認知症予防は卓球 ゴルフ 太極拳 オルゴール
プレジデントオンライン / 2019年8月25日 15時15分
▼目トレ・耳トレ編
太極拳、オルゴールでどうして脳が活性化するのか
■ウオーキングよりも脳にいい運動
人生100年時代に突入し、“長すぎる余生”を送ることが予想される昨今、心身ともに健康で長生きしたいとは誰もが願うこと。
しかし長寿になればアルツハイマー病をはじめとした認知症になるリスクも高まる。現在、日本の認知症患者は462万人を超え、30年後には世界でも約3倍になるという予測も。明らかな症状が出たときにはすでに手遅れ。「若い世代でも“明日は我が身”という危機感を持ち、早いうちから予防すべき」と語るのは、白澤抗加齢医学研究所所長の白澤卓二医師だ。
それでは、認知症を予防するにはどうすればいいのか。まず挙げられるのが「運動」だ。運動が脳の認知機能の低下を抑制することは数多くの研究で明らかになっている。運動といえば、中高年世代を中心に人気があるのがウオーキング。実際、週1回以上散歩・ウオーキングを行う人口は3300万人を超えるといわれる(笹川スポーツ財団)。しかし、さらに脳に良い影響を与える競技があると白澤医師は話す。
「ウオーキングもいいのですが、脳がより刺激されるのは『球技』です。テニス、卓球、ゴルフなどが代表格。規則的ではない運動が起こることで脳がより活性化されます。また、やっていて楽しいというのも長く続けるという観点からも大切。ウオーキングも、ただ平坦な道を歩くのではなく山道などを歩くトレッキングをオススメしています。複雑な地形を体が調整して歩くので“脳トレ”として有効といえます」
■手の指の運動が長寿を生む
とはいえ、球技もトレッキングもハードルが高いという方もいるはずだ。そこで、白澤医師が勧めるのが「太極拳」だ。
「40代を過ぎると多くの人は呼吸がだんだん浅くなります。しかし、深い呼吸ができれば心肺機能に加えて、脳が活性化される。その点で、太極拳は効果が高いといえます。また体のバランス感覚への意識が高まることもいい。高齢の方は転倒による骨折をきっかけに寝たきりになる方が多いですが、そのリスクを軽減することにもなります」
さらに体の運動に加え、手の指の運動もプラスしたい。昔から「手先を使った細かい作業は脳にいい」といわれているが、体の他の部位を動かすこと以上に、手の指の運動が脳を活性化させることが判明している。「ピカソ、シャガール、葛飾北斎らの有名画家は、想像力、思考力、観察力を駆使し、自らの手で素晴らしい絵を生み出しているせいかとても長生き。手の指から脳への刺激がたえず伝わっているからでしょう。実際に手の指を使うと、脳の血流がアップするという研究結果も出ています。運動と同様に、こちらも複雑な動きを選んだほうがいいですね」(白澤医師)。たとえば、上下バラバラに並んだひらがなを、両手の指を同時に動かしてなぞって1つの文章に完成する。0から9まで左右に並んだ数字を、自分の電話番号や携帯番号の順に各々の人差し指で同時にタッチする(図参照)など。一見地味だが、これがなかなか難しい。慣れてきたら、5本違う指でなぞり、スピードを徐々に上げていくと、脳への刺激がどんどん高まっていくという。
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■普段は聞こえない音を聴く2つの方法
耳を鍛えることは脳を鍛えることにもつながるため、白澤医師は認知症の予防や治療に「音楽療法」を取り入れているという。その代表例がオルゴールだ。「オルゴールの音には可聴領域(一般人が聞こえる周波数の範囲)を超える低周波・高周波が含まれています。通常人の耳には聞こえない音が記憶を司る脳の側頭葉が刺激される」と白澤医師。
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さらに「2万ヘルツを超える音域はCDでは収録できないので、生で聴くことをオススメしています。“生”の音楽が生み出す可聴領域を超える周波数は特に効果がある。ヨーロッパでは、教会でパイプオルガンの演奏会が頻繁に開催されていますが、これにもその働きがあります。日本でもパイプオルガンのコンサートが開かれているので、そういう情報をチェックしてライブで聴くのもいいですね」(白澤医師)。
最後は目について。50代から増加する「白内障」はとてもポピュラーな目の疾患であり、80歳以上になると100%が発症するとされる。その原因は、先天性、外傷性、糖尿病などいろいろあるが、多くは加齢によるもの。目の水晶体が濁り、物がかすんでぼやけて見え、日常生活や仕事にも影響が出る。いったん発症して水晶体が濁ると元に戻らず、今のところ有効な治療法がないので、手術が治療の主流とされている。
「2019年4月に、食事由来のビタミンやカロテノイドが加齢性白内障の発症リスクを下げるという中国・西安交通大学と豪州・南豪州大学の研究報告が話題になりました。食事由来のビタミンAの摂取が多い人は、摂取の少ない人に比べて加齢性白内障の発症リスクが19%減少し、同様に食事由来のビタミンC、ビタミンE、ベータカロテン、ルテインなどについても摂取が多い人の発症リスクは、摂取量が少ない人より10~20%減っていました。それらの栄養素を多く含むニンジン、トマト、ほうれん草、柑橘類などはより意識的に食べることで効果があります」(白澤医師)
■注意しなければいけないこと
ただし、注意しなければいけないこともあるという。
「この論文の注意点は、食事からの摂取が効果的だということが証明されたというところ。食事ではなく、サプリメントで摂取した場合のリスクは下がっていなかったのです」(白澤医師)
繰り返しになるが、認知症にしろ、白内障にしろ、症状が出る前の予防が大切だ。いつまでも健康で生きたい。その願いを叶えるには、まずは運動と食事の見直しをはかることが第一歩だ。
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白澤抗加齢医学研究所所長
お茶の水健康長寿クリニック院長。1958年、神奈川県生まれ。82年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。90年同大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。順天堂大学大学院教授などを経て現職。
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(東野 りか 撮影=研壁秀俊 写真=Getty Images)
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