99歳メンター「お金に頭を下げさせる人はダメ」
プレジデントオンライン / 2019年8月7日 6時15分
■99歳の“メンター”に人生を教えてもらった
私の人生の師匠は、10年ほど前に99歳で亡くなった禅寺のお坊さんです。長野県篠ノ井にある檀家30軒ほどの小さなお寺(円福寺)の住職、藤本幸邦さん。晩年は、曹洞宗の大本山・永平寺の最高顧問も務めていました。私が35歳~50歳くらいまでの間、老師からいろいろなことを教えていただき、それは今も私の人生やビジネスのバックボーンとなっています。
老師の教え1:「串団子のように生きなさい」
最初に教えてもらったのは、「人生を串団子のように生きる」ということでした。串団子の団子の数は地域や時代によって差がありますが、4個がスタンダードのようです。その串団子になぞらえて、老師はこう言いました。
「一番下の団子は、自分。2つ目の団子は、家族。3つ目の団子は、属する会社などの組織。4つ目は、国や社会。そして、4個の団子の真ん中を串が突き刺している。大事なのは、どの団子も外さないように生きることです」
つまり、自分、家族、属する組織、社会など、どれをも犠牲にしない生き方が必要だというのです。自分という団子だけ外して自己犠牲をして、家族や組織、社会のために尽くそうとしても、長続きしません。それと同様に、自分や組織、社会にはよくても家族という団子を外す(犠牲にする)こともいい結果をもたらしません。もちろん自分、家族、組織はよくても、反社会的な行動を取る企業や組織のように、社会のためにならならない存在でよいはずがありません。
「人生を串団子のように生きなさい」。おそらく老師は「理想論」を語ってくれたのだと思います。現実社会では、何か1つ団子を刺していない状況が発生するケースがあり、時には理想を貫くことを妥協せざるをえないこともあるかもしれません。しかし、妥協ばかりしていると、その人は自身のエネルギーをどんどん失うことになります。
人は、理想を持って進んでいくときにエネルギーを得られると私は考えています。明治維新の頃、大きなことを成し遂げた人たちの多くは理想家でした。現代においても理想に向かって進み、人生を串団子のように生きるという理想に突き進むべきなのです。
老師の教え2:「お金を追うな、仕事を追え」
「小宮さん、お金を追うな、仕事を追えだよ」。この言葉を老師から何度も言われました。ひょっとしたら、私の表情や様子が、お金を追いかけていたというふうに見えた時もあったかのかもしれません。そうであるにせよないにせよ、うんと年下の経営コンサルタントの駆け出しである私に、ビジネスの根幹を教えてくださったのでしょう。
例えば、経営コンサルタントである私が社会や世の中の役に立てること。それはまず、顧問を務める企業に対して的確な意見を述べることでしょう。また、メディアに寄稿したり書籍を書いたり講演をしたりすることでビジネスパーソンの社会人としての生き方考え方をアドバイスすることでしょう。
仕事内容による貢献こそが重要であり、その仕事の報酬が多いとか少ないとかというのはあまり大きな問題ではありません。大事なのは、自分にしかできない仕事をしっかりすることです。
主体が会社であれば、その会社にしかできないことをして、世の中の役に立つこと。もちろん、上場会社ならば株主はその会社がより多くの利益が出るような活動を強く求めます。それは経済の原則上、当然の話ですが、「お金儲け」を目的にしてはいけません。世の中の役に立つ「良い仕事」をすれば、お金は後からついてくることが多いのです。
3年ほど前から、私は、首都ウランバートルにあるモンゴルの企業で毎年1回講演をしています。日本語を読むことができるその企業の代表者が、私がかつて執筆した何かの記事の中で紹介した、この「お金を追うな、仕事を追え」という藤本老師の言葉に感銘を受けたことが、講演のきっかけになりました。
この企業グループは現在、金融業やカシミア製造、トヨタのディーラー、ホテル経営などを手がけ、モンゴルを代表する一大企業グループに成長しています。それは、「仕事を追え」という姿勢の賜物で、この真理は世界のどこでも通用するものだと私は思っています。
■突然転がり込んだお金の魔力に負ける経営者
老師の教え3:「お金はないと不自由だが、魔物でもある」
お金は人を幸せにしてくれるものですが、使い方を誤ると魔物にもなる。そのことを老師は私にしばしば諭してくれました。私はこれまでに多くの経営者を見てきました。中には、事業がうまく運び、突然、思わぬ大金が転がり込む経営者もいます。この時、しっかり生き方の勉強をしていないと、お金の魔力に負けてしまいます。
個人的にも収入が急増すると、高級なホテルやレストランに行ってもちやほやされます。いい気分になります。そんな状態になれると、そのうち相手が「お金に頭を下げている」ことがわからなくなって、「自分は偉い」と勘違いする人も多い。「金さえあれば何でもできる」と考える人や金の亡者になる人もいます。
やがて顧客を大切にするという当たり前の意識も薄らいでくると、ビジネス自体もうまくいかなくなります。ところが、金の亡者と化した経営者はもはや冷静な判断ができなくなっていますから、余計にお金に執着し、それによってさらにビジネスは悪化。次第にお金に困るようにもなります。
それでも、お金の魔力に取りつかれているため、よく考えもせずに借金をしてしまい最後には破綻してしまう……。実際に、そういう残念な人を私は何人も見てきました。
老師の教え4:「お金も時間も使うもの」
「お金も時間も使うもの」というのも藤本老師もおっしゃっていました。お金も時間もうまく使わなければなりません。実は浪費が激しいにもかかわらず、「お金がない、ない」という人は少なくありません。こういう人は、仕事の中身ではなく、お金のために働くことになり、結果的にお金に使われてしまっています。
前述の「お金はないと不自由だが、魔物でもある」の欄の先の、お金の亡者となってお金のことしか考えられなくなる人と同じ状態になってしまいます。お金は適度に使うものです。工夫や努力をして稼ぎ、その範囲でそれを有効に使う。それが鉄則です。
お金と同様に、時間も使うものです。よく言われることですが、「忙しい」という字は「心を亡くす」と書きます。「忙しい、忙しい」と言って余裕をなくしているのは、時間に使われ、心を亡くしてしまっている状態なのです。
仕事はだらだらやらずに短期集中で終わらせる。タイムマネジメントをきっちり行って、自分の自由な時間を生み出す。時間に使われるのではなく、時間を使うという心がけと習慣が必要です。
■老師曰く「人は揺れる。だが、振り子は原点を持っている」
老師の教え5:「振り子は揺れるが必ず原点をもっている」
ある時、2人でタクシーに乗っていると、老師は「人というものは揺れるものだ。揺れない人は面白くない。だが、振り子は揺れるときにも必ず原点を持っている」と言いました。その人なりの正しい「考え方の原点」を持っていれば、少々揺れることがあっても、元に戻ることができます。
私は、この「考え方の原点」の多くを論語や仏教書、成功している経営者の書物から学ぶとともに、藤本老師からも学びました。老師の教えで、最も印象に残っているのは、やはり2人でいるときに「小宮さん、経済は何のためにあるか知っていますか」と聞かれた時のことです。
うまく考えをまとめることができず「わかりません」と正直に答えたら、「経済は人を幸せにするための道具だ。政治も道具」とおっしゃったのです。そうなのです。経済も政治も人を幸せにするための道具なのです。
続けて「それなら、あなたの会社は何のためにあるかわかるね」と聞かれました。経済が人を幸せにするための道具なら、私の会社も小さい会社ながら、人を幸せにするための道具であるはずです。「人」とは、顧客、社員、その他、仕事で関わる人すべてです。
これらのことを教えていただいたのはもう20年以上前のことですが、私の人生にとって大きな財産となったことは間違いありません。私は、藤本幸邦さんという素晴らしい人生の師匠に巡り合うことができ大変ラッキーでした。読者の方の周囲にも、きっと自分のこれからの人生をよい方向に導いてくれる師匠がいるにちがいありません。
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経営コンサルタント
1996年に小宮コンサルタンツを設立し、代表取締役会長CEOに。経営、会計、経済、仕事術から人生論まで著書は130冊を数え、累計発行部数は360万部を超える。
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(経営コンサルタント 小宮 一慶)
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