東大生が「地理」の勉強をすすめる理由
プレジデントオンライン / 2019年8月8日 17時15分
■東大は「地理」を重要視している
みなさんは「地理」という科目を勉強したことがあるでしょうか? 世界の国々の人口や気候・地形や産業について勉強する、あの科目です。
おそらく多くの人は、軽く勉強したことはあるけれど、受験では使っていないし、本腰を入れて勉強したことはない……といった具合なのではないでしょうか。
しかし実は、2022年になんとこの「地理」が高校生の必修科目になることが決定しました。今までマイナーなイメージがあった地理が、一気に「高校生はみんなやらなければいけない科目」になったのです。
これに驚く人も多いでしょうが、実は東大はもう何十年も前から「地理」という科目を重視しています。
東大の文系は、「世界史」「日本史」そして「地理」の三科目の中から二科目を選んで受験することが義務付けられています。世界史と日本史の両方をやるとなると暗記事項が多いので、東大文系の多くは地理を選択しているのです。また、東大の理系でも地理を選んで受験している人が多いですし、東大の授業の中で「地理」的な話題を教授が語ることも多いです。東大は、地理という科目を重視する大学なのです。
一体なぜ、2022年に地理が必修科目になるのか? なぜ東大は地理という科目を重視しているのか? 今日はそれについてお話ししたいと思います。
■地理のおかげで東大に合格できた
地理という科目を考える時に、僕はどうしても自分の経験を思い出します。自分はもともと高校3年生の時には偏差値35で、どの科目も平等に全然勉強ができませんでした。そんな僕が東大を目指して勉強する中で、当然のごとくどの科目も成績が上がらずに苦しんでいたのですが、その中で地理という科目だけは、非常に楽しく勉強することができました。当時の学校の先生が、新聞やニュースで起きていることと地理の勉強を結びつけていろんなことを教えてくれたのがとても楽しかったのです。
地理だけは得意な科目になっていき、点数も安定してくるようになった時、なんとほかの科目にもいい影響が出始めたのです。地理以外の科目でも、「あれ? ここって地理でやった知識と繋げられるんじゃないか?」という思考ができるようになって、成績が上がっていったのです。このように、地理という科目から全体の科目へといい影響が波及して、東大合格することができるようになったという東大生は少なくありません。僕もこの「地理」という科目のおかげで東大に合格できたと考えています。
■地理は、全科目の基礎教養になる
もっと詳しくお話しします。例えば、英語の長文で題材になることというのはさまざまなものがありますが、それらの多くは地理と結びついています。貿易の話や資源の話、バーチャルウォーターの話やフェアトレードの話……。これらは全て、地理を勉強していればある程度の前提知識を持って望むことができます。
また、国語でも同じように、世界経済についての文章や高齢化についての長文が出ることがあります。その時、あらかじめその前提を知っている学生とそうでない学生とでは大きな差が出るのです。また、世界史でヴァイキングの話が出た時、その地域の冬の厳しさや土地の肥沃さ・農業の大変さを知らなければより深く理解できません。
もし、ストレートに地理が題材になっていなかったとしても、人口や気候・資源や貿易の話というのはどこかで関わってきます。高齢者介護の問題を人口の高齢化と結びつけずに語ることはできませんし、日本とヨーロッパの価値観の違いを、日本とヨーロッパの気候や地形の違いを抜きにして考えることはできません。
「地理」という言葉の由来を知っていますか? 地理は、「地上の理(ことわり)」のことを指します。地球上の出来事・人間の営みすべてのことを総括して「地理」というのです。つまりは、すべての学問の「入り」になるような構成要素を網羅的に学べる科目なのです。気候や土地・農業に工業・人口に都市経済……これらはすべて、学問の基礎になる「常識」となるのです。「一般教養」と言い換えてもいいかもしれませんね。
■地理は、思考力にも直結する
そして、「常識」や「一般教養」があれば、いろんな物事を考えることができるようになります。
2020年入試改革では「思考力」が前面に押されていて、AIが台頭する時代において人間がAIに勝てるのは知識の量ではなく思考能力だと言われて久しいですね。しかし、「思考力」なんて言われても、何をどう思考すればいいのかわかりませんよね。「何を考えればいいの?」って感じだと思います。事実、僕も以前はそうでした。
■ニュースを読み解く力も上がる
この「思考力」の元になるのが、地理なのです。地理というのは、いろんな科目と結びつけやすい知識を教えてくれる科目です。例えばニュースを聞いていても、地理を知っていれば思考することができる場面は多いです。「トランプ大統領はアメリカ中西部からの支持を得ている」というニュースなら、「アメリカ中西部」には一体何があって、どういう地形で、どんな産業が盛んだったのかを考えることができると思います。
そう考えると、トランプ大統領がなぜ、アメリカ中西部から支持を得ているのかも見えてきます。アメリカ中西部は、昔は自動車産業で栄えた地域でしたが、石油危機以降、燃費のいい日本車のほうが人気になってしまい、車が売れなくなって衰退してしまった地域です。
※編集部註:初出時、「アメリカ北西部」とありましたが、「アメリカ中西部」の間違いです。訂正します。(2019/08/09 16:15)
日本の車を輸入したせいで衰退したということは、自由に貿易を行う「自由貿易主義」を嫌っていて、トランプの提唱する「保護貿易主義」に同調しているのかもしれない……。そんなことを考えることができますよね。こういう、ちょっとしたニュースや普段の身の回りのことを深めて考えることができるようになるのが、地理という科目なのです。
■地理は、「身の回りのことを結びつける力」を作る
そして、このような「自分の身の回りのことと繋げて物事を考える姿勢」というのは、2020年入試で重視されているものです。入試改革によって、身の回りのことを題材に、どれくらい考えを深められるかを問う問題が多く出題されると言われており、そしてその傾向というのは実は東大の入試とも合致するものでもあります。東大は70年前から「知識量」ではなく「思考力」を問うということをアドミッションポリシーとして掲げて、それに沿った問題を出題し続けていました。
■AI時代にこそ地理が重要になる
「シャッター通り商店街が増えている理由を考えなさい」「かぼちゃの生産地の一つにニュージーランドがあるのはなぜか?」「次のバスの時刻表が、どこの地域のものかを選びなさい」……いかがでしょうか? これ全部、東大の問題です。
およそ東大の問題だとは思えないような問題ですが、しかしこういう身の回りのことからいかに知識を広げられるかという問いが、地理という科目では出題され続けているのです。そして、2020年入試で出題されるのもこのような「身の回りのことを考える」問題であり、AIが台頭する時代において必要になってくるのも、こういう問題に答えられるような能力なのです。
だからこそ、「地理」という科目は重視されているのではないでしょうか。
■ただ学ぶことが楽しい、快感になる科目
東大が地理を重視していて、入試改革でも地理が重視される理由、わかってもらえましたでしょうか?
純粋に、地理という科目は学んでいて楽しい科目だと思います。僕は村瀬哲史先生の『センター地理をはじめからていねいに』という参考書を読んで勉強していて、今もこの本をよく読みなおしています。受験とか関係なく、ただ単純にこの本を読んで地理という科目を勉強していると、さまざまな発見があって面白いのです。
地理という科目を通して、いろんな物事の繋がりを理解できるようになり、思考力が鍛えられる……。これは非常に楽しいものです。みなさんもぜひ、その快感を味わってみてもらえればと思います。
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東京大学4年生
1996年生まれ。2浪が決まった崖っぷちの状況で、東大の試験で問われる「発想力」や「思考力」を高めるノウハウを編み出し実践した結果、みるみる成績が向上。東京大学経済学部に合格を果たす。現在は、全国4つの高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に勉強法を教えている。近著に『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)、『東大で25年使い続けられている「自分の意見」の方程式』(KADOKAWA)など。
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(東京大学4年生 西岡 壱誠)
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