1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

パンや麺、カレー好きこそ摂るべき完全栄養食

プレジデントオンライン / 2019年8月13日 6時15分

ベースフード CEO 橋本 舜氏

サラダを食べたりサプリメントを飲まなくても、麺やパンといった主食を食べるだけで、約30種類の栄養素を摂取でき、健康な食生活を送ることができる──。そんな“完全栄養食”が話題を呼んでいる。開発したのは、かつては自身もラーメンやカレーライスばかりで栄養が偏っていたというベースフードCEO橋本舜氏。いまや大手食品メーカーも参入する完全栄養食誕生の秘密に、田原総一朗が迫った。

■DeNA入りを決めた、あの会社説明会

【田原】橋本さんはどちらの出身ですか?

【橋本】大阪の吹田市です。正確にいうと、母の実家の熊本県八代市で生まれて、父が働く大阪で育ちました。

【田原】お父さんはどんなお仕事を?

【橋本】祖父が測地設計の会社を立ち上げていて、父はその2代目でした。

【田原】大学は東大の教養学部だった。

【橋本】父が経営者であることもあって、最初は主に経済学部に進む文科II類に入学しました。でも、文科II類は経営学より経済学のほうが強くて、理論中心でした。一方、そのころにスティーブ・ジョブズが学生のころにカリグラフィーを習っていた話を聞きました。新しいものを作るには、経済のことだけではなく、文化やテクノロジーなど幅広く知っておいたほうがいい。そう考えて教養学部に進みました。

【田原】起業はそのころから考えていたんですか?

【橋本】いや、父親から「いきなり起業するより、大きい会社に入って学んだほうがいい」と言われて、その通りだなと。起業する気はなくて、どこかに勤めて新しいものを作る仕事に就こうと考えていました。

【田原】入社したのはDeNAだった。

【橋本】大きい会社の説明会に行くと偉い人が一方的に話すことが多いのですが、DeNAでは説明会で南場(智子現会長)さんが「ツイッターってやってる?」「どういうときに使ってるの?」と、むしろ学生に質問することのほうが多かった。自分が将来大人になったときにどちらになりたいかといえば、南場さんのように、好奇心を持って若い人からも学ぶ姿勢を持ち続けられる人かなと。

【田原】DeNAでは何を?

【橋本】最初はケータイゲームを作る仕事でした。

【田原】ゲームですか。新しいものをやりたい人にとって、面白かった?

【橋本】面白かったですよ。東大生は真面目な仕事はできるけど、映画を作るとか小説を書くとか、クリエーティブな仕事はできないと言われていて、僕はそれがコンプレックスでした。ゲームのディレクターをやって、自分も人を楽しませる仕事ができるんだと自信になりました。

【田原】次は新規事業の部署に移って、駐車場のシェアリングサービスをやった。これはどういうサービス?

橋本 舜●1988年生まれ、大阪府出身。甲陽学院高校、東京大学教養学部卒業後、DeNAに入社。ゲームのプロデューサー、駐車場シェアリングサービス、自動運転ビジネスの立ち上げなどに従事。2016年4月にベースフードを設立した。

【橋本】エアビーアンドビーの駐車場版です。たとえば甲子園球場近くの高齢者が免許を返上して車を売り、自家用車の駐車場は空いていたとします。一方、タイガースのファンが試合を見に来たものの、付近のコインパーキングは満車。こういうときにスマホで探して駐車場が借りられるサービスです。やっていたのは「akippa」という大阪のスタートアップで、DeNAが投資をしたために私も大阪に行って立ち上げのサポートをしていました。

【田原】その仕事は面白いかな?

【橋本】やりがいはありましたよ。ゲームは実際に困っている人がいるわけではないですが、駐車場代が無駄になっていたり、停められるところがなくて迂回し続けていたりと、実際に困っている人がいますから。

【田原】次は駐車場からロボットタクシーですね。これはどんな事業?

【橋本】自動運転車を活用したタクシーやバスの運用です。自動運転が普及するまでまだしばらくかかると思いますが、普及してから自動運転のタクシー会社やバス会社をつくるようでは遅い。タクシーをどこにどう配置するとか、どうやって決済するのかとか、いまから準備するための事業です。

■完全栄養食のアイデアは、いつ出てきたのですか

【田原】いまの事業である完全栄養食のアイデアは、いつ出てきたのですか。まだ会社にいるころ? それとも辞めてから?

【橋本】ロボットタクシーのころですね。自動運転は地方で実験を始めました。そのとき地元の方々に言われたのは、移動ができれば病気になる人が減るということ。高齢者が入院するのも通院が難しいからで、自動運転が導入されれば、みんなが健康になって社会保障費が減るというのです。さらに、将来はもっと高齢化と健康寿命が社会の需要なテーマになるとも指摘されました。もし自分がそのテーマでビジネスをするなら、何をやりたいのか。そう考えたときに出た答えが、完全栄養食でした。2016年のことです。

【田原】どうして食だったの? 福祉や健康だと、ほかにも選択肢はある。

■主食を食べるだけで健康でいられたらおもしろい

【橋本】健康になるには、食事と睡眠と運動が大切です。僕の場合、このうち運動についてはジムで走っていたし、睡眠時間も十分にあった。でも、食生活だけは簡単なもので済ませることが多く、健康的とはいえなかった。まわりを見ても、若者はパンやラーメン、カレーライスで済ませていたり、高齢者もインスタント食品で済ませたりしている人がいました。忙しかったり面倒だったりすると、主食だけになってしまうんですよね。そういう状況を見て、主食を食べるだけで健康でいられたらおもしろいなと思ったんです。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

【田原】つまりラーメンやカレーを食べたら、健康に必要な栄養は全部取れるというコンセプトですね。

【橋本】ピーマンが嫌いな子どもに食べさせたいときに、細かく刻んでカレーに入れたりしますよね。それと同じで、パスタやパンに入れ込み、かつおいしいものが作れれば、簡単にバランスのいい食生活ができます。

【田原】「簡単」というけれど、僕は簡単な食事は苦手で、できるだけ人と一緒に食事をするようにしています。そのほうが楽しいよ。

【橋本】僕も人と食事をするのは好きです。ただ、忙しくて簡単な食事しか取れない人も多いし、僕自身、友達と焼き肉やイタリアンに行くのは週に1~2回。普段は簡単な食事が多くて、そこで健康的な食事ができていないと、焼き肉屋さんでも「カルビを食べたいけど、脂っぽいからロースにしよう」となってしまう。人との食事を楽しみたいからこそ、普段の簡単な食事が健康であればいいなと。

【田原】栄養食品をやろうと思いついて、最初は何から始めましたか?

【橋本】試作です。まず栄養士さんに相談して、人が健康でいるために必要な栄養について教えてもらいました。WHOの基準を日本人に合わせて調整した食事摂取基準という基準があって、それに基づいて約30種類の栄養素を入れることにしました。

【田原】栄養はどうするんですか。サプリメントなんかを入れるの?

【橋本】いえ、スーパーで乾燥食品を買ってきて、粉にして混ぜました。たとえば昆布10グラムにはヨウ素が何グラム、大豆10グラムにはタンパク質が何グラム含まれているというデータがあるので、それらを組み合わせて30種類を網羅するんです。

【田原】混ぜるって、何に混ぜる?

【橋本】最初はパスタの生地でした。生地の粉に混ぜて伸ばして、パスタマシンでパスタにして試食する。蕎麦打ち職人みたいな感じです。

■どうして麺だったの?

【田原】どうして麺だったの? 主食といえば米もパンもある。

【橋本】単純に、僕がパスタ好きで日常的に食べていたことが大きいですね。お米も好きですが、自分で炊くのはちょっと大変なので。一方、パンは賞味期限が短くて、技術的に難しい。いまはパンもやっていますが、最初はインターネットでの販売が簡単なパスタかなと。

【田原】試作を1つ作るのに、どれくらいかかりました?

【橋本】買い物を含めると3~4時間です。当時は会社に勤めながら土日を利用して作っていました。じつはやり始めたときは、できないと思っていたんです。アイデアとしては誰でも思いつくものなのに、まだ世にないということは、もともと無理なのだろうと。でも、好奇心で試作していくうちに、退職して本気でやれば作れそうな手ごたえが出てきた。当時はDeNAの自動運転チームが20人くらいに増えていて、僕が1人抜けても前に進むくらいに勢いがついていました。そこで退職して起業することにしました。

【田原】上司は賛成してくれた?

【橋本】最初は「IT企業出身の人間が麺を作って起業するのは、リスクが高いんじゃないの?」と反対されましたが、それでもやりたいと言うと、「ダメだったら戻ってこい」と快く送り出してくれました。

【田原】栄養食品一本に集中できる環境になって、何から始めましたか?

【橋本】しばらく1人で麺を作り続けました。満足いくものができるまで、100回は作ったかな。最初は茹でたらドロドロになって麺じゃなくなるレベルだったし、何よりまずかった。煮干しとココアと大麦若葉とかを混ぜたりするので、めちゃくちゃまずいんです。最初はビタミンが一番豊富な食材、ミネラルが一番豊富な食材というようにオールスターで組み合わせるから、スター選手ばかりでバランスが悪いサッカーチームみたいになってしまって(笑)。

【田原】おいしいものができた後は?

【橋本】特殊な麺を得意にしている岐阜の製麺所をインターネットで見つけて、まず1000食作りました。資金は自分の貯金と、政策金融公庫からの融資で賄いました。

【田原】作った後は売らなきゃならない。どう売りましたか。

【橋本】最初はアマゾンで売りました。知ってもらうためにやったのがクラウドファンディング。ありがたいことに友達がSNSで拡散してくれて、約200人の方が参加してくれました。本格的に売れ始めたのは、17年2月に三軒茶屋のイタリアンレストランで試食イベントをしてから。それがニュースになって、1週間に3000食ペースで売れ始め、アマゾンの食品ランキングで1位になりました。ちなみにいまは自社のホームページで販売しています。

【田原】どうしてインターネット? 多くの人に届けたいならスーパーに置いてもらってもいいよね。

■お客様の反応を見て、より自然でプレーンな味に

【橋本】いずれはスーパーやコンビニにも置きたいと思っていましたが、いい商品にしていくために、最初はお客様から近いほうがいいと考えました。スーパーだとお客様が見えづらいので、まずは直販でお客様の意見をいただきながらやっていこうかなと。実際、麺は発売から4回、大きなアップデートをしているし、パンも3月に発売して1回アップデートしています。麺は当初“健康の味”がしましたが、お客様の反応を見て、より自然でプレーンな味になっています。

【田原】試食させてもらったけど、たしかにクセはない。下手に味をつけると好き嫌いがあるから、逆に売れなくなるかもしれない。いまどのくらい売れてますか。

【橋本】麺とパン合わせて累計で50万食以上で、パンは販売開始から2週間で2万食を突破しました。お客様のボリュームゾーンは30~40代。でも、50~60代の方も多く、わりと幅広く売れています。男女比は半々です。

【田原】そんなに売れるなら、競争相手が出てくるでしょう。

【橋本】日清食品さんが完全栄養の麺を作り始めました。パンは世界で僕たちだけです。

【田原】大手の参入は脅威ですか。

【橋本】気にしてないというのが正直なところです。後から日清食品さんが入ってきてくれたおかげでメディアで完全栄養食が取り上げられる機会が増えて市場が広がるので、参入はむしろいいこと。もちろん競合に負けるつもりもありません。大手は完全栄養ではない炭水化物中心のインスタント食品も作っているので、それだけに専念している訳ではない。僕らは完全栄養食だけだから本気で売れる。十分に勝負できます。

【田原】海外展開はどうですか。

【橋本】18年、サンフランシスコにオフィスをつくりました。アメリカでは19年の秋から販売開始予定です。海外展開に苦労している日本のベンチャーは多いですが、いまは日本食ブームで、ラーメン屋さんや寿司屋さんが増えています。それを追い風にして、日本人が作ったおいしくて健康的な新しい主食として売っていけたらなと。

【田原】将来は売り上げがどれくらいになるだろう。

【橋本】主食市場は世界で100兆円あります。いまは炭水化物中心の不健康な主食ですが、将来は100%栄養バランスのいい主食に入れ替わるはず。10%入れ替わるだけでも10兆円で、そのうちの半分を取れば5兆円になる。それくらいのポテンシャルはあるビジネスです。

橋本さんへのメッセージ:世界の人々の健康を、主食から変えてみろ!

----------

田原 総一朗(たはら・そういちろう)
ジャーナリスト
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所へ入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

----------

----------

橋本 舜(はしもと・しゅん)
ベースフード CEO
1988年生まれ、大阪府出身。甲陽学院高校、東京大学教養学部卒業後、DeNAに入社。ゲームのプロデューサー、駐車場シェアリングサービス、自動運転ビジネスの立ち上げなどに従事。2016年4月にベースフードを設立した。

----------

(ジャーナリスト 田原 総一朗、ベースフード CEO 橋本 舜 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください