N国党に乗じてNHKを批判する産経新聞のレベル
プレジデントオンライン / 2019年8月1日 11時15分
会談後に記者会見するNHKから国民を守る党の立花孝志代表(左)と無所属の渡辺喜美元行政改革担当相。渡辺氏が代表を務める新会派「みんなの党」を結成する=2019年7月30日、東京・永田町の参議院議員会館(写真=時事通信フォト)
■政党となったことから「NHKをぶっ壊す」も無視できず
7月23日、NHKの石原進経営委員長は記者会見で、参院選(7月21日投開票)で1議席を獲得した「NHKから国民を守る党(N国党)」の主張について「スクランブル化は一見、合理的にみえるが、公共放送の理念と矛盾する」との見解を示した。そのうえで、「NHKが市場原理と関係なく、公平に情報を提供する公共放送の責務を果たすためには視聴者に幅広くご負担いただく受信料が公共放送の財源にふさわしい」と話した。
N国党は契約者だけがNHKを見られるようにする放送のスクランブル化を主張している。この日、石田真敏総務相も閣議後の記者会見で、NHKのスクランブル化について「公共放送と民間事業者の二元体制を崩しかねない」と制度の見直しに否定的な考えを示した。
翌24日には、NHKの木田幸紀放送総局長が定例会見で「受信料制度や受信料の公平負担に誤った理解を広めるような行為や言動に対しては、きちんと対応していく。法に照らして明らかな違法行為は放置することなく、厳しく対処していきたい」と述べた。
これでN国党とNHKや政府との対立が公の場で表面化したことになる。参院選でN国党が1議席を獲得し、しかもその得票数から政党要件を満たし、新たな政党となったことからNHKと政府も無視できなくなってきた。
■産経社説「みなさまのNHKとは思えない物言いだ」
政治団体のN国党は21日の参院選で、「れいわ新選組」(政治団体)とともに公職選挙法と政党助成法上の政党要件をクリアした。1議席のN国党は選挙区で擁立した候補者の得票率が2%を超えた。
一方、れいわは比例代表で2議席を獲得し、得票率は2%以上を記録した。N国党もれいわも国政初挑戦の政治団体だった。
任意の政治団体から法律上の政党になると、議員数や国政選挙での得票に応じて政党助成金などが交付されるほか、衆院選で小選挙区と比例の重複立候補が擁立できるようになる。
スクランブル放送を否定するNHKの主張に対し、産経新聞は7月28日付の社説(主張)で「公共放送として襟を正せ」(見出し)と訴える。
産経社説は「『NHKをぶっ壊す』との連呼が腹に据えかねたのではあるまいが、みなさまの同局とは思えない厳しい物言いだ」と書き出す。
■産経はいつから朝日を真似るようになったのか
ストレートな批判を展開する産経社説にしては皮肉っぽい。まるで朝日新聞の社説のような書き出しである。産経社説はNHKの木田放送総局長をこう批判する。
「『厳しく対処』との発言は一般論とは断っていても、参院選で一定の支持を受け議席を得た党の主張を封じるかのようだ。違法行為が許されないのは当然としても『誤った理解を広める言動』とは具体的に何か。かえって自由な発言や議論を萎縮させかねない」
「一定の支持を受け議席を得た党」とか、「主張を封じる」「発言や議論を萎縮させかねない」といったこれらの指摘と表現も、平等や権利を訴える朝日社説のようだ。
木田放送総局長を批判したうえで、産経社説は主張する。
「それなら番組の公平・公正性や不祥事が相次ぐ組織体制などに疑念が抱かれ、NHKを見たくない、受信料を払いたくないと思っている人がいる現状こそ真摯に受け止め襟を正すのが先だろう」
「NHKを見たくない。だから受信料も払いたくない」という国民を支持する主張である。しかし、そうした国民がどれだけいるのか。N国党の獲得票数を見る限り、それはごく少数だ。
何が何でも少数派に肩を持つ。これも朝日社説が得意とする技である。産経社説は前からNHKを批判してきた。これまでの社説を読む限り、左派が好む偏った番組を制作すると捉えているようだ。だからといって朝日社説のような論調に傾くようでは情けない。産経社説はいつから朝日社説を真似るようになったのか。
■N国党を飛び越えて、NHKの会長人事にも不満を述べる
産経社説はその中盤で「N国党の主張にすべて賛成できるわけではない」とも書く。この後にいつもの産経社説らしさが出てくるのだろうと期待して読み進むと、違った。
「忘れてならないのは公共放送としての同局の改革が問われていることだ。相次ぐ不祥事の背景に安定した受信料収入に甘えたモラルやコスト意識欠如が指摘されてきた。歴史番組や沖縄の米軍基地などの報道をめぐりバランスを欠いているとの批判も根強い」
産経社説は、N国党やスクランブル放送を飛び越えてNHK組織の改革論に波及してしまう。とどのつまりが会長人事である。
「NHK会長が上田良一氏まで4代続け民間から起用されたのも改革が途上だからだ。来年1月に任期満了を迎え次期会長人事の議論も始まる。改革の進捗はどうなのか明示する良い機会だ」
最後まで産経社説らしい歯切れの良さが感じられない残念な書きっぷりだった。
■「北方領土を戦争で奪い返すべきだ」の丸山議員も入党
ところで「NHKから国民を守る党」の代表は51歳の立花孝志氏だ。「NHKをぶっ壊す」と何度も叫ぶ、彼の政見放送にはあきれたが、この立花氏が7月29日に無所属の丸山穂高衆院議員と国会内で会談し、丸山氏がN国党に入ることになった。会談後の記者会見では丸山氏は「立花代表とともにやらせていただきたい」と話した。
丸山氏といえば、今年5月に北方四島ビザなし交流の訪問団として国後島を訪問し、酒に酔って「北方領土を戦争で奪い返すべきだ」との発言を繰り返して日本維新の会を除名処分となった輩である。国会議員を辞めずに、N国党に逃げ込んだのだ。丸山氏の“人間失格”ぶりと酒癖の悪さについては、5月17日付の記事「エリート議員の戦争発言は酒だけのせいか」で書いたので繰り返さない。
現在、立花氏は「人数は多い方がいい」となりふり構わずに党員を増やそうとしている。露骨である。政党助成金を増やしたいのだろう。
普段、ほかの野党と協調路線をとる共産党の小池晃書記局長までもが「議会制民主主義以前の問題だ。衆院が全会一致で『議員の職に能(あた)わず』と糾弾決議するような人物を勧誘して入党させる。政党としての見識が根本的に問われる」と国会で記者団に語っていた。まさにその通りだ。
■「カネほしさ」に不良議員が集まる構図に
さらに立花氏は7月3日、元みんなの党代表で無所属の渡辺喜美参院議員といっしょに国会内で記者会見し、渡辺氏と2人で参院の会派を組むことに合意したと明らかにした。会派名は「みんなの党」。代表は渡辺氏。ただし渡辺氏はN国党へは入党しなかった。
なぜ新たな会派を結成するのか。立花氏は、閣僚経験者や衆議院議員などにもラブコールを送っている。「国会議員5人を目標に12人にお声がけしている」とまで話している。ただし大半の議員は応じないようだ。当然だろう。N国党に入ろうとするのは、すねに傷を持ちながらわが身を守ろうとする議員だけである。
国会内で複数の議員で会派を組むと、まず希望の委員会に入りやすくなる。国会内の会派の部屋が広くなり、国会から車が支給されるなどの利点がある。会派が10人以上であれば、党首討論にも出られる。
こうしたメリットのほか、会派が使える資金として国会議員1人あたり年間780万円の立法事務費が出る。要はカネなのである。「地獄の沙汰も金次第」とはいうが、国会の理非も資金力なのだ。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=時事通信フォト)
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