「天職」のキャリアを導き出すただ1つの方法
プレジデントオンライン / 2019年8月7日 15時15分
■キャリア形成に不可欠な「自己マーケティング」
私は現在、マーケティングの精鋭を集めたプロフェッショナル集団「刀」を主宰し、さまざまな企業の経営戦略、マーケティングをサポートしています。商品やサービスを人々の頭の中で「ブランド」に創り上げていくマーケティングの技術は、実は個人のキャリア形成にも極めて有効です。自分自身を人々の頭の中で「ブランド」にしていくのは、いわば「自己マーケティング」。そのカギとなるのは「自分の強みが何か」を把握し、その強みを活かすことができるのかということ。本書も、そうした観点から書き上げたものです。
しかし、かくいう私も、最初から人生が100%うまくいったわけではありませんでした。本のタイトルにもつけたように、若かりし頃は多くの人たちと同様に、仕事でもがき、人生に迷った苦節の日々がありました。
私は大学卒業後、外資系の大手生活用品メーカーに入社したのですが、ビジネスパーソンとしてのキャリアは、決して順風満帆ではありませんでした。
仕事に追われる毎日が続いたせいか、ストレスで電話が怖くなり、受話器を取れなくなったこともありました。せっかくブランドマネージャーに昇進したものの、初めて手がけたブランドが不評で、撤退を余儀なくされたこともありました。米国本社では、米国人たちに目の敵にされ、足を引っ張られた経験もあります。
■人生は、自分自身で選び取ることができる
そんな私でも、外資系メーカーでは幹部にまで昇進し、USJの経営再建というビッグプロジェクトにも、携わることができました。人生で紆余曲折があったにせよ、こうして今までやってこられたわけです。私だけではなく、多くの人々が大なり小なりの苦労をしながら、それでも何とかやっている。だから、今苦労している皆さんも、人生を簡単にあきらめる必要はありません。
確かに、人生の一寸先は闇です。外の世界は「残酷」で、不平等な現実が待ち構えています。しかし、人生は誰からの指図も受けず、自分自身で選び取ることができます。人生を決める際、自分なりに考え抜いて、最善の選択をしたのなら、たとえ結果がうまくいかなかったとしても、納得ができます。それに、1回や2回の挫折で、人生が終わることはありません。その気になれば、何回でも軌道修正できるのが、人生なのです。
それでは、私のトライアル&エラーの経験も踏まえた、自己マーケティングの方法論とは何なのかを、ここで簡単にお話します。
■「好き」を「動詞」の形で書き出す
まず自分自身の「個性・特徴とは何か」を自己分析してみること。そのためには、人生の中で、自分がどんな行動をしているときにうまく行き、それを「好き」と感じてきたのかを、「動詞」の形で書き出してみるといいでしょう。学生さんでも50個くらいは、すぐに列挙できるはずです。できれば100個くらい挙げてみましょう。
好きな行動を書き出したら、次に、それらを仕分けします。そうすると、例えば、問題を解いたり、計算をしたりするのが好きな「T(Thinking思考タイプ)の人」、人と会ったり、話をしたりするのが好きな「C(Communicationコミュニケーションタイプ)の人」、自分で物事を決めたり、人の世話をしたりするのが好きな「L(Leadershipリーダータイプ)の人」といった類型に分けることができ、どんな個性・特徴があるのかが見えてきます。
自分自身の個性・特徴がわかれば、自分自身の強みもわかってきます。そうすれば、仕事の適性も見極められるはずです。例えば、「Tの人」なら思考力を活かせる仕事(例えば、研究職やコンサルタント)、「Cの人」なら対人能力を活かせる仕事(例えば、営業職やPR)、「Lの人」なら持ち前の統率力を活かせる仕事(例えば、経営者や管理職)といった具合に、自分に向いた職能もわかってくるでしょう。
■マーケターの原点は、運動会の「綱引き」だった
私を例にすれば、子どもの頃から、「人を勝たせること」に、無上のやりがいを感じるタイプだったんですね。私自身も負けず嫌いなんですが、自分だけが勝っても、あまりうれしくない。ところが、自分の力で「チーム」を勝たせると、もう天にも昇るほどにうれしいんですよ。それで、「勝つために、チームが何をすればいいのか」という戦略を、戦う前にひたすらに考え抜いて、それをメンバーに実行してもらうことに、血道を上げていたわけです。
小学校の運動会のとき、「綱引き」に参加したことがあります。私は白組だったんですが、白組は赤組に比べて、圧倒的に戦力が劣っていました。そこで、私が秘策を考えて、本番で白組を勝利に導いたことがありました。
どうやったかというと、私は、チームを応援する「旗振り役」を買って出たんですが、白組を応援するのではなく、旗を置いて笛を吹きながら赤組の陣営を走り回り「負ける、負ける、ああ、もうだめだ!」とか、言い続けたんですね。綱引きは、「勝てる!」と確信したとき、チーム全員の力が一気に発揮されて、勝敗を決します。そこで、相手チームの士気をそぐのが、最も簡単な勝ち筋だと考えたのです。一種の心理作戦ですね。
■経験が少なくても自分なりの答えを出そうか
後で先生から、「そんなずるい手を使うな!」とすごく怒られたのですが、「勝利に導くというミッションのためには、多くの人が常識的に考える範囲を大きく逸脱して考え抜く」という特徴が、子どもの頃からあったわけですね。そうした私の個性が、マーケターとしての今の自分につながっていると考えています。
とはいえ、「自分自身を知る」というのは、存外難しいと感じる人も多いでしょう。確かに私自身、さまざまな経験をする中で、この年になっても「自分が知っているのは、世界の中の砂粒1つ程度もない」と、痛感することがよくあります。それに、人間が自分自身を「客観的に評価する」というのも、至難の業でしょう。
私は「今考えるべきことを、自分なりに誠実に考えること。それを暫定的に今の答えにすればいい」と、割り切るべきだと考えています。
例えば、若者が「自分には経験が少ないから、考えても仕方がない」というのはナンセンスです。経験が少ないなりにパースペクティブ(自分で認識できる世界)を確立し、自分にとってベストの答えを出すべきなのです。経験を積んだ上で、もっといい答えが見つかったら、その時点でスイッチすればいいだけの話です。
それでも、もし自己評価に自信がないのであれば、自分のことをよく知っている家族や教師、親友といった周囲の人に、確かめてみるといいでしょう。
■長女のために本を書いた理由
一つ注意しておきたいのが、「できそうなこと」が必ずしも「適職」ではないということ。仕事に就くのなら、自分に今できる仕事よりも、やりたい仕事、本当に好きな仕事を見つける努力をするべきです。それが、「天職」に最も近づきやすい方法です。
やりたい仕事で、「自分の強みをどう活かしていくべきか」ということを考えましょう。例えば、「自動車事故をなくしたい」という目標があれば、思考タイプの「Tの人」ならエンジニアになって自動運転技術を向上させる、コミュニケーションタイプの「Cの人」ならPRで自動運転技術を普及させる、といった具体策が浮かんでくるはずです。
実は、この本はもともと、就職活動や進路のことで悩んでいる様子だった、私の長女のために書いたものだったのです。私の本を読んだ長女は、自分なりに進路を考えて選択のサイコロを振っているようです。「自分が主役の人生を意識することで、自分で選び、行動に移せるようになったんだな」と、うれしく思っています。
ちなみに、私自身も、日本に高度なマーケティングを普及させるために、さまざまなプロジェクトを進行しています。中には、USJにいたときに果たせなかった、「沖縄に世界有数のテーマパークを造る」という事業構想にも取り組んでいます。
1960年代、近くに人口圏が全くない太平洋の孤島でさえ、志のある米国人が将来のために戦略を立てて観光インフラの投資をしたから、50年たった今、ハワイは地価が世界一高い観光地になったのです。対して沖縄は、アジアの巨大人口圏の中心にあるのに、入島数ではハワイと同程度、滞在日数や一人当たり消費額ではハワイに遠く及びません。それだけのポテンシャルがあるのに、リソースを活かせていないわけです。沖縄にも戦略と投資が必要なのです。沖縄を観光で活性化して、日本全体も豊かにする。それが今、私がやりたい仕事の一つです。ぜひ実現させたいですね。
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戦略家・マーケター/刀 代表取締役CEO
1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業。1996年P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを経て2010年にUSJ入社。窮地にあった同社をV字回復させた後、17年マーケティング精鋭集団「刀」を設立。刀の精鋭チームを率い、「丸亀製麺」を協業開始後わずか半年で業績回復、破綻した旧グリーンピア三木(現ネスタリゾート神戸)はわずか1年でV字回復させるなど、「刀」として早くも抜群の実績をあげている。
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(戦略家・マーケター/刀 代表取締役CEO 森岡 毅 構成=野澤 正毅)
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