なぜ日本の女性議員率は世界最低レベルか

プレジデントオンライン / 2019年8月7日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/mizoula)

7月の参院選では女性候補者数が過去最高を記録。しかし、当選確率をみると男女で10ポイントも差があり、女性議員の割合は22.6%にすぎません。衆議院では10.1%と世界で最低水準の割合となっています。なぜ、女性議員は増えないのでしょうか――。

■過去最高でも4人に1人にすぎない

先日の参院選は、選挙における男女の候補者の数ができる限り均等となるよう、政党に対して自主的な取り組みを求める「男女共同参画推進法(政治分野における男女共同参画の推進に関する法律)」が成立してから初めての国政選挙でした。それもあってか、候補者に占める女性の割合は過去最高を記録し、当選者の数も、過去最高を記録した前回の参院選と並んだことは記憶に新しいところです。

とはいえ、その割合は22.6%と、4人に1人にも足りません。衆議院にいたっては10.1%、つまり10人に1人という状況で、これはOECD加盟国における最低の水準です(図表1)。

女性国会議員の割合(OECD加盟国)

日本の政治における女性の進出の不十分さは、先の「男女共同参画推進法」の成立からもわかるように、特にここ数年でかなり広く認知されてきました。それにもかかわらず、女性の議員が増えないのはなぜでしょうか。

■夫は妻の選挙を手伝えないのか

まずは、他の職業と同じく、日本では結婚して子どもを持つ女性が男性のように働こうとすると、さまざまな足かせがかかるということがあります。以前このコラムで、妻が働きに出ることを認めないという男性はさすがに少なくなったものの、その分の家事や育児を自分が引き受けるという意識を明確に持っている男性は、日本ではまだあまり多くないという話をしました。どうやらこのことは、女性が選挙に立候補する場合にも当てはまるようです。

たとえば、立憲民主党の枝野代表は、あるメディアの取材に対して「女性が選挙に出た時に、夫が自分の仕事との兼ね合いで妻の選挙を手伝えないなどの障害があり、女性のほうがハードルが高い。まして子育て世代だと、育児の負担を多く担っているため、コストが大きいことは間違いない」とコメントしています(Reuters、2019年7月16日https://jp.reuters.com/article/japan-election-female-candidate-idJPKCN1UB087)。

立憲民主党は今回の選挙でほぼ男女同数の候補者を擁立し、男女共同参画を最も積極的に進めた政党であり、枝野さんはその代表として現状を素直に語られたわけで、決して悪気はないと思います。けれども、このコメントからは「男性が選挙に出た時には、妻は仕事をしていないから、あるいは、仕事をしていても女性なら(辞めるなどして)折り合いをつけられるから、手伝うことができる」「女性は育児の負担を男性よりも多く担うべきである」といった意識が透けて見えます。この意識を変えるところにこそ問題の核心があるということを、政治における男女共同参画の旗振り役には自覚してほしい、と注文するのは厳しすぎるでしょうか。

■供託金もハードルになっている

もちろん、人々の意識はそう簡単に変わるものではありませんから、そうした意識の変革を制度で後押しする必要があると思います。たとえば、男性・女性を問わず自分のパートナーが議員に立候補するという場合に、会社が休暇取得を認めやすくするとか、工夫できることはいろいろあるような気がします。

また、国会議員の立候補に際して300万円(選挙区の場合)もの供託金を納めなければならないという現行の供託金制度については、以前から男女を問わず立候補の権利を不当に制限するものとして批判されていますが、この際、男女の賃金格差、所得格差に鑑みて、女性の立候補を促進するという視点からも、見直しを図るべきです。

■当選確率に10ポイントの開き

ただし、仮に多くの女性が立候補するようになったとしても、女性の議員がそれに比例して増えるとは限りません。なぜなら、日本では一般に男性の候補者のほうが女性の候補者よりも当選しやすいという状況があるからです。今回の参院選においても、男性候補者の当選確率は36.1%でしたが、女性候補者の当選確率は26.9%と、10ポイント近くの差がついています。その背景には、そもそも現職が有利で、その現職に男性が多かったこと、最大政党の自民党と強固な支持基盤を有する公明党に女性候補者が少なかったことなど、さまざまな要因があるのは事実です。けれども、政治の世界ではいまだに昔ながらの「男は外で働き、女は家を守るべき」「女はでしゃばるな」的な価値観が好まれる傾向があり、それが女性の政治への進出を阻んでいるという側面も少なからずあるような気がします。

■妻ではなく家内と名乗らせる古い習慣

たとえば、POVというアメリカのドキュメンタリー制作会社がYouTubeで公開している「選挙活動―日本の選挙戦略(Campaign - Japanese Election Strategies)」という動画の中に、比較的若い男性の候補者の妻が、選挙運動を仕切っている年配の人々から、自分のことを候補者の「妻」ではなく「家内」と名乗るように指示を受けるシーンがあります。この選挙がいつ行われたものかははっきりしませんが、動画が公開されたのは2015年のことで、それほど遠い昔ではないようです。実際、「家内」と名乗るように言われた女性は少し違和感を覚えているようでしたが、それを指示した男性はもちろん、その傍らにいて相槌を打った女性も、それは当然であるといった感じでした。このやり取りについてPOVは何もコメントを加えていませんが、短いドキュメンタリーの中でこのシーンをわざわざ詳しく取り上げているのは、それがとても日本的であると感じたからでしょう。

■若者の投票率向上と票ハラ防止

このやり取りについて今の日本の大学生に感想を聞いてみると、違和感、もしくは嫌悪感を覚えるという意見が大多数でした。若い世代においては、政治家や社会のリーダーが男性でなくてはならないという意識もかなり薄くなっているので、この価値観の問題は、時間とともに解消されていくことでしょう。ここで考えなくてはならないのは、若者の投票率の低さです。今回の参院選は全年代の投票率も48.8%と過半数を割り込む低水準でしたが、中でも10代の投票率は31.3%と極めて低いものでした。政治における昔ながらの価値観を早く払拭するためにも、若者の投票率を上げることには真剣に取り組む必要があります。

ところで、女性の議員を増やすのは、男女を問わず能力のある人々が政治を担えるようにすることによって、この社会を良くしていくためであって、議員になりたいけれどもなれないかわいそうな女性を救うためではありません。その勘違いを正さなければ「お前に投票してやるからお尻を触らせろ」と女性候補者に言い寄ってくるセクハラオヤジによるいわゆる「票ハラスメント」が後を絶つことはないでしょう。

----------

鈴木 賢志(すずき・けんじ)
明治大学国際日本学部教授・学部長
1992年東京大学法学部卒。英国ウォーリック大学で博士号(PhD)。97年から10年間、ストックホルム商科大学欧州日本研究所勤務。日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究する。

----------

(明治大学国際日本学部教授・学部長 鈴木 賢志 写真=iStock.com)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング