年をとって「ありのまま」だと孤独な人生になる
プレジデントオンライン / 2019年8月18日 6時15分
昭和女子大学の「顔」であり、ベストセラーとなった『女性の品格』(PHP新書)などの著作でも知られる坂東眞理子さんは、もともと学者だったわけではなくキャリア官僚の出身だ。総理府(現内閣府)に入省し、内閣広報室参事官や男女共同参画室長や埼玉県副知事として活躍したあと、57歳で転じた大学の世界でも手腕を発揮。学長や理事長として、学生のキャリア支援や新学部設置を次々と進めてきた。最近では昭和女子大学の敷地内に米テンプル大学ジャパンキャンパスを誘致し、提携関係を深める方針を打ち出すなど、大学経営に常に新風を吹き込み続けている。
■無理にでも人を褒めよう
フランスの哲学者アランの「上機嫌は人間の第一の義務」という言葉は、私のモットーです。とりわけ年をとったら、意識して「上機嫌」でいることが大切です。
人は高齢になると、自分の気持ちに忠実に、ありのままの状態でいようとすると、どんどん不機嫌になってしまいます。だから意識して自分の機嫌をよくする。そうすると周りに人が集まってきます。誰でも機嫌の悪い人より機嫌のいい人のそばにいたいし、怖い人には近づきたくありません。
上機嫌でいることで、一番励まされるのは自分自身です。たとえおかしくなくても笑顔をつくる。よく「悲しいから涙が出るのではなく、涙が出るから悲しいのだ」と言いますが、形から入ることはとても大事です。
衰えていく自分自身を見つめているばかりでは気が滅入ります。そうではなく、外に目を向け、新しいことや知らなかったこと、おもしろそうなことを探しましょう。
欠点をあげつらうより、できるだけ物事のポジティブな面を見つけ、相手のいいところ、がんばっているところを無理にでも探して、褒めてあげるようにするのです。
人は誰でも認められたり称賛されたりするのはうれしいものです。人を動かすには地位やお金が必要だといわれますが、褒め言葉なら聞いてもらえます。しかも経験のある年長者から褒められればうれしくないわけはありません。ですから仮に退職して地位がなくなったとしても、遠慮せずにどんどん人を褒めるべきです。
そして「よいおせっかい」をすることです。
「年をとったら自分などもう用なしだ」と引っ込んでしまうのではなく、そういう自分が必要とされている場面を見つけ、人のためにできることをする。そこに頭を使うべきです。
そのときに注意しなければならないのは、若い人に尊敬されたいなどと余計な期待をしないこと。期待するから、「尊敬してくれない」と腹を立てることになるのです。
逆に「自分ができることで、若い人たちに足りないことは何だろう」と考え、そこを補ってあげるようにすれば、感謝されるし、自分もいい気分になれるのです。「尊敬してもらえるか」ではなく、「何をしてあげられるか」を考えるよう心がけるのです。
年をとれば自分が得意なこと、不得意なことはある程度わかります。だったら得意なことで若い人たちの役に立てばいいわけです。
私は最近、設立されたばかりの一般財団法人東京学校支援機構の理事長をお引き受けしました。そこで話し合われていることから、次のようなことを考えました。
今、小・中学校の先生たちはたくさんの業務を抱えて疲れています。中でも大変なのは、生徒の家庭からのクレーム対応だといわれます。
■若さを保つため「新友」をつくる
この問題の解決のために、私は60~70代の方々に、週に何日かでもボランティアでサポートしていただけないかと考えています。クレーム対応には、20~30代の若い先生より、酸いも甘いも噛み分けた60~70代の人のほうが適任なのです。
別の理由もあります。若々しさを保つためには、新しい友達=「新友」をつくることが必要です。しかし自然に任せていると、年とともに付き合う人の数が少なくなり、世界がどんどん狭くなってしまいます。
「今さら自分をわかってくれる人を見つけるのは無理」とあきらめないで、意識して一歩踏み出し、新たな世界の扉を自ら開かなければいけません。それは今お話ししたボランティアなどでもいいと思うのです。
年をとると新しい世界に入ることに躊躇するようになりますが、新しい場に出ていき、会ったことのない人と知り合うことで、自分自身も必ず活性化します。
ただ、男性と女性を比べると、女性のほうが新しい世界に飛び込んでいきやすい特質を持っているように思います。それは女性の人間関係のほうがフラットにできているからではないでしょうか。
男性の場合、高齢になっても「この相手は自分より上か、下か」ということを気にしてしまいがちです。相手の年齢を気にして「敬語を使うべきかどうか」と悩みます。しかし、そういう余計なことを気にしていると、なかなか新しい世界には入れません。
とりわけ仕事で成功した男性、偉くなった男性は、尊敬されるのに慣れていて、自分が特に尊敬されない場にいると居心地が悪くなるようです。それは自意識過剰というものです。
そんな「自意識過剰組」に多いのですが、「『ぜひ来てくれ』と頼まれれば行ってもいい」というような「受け身」の姿勢でいるようでは、新しい環境にはなかなか入っていけません。
■うまく切り替えができる人の条件
私のかつての上司のことを思い浮かべると、「やることは全部やった」と過去の自分に満足されている方ほど、人生の次のステージにうまく気持ちを切り替えられているようです。たとえば元内閣官房副長官の石原信雄さんも古川貞二郎さんも、高い地位に就いていたことなど少しも鼻にかけたりされず、新しい試みをおもしろがり、若い人を応援する気持ちを持ち続けておられます。
その一方、いくらかの思いを残してリタイアされたような方は、気持ちの切り替えがうまくいっていないように感じます。
といっても、石原さんや古川さんのように、しかるべき地位に就いて「やることは全部やった」と振り返ることができる人はごくわずかです。たいていの人は、仕事人生のどこかで挫折を経験しています。
気持ちのうえでそのことを引きずり、引退後もなお「尊敬されたい」「バカにされたくない」という気持ちが強いようだと、自分が大事にされない環境や、評価されていないところに出ていくのが怖くなります。新しいことを始めるのが億劫になります。
年齢を重ねるうちに、自分でも気がつかないうちに鎧兜のような硬い殻を被っていくのが人間です。自然に過ごしていると、その殻はどんどん厚くなります。新しい場に出ていくのが億劫になるのは、そういうメカニズムがあるからです。
鎧兜を脱げない人たちは、自分の思いをわかって受け止めてくれる人たち、少し意地悪くいうと愚痴を共有している人たちの輪の中では生き生きとしています。そこが彼らにとって、「居心地のいい空間」だからです。
しかし、そんな輪の中に安住していては、「外」に出ていけなくなってしまいます。人生100年時代、それでいいのですかと私は問いたいのです。
外の世界を知るには、自分から踏み出すしかありません。今いる狭い部屋の窓を開けて、ぜひ、外の世界を見て新しい空気を吸っていただきたいと思います。
1. 意識して「上機嫌」でいよう
2.「よいおせっかい」をしよう
3.「受け身」を捨て新しい友と出会おう
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昭和女子大学理事長兼総長
1946年、富山県生まれ。東京大学卒業。69年総理府入省。男女共同参画室長、埼玉県副知事、在豪州ブリスベン総領事などを歴任。
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(昭和女子大学理事長兼総長 坂東 眞理子 構成=久保田正志 撮影=葛西亜理沙)
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