらないとできないことです。
たとえばある新車を説明する時に「アクセルを踏み込んだ時に伝わってくる感じがどうなのか」、あるいは新製品のカップヌードルは「お湯を注いで蓋をあけたときに、フワーッとあがる匂いがどうなのか」といったことを、具体的に、しかし簡潔に、五感に訴えるような表現をしてみると、相手への伝わり方は格段にあがります。
ぜひプレゼンやスピーチでは、キッスしてみましょう!
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事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー
1995年早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。伊藤忠インターナショナル・インク(NY)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)を経て、2004年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。ニューヨークに在住し、調査分析、戦略設計、及びグローバルリーダー育成のための各種企業研修を提供している。2019年トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストで世界トップ100入りを果たす。日本人で唯一のWorld Class Speaking認定講師。英語著書にブライアン・トレーシー氏との共著『The Success Blueprint』(Celebrity Press出版)がある。
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事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー
事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー 1995年早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。伊藤忠インターナショナル・インク(NY)、マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)を経て、2004年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。ニューヨークに在住し、調査分析、戦略設計、及びグローバルリーダー育成のための各種企業研修を提供している。2019年トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストで世界トップ100入りを果たす。日本人で唯一のWorld Class Speaking認定講師。英語著書にブライアン・トレーシー氏との共著『The Success Blueprint』(Celebrity Press出版)がある。
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(事業戦略コンサルタント、認定スピーチコーチ、プロフェッショナルスピーカー リップシャッツ 信元 夏代 写真=iStock.com)
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