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「口」を見たらわかる全身病気のドミノ倒し

プレジデントオンライン / 2019年8月17日 17時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/oneblink-cj)

血圧や肝臓など健康診断の「数値」には一喜一憂する一方、歯のケアに関してはあまり気を使わない人が少なくない。だが、口の中から発生する歯周病菌が血管に侵入して全身を巡り、脳や心臓などに重大な病気を引き起こす可能性が高いのだ。

■歯のケアをサボると命に関わる!

健康診断や人間ドックのメニューの中に通常、「歯科検診」は含まれない。体の内部は、血液や尿・便を採取したり、エックス線や超音波(エコー)の画像診断をしたりしてくまなくチェックするのに、歯は口の中に違和感を覚えたときに診察してもらう程度。そんな人も多いのではないか。だが、それでは体は知らぬ間に老いぼれてしまうリスクがある。

「ことは歯の問題だけではすまなくなります。脳や肺・心臓・血管など命に関わる臓器の重大インシデントとなる可能性があるのです」

とは、歯科医の若林健史さんだ。歯の劣化・歯周病の影響で脳・心臓・血管・性器などがやられる。具体的には「脳・心疾患」「糖尿病」「認知症」「ED(勃起不全)」などに直結するという。そうした警鐘が鳴らされているのを承知の人は多いが、本当の怖さと発症の仕組みをきちんと知る人は少ない。後ほど、それらのメカニズムを詳しく説明するが、ここでは全身の病気の元凶となる歯周病に関する基礎知識をおさえよう。

日本人が歯を失う最大の原因は何かと聞かれ、何と答えるだろうか。実は「むし歯」ではない。むし歯以上に原因となっているのが歯周病だ。人間の口には300~700種類の菌が存在する。むし歯菌と歯周病菌は全く異なるものだが、中でも最も凶悪なのが歯周病菌である。

むし歯の場合、食べカスをむし歯菌が分解→分解された食べカスが歯垢に→歯垢は糖分を得ると乳酸を生み出す→乳酸が歯の表面のカルシウムやリンを溶かす→むし歯となる。

では、歯周病はどうか。むし歯も歯周病も、歯磨きが不十分なことや、歯のメンテナンスを怠ることで発生する「生活習慣病」だが、歯周病になるプロセスはむし歯とは異なる。

まず、食べカスに歯周病菌が付着→食べカスが分解されて歯垢ができる。ここまではむし歯と同じだが、あとが違う。歯垢から吐き出された毒素により歯茎が腫れる→腫れが進行すると歯周ポケット(歯と歯茎のすき間)が深くなる→歯を支える骨が溶ける→歯が抜ける、という流れ。黒くなるむし歯も嫌だが、最終的に歯が抜ける歯周病はもっと嫌だ。しかも痛みが出るむし歯と違い、歯周病は初期段階では自覚することが困難で、ある日突然、歯が抜けることもあるから困る。若林さんは語る。

「歯は子供の頃は軟らかく、大人になると少しずつ硬くなります。それは唾液の中のカルシウムなどが歯の中に染み込むことなどで起こる現象です。硬くなるため、大人は比較的むし歯にはなりにくくなる。ところが、加齢や歯周病菌などの働きで歯茎が痩せ、歯の根っこが徐々に露出します。根っこはまだ軟らかいから、年をとると、この歯は歯周病で抜ける前に根っこ部分にむし歯ができる。『根面(こんめん)う蝕(しょく)』といいます。特に定年後、自宅での余暇時間が増加し間食の機会が多くなる人は、こうしたう蝕と歯周病のダブルの影響で歯を失う傾向が強くなります」

■歯周病菌が血管を通じて体じゅうへ

先ほど歯周病は自覚症状なしで進行しやすいと述べたが、全くのゼロというわけではない。「歯磨きをしたときに歯茎から出血したら、それは歯周病のサインです」と若林さんはいう。なぜサインだといえるのか。若林さんによればこうだ。

「歯と歯茎の間に歯周病菌が入り込むと、それを撃退すべく白血球が毛細血管を通って集まってくるのです。これといった病気や症状がないにもかかわらず、血液検査で白血球の数値が高く出た場合は、歯周病を疑うべきといわれています」

つまり、免疫細胞の白血球が増えたことで、歯茎の血管壁は薄くなり、破れやすくなる。外側から充血しているように見えるのは、歯茎の血管に血液が充満しているためで、この状態で歯磨きをすると歯茎の血管が破れやすいため、歯茎から出血しやすくなるというわけだ。

「恐ろしいのは、こうして歯茎やその周辺の血管などに歯周病菌が侵入することで『歯が抜ける』以上の現象が体じゅうで起こることです。血管を通して全身に歯周病菌が回り健康をおびやかす、という研究結果が近年続々と発表されています」

例えば、糖尿病だ。糖尿病は、食べたものから分解された糖分が、体内に吸収されにくくなり、血液中に糖分が溜まってしまう状態(高血糖)が続く病気だ。

「歯周病の人には、糖尿病の症状を持っている人がとても多いのです。歯周病菌の毒素であるエンドトキシンによって産生される炎症物質が血糖値を下げるインスリンの働きを抑え、糖尿病を悪化させる可能性があります。歯周病の治療をすると炎症物質の血中濃度が下がり、血糖のコントロール状態を示すヘモグロビンA1c(HbA1c)の値が改善することも明らかです。歯科医の中では『重症の歯周病患者は糖尿病を疑え』というのが常識です」

■なぜ歯が悪いと動脈硬化になるか

歯周病と糖尿病は、相互に悪い影響を及ぼすこともわかっている。つまり糖尿病の人は歯周病になりやすい。高血糖の状態が続くと体の中の防御機能が低下し、歯周病菌が増える。また、歯茎の血管を傷めると歯周病が進行しやすくなるといわれる。

「糖尿病の人がなりやすい病気(合併症)といえば、網膜症、腎症、神経障害などがよく知られていますが、歯周病もそのひとつ。糖尿病の人は糖尿病でない人の2.5倍も歯周病になりやすいのです」

一方、歯周病の人は狭心症・心筋梗塞などを含む循環器系の病気にかかるリスクも高まる。歯周病の人はそうでない人に比べ1.5~2.8倍も循環器病を発症しやすいのだ。

循環器系の病気の鍵は、動脈硬化だ。動脈内にコレステロールなどの脂肪がどろどろ状態になって厚くなり、動脈が狭くなるタイプの動脈硬化(アテローム性動脈硬化症)の患者の血管内から、歯周病菌が発見されたことが多数報告されている。

「これは歯周病菌が歯茎の血管を通じて動脈に入り込み、直接、血管に障害を与えるほか、炎症の起きた歯周組織から出る炎症性のサイトカイン(炎症によって出てくるたんぱく質の一種)なども血流を通じて心臓や血管に移動し、血管内皮細胞やアテローム性動脈硬化部分の免疫細胞に作用し、心臓血管系の異常を引き起こすのではないかと考えられています」

呼吸器系では、肺も歯周病との関連がある。高齢者の死亡原因のひとつ、口の中の細菌や食べ物を唾液と一緒に誤嚥(ごえん)することで発症する誤嚥性肺炎がある。この誤嚥によって、口内やのどの上部に存在する細菌が侵入し、肺炎を引き起こす。

「最近、歯周病菌が肺の感染部分から検出されて、肺炎の一因であることがわかりました。歯周病を治療することで口の中の細菌が減り、誤嚥性肺炎のリスクも回避できます」

心臓や肺といった循環器系が危ないなら、当然のこと脳のほうも危険な状態だ。脳血管障害や認知症などに、歯周病が関わっているのだ。

まず2013年、アルツハイマー病の患者の脳から歯周病の原因菌が発見された。患者10人中、4人の脳からこの菌が見つかったが、同じ年齢で認知症ではない10人の脳からは全く検出されなかった。その後、歯周病菌からできる物質により、アルツハイマー病特有の脳の異常が引き起こされる可能性もわかってきた。

例えば、日本大学歯学部の落合邦康特任教授(口腔細菌学)らは、歯周病の原因菌によって作られ、口臭の原因にもなっている「酪酸」が血管を介して脳の海馬で、鉄分子などを作りだすことを突きとめた。この鉄分子が脳細胞を破壊するわけだ。

19年1月にはアメリカで、アルツハイマー型認知症との関係をさらに補強する論文が発表された。アルツハイマー型認知症の人の脳には歯周病菌が生み出した「ジンジパイン」という酵素が存在したという内容だ。

歯周病との関わりを指摘されているのは、ほかにも骨粗鬆症やリウマチ、早産・低体重児、EDなどがある。

こうした現状を踏まえれば、健康寿命を長いものにするためには、日頃からの歯や口腔のケアが不可欠であることは明らかだろう。もし、それが疎かであれば、全身病気のドミノ倒しになってしまうリスクもある。

「歯が若返ると、自然と体も心も若返るのです」

と語る若林さんによれば、体を老け込ませないためには、体だけでなく歯のケアも大事という意識が高いのは、いわゆる成功者に多いという。

「弁護士やIT関連の起業家など経営者、また管理職のビジネスマンなどが私のクリニックに足しげく通っています。みなさん、仕事でかなり忙しいはずなのですが、予約して定期的に受診します。それができるのは、自己管理&時間管理能力の高さゆえですが、それに加え、歯のケアをサボって歯が悪くなってから治療すると結果的に医療費が高くついてしまうという、先を読む力があるからではないかとも思っています」

■「口の中」がヤバいと医療費が高くなる

歯周病にかかっている人はかかっていない人に比べ、どれだけ余計に医療費がかかって損をしているのか。

例えば、自動車部品世界シェア第1位のデンソーの健康保険組合が被保険者の医療費を分析した調査によれば、歯周病の人は非歯周病の人よりも歯科だけでなく、歯科以外の病気の医療費も1人あたり年間平均約1万6000円多くかかっていた。

そう考えると歯科のかかりつけ医を持ち、定期的に受診し、歯石とりやクリーニングなどをすることで、恐ろしい歯周病を回避するとともに、生きるうえでのコストを低く抑えることができるともいえるのだ。

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若林健史(わかばやし・けんじ)
歯科医師
若林歯科医院院長。日本大学客員教授。日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長。歯周病専門医・指導医として講演多数。
 

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■▼歯周病で体じゅうが病気だらけになる

(フリーランス編集者/ライター 大塚 常好 撮影=堀 隆弘 写真=PIXTA、iStock.com)

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