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吉本の"最悪会見"と不倫オヤジとの共通点

プレジデントオンライン / 2019年7月29日 17時15分

所属タレントが反社会的勢力の会合に出席して金銭を受け取っていた問題で記者会見し、会見中断を受け、控え室に引き揚げる吉本興業の岡本昭彦社長(手前)と藤原寛副社長=2019年7月22日、東京都新宿区。(写真=時事通信フォト)

吉本興業・岡本昭彦社長の記者会見は、どこがダメだったのか。報道対策アドバイザーの窪田順生氏は、「何かを諦めなければ、何も伝わらない。岡本社長にはその覚悟がなかった。これは『不倫がバレて、家族も愛人も守りたいというオッサン』を思い浮かべるとわかりやすい」と解説する――。

■会見がうまくいけば事態収拾は早かった

吉本興業の一連のゴタゴタがようやく終息へ向かい始めた。

経営アドバイザリー委員の設置、芸人とも必要とあらば契約書を結ぶ……などさまざまな再発防止策を世に示したことに加えて、松本人志さんをはじめ芸人自身が問題解決に動き出したことで、世論も落ち着きをみせている。

だが、このような事態の収拾は本来、「会見」でやるべきことは言うまでもない。岡本昭彦社長の会見が「0点」「史上最悪」とボロカスにたたかれるものでなければ、もっと早く、もっとナチュラルに、事態は収まっていたのだ。

筆者はこれまで10年ほど、謝罪会見の準備、事前トレーニングに携わってきた。記者が100人以上集まるような大企業の謝罪会見も、「裏方」として手伝ったこともある。

そういう仕事をする人間の目から見て、あの会見の問題点と本来やるべきだった対策について指摘したい。

■世論をつくるための「戦略」がなかった

岡本社長の記者会見のどこがダメだったか。プロの目からすると、それは「戦略がなかった」ということに尽きる。

会見というものは、頭を深々と下げたり、記者の質問に正直に答えたりすればいいと誤解されている方も多いが、そういうものではない。企業側が考える理想的な世論をつくりだすため、戦略的にメッセージを発信していく格好の機会なのだ。

それを踏まえて、あの時点で吉本としてのゴール、つまり、「理想的な世論」とはどんなものかを考えておかなければいけない。現実の会見で社長の発言を見るかぎり、吉本としてはこんな落としどころを狙っていたのではないかと推察できる。

ゴール(1)宮迫博之さんらが会見で明かしたことは、「誤解」もしくは「嘘」である
ゴール(2)謝罪会見が1カ月以上も遅れたのは、隠蔽目的ではなく、信頼関係が崩れたから

ゴール(3)ギャラや待遇の不満はあるかもしれないが、今後も大崎・岡本体制でやっていく

■恫喝発言は認めて、真摯に謝罪するべきだった

だが、残念ながらこれらの目的は達成できなかった。どうすればよかったのだろうか。もし筆者が吉本のアドバイザーなら、岡本社長には「テープまわしとらんやろな」「会見したら連帯責任でクビ」などの発言を認めさせ、真摯に謝罪してもらうことを強く進言していただろう。

その目的は、語る言葉に説得力を持たせて、世間にこちらの話について聞く耳を持ってもらうためである。

言った、言わない、という泥仕合を繰り広げている中で、「自分は正しい」「相手は嘘をついている」を繰り返しても、世間は納得しない。むしろ、横柄、傲慢、独善という印象を与えてしまうだけだ。

ちなみに、こういう失敗は取材対応を弁護士が仕切った場合に多い。弁護士は日常的に、「非を認めたくない人」からの依頼を受けることが多いため、どうしても世間から見て滑稽で、無理筋な言い訳を押し通してしまう傾向があるのだ。

■「嘘をつかれた」ことは武器にできたはず

「それにしたって、社長があんな発言を認めたら辞任は免れないぞ」と思うかもしれないが、実は吉本側にはそれを回避する大きな武器がある。それは、「嘘をつかれた」という点だ。

日本には「嘘つき」を徹底的に糾弾するカルチャーがあり、嘘を認めて謝罪しても、一度でも嘘をついた人はなかなか許されない。特に宮迫さんは過去の不倫疑惑で苦しい釈明を繰り返してきたことで、主婦層から「憎悪」の対象となっており、ネット上ではいまだにすさまじいバッシングを受けている。

つまり、このような「嘘」への怒りを刺激することで、「宮迫のように嘘ばかりついている人間には、あれくらいの厳しいことを言うのも無理はない」というコンセンサスをつくっていくのだ。

もちろん、岡本社長も完全に「無傷」ではない。謝罪するだけでなく、「カウンセリングに通う」「アンガーマネジメントなどの研修を受ける」など、怒りをコントロールする方法を身につけていくと宣言する必要がある。また、自身の発言が高圧的にならないよう、定期的に外部の査察を受けるなど、具体的な再発防止策も示さなければいけない。

こういう話をすると、「言いたいことはわかるけど、そんな提案は岡本社長など経営陣がのむわけがないのでは」と思うことだろう。その通りだ。おそらくのまなかったと思う。不祥事企業でも、このような作戦を承諾するのは10社あれば1~2社である。

■一部に非があることを認めて納得感を出す

筆者自身、このような提案をして、「ちょっと他の人の意見も聞いてみます」とやんわり契約解除を宣告されることがたびたびある。どんなに世間から叩かれても、トップや企業の非を絶対に認めないのが「危機管理」だという考えからだ。ただ、ガチガチに守りを固めて、無理筋の言い訳をしたところで、今回の吉本のように結局はたたかれて、ネガティブなイメージが何年もこびりつくだけだ。

イメージの悪化を最小限で食い止めるには、「一部非があることを認める」という戦略に基づいて、納得感のある回答をしたほうがいい。今回の岡本社長の場合であれば、筆者なら、以下のような「模範解答」を用意しただろう。

Q.「テープまわしとらんだろうな」と言ったのは本当か

「発言は事実で、彼らのことを信じられないことからつい出てしまった言葉です。ここまで嘘をつかれて”ふざけるな”という怒りもありました。そこに加えて、『いますぐにでも喋りたい』とかなり感情的になっていたので、“この調子ならこの話し合いも盗聴してSNSなどで公開するのでは”と不安になっていたこともあります。しかし、そんな不信感や不安があっても、吉本興業のトップとして不適切な発言でした。彼らに嫌な思いをさせて申し訳なかったと反省しています」

Q.「会見を開いたら連帯責任でクビ」と圧力をかけたのか

「圧力ではなく、怒りで頭に血が上ったことで出た叱責です。もちろん、クビというのは本気ではありません。嘘をつかれたことを根に持っている自分がどこかにいて、“嘘をついていたくせに、こちらの都合も考えずに勝手なことを言うな”という怒りもあったのだと思います」

このように徹底的に「恫喝=嘘をつかれた怒りによる失言」というところを強調すれば、今のように日本中がツッコミを入れるような事態にはなっていない。ということは、一部から出てきた「全部ウソ」「信用できない」というような批判もないので、吉本側の主張がさらに信憑性が増すというわけだ。

■問題の発端から目をそらすテクニック

このようなメリットに加えて、筆者が「岡本社長が恫喝発言を認めるべきだった」という理由はもう一つある。マスコミと社会の関心をこちらに集中させることで、本件のクリティカルポイントである「吉本と反社」から目をそらせるのだ。

この問題のそもそもの発端は、吉本興業自身が、問題の反社会勢力企業がスポンサーに名を連ねるイベントにタレントを派遣したことである(※)

※筆者註:この点については、ダイヤモンドオンラインの「吉本経営陣が宮迫氏らの謝罪会見を頑なに拒んだ本当の理由」という記事で詳しく指摘した。

カラテカの入江慎也さんは宮迫さんらをオファーした際、吉本自身がこの反社企業がカネを出したイベントにタレントを派遣した「実績」があったことから、この反社企業を信用したのだ。にもかかわらず、吉本にはペナルティはなく、芸人だけが「無期限謹慎」や「契約解除」として世間から激しいバッシングを受けている。

今回、会見に集まったのはテレビや芸能記者などの「吉本の身内」が多かったので、このあたりの追及が甘く、今もほとんど問題視されていない。しかし、企業の不正や経済事件を日常的に扱っている人間であれば、1カ月以上も会見が開かれなかった背景に、どういう「力学」が働いたのかは容易に想像がついてしまうのだ。

■もっと怒りを刺激するネタを提供する

では、このリスキーな話から人々の目をそらすためにはどうすればいいのか。それはもっとわかりやすく、もっと怒りを刺激して、もっと注目を集めるネタを提供すればいい。それが、宮迫さんの「嘘」であり、岡本社長の「恫喝」だ。

「悪いのは宮迫だ」「いや、大崎―岡本ライン」だと騒ぎ、”マスコミ裁判”で人々の溜飲を下げれば、構造的、本質的な問題から大衆の目をそらすことができる。

そのような意味では、『FRIDAY』が再び報じた宮迫さんと金塊強奪犯らとの“ギャラ飲み疑惑”に対して、吉本が「契約解消の撤回についても、再度検討せざるを得ない」というリリースを出したことは極めて戦略的だ。このようなメッセージを会見の場で、岡本社長がしっかりとやっていれば、世論はもっと早く変わっていたはずだ。

■何かを「諦める」勇気が必要

企業危機管理に関わる人でも、「謝罪会見で風向きを変えよう」という勘違いをしている場合が多い。謝罪会見とは開いた時点で「負け」なものだ。それがわかっていない企業ほど、自分たちは正しいと主張をする。そのスケベ心や自己保身が炎上を招くのだ。

必要なのは「いい負けっぷり」を見せることである。そのためには犠牲が必要だ。世間に前向きなメッセージを伝えるためには、何かを諦めなくてはいけないのだ。

今回の会見で、吉本は何も諦めようとしなかった。だから、5時間もダラダラと喋っても「無駄」「やらないほうが良かった」となってしまったのである。

これはたとえるなら、不倫がバレたのに、家族も大切だし、愛人との関係も続けたいというオッサンと同じである。そんなオッサンが喋ることは誰も信用しないし、誰も擁護をしてくれないのは当然なのだ。

企業経営者、そして広報や危機管理の方は、吉本のような窮地に立たされた時、ぜひ「何かを諦める」という勇気を持っていただきたい。

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窪田 順生(くぼた・まさき)
ノンフィクションライター
1974年生。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者等を経て現職。報道対策アドバイザーとしても活動。数多くの広報コンサルティングや取材対応トレーニングを行っている。著書に『スピンドクター“モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)、『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)など。

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(ノンフィクションライター 窪田 順生 写真=時事通信フォト)

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