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認知症引き金物質除去する睡眠「黄金の90分」

プレジデントオンライン / 2019年8月24日 15時15分

▼入浴・睡眠編
スタンフォード流「黄金の90分」を手に入れる入眠法

■質の高い睡眠で、認知症を予防

近年、「睡眠負債」の問題が注目されています。睡眠負債とは日々の睡眠不足の蓄積のことです。借金が利息で雪だるま式に増えるのと同じように、睡眠負債も知らぬ間にどんどん増えていきます。寝不足だから週末に寝だめすればいいと思うかもしれませんが、その程度では追いつきません。一時的に体は楽になっても、根本的な解決にはなりません。

また、睡眠負債の問題は自覚症状があまりないことで、そのまま放置しておくと、健康に深刻なダメージを与えます。高血圧や心疾患、糖尿病などの発症リスクが高まることがわかっています。さらに、睡眠負債は仕事の生産性低下や、大きな産業事故にもつながる懸念があります。

ところが、日本は世界トップクラスの短時間睡眠国家なのです。OECD(経済協力開発機構)の統計によると、日本人の1日の平均睡眠時間は442分(約7時間22分)で、米国の528分(8時間48分)などに比べ非常に短い(図1)。厚生労働省の調査では、睡眠6時間未満が4割を占めるとされています。

とはいえ現実問題として、忙しいビジネスパーソンが十分な睡眠時間を確保するのは容易ではありません。そこで私は時間ではなく、「睡眠の質」を最大限に高めることを提案しています。よく知られるように、睡眠にはノンレム睡眠(脳も体も眠っている状態)とレム睡眠(脳は起きていて体は眠っている状態)の2種類があり、この2つを繰り返しながら眠っています。

実際には、図2のように最初に深いノンレム睡眠があり、次に短いレム睡眠がきて、それが1周期で4~5回続きます。睡眠はどの部分も大事ですが、特に入眠直後の約90分の最初のノンレム睡眠が重要です、この睡眠をいかに深くするかが、睡眠全体の質を上げるのに大きなカギを握ります。ここで深く眠れると、その後の睡眠のリズムが整い、眠り全体の質が高まって、翌日のパフォーマンスも上がるようになります。

ですから私は、最初のノンレム睡眠のことを「黄金の90分」と呼んでいます。睡眠時間が短くても、最初の90分でしっかり深く眠れれば、最高の睡眠がとれます。逆にいうと、最初の90分が浅い眠りのままだと、何時間寝ても質の高い睡眠にはなりません。

実は、この黄金の90分の間に、1日に分泌されるグロース(成長)ホルモンのうち8割が分泌されます。その成長ホルモンには、細胞の増殖や新陳代謝を促進させる働きがあります。年齢とともに衰える筋肉や骨を強くするのに欠かせません。成長ホルモンは中高年のビジネスパーソンにとっても重要なホルモンなのです。しかし、眠りが浅いと分泌が促されないので要注意です。また深い眠りには、免疫力の増強や自律神経を整えて脳と体を休めたり、アルツハイマーなど認知症の引き金になるとされる脳の老廃物を除去する働きもあります。

■ベッドに入るのは、入浴から90分後

寝つきが悪くて悩んでいる人が少なくないでしょう。そこで誰でも簡単に入眠できる効果的な方法をお教えします。ポイントは体の温度です。

睡眠に影響を及ぼす体の温度には2種類あって、その1つである体の内部の「深部体温」は、睡眠中に下がって臓器や筋肉、脳などを休ませます。もう1つは「手足の皮膚温度」です。覚醒時は通常、深部体温のほうが皮膚温度よりも2℃ほど高くなっています。

そして健康な人の場合、入眠前には皮膚温度が上昇し、手足がポカポカすることで放熱を行い、深部体温を下げます。そうやって皮膚温度と深部体温の差が2℃以下に縮まることで、黄金の90分が生まれます。

では、皮膚温度と深部体温の差をどのように縮めればよいのでしょう。日本人に適した最も効果的な方法は「入浴」です。

私たちと秋田大学との共同実験のデータによれば、40℃のお風呂に15分浸かった後の深部体温は普段よりも0.5℃上昇し、皮膚温度も0.8~1.2℃上昇することがわかりました。この「深部体温の一時的な上昇」というのが大事な点です。なぜなら、深部体温は上昇分以上に下がろうとする性質があるからです。

0.5℃上がった深部体温が元に戻るまでの所要時間は約90分。その間、体からは汗とともに熱が放出されます。そして90分を過ぎると、深部体温は元の温度よりさらに低下する一方、放熱を続ける皮膚温度はさほど下がらず、深部体温との差が2℃以内に縮まります。このタイミングで眠りにつけばスムーズに入眠でき、深部体温の低下とともに深い睡眠に入れます。図3のように就寝の2時間前に入浴するのが理想です。

なかには入浴後すぐ、体の温まった状態で寝る人もいると思います。しかし、質の高い睡眠のためには逆効果です。こうした体温と睡眠のメカニズム(生理学)を理解しておくことが大切です。

寝る前に90分も取れないという人もいるでしょう。その場合は、40℃以下のぬるいお湯に浸かるか、シャワーがおすすめです。深部体温はそれほど上がらないので、元に戻る時間も短くてすみます。ただし、大きな入眠効果は期待できません。

また、質の高い睡眠をとるためには、日中の活動も大切です。特に朝の過ごし方に気をつけてください。

■サーカディアンリズムを調整すること

人間はおよそ「1日=24.2時間」の「サーカディアンリズム」で動いています。1日=24時間のリズムに同調できるのは「光」のおかげで、暗闇の状態でいると、生活の開始時間は毎日0.2時間ずつ後ろにズレていきます。このことからわかるのは、起床したら朝日を浴びてサーカディアンリズムを調整することです。朝食もその調整に効果的なので、積極的に摂りましょう。

夜、お酒を飲む人も多いかと思います。少量のアルコール(日本酒換算で1合程度)は、入眠効果があるのでOK。ただし、飲みすぎは夜中にトイレに起きたり、脱水状態になるなど眠りの質を悪くするので注意を。

黄金の90分を生むことで、最高の睡眠が訪れます。正しい知識に基づき行動し、質の高い眠りを手に入れてください。

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西野 精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授
同大学睡眠生体リズム研究所所長も兼務。2019年5月、BrainsleepのCEOに就任。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』がある。

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(スタンフォード大学医学部精神科教授 西野 精治 構成=田之上 信 撮影=横溝浩孝)

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