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リモートで組織をうまく回すのは本当に可能か

プレジデントオンライン / 2019年8月22日 11時15分

比較的若い世代の社員が多く、活気に満ちたオフィスフロア。自分のデスクはあるが、手前の大きな机もフリーに使える。パソコンを持ち寄りあちこちで打ち合わせが行われている。

会社創立から7年、グローバル企業として急成長するスマートニュース。若い会社独特の“勢い”と“課題”を探る。

■仕事中に疲れたらハンモックで昼寝

世界各国のメディアのニュースをスマートフォンで読むためのアプリケーションサービスを行っているスマートニュース。日米を中心に、3500万以上もダウンロードされている人気アプリで、最初にニュースを読み込んでおけば、電波がない場所でもテキストを読めるのが画期的だ。ニュースを提供するテレビ、雑誌、新聞、ウェブなどメディアの総数は2700以上にもなり、スポーツ、ファッション、テクノロジー、政治、経済、国際、芸能などチャネルのカテゴリーが多岐にわたる。「『100%満喫した』を英語で言うなら」など“使える”言い回しや単語が紹介される英語学習、自宅でできる冷え性改善などのヘルスケアなど実用ネタも充実。さらには全国のレストラン、ファストフード店の割引クーポンが付くクーポンチャネルもウケている。

大きなクッションやソファ、ハンモックがあるスペース。ここでぼんやりしたり、昼寝をすることで、新たな発想が生まれることもある。

おしゃれな若者たちが闊歩(かっぽ)する東京都渋谷区神宮前のオフィスを訪ねた。オフィスフロアは、ワンフロアぶち抜きでずらりとデスクが並ぶ。社長室や役員室はなし。社長も役員もヒラの若手も隣り合って働く。打ち合わせスペースで、パソコンを片手に社員たちがミーティングする一方で、フリーデスクや自分の席で黙々と仕事をしている人も。立ったまま仕事ができるスタンディングデスクで作業する人もいる。実に自由な雰囲気である。

このフロアには人気のコーヒー店から出張してきたバリスタが本格的なコーヒーをいれるカフェを併設。コーヒーマシンのものとはクオリティーがケタ違い。カフェの周辺では外国人社員が立ち話をしていて、グローバル企業の一端がうかがえる。フロアの隅に視線を移すとハンモックや、クッションが並ぶ大きなスペースが見える。ちょっと疲れたらここで昼寝もOKだ。

忙しいからといって働きづめだと、かえって仕事の効率が悪くなる。食べるときは食べ、休むときは休む。そのために居心地が良い環境が整備されていれば、仕事の効率はアップ。カフェ以外にも、有機野菜のメニューが楽しめる社員食堂を完備するなど、“食”の面も充実している。

さらに同社では妊娠、出産、介護など、さまざまな事情があっても働き続けられる環境づくりにまい進している。そこで現在、子育て中で時短勤務とリモートワークを活用している2人の女性にインタビューした。

■柔軟なリモートワークで育児と仕事を両立

1人は、メディア事業開発の田尻愛さん(入社5年目・28歳)。大学卒業後の海外留学を経て、ベンチャー企業に就職後、2015年にスマートニュースに入社。結婚・出産後、18年に職場復帰した。

メディア事業開発 田尻 愛さん

「スマートニュースでは独自のコンテンツを作っていないので、媒体社からコンテンツや記事をあずかり、それを読者の方に向けて発信しています。出産前は各メディアの方々と交渉や提案をし、パートナーシップの拡大や強化を担当していました。現在はサポートに回り、フロントで活動する社員の業務の効率化を図る仕事を行っています」

膨大な数のメディアとやり取りをするにはフロントの人間だけでは到底こなせない。その際いかに田尻さんたちが作業の効率化を図れるかが、大きなポイントとなる。会社の前線で働く人々と同様に重要なポジションと言える。

「午前9時から午後5時までの勤務です。1歳の子どもの保育園のお迎えが6時15分なので、5時になったらすぐ退社。フロントの社員と違って自分のスケジュールで動けるので融通がききます。上長の承認があればリモートワークも可能なので、子どもの体調が悪いときなど、月に2度ほどリモートにしています」

田尻さんの夫は家事に協力的で、料理すべてを担当。離乳食も作り置きし、冷凍しておいてくれる。時には子どものお迎えも分担し、掃除や洗濯は最新の家電に頼っているので、家事の負担はあまり感じない。それでも、いずれ週3日ぐらいの勤務で完結する価値観の会社になってくれれば、というのが理想だとか。

「仕事はとても楽しい。でも、もっと家族や友人と過ごす時間も欲しいです。毎日9時から5時まで働いて、家族ときちんと顔を合わせられるのが、平日の夜と土日祝日だけなのは少ないと感じていて。人間がやらなくてもいい仕事は、どんどんAI(人工知能)がやるべきだと思っています」

スマートニュースのような最先端のIT企業であれば週3日勤務は実現可能のようだが、現状、子育てや介護などの特別な事由がある社員以外はリモートワークの日数に上限がある。しかしそう遠くない未来で、田尻さんの理想は実現するかもしれない。

オフィス&コミュニティ担当 青井絵美さん

一方、リモートワークを活用しているのがオフィス&コミュニティ担当の青井絵美さん(入社5年目・43歳)。IT企業、外資系証券会社等に勤務し、夫の海外勤務に同行し一時専業主婦に。帰国後にスマートニュースでアルバイトとして仕事を始め、正社員となる。現在はオフィス環境を整え、社員同士のコミュニケーションを円滑にするための仕事をこなしている。中学生と小学生の2人の子どもを持つママだ。

■朝の1時間をリモートワークに

「上の子が中学受験をしたとき、9時から4時までの短い勤務でした。仕事をしていたおかげで、子どもの受験ばかりにとらわれることがなく良いバランスを取ることができました。今は、朝の1時間をリモートワークにしているので、子どもたちを学校に送り出してから出勤。帰りも下の子が学童保育から帰る時間に帰宅でき、安心して仕事ができます。また、夜に飲み会があるときはちょっと長めに仕事をするなど、1カ月の総労働時間で調整しています」

不安なことがあると仕事に支障が出てしまう。それならばちゃんと休んだほうがパフォーマンスが落ちなくていい、と考えるのはメディア事業開発マネジャーの岑(みね)康貴さん(入社4年目・35歳)だ。

メディア事業開発 マネジャー
岑 康貴さん

「会社にはいろいろな事情の人がいます。子育てや介護以外に、持病があったり、一時的にメンタルに不調が出てきたり……。失恋すると、本当に生産性が下がるので休んだほうがいい(笑)。程度はさまざまですが、そういうワケありを特別だと思わず、“当たり前”だと受けとめたい。100%は無理だとしても、社員皆で努力して受けとめることが理想だと思っています」

岑さんは、部下の人生に寄り添うこともマネジャーの役割だと語る。彼らの人生を背負うことはできないが、キャリアや成長を見守ることも職務の1つであると心がけている。

「僕は独身なので子育てのことはわからないんですけど、わからないなりに理解したい。だから、何かあれば相談してほしいと思います。もし自分も結婚して子どもができれば、子育て社員と共有した経験がきっと活きてくるので無駄にならないでしょう。そもそもスマートニュースのアプリは幅広い年代の男女に使ってほしいもの。それを提供する側も、性別、年齢、国籍を問わず、多様な人間がいたほうがいいのです」

とはいえ、社員の個々の事情を受けとめるのは言葉では簡単だが、意外に難しい。実行できているのか?

「会社として、その仕組みはできつつあると思います」と田尻さん。例えば社内のコミュニケーションツールとして使用しているSlackと呼ばれるチャットアプリをうまく利用する手もあり。業務内容、チーム、話題によって“部屋”を分けることができ、会話の検索機能もついているので、必要な情報をいつでも引き出せる。

その“部屋”の1つに、子どもを持つお父さん・お母さん社員だけが入れる「ファミリー」と呼ばれるチャットルームがある。

「初めて子どもを飛行機に乗せたとき『子どもの“耳抜き”ってどうすればいいですか?』と質問してみました。そういう小さなことでも、社員の人たちと共有できると安心できますよね」と田尻さん。

■個人の能力や意見を大切にしてくれる社風

子育てはいつか山場も越えて終わりがくるが、介護には“終わり”が見えない。祖母の介護を経験したのが、PR&マーケティング担当の谷本尚子さん(入社3年目・39歳)。

PR&マーケティング・アソシエイト 谷本尚子さん

「以前、仕事をしながら介護を手伝っていたので、両立の難しさが身にしみています。深夜まで働いて、翌朝早く起きてオムツ交換や食事を手伝うのはとても大変でした……。スマートニュースは大変なときは遠慮なく休んでいい。その代わり、誰かがフォローする体制になっています。こちらに転職してしばらくはPR業務を私1人でやっていたのですが、何かあれば上司が代行してくれます。困っている社員に親身になってくれるのは、わが社の体質なんだと思います」

社風が自由で温かいせいか、多忙を極める毎日でもストレスが全くないと谷本さんは笑う。彼女が在籍していたとある企業は、「~のときは~しなければいけない」というルールにがんじがらめになっていたそう。

「それに比べると今の会社は“A=Aだけではなく、Bかもしれないし、Cかもしれない”と物事を柔軟に受け入れられるのです」

さらには上の人間と下の人間の隔てが少ない。例えば社長に「こんなアイデアがあるんですが、どう思いますか?」といったことが立ち話ベースでできる。個の能力や意見を大事にするのも、社員数150人、スタートアップ企業の良いところだ。

■社員が増えるほど“個人”が薄れていく

会社の成長に伴い社員を増やしているが、新たな課題が出てきている。マーケティング担当執行役員の西口一希さん(入社3年目・52歳)はロクシタンジャポンの代表取締役を経て、17年にスマートニュースに参画。「僕が入社したころより社員が増えて倍の人数になっています。個人の特性、強み、やりたいことが見えづらくなっている。個性や得意・不得意を理解したうえで仕事をしないと、組織全体のパフォーマンスが落ちる可能性もあるのです。だから、課題は常に抱えていますね」

執行役員 マーケティング担当
西口一希さん

現在、成長に伴う不具合は出ているが、テクノロジーの進化がそれを乗り越える日はそう遠くない未来にやって来るかもしれない。西口さんが考える未来の職場像は、前述の田尻さんの希望する週3日勤務どころか、現状のオフィスと同様に仕事ができるバーチャル(仮想空間)な環境だ。

「バーチャルで働くためのテクノロジーはどんどん充実してきています。これらを活用すれば、いつどこにいても、やるべきこと、伝えるべきこと、やってもらうべきことを把握したうえで仕事が進められます。社員が何人いても、すべてがデータベース化されているので、顔を合わせてなくてもお互いのことを知り、能力を引き出すことができる。それは遠くない将来に常識になるでしょうし、やらなくてはいけなくなるでしょう」

■やってみれば意外に悪くない、を目指したい

実現すれば、例えば小さな子どもがいても、介護しなくてはいけない親族がいたとしても、仕事は可能。しかし、face to faceでないとコミュニケーションがうまくいかないかもしれないという危機感はないのだろうか?

「完全なバーチャルを誰も経験したことがないので、不安や恐怖があるのだと思います。やってみれば意外に悪くない、と思えるような会社を目指したいですね」と西口さん。テクノロジーと人間のチャレンジ精神が、将来の多様な人間の多様な働き方を支えることになるのだろう。

(東野 りか 撮影=アラタケンジ)

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