偏差値30台の子を難関中に合格させた凄母の技
プレジデントオンライン / 2019年8月4日 11時15分
■ワンオペ家事育児&義父介護しながら、子供3人を合格に導いた
今年、合格した女子御三家の桜蔭中を蹴って、女子最難関国立附属中に通うAさん(現中学1年、13歳)の母親(44歳)は私たちの取材に開口一番こう答えた。
「わが家の教育の基本方針は、(1)将来を見据えて中学受験はしたほうがいい、(2)受験するなら国立を第一志望とすべし、(3)大学は家から通える国立大に入るべし。そのことを子供たちにはいつも言ってきました」
よってAさんだけでなく、2人の兄も中学受験を経て、現在、名門国立大学附属高、附属中に通っている。現在、小学生の妹も、国立中を目指して勉強中だ。
子供が4人もいたら教育費はかなりの額になる。だからこそ両親は、「私立は学費が高い」「毎月の塾代が○○万円」と子供たちにしっかり伝えてきたという。1円だって無駄にしない気概で勉強してほしかったからだ。
私立難関中と同等に合格するのが難しい、国立中。そこへ子供3人を入れた母親の手腕とはどんなものなのか。しかも聞けば、今、夫は海外単身赴任で、家には義理父母も同居している。義父は要介護だ。家族7人分の家事と介護だけでも、精いっぱいのはずだ。
「子供4人の勉強を同時にサポートできる時間はありません。だから、勉強のサポートは各自、小6の1年間だけと決め、そこに全力を投下しました」
■「2倍速の公文」で小4までに中1の実力をつけさせる
具体的には、どのようにして子供の中学受験を支えたのだろうか。
小学生の勉強のレベルなら、その世話をするのは親にも簡単のように思えるが、中学受験で求められる学力は、小学校では習っていないことも出題されるなど、極めて独特かつ難解だ。よって、中学受験塾に通うことは必須となるが、その前にすることがあると両親は考えた。それが習い事だ、
過酷な受験を乗り切るには、幼少期からの教育の積み重ねがものを言う。例えば、サッカーで体力をつける、ピアノの発表会で度胸をつけるなど鍛錬の場をつくることで培われるものは大きい。さらに、日々の中で何事にも諦めない精神力を養っておくことも大切だ。
また、中学受験の下準備として、両親は公文に通わせるという選択した。公文の国語と算数を受講する家庭は多いだろう。しかし、小学校にあがる前から公文に通わせたこの家庭の場合、ちょっと違う。
「目標は、小学3年生の1月、つまり新4年生までに国語と算数(数学)を中1レベルまで済ませておくことでした。そこまでやれば、中学受験の算数でよく出題されるような複雑な計算問題が楽に解ける計算力がつきます。中1レベルが難しい場合もせめて6年生までは終わらせておきたいと思っていました」
そこで、教材の進め方は、基本「2倍速」とした。通常のスピードでは間に合わないので他の子が10枚やるときに20枚やるという方針は、4人の子供全員に貫かれた。
■なぜ、たった1年の塾通いで難関国立中に受かったのか
Aさんの中学受験をする前に母親はひとつの教訓を得ていた。
それは次男の塾選びに“失敗”したことによるものだ。次男が小5の頃、都内の公立中高一貫校に興味を持った夫が、その受験に特化した塾を選んできたのだ。次男はその塾で上位の成績をキープしていたが、1年後に受けた四谷大塚の「志望校判定テスト」の結果は、偏差値38……。
公立中高一貫校の本番の試験は「適性検査型テスト」といわれ、国立・私立中学での出題傾向とは大きく異なる。適性型テストに特化したカリキュラムでは、国立中や私立中の試験に対応できる4教科の基礎力がつけにくい。
そう判断した母親は、すぐさま国立中の試験対策をするため転塾させた。その年にちょうど国立中に合格した長男と入れ替わりで、次男を5年生の2月から早稲田アカデミーに通わせ始めたのだ。
![](https://president.jp/mwimgs/5/7/670/img_571b60d628968ed8a1d1f95f1fb2bedf307826.jpg)
通常は3年間かけて受験対策するところを1年間で国立中に合格させるべく、最初から全開で勉強に向かわせた。通常なら6年生の夏休みに手を付ける教材をなんと2月からスタートさせ、夏休みまでに2回やりきった。当時の目標は「4月までに偏差値50」だったそうだ。
「偏差値50は目標として低いのではないかと思われるかもしれません。でも、中学受験はもともと成績のいい層が挑むものです。中学受験における偏差値50は同学年の上位集団の真ん中くらい。高校受験になれば、その層は早慶が狙えるレベルまで成長すると考えていました」
転塾のビハインドを短時間で取り戻そう必死だった両親だが、次男とは勉強方針の違いで度々ぶつかったという。本来は理論や知識を身につけてから、問題に取り組むのが勉強の王道だ。しかし、1年で仕上げるためにはそれでは間に合わない。母親は、異例な方法と承知の上で、問題を解きながら、理論や知識を頭にたたき込む方法を取ったのだ。
「全教科、受験で出やすい問題パターンってあるんです。理論や知識を身につけてから問題を解くより、解きながら問題ごと覚え込んでしまうほうが最短で点数に結びつくのではないかと思いました」
几帳面で一歩一歩進みたいタイプの次男は、そのやり方を嫌がることも多かった。しかし、母親は粘り強くその効果を説明しながら勉強に向かわせ、結果、1年で偏差値が20以上アップ。第一志望に合格させた。
■娘に冷静に檄「また間違えている。いいかげんにして!」
こうして兄2人の受験から得た知見を母親は、娘Aさんの受験にフル活用した。まず、最小限の費用で最大の効果を上げるため、塾には小4から受験の要の科目である算数だけ通わせ、長期休暇時におこなわれる講習会のみ4教科を選択。算数以外の3教科は通常は四谷大塚の教材「予習シリーズ」を買い与え、自学自習させた。4教科フルで通ったのは6年生の1年間だけ、というこれまた異例な手法を選択したのだ。
ただ、誤算はあった。「合格は夏休みで決まる」との考えから、小6の夏休みは1日に各教科30~40ページもの課題をこなすことにしたが、予定通りには行かず、徐々に遅れが出てきた。
しかし、そんなときにスケジュールのお尻をずらしてはダメだという両親のポリシーの下、「お尻はそのままに、中身を適度に抜いて調整する」というプランを立てた。たとえば、1冊の問題集を2度こなす場合、2度目は、基礎問題は省いて応用問題だけ解かせる、といった具合に。
「何を抜くかはその教科が得意か不得意かなどによっても変わりますが、受験に実際出るのは応用問題レベルなので、基礎問題を省くことが多かったです」
母親は自宅で勉強するAさんの机に常時張り付くわけではない。食事づくり、掃除・洗濯、義父の介護などやらなければならないことは山ほどあった。
時間がない中、母親はAさんのノートにしばしば言葉を残した。実際にそのノートを見ると、「また間違えている。いいかげんにして!!!」といった母親の厳しい言葉が並んでいる。一度目のミスの場合は優しい口調で注意するが、再び同じミスで間違ったときなどは強い言葉で注意するようにしたという。
母親は、それができるのは「親だからこそ」と話す。塾の先生は「ミスをするな」とアドバイスはしてくれるが、実際にミスをしたときに本人の自覚が芽生えるまで注意をしてくれるわけではない。1つのケアレスミスで合否が決まるのが中学受験。細心の注意力を自ら発揮するよう子供に促せるのは親しかできないという気持ちが強かったのだ。
■「絶対、合格させる」親の覚悟が合格を手繰り寄せる
母親は「小6の9月には、滑り止めも含め志望校をすべて決めておくようにしました」と話す。中学受験において志望校対策が十分かどうかは合格に大きな影響を及ぼす。受験校を絞らないままでいると、多くの学校の対策を取らなければいけなくなるのだ。
9月時点の子供の学力を見て志望校を決めるわけだが、受験本番までの学力の伸びも考慮して決めるのがポイントだ。決めたあとはブレずに志望校対策を行っていけば、合格につながりやすい、という。ちなみに兄2人もAさんも、受験した学校はすべて合格を勝ち取っている。
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母親は「小学生にとって辛い受験勉強を頑張りぬくことは、確かに立派なことだと思いますが、ただそれだけでは終われないのが現実です」と言う。
「中学受験の勉強は本当に大変です。その大変な勉強を頑張るからこそ、子供だって結果が欲しいんです。だからこそ私は、『絶対、合格させる』という信念で受験をサポートしてきました。最終的には子供の意思と親の覚悟が合格を手繰り寄せるんだと思います」
Aさんの母親は、徹底的に時間やコストを効率化しながら冷静に受験をサポートしてきた。家事や介護で忙しい中、その姿勢を貫き「結果」を残すことができたのは、母親として強い覚悟を持って子供の受験に真正面から向き合ってきたから、と言えるかもしれない。
※本稿は、公式メールマガジン《プレジデントFamily 中学受験部》の一部を再編集したものです。続きはメールマガジンで配信します。これから購読いただいても、本稿で紹介していないAさんの母親の全エピソードをお読みいただけます。
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フリーランス編集・ライター
熊本県出身。子育て情報誌や教育情報誌の編集に長く携わり、2017年に独立。現在は、ビジネス誌や教育誌、書籍・ムック、企業社内報などで幅広く編集やライティングを担当。屋号は松本明生堂(まつもとめいせいどう)。
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(フリーランス編集・ライター 松本 史)
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