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茂木健一郎が「永遠の5歳児」を自称するワケ

プレジデントオンライン / 2019年8月8日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pinstock

「年を取るのは不幸だ」というのは思い込みにすぎない。脳科学者の茂木健一郎氏は「脳は外からの固定観念にとらわれやすい。年齢をものさしに考える癖がつくと、発揮できる能力を発揮できないままに終わってしまうことになる」と指摘する――。

※本稿は、茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える思い出す力』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

■「年齢」を「自分らしさ」にしている

これからの時代は、男らしさ、女らしさなど、ありとあらゆる「らしさ」が取り除かれていく時代になります。

私たちが無意識のうちにまとっている「らしさ」の一つに、年齢があります。

われわれは「まだ何歳だから」「もう何歳だから」できないとか、あの人は「同じ世代」だからつき合いやすい、「違う世代」だからつき合いにくいというように、年齢で他人の能力・人物像をステレオタイプに判断してしまいがちです。

これは「エイジズム(年齢差別)」と呼ばれ、男女差別と同じように、撤廃が叫ばれている重大な差別です。

■あらゆる年代の人が「年齢差別」を感じている

2017年に行われたTEDカンファレンスで、「エイジズムに終止符を!」というトークがとても評判になりました。ニューヨークの作家兼活動家で、1952年生まれのアシュトン・アップルホワイトさんが、われわれは人種差別や男女差別、いろいろな差別をなくそうとしてきたけれど、年齢による差別が残っている、もうエイジズムをやめようと訴えました。

僕はその会場にいたからよく覚えているのですが、そのトークは、どんな世代の人からも賞賛を浴びていました。「そうそう、私もそういう扱いをされたことがある! それはやっぱりおかしいよね?」とほとんどの人が共感できるほどに、エイジズムは世の中にはびこっています。

残念ながら、日本は国際的に見るとエイジズムが強い国だと言わなければなりません。しかし、日本に限らず、どの文化圏でもエイジズムはあって、特に女性は男性以上にエイジズムの対象になりやすいところがあります。

■年齢をものさしにしていると脳の元気がなくなる

われわれは小学校の頃から学年主義を押しつけられてきました。5年生の次は6年生で、次は中学生で、その後は高校に行って……と人生はベルトコンベアのように、年齢とともに一定のスケジュールで動いていくと考えがちです。

しかし年齢をものさしにして物事を考える癖がついてしまうと、他人だけではなく自分も不幸になります。

こんなふうに外から与えられた文脈に素直に適応していると、たとえば55歳くらいになると、「そろそろ会社では終わりのほうだ」、60歳になったら「定年で再雇用だ」「自分の人生は徐々に収束していかなければならない」と考えるようになります。本当はまだ元気なのに、自分から勝手に思い込むと、脳は「そういうものなのかな」とその文脈に適応して、自ら元気をなくしてしまいます。

脳は、外から押しつけられる文脈、固定観念にとらわれやすいものです。

それに素直に従っていると、発揮できる能力を発揮しないで終わってしまうこともあります。

■永遠の5歳児として、一日中楽しんで生きていく

僕自身は、現在50代ですが、永遠の5歳児として生きていこうと思っています。僕は朝から晩まで、ずっと「フロー」の中で生きています。「フロー」は、アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、一つひとつの「課題」に最高に集中した心理状態を指します。5歳児は、何をやっても新鮮で、夢中になって、飽きることがない、フローの中で一日中生きている存在と言えます。

フローの中では、時間の経過を感じず、自分の存在を忘れて、その課題と一体化し、最大限に楽しんでいる。そういう状態が一日中続いているというのは、もちろん、一つのことだけをずっとやっているということではありません。一つの課題に疲れてきたら、別の仕事に取りかかったり、走りに行ったり、人に会いに行ったり、何かを食べたりして、一日中どんな課題も、時間を忘れて楽しんでいるという意味です。

■若いときの方が「オジサン」だった

そんな5歳児の暮らしを身につけた僕ですが、僕にもいわゆる「オジサン」時代がありました。型にはまっていた時代です。むしろ若いときがそうでした。大学生は大学生らしくしなければならない、博士号を取ったのだから、博士号を取った人らしくしていなければならない、と考えていました。

東大に通っているということで、エリート主義になったり、どこかもったいぶったり、僕の脳が文脈に過剰適応してしまっていたのです。

若くしても「オジサン」のようになることはあるし、一度「オジサン」になってしまってもまた5歳児に戻ることができます。「らしさ」を獲得しようとするのは脳の癖であり、「強み」であると同時に「弱み」でもあるのです。

ですからみなさんも、5歳児を目指してみませんか?

■「年を取るのは不幸」は間違った思い込み

あなたは、さまざまなシチュエーションで、人に年齢を聞いてはいませんか?

もし聞いているとしたら、それは何のためですか?

他人に対して気にしていることは、実は、自分に対して不安に思っていることなのです。

われわれは、年を取ることにネガティブなイメージを持っています。年を取ることは、坂を下ることで、だんだんと惨めになると思っています。

先ほど紹介したアップルホワイトさんは、それは事実ではないと言います。たとえば、若い人は死を恐れ、忌み嫌いますが、そのような死に対する恐怖は、年を取ったほうが少なくなり、人生で最も幸福感を抱くのも、年齢が上がったときであると語ります。実際、人間の幸福度は、年を取れば取るほど下がるわけではなくて、U字型になる(つまり、子どもとお年寄りが特に幸せ)というエビデンスがあります。

年を取ることについて、われわれは間違った思い込みをして、勝手に不幸になっているのです。アップルホワイトさんによると、女性が不幸になるのは、女性だからではなくて、女性差別があるからで、年を重ねた人が不幸になるのは、体や認知機能が多少衰えたからではなくて、それに対する差別があるからなのです。

■「脳の使い方」が偏っていることに問題がある

われわれの「年齢」に関する不安の一つに「記憶」の問題があります。

われわれは、思春期には学校でさまざまなテストを突破すること、青年期、壮年期では会社などで成果を挙げることを期待され、常に記憶力を試されてきました。さらに高齢になると、記憶力に問題の出るアルツハイマー型認知症などの病気のリスクも高まります。

人生100年時代と言われますが、記憶にまつわる心配事に、われわれは常にさらされているわけです。

僕は、脳の使い方に偏りがあることが問題だと思っています。

一度きりの人生ですから、頭も体も、自分の持っている機能は、フルに使いたいところですが、脳の使い方にも人によって癖があり、いつも決まった回路を決まったパターンで働かせてしまう傾向があります。

■「思い出す回路」を強化するほどクリエイティブになる

記憶には、「覚える」「保存する」「思い出す」という3つのプロセスがあります。ですが情報過多の現代人は、「覚える」「保存する」のインプットを重視して、「思い出す」をおろそかにする傾向があります。

茂木健一郎『ど忘れをチャンスに変える 思い出す力』(河出書房新社)

しかし今や、情報や知識をインプットすることについては、人間はもはやAIに太刀打ちすることができません。これからの時代、「覚える」「保存する」だけでは限界があり、「思い出す」ことを取り入れることこそが重要なのです。

「思い出す」なんて、年を取った人が、過去をなつかしむだけの行為だと思っている人もいるかもしれません。しかしそれは大間違いです。

脳が思い出そうとしている時に使う回路は、脳が新しいものを創造する時に使う回路と共通することがわかっています。つまり思い出す回路を強化すればするほど、物忘れをしなくなるだけにとどまらず、クリエイティブな能力を高めることができるのです。

まさに現代にこそ必要とされる「思い出す力」ですが、それを強化するのは誰でも簡単にできます。毎日の生活の中でほんの少しの時間、意識するだけでも十分。もっと言えば、ボーッとするだけでも効果があります。

思い出す力を存分にいかすこと。それがAI時代に必要とされている新しい脳の使い方なのです。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。

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(脳科学者 茂木 健一郎)

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